余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
訓練期間が終わり、実戦に投入されてから三ヶ月が過ぎた。
シンデレラたちは最前線のウィッチクラフトにも劣らぬ実力を手にしており、危険地帯の哨戒など多くの任務が回されてくる。
『さぁ……いくわよ!』
『はーい』
『りょーかーい』
高機動装備を付けた俺=シンデレラがブーストを掛けて、それに二機が追随した。
敵はタイプ:マジシャン5機。
そして……。
『げっ、ヤリイカを連れたシャコかよ』
宇宙を疾駆するハードパンチャー。
タイプ:チャリオット。
通称シャコ。
ヤドカリを更に一回り大きくした、ずんぐりむっくりの人型カリディアンだ。全身鎧のような外骨格。そしてブレードではなくプラズマを放つ拳を武器にしている。
「運が良いわね!」
『よくねえよ! 気を付けろ!』
今日の任務は俺=シンデレラ、ウッドマン=人魚姫、そしてライオンハート=ピノキオの三機での境界線警備だ。
ここはヤリイカなどの出現ポイントで、ガントレットとジャベリンの狩場でもあった。あいつらもここで敵を倒し、自分専用の武器をカスタマイズしていったのだろう。
かくいう俺たちも多くのカリディアンを狩り、自分たちの武装を強化している。
『5秒後に接敵。
俺たちとピノキオがシャコを食い止める。
その間に人魚姫、ヤリイカを頼めるか』
「お任せですよぉー!」
ウッドマン=人魚姫の右腕部には長大な銃が装備されている。ヤリイカのビーム器官を利用したビームライフル、通称『スピア・ラビット』だ。
ジャベリンはヤリイカの体そのものを銃としていたがウッドマン=人魚姫は使い勝手を優先し、標準ライフル『ラビット』の威力を強化する方向の改造を施した。
ピーキーな武装は人魚姫の好みではない。趣味においては可愛いもの、華やかなものが好きな人魚姫だが、戦闘では堅実に相手を追い詰めるいぶし銀のごとき戦術を好む。
『エネルギー収支、問題なし。
敵5体程度であればこちらの優位が
揺らぐことはない。
司令塔を予測し、確実に落としていこう』
「はーい、まず左端の一体を削りますねー」
人魚姫には、シンデレラやピノキオにはない特技がある。二桁程度のカリディアンの群れであれば司令塔となる個体が不思議とわかる。
人魚姫曰く「私たちとシンデレラの違いみたいなの、カリディアンにもあるじゃないですか」とのことで、それ以上の言語化は難しい様子だった。
だが俺たちのような機人核にはない勘、あるいは戦場を見渡す目やセンスといったものが人魚姫に養われつつある。
これが普通の軍隊だったらもっと昇進してたんだろうな。
『W4RN!NG//4TT4CK::PR0P-F0RC3//5T4ND-D0WN//KRRRRAAA』
「あはっ、エンペラ焼いたから
怒っちゃったです」
エンペラとは、ヤリイカがブーストを放つ部位のことだ。ここを破壊されるとエンペラの戦闘力は10分の1にも満たなくなる。
その動きが鈍ったヤリイカを落とすと見せかけて、人魚姫は他の飛び回るヤリイカを削り取っていく。
たとえ5体のヤリイカが相手であるとしてもウッドマン=人魚姫は何の問題もなく渡り合い、それどころか遥かに圧倒していた。
ライフルの咆哮から光芒が煌めく度にヤリイカたちは動きを鈍らせ、やがては燃え尽きていく。
「はーい、撃墜です」
ビームライフルによる撃墜スコアを『天蓋の塔』に正確に報告していたならば、確実にランキング10位以内に入ることだろう。
「ピノキオ!
こっちも負けてらんないわよ!」
「はーい、がんばりまーす」
「返事はもっと力強くするの!」
『あははー、まあ許してくださいっス』
ライオンハート=ピノキオは、のんきな声とは裏腹に異形の拳を唸らせてシャコに突っ込んでいく。
ガントレットが装備していた重水プラズマナックルとほぼ同じものだ。
シャコもまた同じような武器を装備していた……というよりも本来、シャコの装備である。
シャコは、敵が自分と似たような武器を持っていることに気付いたのだろう。右拳をぎりぎりと強く握りしめながらライオンハート=ピノキオに接近していく。
「ちょっと爆発あるから気を付けてね」
互いに自慢の拳を放ち、青白いプラズマの輝きが宇宙空間に迸った。
すべての画面がホワイトアウトするほどの光量に、温和な声が通信で響く。
「シンデレラ、やっちゃっていーい?」
「やっちゃっていーのもなにも、
すでにやっちゃってるじゃないの!
