余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
小惑星帯はそこそこデブリが多い。
令和の地球の衛星軌道上のように人工衛星やら何やらがびゅんびゅん飛び回っている……というほどではないが、小さい岩や石の群れが飛んでくるのは日常茶飯時だ。
おかげでケレスも、他の小惑星も、隕石のクレーターで穴だらけだ。
これはつまり、「これは敵の攻撃で、これはただの隕石」という厳密な区分けをするのが難しいのを意味する。
カメラアイが自動判別するにしたってある程度は誤魔化すことができる。よって映像のみならず電波や熱源など様々な情報を組み合わせて索敵しているわけだ。
『こちら人魚姫。
ウィッチクラフト21から30まで
セーフモードに移行完了です』
『りょーかい。
ピノキオ! 確認よろしく!』
『はーい! 確認しまーす!』
外から声が響く。
マイクとスピーカーだけは非常用電源を起動しているので3人の元気な声が届いてくるのが救いである……と同時に、すごいやきもきする。
平成の頃、子供を一人でおつかいさせる番組があった。
昔はあれを純粋なエンタメとして消化できたもので、海外の人から「信じられない!」「虐待では?」と疑問視されたときに「んな大げさな」と思ったが……この身になって初めてわかる。正気じゃねえよ。
かつん、かつんとタラップを跳ねる音が響く。
ぷしゅーというエアーをスーツから出して姿勢制御する音が聞こえる。
無重力下での作業なんて初めてのはずなのに、移動も、実作業も、ソフトウェア操作も、すべてがよどみなく進んでいるのがわかる。
それが頭の中に無理矢理インストールされた知識と、ヘルムが用意した丁寧な作業手順書のおかげだとしても、普通の
予定外の事態が起きた瞬間に指どころか表情筋さえ動かせなかったシンデレラが、二人を率先してテキパキと動いている。
この子は、頑張っているんだ。
「オズ、第一段階終わったよ!」
そう感慨深く思っていると、シンデレラが嬉しそうな表情を浮かべながらコックピットに戻ってきた。
『おつかれさま、よくやった。偉いぞ』
「でしょでしょ?
まあでも、当然だけどぉ?」
『休憩時間だろ。なんか飲むか?』
「サブアーム動かせないじゃん」
『そうだった……。
セーフモードは窮屈なんだよなぁ』
「いーよ、自分で取るから」
疑似人格と対話はできるし、簡単に手足を動かしたりもできるが、生命維持ではなく「快適」のための機能はシャットオフされる。
なのでシンデレラは自分でボトルを取り、キャップを開けてぐびぐびと美味しそうに水を飲んでいる。
いつもお口拭いてあげたりキャップ開けてあげたりしてるのに、こんなにたくましい姿を見せられると涙が出そうだ。
「……他の
『ああ……そうか。他のウィッチクラフトのコックピットに入ったんだな』
「そーしないと作業できないし」
『……そうか』
「みんな、すやすや寝てたよ。
落ち着いた顔してた」
この部隊のウィッチクラフトは食われたあとの
不衛生にならないようミストシャワーや温風を出したり、筋肉が衰えて自重を支えられなくなることがないよう電気で筋肉を鍛えたり、波の音や雨の音といった安静効果をもたらす自然音を流したり……。
ガントレットやジャベリンのように、
「でも、セーフモードで大丈夫かな……」
『チューブで繋がってるから喉が乾いたり
お腹すいたりってのはないさ』
ただ、少しばかり居心地は悪いだろう。
表層意識がないとはいえ、可哀想になってくる。
「そっか、よかった……。
眠ってるお姫様の邪魔しちゃ悪いもんね」
『シンデレラも、寝てるときはお姫様だよ』
「今もお姫様ですけど!」
『そうだな』
「笑ってるぅー、ひどーい」
シンデレラがけたけたと笑う。
そうして何気なく雑談をしていると、あっという間に休憩時間が終わってしまった。
「よし! 休憩終わり!」
『もう行くのか?』
「うん!」
『わかった。
……じゃあ、作業内容のおさらいだ。
第二段階では船のメインバッテリーを
落とすことになる。
それが終わったらしばらく……つーか
18時間くらい暇になる」
「うん」
『どうする? ここに戻るか?』
「んー……三人でいる」
『そっか』
「基地でもコックピットでもないところで
寝るなんて初めてだもん」
ここには一応、
布団はなかったものの、非常用のシュラフやエマージェンシーセット、予備のパイロットスーツ、非常用の戦闘糧食など、人権軽視の天蓋の塔にしては気の利いた物資が用意されていた。
何かのアニメの影響で「合宿回だ!」とシンデレラたちは密やかに喜んでいたようだし、コックピットの外で寝るのもたまにはいいだろう。
寂しくはないです。
寂しくはないです。
大事なことなので二回言いました。
はぁ……作戦の都合上、緊急時でもない限りウィッチクラフト同士の会話もできない。
疑似人格を呼んでゲームでもしようかな……。
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oz-002:
めちゃめちゃ寂しがってんじゃん
oz-admin:
>>oz-002
寂しいに決まってんだろ!
