余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
迷った挙句、「あんこもちマン」を選んだ。
あんこもちマンは、頭部のあんこもちをお腹を空かせた子供に食べさせたり、謎のあんこもちパワーで悪党のウイルスマンをやっつけるという、国民的児童向けアニメだ。
男児向け作品と思われがちだが、女児からも熱い人気がある。姪っ子をあんこもちマンミュージアムに連れてったときは大はしゃぎだったっけ。だからシンデレラも興味を示すだろうと思ったのだが……。
「いけー! ウイルスマーン!」
思った以上にどハマりした。
いや、うん、思った以上にどハマったわ。しかも主人公あんこもちマンではなく、敵のウイルスマンの方をめちゃめちゃ応援してる。
こんなにも夢中になっている理由はいくつかある。
最初に主要キャラや定番ストーリーを把握できる程度に見せて、そこから映画版を見せたことだ。テレビ版のウイルスマンはシンプルな悪役&やられ役だが、映画版のウイルスマンはダークヒーロー感があってなんとも格好いい。そのギャップがまた子供心をくすぐるのだろう。
あと、ロボを操縦するシーンが多い。
あんこもちマンも「あんこもちマン号」という輸送車両を使うこともあるが、やはりロボの操縦と言えばウイルスマン。特に映画版ではその魅力が光る。
「あんこもちマン ザ・ムービー ウイルスマンとリリーのおとぎばなし」では、ウイルスマン機械がまったくない異世界に飛ばされ、のこぎりや斧といった工具を作るところから始まって最終的に巨大メカをたった一人で自作してしまう。
またその過程でウイルスマンはリリーという臆病な少女を励まし、リリーは少しずつ困難に立ち向かう勇気を獲得していく。
最初「こいつきらい。ウイルスマンに甘えっぱなし」と冷めた目線だったが、後半には「リリー! がんばえー!」と必死に応援していた。
ちなみに視聴スピードはめちゃめちゃ早い。情報処理に特化しているためか、5倍速くらいでも普通に理解できるようだ。
「ねー、オズ。あんこもちってなに?」
絵本やアニメを見た後は色んな質問が来るが、食べ物に関する質問が最近増えてきた。
興味が出てくるのも当然だろう。あんこもちマンは食べ物モチーフが多いから当然だが他の児童向け作品でも高確率で食事シーンがある。
しかも、どれもが美味しそうだ。
これが平成・令和の一般家庭ならよかったのだが、ここでの食事は流動タイプの完全栄養食しか選択肢がない。こいつに、普通の食事を与えさせてやれるならよかったんだが……。
『……食べたいのか?』
「別に。なんかキモいし」
『そうか』
「なんかよくわかんないもの口に入れるの怖い」
『むむ……』
この子は食事シーンを見て若干の嫌悪感を示している。食事シーンだけ10倍速にしてたりするし、あんこもちマンが頭を切り取ってお腹を空かせた子に与えているのはシンプルに怖がっていた。
「……あ、でもイチゴっていうやつは気になる」
『ほう?』
「あとお菓子? ってやつ?
なんで絵本の中の子ってお菓子で
あんなに喜ぶんだろ」
『そりゃ美味しいし、美味しそうだろ』
「その、美味しいっていうのがわかんない」
『……食事は戦闘糧食だけだしな』
「昔の人っていろんなもの食べなきゃ
生きていけないんでしょ? めんどくさ」
絵本でも児童向けアニメでも、お菓子はよく出てくる。子供向け作品では重要な要素なのだろう。グルメを題材にした漫画のおかげで子供の好き嫌いが減ったって話も昔、どこかで聞いたしな。
せめてシンデレラにも食育をさせてあげられたらよかったんだが、この世界の食事は謎の完全栄養食と水しかない……なんてひでえ世界だ。
……いや、待てよ?
この子は導者と呼ばれる強化人間だ。俺のようなウィッチクラフトと接続したりして、機械を自分の手足のごとく操作できる。
それはつまり、シンデレラは機械からの情報を脳で受け止めることができる……ということだ。
例えばこの子に「甘い」とか「酸っぱい」という情報を流すことができるかもしれない。
あ。
シンデレラの副脳をスキャンしたら見つけたわ。
味覚情報APIって機能がある。
APIとはプログラム同士でデータを受信したり送信したりする機能のことで、これが名前の通りであれば「味覚情報」というデータをシンデレラの脳がキャッチできるはずだ。
READMEテキストもあった。えーと……本機能は、様々な料理の味覚データを舌の上に再現するものです。
何も食べずにただ甘味や酸味などを舌の上で再現することが可能ですが、その場合「食事をした」と脳が錯覚を起こし通常のレーションや保存食に対して食欲が湧かなくなる恐れがあります。
よって無味のレーションや水を口内に入れると同時に味覚情報を入力し、「カレー味のレーション」、「コーラ味の水」として楽しむなど、実際の食品と組み合わせて利用することを推奨します……。
そ、それだよ!
宇宙世紀の人間が求めているものは……!
