余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
俺の意識は、天井と壁が存在せず床だけが広がるバーチャル空間に招かれた。まるで格ゲーやアクションのチュートリアル空間みたいな場所だ。
ちなみに仮想空間上のボディであれば俺は
『
いいんですね?』
『今回、俺たち特別遊撃部隊は
カリディアン装備の仕様が許可されている。
実戦に近い形で手合わせをした方が
作戦もスムーズにいくだろう?』
『ごもっとも』
とはいえ1対1という想定自体があまり実戦的でもないんだが。
だがツヴァイハンダーは、こちらを試してみたくてウズウズしてるって感じだ。俺としても味方の戦力がどんなもんかは把握しておきたいし、損にはなるまい。
『シンデレラは大丈夫か?
大人のワガママに付き合わせちゃって
すまないな』
「いいよー別に。楽しそうだし。でも……」
『あっ、ストップ。余計なこと言わない』
『構わんさ。好きに発言してくれていいよ』
ツヴァイハンダーが鷹揚な態度で言った。
まったくウチの子がすみませんと言う羽目になるのが目に見えてるのだが。
「すぐやられちゃったりしないよね?」
『バカッ! 失礼なこと言わない!』
「バカって言う方がバカだもーん」
ああもう、あー言えばこう言うのだから……。
『すみません先輩……先輩?』
罵倒を食らったツヴァイハンダーが沈黙している。なんか言ってほしい、怖い。
『……沁みいるようだ。生きている実感がある』
あっ、やっぱりこいつ変な奴だ!
シンデレラも本物のマゾおじさんに触れてトン引きしてるじゃないか!
ヘルムもツヴァイハンダーも何なんだよ!
「え、えっと……なんで……?」
『ツヴァイハンダー先輩。
あの……マジで大丈夫ですか?
正気を保ってます?』
しばし忘我の境地にあったツヴァイハンダー先輩を呼びかけると、すぐにハッとして現世に戻ってきてくれた。頼む、正気でいてくれ。
『すまない。
私の
美しいブレード捌きをしていた。
無茶な戦いをするなと度々忠告を
していたものでね……。
キミらを見て、昔を思い出した』
し、しまった……かなり真面目な話だった。
ウィッチクラフトの多くは
先ほどの盛り上がりも、こういうことだ。
皆、自分の
「……その子、今もコックピットにいるの?」
シンデレラが神妙な顔をしながら言った。
『ああ。安らかに眠っているよ』
「じゃあ……幸せだね」
『幸せ?』
「ずっと守ってもらってるんだもん」
『……そう思ってもらえるならば私も幸せだ』
食われた
それを一つの幸せの形であるなどと、俺は二人のように断言することはできない。そんなものは認められないという思いを殺しつつ俺は意識を集中する。
『……では先輩。一手御指南願います』
『湿っぽい話をしてしまったが加減はしない。
そちらも全力で掛かってこい』
「うん!」
ツヴァイハンダー先輩が構え、こちらも構える。
共に得意武器はブレード。
双方の戦闘準備が整った段階で、戦闘開始を告げるブザーの音が鳴った。
『なにっ!?』
即座に抜剣して鍔迫り合いになる……かと思いきや、ツヴァイハンダーはバックステップしてライフルを乱射した。
『何を驚くことがある?
ブレードが得意ならこちらは距離取った方が
正解だろう?』
「ちょ、卑怯だし……!
でもその方がやりやすいんだけどねぇっ!」
俺=シンデレラはテーブルナイフ表面の電磁レンズを起動させる。ライフルのエネルギーを吸収して溜め込み、力を蓄えながら距離を詰めていく。
『これは……ヤドカリの盾の機能か……!?』
『ヤドカリの盾の電磁レンズを
集めまくった成果ですよ』
『ははっ……想定以上だな!
