余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
いさりび奪還作戦・特別遊撃小隊の役割は陽動と破壊工作だ。
作戦の詳細を語る前に、まず『人口天体いさりび』について軽く説明しておく。
ここは本来、宇宙ステーションであった。
ケレスと等距離を保ちながら同じ軌道を公転しており、ケレスへの直接の着陸が難しい大型船舶を停泊させたり、あるいはケレスから他の惑星に行くための中継ポイントとなるハブ空港のような役割と、もう一つ重要な役割を担っていた。
『太陽光増幅鏡あさひ』の制御だ。
太陽光を反射してケレス地表を照らし市街地クラスタや農業用地クラスタのための熱源にしたり、ケレス深部にある氷を溶かして水資源やレアメタルの採掘の効率化を図ることができる。
つまり本来ケレスと『いさりび』はセットなのだ。『いさりび』がなくては、ケレスは人間が住むにはあまりにも厳しすぎる。
その『いさりび』がカリディアンに乗っ取られたことでケレスの資源採掘の効率は全盛期の14%にまで低下した。
だからこそ『いさりび』の奪還は『天蓋の塔』にとって悲願……というわけだ。
『作戦の詳細と俺たちの役割についてだが……
オズ、説明しろ』
ヘルムが俺を指名した。
今までにない軍隊の雰囲気を感じて、少々背筋が伸びる感じがする。
『まず第一部隊がいさりび周辺に
展開しているヤリイカ防衛網を突破。
次に第二部隊がいさりび宇宙港に
取りついて敵防衛戦力ヤドカリ部隊を制圧。
第三部隊が最深部に突入して
タイプ:キングを討ち取る。
……以上が作戦の基本的な流れとなります』
『そうだ。
だが俺たちの役割は彼らとは異なる。
ウィッチクラフト運搬用船舶でいさりび裏側に
密かに回り込み、マスドライバー側から
破壊工作を実施する』
当然ながら『人口天体いさりび』の入口は一つではない。
円盤状の人口惑星の表側中央部に宇宙港があり、裏側中央部にマスドライバーがある。
マスドライバーとは、簡単に言えばドでかい輪ゴム鉄砲だ。コンテナ等を凄まじい勢いで宇宙に放り出すことで輸送のための燃料を節約できる。
宇宙港はカリディアン自身が使うために修復されてこちらも潜入することはできるが、マスドライバー施設は完全にカリディアンによって塞がれた……と思われていた。
だが最近の調査で、工作用カリディアンが出入りして何らかの作業をしていることが判明した。
設備を修復している?
あるいは、新たな兵器を開発している?
それはわからない。
だがその『何か』はこの戦争のために作られてるものには違いなく、であれば破壊しなければならない。そこで俺たちはマスドライバー側から侵入して破壊工作を試みる。
この作戦は、第三部隊への支援も兼ねている。そもそも第三部隊がタイプ:キングを倒せるかというと戦力的な不安が残る。戦略会議AIラタが第三部隊のリーダーとしてタイプ:キングを倒していさりびを奪還すると息まいているし、ラタの計算では勝てるはずだ。
だがどんなに高度なAIであっても戦争が上手く行くとは限らない。
相手も全力で防御してくるのだから。
そこで俺たちは裏側から攻撃することでカリディアンたちの注意をひきつけて第三部隊を間接的に支援すると同時に破壊工作を実施。それが達成できたらすぐさま離脱する……というわけだ。
『この作戦の要は……
オズ、ウッドマン、ライオンハート。
そして
お前たちだ』
『えっ?』
初耳なんですけど?
知っていたのはヘルムだけのようで、他のウィッチクラフトは俺たちと同様に驚いた。
『活動可能な
セーフモードでの隠密行動が可能になるためだ。
情報漏洩防止のため全員に秘匿にしていた』
『セーフモード前提!?』
『いさりびに接近すればカリディアンの
警戒や探知は厳しくなる。
いかに本体が宇宙港側にいるとしても
裏側の警戒網が消えることはない。
潜り込むためにはこの船舶のステルス機能を
十全に働かせなければならない』
『ステルス機能があるから
問題ないじゃないか』
『……船舶の全自動制御だけで完全な
隠蔽は困難だ。
船舶、ウィッチクラフト、共にメインバッテリーを
落とし、予備電力のみの最低限の出力で
マスドライバーに接近する』
ヘルムの言葉に、全員に衝撃が走った。
『ちょ、ちょっと待ってくれ。
つまり……ウィッチクラフトだけじゃなく、
この船もセーフモードにするってことか!?』
俺の質問に、ヘルムはその通りだと頷いた。
『ああ、侵入の直前までな』
『全機がセーフモードの間、手動で船を動かし、
作戦直前に全員のセーフモードからの復帰を
3人の
無茶だ!』
『……すまん。
無茶でも何でもやれってのがラタの指示だ』
ヘルムも内心では賛同していないのだろうが、高位AIの指示は絶対だ。
くそ、あの野郎……! ガジャから助けてくれたからちょっと恩義を感じてたが……覚えてやがれ……!
俺は更に抗議をしようとしたが、それよりも先にガントレットが声を上げた。
『流石にどう考えても無茶だろう!
高位AI……ラタたちは何を考えている!』
『コックピットからほとんど出たことのない、
月齢2ヶ月の子供だぞ!? 無茶だ!』
『前例がない、マントリなら絶対に反対するはずだ!
ヘルムならマントリに交渉くらいできるだろう!』
『まだ自我がある子供だぞ!
