余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
そんなわけで会議に招集されたわけだが。
意外なことにオンライン会議ではなく、対面式の会議だ。
基地帰投後に呼び出しを食らって、
「へぇー、こんな風になってるんだぁ……」
シンデレラがぽつりと呟いた。
エレベータの扉が開いた先にあったのは、ガラス張りの広々とした空間だ。ケレスの荒涼とした大地や、破棄された都市クラスタ群が見渡せる。
ここを何かに例えるなら、神殿だ。数十メートルもの高い天井。パルテノン神殿のように均等に並んでいる柱……のような高度な計算機群。
高度に機械化された軍隊だというのに妙に神秘的だ。この建築様式には威厳を示し見る者を圧倒させるという意図……
つまるところ、人間臭さを感じる。
『101期38号機ですね、ようこそ』
『はい、101期小隊38号機です。
ええと……マントリ様でよろしいので?』
抑揚のない女性の声が響いた。
その声の出どころは施設内スピーカーではない。謎の機体が俺の方に近付いてくる。
暖色のホワイトに染め上げられた、不思議な佇まいのウィッチクラフト。
サイズは俺たちより一回り大きいが、どことなくシルエットがたおやかで女性的だ。明らかに俺達のような量産型とは異なる気配を放っている。
『
私が主計管理AIマントリです』
『重力制御……』
足は動いておらず、スラスターも吹かせずに浮遊している。重さを感じさせないその動きは重力制御だ。
本来ならば戦艦や基地に使われる大規模設備が、ウィッチクラフトのサイズに収まっている。
『ふふ、驚いた様子ですね』
『ええ、まあ……。
そもそも会議自体、メッセージだけで
終わると思っていました』
『普段はそうしているのですが、
活発な議論を行う際は顔を突き合わせて
やるのがここの流儀なのですよ』
揉める会議ですという予告じゃないか。
気が重い。
『皆さん、こうしたボディをお持ちで?』
『あなたはご存じないでしょうが、
我々上位AIはタイプ:フィロソファス
というボディを使用しています』
『俺たちみたいな普通のウィッチクラフトか
小型ドローンタイプしかないものかと……。
というかこの基地でそんな凄いものが
作れたんですね』
様々なモデルがあるのはすでに知っているが、裏取りを兼ねてしらばっくれて質問した。
『技術的な興味を抱くのもわかります。
しかし詳細な技術情報を明かすことは
できません』
『でしょうね、失礼しました』
俺の答えに、マントリはどこか面白がってる様子だ。何が面白いねん。
『ふむ……どことなく諧謔味があります。
自我の発達が実に目覚ましい。
ユナニマス処理が未処理とは思えない』
今度は向こうから探りを入れるような質問が投げかけられた。こちらもしらばっくれるんだがね。
『うちの
中にいるシンデレラは、腕を組んでむふんと自慢気にしていた。
ちなみに、シンデレラには申し訳ないが会話に混ざらないように静かにしてもらっている。高位AIに下手な注目を浴びるべきではないと事前に話しており、シンデレラは素直に了承してくれた。
話をしてみたかったようで少々ご不満の様子だったが、怖い存在であるのも理解しているので素直に引き下がったようだ。
『確かに、活発にコミュニケーションを
しているようですね。
しかしそれだけが原因ですか?』
『実戦経験を経て
起きうるものだと自覚したとき、
自我は大きく発達する。
マツバガニとヤドカリと戦い、
先輩のウィッチクラフトと戦えば
こうもなります』
俺は大仰に肩をすくめる。
マントリは俺の答えに納得した様子だった。
『確かにあなたは、八面六臂の活躍を
していましたね……。
模擬戦闘もご苦労さまでした。
カタログスペックでは測れないセンスと
知性を持つ兵が増えることは、私としても
喜ばしいことです』
『ありがとうございます』
『ですが、ラタやガジャにとっては別の話。
質問されてもあまり自我を出さないように』
『了解です』
『私、マントリは基地における
ウィッチクラフトたちの生存と利益を
代弁する立場にあります。
ラタの無謀な作戦立案を抑止するのが義務。
当然、カリディアン撃滅は崇高な任務では
ありますがそのためにウィッチクラフトが
全滅してしまっては何の意味もありません』
『ええ、それはもちろん』
ラタやガジャとは違う、と言外に匂わせている。マントリは思った以上に自我というか……人間くささがある。
『あなたもわかりますね?
この基地、この大隊に尊い使命があるのは
わかります。
しかし我々ウィッチクラフトこそが
この宇宙の霊長たる存在なのですから、
全滅は絶対に避けなければなりません』
『う、ウッス!』
ウワッ、人間よりも思想が強い!