手こずるなら割って入るからね!」
見れば、シャコの方が吹き飛ばされている。
ライオンハート=ピノキオは、重水プラズマナックルに少々の改良を施していた。
威力を犠牲にするかわりに攻撃範囲を大きく広げたのだ。
真っ向勝負すると見せかけ、敵の攻撃が届かない位置からプラズマを放って一方的なダメージを浴びせていた。
同時に武器をラピッドに持ち替えて連射した。
ただしシャコの外殻は堅牢で、僅かにしか削れていない。怒りに燃えるシャコがライオンハート=ピノキオに突進を仕掛けてきた。
今度はプラズマを多少防御に回しつつ、堅実にライオンハート=ピノキオを屠ろうとする。
『5URR3ND::P3R50NN3L//G3N3V4-0x7F//HUM4N3//GRRRAAA』
そのことごとくをライオンハート=ピノキオは回避した。
対抗する手立てを失ったかのように、必死に動き回る……が、デブリとなって漂うヤリイカの体を利用してシャコから身を隠し、一瞬で武器を換装する。
拳と拳、プラズマとプラズマの打ち合いが始まった。
ライオンハート=ピノキオはうってかわって猪突猛進に責めまくり、シャコが面食らって回避しそこねた。
ピノキオは嘘つきだ。
正確には、感情の動きが読み取りにくくウィッチクラフトの動作にも意図が反映されない。
相手側の予測を誤認させるトリッキーな動きが得意で、人魚姫とはまた異なる攪乱戦法が得意だ。
シンデレラのような電光石火の戦い方とも、人魚姫のような冷静沈着な戦い方とも違ったトリッキーな戦術は、意外なほど強い。
シミュレータ上でシンデレラの勝率を上回ることはないが、それでもシンデレラから「やりにくい」と言わせる実力を有していた。
「ピノキオ、十分よ! あとは任せて!」
「うん」
ピノキオは完全に相手を翻弄しつつも、それでもシャコの装甲を削り切るまではいかなかった。
本来シャコは、五体以上のウィッチクラフトの火力で押し切るのが『天蓋の塔』での常識的な戦術だ。
だが、ピノキオも人魚姫も、そしてシンデレラも、単騎でシャコを仕留められる。
今まで誤魔化していた成績も少しずつ実態に近づけ始めた。この子たちの力は徐々に基地全体に知れ渡りつつある。
「さーて、弾がもったいないし
テーブルナイフで行こっかぁ!」
シンデレラが抜刀した。
これはヤドカリの盾にある希少な電磁レンズ、そしてシャコのプラズマ発生器官を合体させた新型のブレードだ。
だが重水プラズマナックルのように、近距離での面攻撃を放つ武器ではない。
濃密な電磁フィールドを形成して刀身を長くしたり形状変更をすることもできるが、あくまで触れた場所のみを焼却・切断する武器だ。ブレードの技量がなくては話にならない。
だが耐久性能、切断力、継戦能力すべてにおいて標準のブレードを大きく上回る。
名付けて、カトラリー。
……いや、もっといい名前あったんじゃないの? と思ったがシンデレラはお気に入りだ。
いつの日かバターとシロップまみれのパンケーキを、ナイフやフォークなどの
『D!S4BL3-WPN//TR4N5M!T::0x5F//H0LD-F!R3//GRRRRRA』
シャコが悲鳴のような通信を放ち、正拳突きのような姿勢でプラズマを放ってきた。
だが、カトラリーがプラズマを食らって力を増幅させていく。
カトラリーはヤドカリの盾の技術を応用している。シャコの放つ重水プラズマナックルや、ヤリイカの極大ビームを喰らって攻撃エネルギーに転化する攻防一体の武器だ。
「何言ってるかわかんないってーの!」
俺=シンデレラのブレードがシャコの上半身を斜めに斬り裂いた。切断面が熱で融解し、オレンジ色に輝く。
制御を失ったボディ内ではエネルギーの行き場がなくなり数秒遅れて爆発した。
『よくやった、シンデレラ』
「最後だけだし、やった感じしなーい」
『チームプレイが上手く回ったなら
上手くやったってことだ』
「おつかれさまー。
シャコの腕、回収しといたよ」
「あっ、それあたしの!」
シャコの採集部位をライオンハート=ピノキオが
