余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
『前回の奇襲で大きな損害を被ったが、
それでもこうして活動を継続している!
主力部隊も温存できた!
今がチャンスだとなぜわからん!』
『第二予備戦力まで動員するのは
賛同できないと申し上げているのです』
『今を逃して次に好機が訪れるのはいつだ!?
五十年後か? 百年後か? 五百年後か!?
そこまでこの基地を維持できると思うか!?』
『エネルギー再生率、資源再利用率は
常に更新し続けています。
耐え凌ぐことも戦略の一つです』
『手ぬるい!』
バチバチの大激論である。
我らが姐御分マントリは涼しい顔をしつつも内心では額に青筋を浮かべていることだろう。
そして反対側に座る巨大なウィッチクラフト……こいつが戦略会議AIラタである。
まさに戦争を主導する強力な指導者、といった佇まいだ。黒光りする威圧的なボディに、マントリと同じ重力制御装置。更に用途不明な謎の兵装を両肩に装備している。ごんぶとレーザーをブッパしてそうな面構えだ。
ちなみに罵倒語と皮肉をバシバシと言いあってるようだが、データ上では根拠となる資料や統計データなどが飛び交い、戦術シミュレータなども同時並行で動かして作戦の成功率などが表示されている……が、それは常に上下している。
マントリ、ラタが様々な変数を上下させたり追加させたりしているからだ。
例えばカリディアンの戦力予測を楽観的にしたり悲観的にしたり、あるいは防衛網の配置予想を変えたり、自分に都合の良いデータを挿入して作戦成功率を上がった下がったして喜んでる。
こう言っては何だが、スポーツの勝利予測や株価の乱高下を見てる気分だ。あるいはレスバトルをパラメータ化して勝負しているとも言える。
まあ戦術シミュレータの結果はそれなりに参考になるんだろうが……議論自体は不毛な気がする。
『おい貴様!』
『ウッス』
『貴様、ではありません。
101機38号機ウィッチクラフト、オズ。
あなたの部下でもあるのですよ』
『ウッス、オズです』
『ハッ! 訓練期間開けのひよっこのくせに
もう個体名を名乗って一人前気取りか?』
『彼はそれに足る戦果を上げています。
完全な奇襲攻撃であった旧産業集積クラスタ、
旧市街地クラスタ防衛の立役者です。
防衛体制の尻ぬぐいをしたウィッチクラフトに
あなたは敬意を払うべきでは?』
『ほう……貴様がマツバガニとヤドカリを
単独撃破したウィッチクラフトか?』
『味方機に火力支援をしてもらったので
単騎ではありませんが』
『であれば今回の作戦、百人力だな?
その口と実力に見合うだけの戦果を
上げてくれるのだろう?』
反論していいんですかねこれ?
『ご命令とあらば全力を尽くしますが
当機は皆と性能を同じくする一機に過ぎません。
理論値を超えることは不可能と言わざるを
得ないでしょう』
『では……
お前が標準のウィッチクラフトでなければ、
あるいは意のままに動く配下がいるならば、
話は違うのか?』
うおっ、権限を持たされてデスマに引き込まれるパターンくさい! 助けてマントリママ!
『配置の最終決定は私の権限の範囲です。
私を通さずに何をするつもりですか?』
『その通り、お前の責任範囲だ。
だが提案は俺の責任範囲であり有効な反論が
できなければ受理せざるをえんだろう。
勝利への貢献のない権限に何の意味がある?』
二人は無言で威圧し合っている。
その裏ではシミュレータを利用した論破合戦がデータ上で行われている。
今はマントリ有利、といったところか。マントリがシミュレータに様々な質問や根拠資料をアップした結果、勝利予測が75%を切っている。ラタが反論資料をアップしても数字が中々上がらない。
だがそのとき、思わぬ方向から意見が出てきた。
『私は、今回の作戦に賛成だ』
そこに、厳かな口調で口を挟んだ一機のウィッチクラフトがいた。
エメラルドグリーンの神秘的なウィッチクラフトだ。マントリともラタとも違う、不思議なカリスマ性がある。
資源開発AIガジャだ。
マントリをバリバリやり手の女社長、ラタをたたき上げの軍人であるとするなら、ガジャは……僧。
あるいは神官だ。ローブのような不思議な装甲に、用途のわからない宝玉のついた杖。そしてどこか浮世離れした佇まい。3機の中で、もっとも何をしてくるかわからない怪しさが漂っている。
『ガジャ……勝てるとお思いなのですか?』
『シミュレータ以上のものはわからない。
だが敵に与える損害と我らの軍の損害の
差し引きで考えたとき、利益が上回る。
人工天体いさりびに支配領域を多少なりとも
確保できたならば開発可能な天体が増える。
損害分の補填も容易だろう』
マントリは劣勢のようだ。
このまま作戦決行が決まってしまうのだろうか。
『……では完全な形でのいさりび奪還を
第一優先目標から外してもらえる、
という理解で良いのですね?