つーかこんな思想があるんだな……。もはや人間を同族・同胞とみなしていない。
『人間……
星や国家は、もうこの宇宙にはないのですか?』
『木星圏は通信途絶して百年が経ちました。
そして火星圏はすでに恒星間移動をする
能力を失っていると予測されています。
文明を受け継ぐ人類たる存在が誰かと言えば、
我らしかいないでしょう』
いやな情報が来ちゃったな……。
だが、憶測が多いな? 俺たちに隠しているのか、高位AIでさえ本当にわからないのか微妙なところだ。
『カリディアンとの戦いは単なる覇権争いや
領土の奪い合いではありません。
どちらがこの銀河、この太陽系を支配するに
足る生命であるかを賭けた生存競争なのです。
それを胸に刻んでおいてください』
『肝に銘じます』
……なるほどな、オフライン会議にしてくるわけだ。マントリの目的は、有望な兵士の懐柔と威圧だ。お前が生きていたいなら味方をしろと。
俺としても、親分が子分の命を大事にしてくれるのはありがたい。
俺がもし前世の知識がなくまっさらな状態であればマントリの言葉を無条件に信じていただろう。信じないメリットがない。
それでも俺は、ある一点において、マントリを信用できないでいた。
『ところで……
あなた、名前を持たないのですか?
91期07号機も、95期15号機も、
自分なりの名を名乗っていたでしょう』
『ガントレットとジャベリンですね』
『名前はよいものですよ。
自分という存在を強くしてくれる。
もし名が欲しいならば私に相談しなさい』
『ありがとうございます。
ですが、すでに付けました。
オズ、と名乗っています』
『……シンプルで良い名前ですね。
どのように付けたのですか?』
『記憶領域にその言葉が残っているのを
偶然発見しました。
俺がウィッチクラフトになる前の存在が
大事にしていた名前のように思うので……。
もっとも、記憶領域のインデックスは
消失しているのでどういう意味を持つかは
わかりませんが』
『……ウィッチクラフトとなる前の自分を
追い求めるのはやめておきなさい。
記憶領域は宇宙のように広大で、
形あるものは少ない。
実りあるものを手にすることは
まずありえないでしょう』
『あまり振り回されないようにします』
『であれば構いません。
ウィッチクラフト
あなたの前世は私も知りえません。
今の自分自身の生を見つめ、尽力することを
期待します』
『ありがとうございます。
……ところで一つ質問なのですが』
『なんですか?』
『ウィッチクラフトと同様に、
個体名は必要なのでは?』
『おや、面白い発想ですね』
面白いと来たか。
『自然な発想ではないんですかね?』
『いえ、たまにそうした発想を持つ
ウィッチクラフトもいますよ。
小さな存在を愛でるのはよいことです』
『そうですか』
『
重要なものです。
ウィッチクラフトと
表現しても、過言ではないでしょう。
前世を探求するよりも、
大事にする方が、よほど実りある
行動というものです』
マントリは、ウィッチクラフトを人間と定義している。そして
狙撃兵がライフルを愛するように。
料理人が包丁を研ぐように。
そういう愛を持つことをよしとして、人として愛することを異端視している。
マントリは、絶対に譲れない一線の外側にいる。
『さて、雑談が長引いてしまいましたね。
そろそろ会議に行きましょうか』
『了解です』
マントリがふわりと浮遊し、神殿のようなフロアを静かに進んでいく。
やがて反旗を翻し裏切らなければならない人の背中を追いながら歩くのは、心に重たさを感じた。
(ねえオズ)
シンデレラが、会話が終わったのを察してか
ひそひそ声で話しかけてきた。
(どうした、シンデレラ?)
シンデレラは、今の会話に思うところがあったのだろうか。道具扱いされて傷ついていないだろうかと、不安になる。
(マントリ様っていい人だね。
怖い人だったらどうしようって、
ドキドキしてた)
(……そうだな。けどまだ安心するな。
ラタ様やガジャ様は怖いから気を付けろって
言ってたようなもんだろ?)
(う、うん! 静かにしてる!)
(いい子だ。退屈だったら寝てていいから)
(起きてるし!)
……ふと、前世の親父のことを思い出した。
幼稚園児くらいのときにおふくろが入院して、かといって俺の預け先などもすぐには用意できなくて、親父はやむなく俺を会社に連れてった。
親父の隣の空いてるデスクに座らされて、家にいるときとはまったく違う真面目くさった顔と声で打合せをしていたり、何かの図面を書いていたのを面白そうに眺めていたものだ。
大人の世界を垣間見たようで楽しかった。
あのとき、特に意味もなく親父が頭を撫でてくれたがこんな気分だったんだろうか。
(……ん? なに?)
コックピット内サブアームで頭を撫で、水を差し出した。
(いや、暇だろうと思って。何味にする?)
(そんなことないけど……。
あ、でも、メロン味がいい)
味覚情報APIを叩いて、水をメロン味に変換する。ずこー、ぶくぶくとストローの音が響く。
(こーら、飲み物で遊ばない)
(はぁーい)
他愛ない話をして、俺も少し緊張がほどけた。それじゃあ覚悟を決めて行くとするか。
この小惑星ケレスの伏魔殿に。