それで入力データ形式は……ふむふむ。大雑把に料理名を指定してもいいし、甘さや苦さなど細かいパラメータを設定して導者の舌に送り込むこともできる、か……。
『……シンデレラ。お前の副脳の
味覚情報APIにアクセスしたいんだが
許可してくれるか?』
「なにそれ? そんなのあったんだ?」
シンデレラはきょとんとして聞き返した。
『戦闘や作戦行動には不要だから
知らなかったんだろう』
「変なことしないならいーよ」
アクセス許可が出た。
よし。
『おっ、サンキュー。
ところで……そろそろ喉が乾いただろ?
水分補給は大事だぞ』
「うん」
ウィッチクラフトのコックピット内には生命維持のためのすべてが揃っている。戦闘糧食は3年分ストックされているし飲み水もある。
また、コックピット内部用には補助アームがたくさんある。導者の食事補助もできるし、歯医者のように口内洗浄もできる。シャワーヘッドを持ち出して体を洗ったり、あるいは怪我をしたときに消毒をして薬を塗布することもできる。
『ほれ、水だ』
俺は、ストロー付きのボトルを取り出してシンデレラに渡した。
中に入っているのはただの水だ。ごく微量のミネラル成分が入っている以外は、何の変哲もないH2Oである。
「ありが……んふっ!?」
そしてシンデレラがストローを吸った瞬間、俺は「いちごジュース」の味覚情報を送り込んだ。
「げほっ! な……なにこれっ!?」
『す、すまん、むせるとは思わなくて』
「オズがやったの!?」
シンデレラは目を白黒させている。
初めての感覚に衝撃を受けているのだろうが、思った以上の反応だ。
『わ、悪かった。口の周り吹こうな』
ハンドタオルを掴んだアームを伸ばしてシンデレラの口周りを綺麗にふきふきする。
「この水が変だった……とかじゃないよね?」
『ああ、ただの水だ。
水を口に含んだ瞬間に味覚データを
流し込んで、いちごジュースを飲むのと
同じ状態にしたんだ』
「……そんなことできるんだ」
シンデレラは驚愕し、目を白黒させている。
『やってみたらできた』
自分でもできるとは思わなかった。
別に俺が凄いとかではない。これは元から
宇宙生活において、食料調達は地球より格段に難しい。お菓子や酒といった庶民でも簡単に手に入るものさえ、とんでもない贅沢だ。タバコなんて特に論外だろう。
さりとて嗜好品なしで生きていけるほど人間は禁欲的ではない。
ただこの環境を作った高位AIにとっては味覚情報などどうでもよく、ロールアウト時にインストールされる知識からは省かれていたのだろう。
シンデレラはもちろんのこと、きっと他の子も無味の戦闘糧食と水以外の味を知らない。
「も……もっかいやって」
『こぼさないようにゆっくり飲むんだぞ』
「うん……」
再度ジュースに偽装された水を飲んだシンデレラは、言葉を失っていた。
目をカッと見開いて、頬は上気し、口元は喜悦に緩んでいる。
『言った側からこぼすんじゃない。口拭くぞ』
タオルでもう一度口元を吹いた。
もしかして流動食以外の食事をしてないからか顎が弱いのだろうか……?
いや、この子は宇宙環境に適応するために遺伝子レベルで改造されている。地球よりも弱い人口重力であっても筋力、骨、歯などは地球人と変わらない発達をしているはずだ。
「……甘いって、こういうこと?」
シンプルに衝撃を受けていただけのようだ。
ちょっと安心した。
『ええと、言葉で表現するのが難しいが……。舌に纏わりつく感じが「甘い」で、舌がツンツンする感じが「酸っぱい」。その二つが合体して「甘酸っぱい」だ』
「じゃあ、美味しいっていうのは?」
『何かを食べたり飲んだりして嬉しかったら、ぜんぶ美味しいってことだ』
「美味しい……」
シンデレラの瞳に、理解が灯った。
人間が石と木で狩りをしていた頃から……いや、人間が人間になる前から持っていた身体感覚を、彼女は理解したのだ。
「美味しい!」
目を輝かせてシンデレラが叫んだ。
『そうだな……美味しいよな』
そんなもの、本来ならば誰だってわかる感覚だ。
シンデレラは、自分がこれまで味覚を奪われていたことにさえ気付いていない。雷に打たれたような感動は、搾取の裏返しだ。
ただそれを伝えることはできない。もしシンデレラが上位者や環境に怒り、サボタージュでもされたら逆に生存は遠のいてしまうだろう。
この環境を創り出したやつを俺は絶対に許せないが、それでもまずはこの過酷な世界で生き残らなければならない。
そのためには……。
『oz-003だ。>>oz-admin,oz-001,
カリキュラム改善案に基づいたプログラムの
開発に成功した。
レビュー会議をするので出席を頼む』
よし、着々と準備が進んでいるな。
『こちらoz-admin。
会議でも発言する予定だが、シンデレラは
あんこもちマンに出てくるウイルスマンが
お気に入りだ。
既存の二次利用系のゲームを利用できるなら
利用したい』
『了解。そちらも検討する』
この子を強く育てなければいけない。
俺は決意を新たにしながら、またちょっとこぼしてるシンデレラの口元をタオルで吹いた。