橋頭保の確保さえできれば勝利であると』
『こちらとしては構わない』
『なっ!』
と思ったら、梯子を外されたのはラタの方だ。
『何か異論でも?』
『い……いさりび奪還は我らの悲願だろう!
支配領域拡大のみで目的を留めてしまっては
戦線が拡大し消耗が増すだけだ!』
『時間を掛けて完全な奪還を成功させれば
特に問題ではないでしょう』
『その時間こそが問題なのだ!』
『時間によって得られるのは消耗だけでは
ありません。消耗以上に資源を獲得し
基地を強化すればよい。
その責任者たるガジャが問題ないと
言ってるのですよ』
ラタはどうやら『いさりび』に拘っている。
……なぜだ?
カリディアンに奪われた人口天体であり連中の拠点であることは知っているし、奪還が悲願であることもわかる。だが襲撃を重ねて確実に奪還する方がよいだろう。電撃的な勝利にこだわる理由がわからない。
『ラタ。
あなたがこの機会を待ち続けていたことは
よくわかりますよ。
いさりび奪還を何としても成功させるべき、
という決意も私は評価したい。
しかし一人の決意だけで戦況は
動くものではない』
『そんなことはわかっている!
次までに、我らの有用性を証明しなければ
ならんのだぞ!』
次? なんのことだ?
接触するということは、つまり外部の誰かと何らかの話をするという意味だろう。そしてこのケレスにおいて基地を身内とするならば、外部の存在など限られている。
一つはカリディアン。
そしてもう一つは、武器を供給する存在だ。
『ここはそれを話し合う場所ではないよ、ラタ』
ガジャが、静かだが強くラタを諌めた。
いや、諌めたなんて穏便なものではない。
これは警告だ。
『……さて、オズくんと言ったね?
少々話がわからず混乱したことだろう』
このタイミングでこっち見んなよ。
『参考意見のために呼ばれただけですので、
当機が関知できない範囲の情報を知ろうとは
思いません』
興味はないよというポーズを取る。
だがそんな嘘はガジャに見抜かれていたようだ。
『なに、シンプルな話ですよ。
所詮は我々とて、上から権限を預けられた
機人に過ぎない。
結果を出さなければ鉄クズも同様……
ということです』
その言葉に衝撃を覚えた。
いや、薄々だが高位AIの更なる上位者がいそうな気はしていたが、高位AIが直接それを認めるとはまったく思っていなかった。
『高位AIの、更に上が存在する……?』
『おや? 知りませんでしたか。
最上位者、と我々は呼称しています。
正式な名前は知らないし、
そもそも無いかもしれない。
なんであれ、我々にカリディアン撃滅し、
この太陽系に平和をもたらすよう命じる存在が
いるのだよ』
……それは、自明の話だ。彼らとて誰かに作られた機械には違いない。作った何者か……ウィッチクラフトのボディなど、この基地では製造できない武器を供給する存在が、どこかにいる。
ガントレットたちもその存在を薄々気付いていた。取引相手なのか、それとも高位AIを指揮する存在なのかまでは判断を保留していたが、連中の推測はほぼ当たっていた。
その最上位者に至ることがこの世界の秘密を暴き……そして
だが同時に、最上位者はカリディアンや高位AIよりも恐ろしい存在でもあるはずだ。
『……命じることができるとはつまり、
最上位者の意向によっては首が
挿げ替えられたり、廃棄されることも
ありえると』
『その通り。我々とウィッチクラフトであり
立場は一般兵と変わらないのだよ』
ガジャがさらりと言ってのけた。
『次とは、最上位者との接触のことですか?』
『そうだ。
最上位者の来訪が近々予定されている。
まったく予定を知らせずに訪れることもあれば
急遽予定変更することもあるので、
確実とは言えないのだがね』
裏返せば、最上位者はこの基地に常駐していないということだ。
だがなぜだ? 普段はどこにいるというんだ?
ケレスは、前回の襲撃があったとは言え陥落することはなかった。少なくとも周辺の小惑星などより基地のほうが遥かに安全なはずだ。
『普段、最上位者がどこで何をしているのかは
我々とて知らない。
当然ながら機密ゆえ調べることも禁じる』
『了解です』
イエス以外の答えがないので思わず頷いたが……なぜ機密にする?
場所を特定されるわけにはいかない……だけなら話はわかる。存在さえもウィッチクラフトに伏せている理由がない。敵対するかリディアンがその謎を紐解いてくるはずもないし、謎を紐解いたところで裁判所に訴えられるわけでもないだろうに。
(いや、それでも秘密にしなければ
いけない理由があるに違いない)
そうでなければガジャがこんなに執拗に攻勢アクセスを繰り返してくるはずがない。ガジャは、俺が秘密に近付いているという予感があるのだ。
実はさっきから、俺のデータ領域は舐め回すようにガジャからスキャンされている。しかもそれを、隠していない。「お前を疑っていて、それを調べるのは正当な権利だ」とでも言わんばかりに、乱雑に俺のデータ領域に踏み込んできやがる。
……いい度胸じゃねえか。
俺に情報戦を挑んで勝てると思うなよ。