ちゃっかり回収している。
境界線警備において、俺たちは中堅部隊を差し置いてほぼトップランカーに近い戦果を叩き出していた。
他のウィッチクラフトたちに嫌味でも言われるかと思ったが、スケアクロウ01,02……つまりガントレットたちが「あいつらに手を出すな」と牽制してくれているため目立ったちょっかいは今のところない。
むしろ激戦地や、シャコの出現ポイントの警備を頼まれるくらいだ。実戦デビューから順調な滑り出しをしたと言えるだろう。
『さて、索敵終了。
他に敵はいなさそうだな……。
体調不良とか、機体の調子が
おかしいとかはないか?」
俺が各機に確認を飛ばすと、シンデレラが笑いながら反論した。
「そんなの見ればわかるじゃん。
全員状態グリーンだよ」
『見てもわからないことはあるんだよ。
それに、ちゃんと声で聞きたいからな』
「変なのー」
まったく現代っ子め。
『ラブリーヒールだって、挨拶や声かけは
大事って言ってるじゃないか』
「そーだけどぉ」
『シンデレラ、ちょっと飽きてるだろ?』
「……むぅ」
今回の戦闘はほとんど人魚姫とピノキオに任せたようなものだ。消化不良なんだろう。
『まだ不満なんですかぁ?
シンデレラおねーちゃんが出しゃばったら
実戦経験を積めないし、初撃は
私やピノキオに譲ってから参戦するって
約束ですよー』
「わ、わかってるし!」
人魚姫がシンデレラをおねーちゃんと呼ぶのは煽るときか甘えるときだ。
「シンデレラおねーちゃん、
バックアップありがとー」
そしてピノキオは甘え100%だ。
こやつ、甘え上手の末っ子気質なんだよな。悪い子じゃないし優しい子だがちゃっかり者だ。
「ふん!
だらしない姿見せたら、獲物はいつでも
横取りしちゃうからね!」
「いつでも助けてあげるからがんばれって
意味ですぅ」
「うん、知ってる」
シンデレラはまったくもうとご不満のポーズをとるが、本当はまんざらでもないことを、俺も皆もよく理解していた。
「でも、前みたいなおっきな戦いって
全然ないね?」
『……うーむ』
「あ、もしかしてそうでもない?」
『……そろそろ来るだろうな。
マントリとラタの議論が増えてるらしい。
珍しくガジャも交えてバトってるみたいだ』
マントリとラタはどちらも高位AIではあるが、それは必ずしも友好的な関係であることを意味しない。
むしろ責任範囲が別々で、AIの目的も異なるのだから作り手によって意図的に対立構造に置かれている。
例えばこちらがカリディアンを攻撃するとして、まず戦略会議AIラタは作戦を立案。
次に主計管理AIマントリは現状の兵力を元に作戦をフィードバックして……つま「ちょっと見通し甘くないすか?」「予算足りてんすか?」みたいなツッコミを返す。
そうして作戦内容をより具体的に、そして現実的にしてマントリが最終的に承認して実行に移るわけだが……。仲が悪くならないはずがない。
しかも今回ラタは「断固たる決意で作戦を実行する!」と、非常に強硬な態度であるようだ。
で、なんでこんなことを知っているかと言うと。
俺も会議に呼ばれている。
いきなり「実戦を経験した兵の視点での意見を聞きたい」みたいな会議への出頭命令が来た。
前職でもこういうのあったな……。
技術部や製造部とか現場側の意見を「工程的に無理です」あたりに集約して俺に代弁させて、営業部に戦わせるみたいなポケモノバトルのポケモノになることはよくあった。
例え俺の陣営が勝利しても営業部に親の仇のような目で見られるし、負けたら負けたで自分の仕事は増えるし、自陣営の連中から落胆の目で見られるし……。
あー、トラウマを思い出して行きたくねぇ。
行きたくねえが……これは基地内の勢力図を詳細に把握するチャンスだ。
そもそも出席を断る権利はないというのはさておき、逃すわけにはいかない。
「ま、いつ大規模な戦闘になっても
みんなが実力を発揮すれば何の不安もない。
終わったらまた映画館に行こうぜ」
「うん!」
シンデレラたちが嬉しそうに頷いた。
それだけがこの冷たい宇宙での唯一の癒しだ。