だがこちらの得物も……負けてはいないぞ!』
ツヴァイハンダーは射撃を止め、改めてブレードを構えた。
見た目は少し大ぶりな
『なっ……!?』
「でっか! なにそれ!?」
グラディウスの持つブレードが、巨大化した。
いや、正確にはブレードを芯として電磁フィールドが展開して光の大剣となった。
放たれるエネルギー量が凄まじいことになっている。
『見るのは初めてのようだな。
これはタイプ:フェンサーと呼ばれる
ヤドカリの特殊進化形態の武器だ。
あまり見かけるタイプではないから
知らないだろうとは思っていたがね』
『……だから最初に距離を取ったんですか。
そのブレードの間合いは遠い』
近距離だと逆に取り回しが悪すぎる。
ウィッチクラフト3体分くらいの刀身となっている。ロマン武器にも程があるだろうと思うが……一撃必殺の武器と思えば近付くことさえ躊躇する。
『そういうことだ……行くぞっ……!』
『シンデレラ! 回避だ!』
「わかった!」
あれはこっちのテーブルナイフとは異なり攻撃一辺倒の武器だ。エネルギー消費も馬鹿にならない。
長時間は持つまい……と見て回避を選択した。
だがツヴァイハンダーは思った以上に老獪だ。ビームによる刃を変形させ、まるで長大なレイピアのような形にして刺突を繰り出す。
『避ければチャンスが巡ってくると思ったか!? 甘いぞ!』
細長い糸のようなブレードが乱れる。
だがブレードである以上、操るのはあくまで腕部でありマニピュレータだ。そこを拡大し、シンデレラが睨みつける。
「そこっ!」
ボディに穴を開けられる前に、テーブルナイフがツヴァイハンダーのブレードを捉えた。
こちらの刀身はダメージを食らわずに相手のエネルギーを吸収できる最適な角度の鍔迫り合いだ。
『このまま吸いつくせ!』
「もっちろん……あっ! ひっこめんな!」
『思った以上に精妙で老獪だ……キミたち本当に新造機体かね!』
「あったりまえじゃん! こちとら
生後二か月の赤ちゃんだってぇーのぉ!」
『そんなクチ聞く赤ちゃんいねーよ!』
このまま強制的にエネルギーを頂いて完全勝利……と思いきや、ツヴァイハンダーが右腕ごとパージした。くそっ、想定の三分の一程度しか吸えなかった。しかも軽くなった重量を利用してスラスター全開でこちらに突っ込んでくる。
「ハァ!?
武器もなく突っ込んでどーすんのよ!」
『違う! ワイヤーだ!』
右腕をパージした瞬間、左腕からワイヤーを飛ばして手放したブレードと再接続。まるで鎖鎌のようにブレードを操ってこちらに襲いかかる。なにがツヴァイハンダーだ、宍戸梅軒とでも名乗ってくれ。
「そんなブレード当たるわけないでしょ!」
『違う、シンデレラ! ワイヤーが本命だ! そっちを切断しろ!』
「えっ!?」
シンデレラは驚きつつも反射的にペダルを踏んで横方向にスラスターを吹かせる。体全体に巻き付かれることは防げたが左腕が絡め取られた。くそっ、こっちもパージだ。
『ちっ、流石の反応速度だな……!』
ツヴァイハンダーがトリガーフィッシュを撃ってこちらを牽制しながら自分のブレードを回収。ディストーションシールドが使えないのでブレードで吸収するがすべてを受け切ることはできない。くそ、ガントレットやジャベリンより一枚も二枚も上手だ。自分の武器の強さや派手さに頼らず、牽制用として割り切ることも躊躇わない。手慣れてやがる。
「ド突き合いにここまで付き合えるのは
あんたが初めてよ……!」
『それはこちらの台詞さ……!』
お互いに腕一本を失い、互角の状態……のように見える。
だがそれは表面的な見方に過ぎない。両者の間には歴然とした差が存在していた。
『さあ、舞踏会は始まったばかりだ!