程度ってもんがあるだろう!』
他のウィッチクラフトもいきり立っている。
流石に前代未聞なのと……義憤も混ざっている。
こういう仲間がいることがありがたいしもっと交流を深めたい、が……今は作戦をどうするかだ。どうやって命を守るかを考えなくてはならない。
『……無論、作業失敗の可能性はある。
その場合はこの船のステルスレベルを下げ
作戦続行することになる』
『そ、そうか……。
流石にそこは検討の範囲だよな』
ヘルムの言葉に、ツヴァイハンダーが落ち着きを見せる。
俺も聞いていて安堵した。
流石に失敗の可能性を考えてくれていたか。
仮に作業失敗したとしても
『その場合、カリディアンに早期発見されて
撃ち落とされる確率は32%上昇するだろう』
このアホ!
と、言いたいところだが……数字があまりに重すぎる。ヘルムの言葉に誰も言葉を発することができない。32%は流石に大きい。
そしてよくよく考えてみれば、この作戦が実行に移されるきっかけとなったのは俺だ。
セーフモードを使用して隠密行動を取って相手の首を取る。これを、模擬戦闘で華々しく成功させ過ぎてしまったのだ。
「あのさー……あたしたちがやるんだから、
あたしたちも作戦に何か言っていいよね?」
『シンデレラ?』
そのとき、シンデレラがマイクをオンにすると同時に、コックピット内の自分の映像を他のウィッチクラフトに表示させた。
とんでもなく不機嫌な表情。
もはや一種の凶相だ。
二ヶ月児がしていい顔じゃない。
『……シンデレラ、先ほどは失礼した。
俺は特別小隊隊長のヘルム。発言を許可する』
シンデレラは、すうっと息を吸って、そして言った。
「さっきから大人しく聞いてたらさぁ
……舐めてんの?」
思わぬほどドスの利いた声がシンデレラの口から出て、
ウィッチクラフトたちにざわりと緊張が走った。
「子供にはできないとか、無茶だとか、
頭がおかしいとか。月齢2ヶ月とか、
言いたい放題言ってくれちゃってさぁ!」
『お、落ち着け。
馬鹿にしてるわけじゃなくてな……』
「え、なに?
もしかして自分たちだけで戦ってるつもり?
足手まといだから引っ込んでろってこと?」
『言い方は悪いが、この作戦は
思っている以上に危険で……』
「オズ、忘れてない?
ウィッチクラフトの操作だけじゃないし。
船の操縦系だってちゃんと知ってるんだよ」
シンデレラは人差し指で自分の額をこんこんと叩き、不敵に笑った。
彼女の自身に満ち溢れた肉食獣のような笑みは、命を託すに足るのだと物語っている。
それでも俺は、必死に反論した。
『知識がある上で、ウィッチクラフト操作は
何度も何度も繰り返し練習してきた。
ぶっつけ本番とはまるで意味が違う。
しかも今回は船舶のセーフモードだ。
コックピットを出て、無重力下での作業が
必要になるんだ』
俺がそう説得にかかると、ウッドマン、ライオンハートも追随してきた。
『そ、そうだ。そしてウィッチクラフトがセーフモードになれば音声サポート以上の手助けができない。だが作戦行動において予想外の事態は常に発生する。そしてセーフモード中での予想外の事態とはつまり……死に直結する』
『そうっスよ! まともじゃない作戦に
他のウィッチクラフトも俺たちの話に耳を傾けている。無言の賛同、といったところだろう。誰も異論を口に挟まない。あるいは
「……オズが守ってくれるの嬉しい。
みんな心配してくれるの嬉しい」
シンデレラの表情がふっと緩んだ。
説得が功を奏したか……と思ったら、違った。むしろ火に油を注いでしまったのだとすぐに気付いた。
「でもさ、でもさぁ……!
あたしたち仲間じゃないわけ!?」
俺は、シンデレラの成長が嬉しい。
俺たちは仲間でどちらが欠けても成り立たない尊いパートナーだと、心の底から言えたならよかったのに。
だが、この基地のウィッチクラフトたちは
「そうです!
私たちは、戦って、勝ってきたです!
シンデレラに助けてもらうだったけど……
でも、セーフモードは私が一番得意です!
ピノキオだって練習してきました!
私たちならできるです!」
「うん、ちゃんと送り届けるよ。
できる。絶対できる」
人魚姫が珍しく声を張り上げ、そしてピノキオが自信満々に振舞う。
子供らしい、自分への叱咤激励だ。
そんなことをしなくたって、きっとこの子たちはやり遂げるだろう。俺はこの子たちに自分の命、作戦の命運を託すのに、何の疑いがあるだろうか。
けれどシンデレラは、俺たちから能力を疑問視されている……という誤解を持っている。自分は命を預けるに足る存在ではないのだと、劣等感に苛まれている。本当は、お前たちは凄いんだって褒めてやりたいし、誇らしく振舞いたい。こんな風に、利用するような形ではなく。
それでも、選択の余地はない。
『……
俺たちの命を預ける。頼めるか?』
俺の言葉に、シンデレラたちの表情が喜色満面になった。
「オズ!」
一方で、ウッドマンは心配そうに俺の名を呼んだ。
『オズ……』
『ウッドマン。
この子たちが心配なのもよくわかる。
けれどこの子らが生きていくためには、
こういう飛躍が必要になる』
ウッドマン、ライオンハートは俺の欺瞞に気付いている。
その上で「嘘を突き通す覚悟があるのか」と問うている。
あるさ。
そしてお前たちもまだしばらく付き合ってくれ。
いつかこの罪を贖う日まで。
『……覚悟は決まったようだな。
では改めてシンデレラ、人魚姫、ピノキオ。
きみたち
ウィッチクラフト及び運搬船をセーフモードで
運用し、いさりびマスドライバーまで
接近せよ。
これはいさりび奪還のための最重要任務である』
「「「了解!」」」
ヘルムの重々しい言葉に、三人が同時に応えた。