でも表情筋さえまともに動かなかった子が
友達とお泊りしてるんだぞ……!
見守ってやんなきゃ……グギギギギギ!
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シンデレラたちはどうやら内緒話をするつもりのようで、俺たちの集音マイクが届かない場所でパジャマパーティーをするつもりのようだ。パジャマじゃなくてパイロットスーツだけど。
今度、工作用ドローンを借りてパジャマ作ってやるか……。
『……ん?』
どこかの隔壁が開いた音がした。
タラップを跳ねる音がする。
誰かが近付いている……っていうかシンデレラが戻ってきた。
『どうした、シンデレラ?』
「ちょっと言い忘れた。
おやすみなさい、オズ」
『……おう、おやすみ。寂しかったら言えよ』
「寂しいのオズじゃん」
『さっ、寂しくねーし!』
「あははっ。オズの寂しがり屋。
また明日ねー」
どうやらシンデレラだけじゃなく、人魚姫もピノキオも自分のウィッチクラフトにおやすみの挨拶に来たようだ。
ここには夜も朝もない。
地球とは異なる自転周期、公転周期で星は動く。
だからこの世界の夜を決めるのは、ただ、おやすみと言う言葉だけなのだ。
『おやすみ、シンデレラ。
おはようを待ってる』
こうして、人が定めし夜が更けていく。
◆
シンデレラたちは、やる気に溢れていた。
ウィッチクラフトに一から十まで準備してもらうのではない、自分自身が頼られて任務を与えられたという実感は、代え難い喜びを伴っていた。
そしてオズたちの想定以上に、シンデレラたちは有能だった。初めて扱う船であってもよどみなく操作していく。
もっとも、ウィッチクラフトも広い意味で言えば「人間が操る船」「作業用モービル」に該当する。宇宙を飛ぶ上で注意すべきことも、操作技術も、シンデレラたちの脳と腕に叩き込まれている。
三人はヘルムに与えられたマニュアル通りに作業を進め、すべての作業工程をつつがなく終えて……。
「暇になっちゃった」
「ですねぇ……」
「やることなーい」
シンデレラたちはウィッチクラフトと船舶のセーフモード移行作業を完了したあと、しばらく暇な状態になった。
副脳にダウンロードしたアニメを休憩室のモニタに映して上映会をしていたがそれにも飽きた。睡眠を取るにはまだ微妙に早い。
「枕投げ、する?」
「……まくらがないですぅ」
ピノキオの提案にシンデレラも人魚姫も喜ぶが、そもそも投げるべき枕がないと気付いた。無重力下であるため、頭の位置に気をつける必要がない。そうでなくとも
「いさりびってどんなところなのかなー」
「どんなところって……カリディアンの住処でしょ?」
ピノキオの言葉に、シンデレラが不思議そうに聞き返した。
「うん。でも昔はそうじゃなかったって」
「そういえば、人間が住んでたはずですね。
ケレスに太陽光を送る役割があったって」
人魚姫の言葉に、ピノキオが嬉しそうに反応した。
「じゃあ、何かあるかな?
映画館みたいなところとか」
その言葉に、人魚姫とシンデレラの顔に期待が浮かんだ……が、あることを思い出してぶんぶんと首を横に振った。
「期待し過ぎはダメよ。カリディアンがいるから
前みたいに食べ物も取られてるかも」
「はぁ……コーラとポップコーンが恋しいですぅ」
「任務終わったらきっとご褒美もらえるわ。
今度映画見るなら、何にする?」
「うーん……あんこもちマンか……。
あ、でも、ハリウッド映画もいいかも……。
ピノキオは何が見たいですか?」
「たぶん大丈夫だよ」
「なんで?」
「普通のカリディアンには、
カリディアン用の糧食があるから。
ケレスのワタリガニはしかたなく
糖類を食べたんだよ」
ピノキオの言葉に、シンデレラも人魚姫も、はてなと首をひねった。
「……そーなの?」
「そーなんですか?」
「うん。だからもしレストランがあったら、
食料とか残ってるかも」
ピノキオの言葉に、シンデレラと人魚姫は喜びを隠せなかった。
今度こそ見つけてみせるという野望に燃え……その前提が事実なのか、どこで知ったのかを突き詰めようとはしなかった。