踊り合おうじゃないか……!』
ツヴァイハンダーがぎらついた声で闘争を求めた。
◆
『……あそこで距離を取ってライフルと
ミサイルで押し切るのは、流石に
華がないんじゃないか?』
……というわけで、無事シミュレータ上の模擬戦闘が終わった。
今はVR空間から抜けて感想戦をしているところだが、ツヴァイハンダー先輩がめちゃめちゃ悔しそうに言った。
いや、まあ、ハイ。ご不満はよくわかります。
けど斬り合いに付き合ったら負けてたかもしれないし、何よりこっちにはこっちの優位性があった。
「だってエネルギー余ってたしさー」
そう、俺=シンデレラはテーブルナイフによってツヴァイハンダー先輩のエネルギーを吸収しながら戦っていたので長期戦や火力勝負になれば特に問題なく勝てる。
といってもツヴァイハンダー先輩が別に弱いわけではない。俺たちの武装は小隊レベルでの小規模戦闘で生き残ることに特化している。
対してツヴァイハンダー先輩は多くのカリディアンを相手にして戦場を制圧することに重きを置いているのだろう。同時に、こうして厄介な敵とも渡り合う精妙なブレードさばきを兼ね備えている。勝ちはしたが、「ブレードの使い手としてどちらが上か」というジャッジは下せないだろう。
『くっ……もう一勝負……!』
『そのくらいにしとけよツヴァイハンダー。
熱くなりすぎだ』
と、そこにヘルム隊長が口を挟んだ。
同時に、他のメンバーもバーチャル空間から戻ってきた。俺たち以外は4対4のチーム戦でシミュレータ模擬戦をしていて、決着が着いたようだ。
どれ、結果を見ると……おお……これは……。
「負けちゃった」
「あの兜ずるいですぅー!」
集団戦はヘルム隊長が率いる4機のチームと、ウッドマン=人魚姫、ライオンハート=ピノキオ+2機の混成チームでの対戦だった。
だがウッドマンたちのチームは早々に味方2機が落とされてしまい劣勢に立たされたようだ。かなりの時間を粘ってヘルム隊長の部下の1機を落としたが、戦況を覆せずタイムアップで敗北してしまったようだ。
『急造チームでここまで粘ったんだから
大したもんさ。
チームワークができてるはずのこっちが
撃破できずにタイムアップじゃ、
勝ったとは言えねえさ』
『だとしても敗北は敗北だ。
流石にベテランと感服した』
『いやー流石に勝てねっスわ。降参降参』
ウッドマンとライオンハートは素直に結果を受け入れている。格の違いを見せつけられたかのような、そんな印象だ。
だが、ログからだとヘルム隊長の強さが今ひとつわかりにくい。二人もかなり食い下がっているようだし。
『そんなに凄かったのか?
リプレイがあれば見せてほしいんだが』
『後で渡そう。ただ、実体験してみるのが
一番だと思う。
状況次第ではオズでさえ不覚を取るぞ』
ウッドマンの言葉には躊躇いのない賛辞がある。
これはもう一戦やる流れか……?
『待て待て待て!
俺はあくまでサポート機能特化なんだよ。
タネがバレたらそう強くはねえ』
『サポート機能?』
そういえば以前、味方になってくれそうなウィッチクラフトを調査した時、支援能力や生還率が群を抜いていたのがヘルムだった。
『この兜は、マツバガニの角の出力を
絞って弱くしたものだ。
破壊力とか防御力を減らしたかわりに
起動も再使用も短時間で済む』
と、ヘルムが解説した。
威力を高めるのではなくて、使い勝手を重視した感じか。しかし意図的に出力を下げるというのは中々思い切ったことをするものだ。
「ふふーん、そんなのに負けるなんて
ちょっとだらしなーい」
「あー! そっちが勝ったのは
相性良いからじゃないですかぁー!」
『こらこら、挑発するな。
人魚姫の言う通り相性の良し悪しは大きいし、
体験してないものを見くびるんじゃない』
「ごめんなさーい」
まったくもう……戦闘が絡むと妙に居丈高になるのは適時注意しないとな。
『しかし、取り回しをよくした
電磁フィールド発生装置か……。
食らってみてどうだった?』
と、俺はウッドマンに聞いてみた。
『出力が弱いというのは事実だ。
行動不能状態にこそならなかった……が、
電磁フィールドによるレーダー機能の
一時停止や演算力低下がここぞという
タイミングで襲ってくる。
ここまでペースを乱されたのは始めてだ』
『ほう……』
ウッドマン=人魚姫は自分のペースを守るのが得意だ。それをしてここまで言わせるとなると、やはりヘルムは実力者なのだな。
『さて、肩もほぐれたところで……
真面目な話をするとしよう。
作戦について説明しておきたい』
『了解!』
ヘルム隊長の言葉に、全員が緊張を覚えた。
ようやく俺たちの仕事の全貌が明らかになる。