余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
作戦開始時刻まで5分前。
各機から通信が入ってくる。
『こちらヘルム! 通常モード復帰を確認!』
『ツヴァイハンダー、復帰した!』
シンデレラ、人魚姫、ピノキオが手分けをしてウィッチクラフトたちの通常モード復帰作業をしていた。
手早く操作を終えて、タラップを跳んで次のウィッチクラフトに向かう。
1体に付き1分も掛からずに作業を終えている。予定よりも遥かに迅速だ。
『同じくモーニングスター。通常復帰を確認』
『バンジャンドラム、復帰を確認!』
『チャクラム、復帰を確認しましてよ』
俺たち以外の全員が復帰し、船内の照明も通常に戻った。船のメインバッテリーが起動しつつある。無重力下のウィッチクラフト外活動なんて初めてなのに、あざやかな手際だ。
「船舶のメインエンジン復帰まで残り1分です!
自動操縦モードに移行し予定通り侵攻します!」
人魚姫のアナウンスだ。
普段とは打って変わって堂々とした声。
もう立派な通信技師と言えるだろう。
なんなら声優にだってなれる。
「オズ! お待たせ!」
『挨拶はおはよう、だろ?』
「おはよう! って、急いでるところでしょ!」
シンデレラが俺を叱りつつ、コックピット内の数少ない物理ボタンを操作する。
メインバッテリーの電力が体に満たされていく。
IJK301I SYSTEM CONTROL UNIT"LRL101S0038": SAFE MODE OVERRIDE INITIATED
IJK302I DIAGNOSTIC ROUTINE PASSED. E-STOP INTERLOCK RESET COMPLETED
IJK305I COMMENCING N DRIVE POWER-ON: AXES (010-013) VARY ONLINE
IJK306I SENSOR SUBSYSTEMS (LIDAR/FORCE) ONLINE, SPEED LIMITER RELEASED
IJK307I SYSTEM CONTROL UNIT"LRL101S0038": NORMAL-AUTO MODE RESTORED
よし、各部異常なし。
何の問題もない。
『オズ、セーフモード復帰を確認!』
『ウッドマン、セーフモード復帰を確認』
『ライオンハート、セーフモード復帰を確認』
俺たちも準備万端だ。
そして運搬船の方も完全に準備が整った。
『索敵開始と同時にマスドライバーへの
最短ルートを計算!
今更ビビるんじゃねえぞ!』
『応!』
ヘルム隊長の言葉に威勢よく返事をしつつ、船のカメラ画像を回してもらう。
すぐに俺たちの眼前にいさりびが映し出された。この形状を何かに例えるならば、天使の羽が生えたコインといったところか。あるいは平成・令和のISS国際宇宙ステーションと似たようなものだ。規模感が百倍くらいになっただけで。
羽と例えたのは太陽光パネルだ。コインの右サイドと左サイドにパネルを均等につけて発電をしているのだろう。
そしてコインの表側には宇宙港があり裏側には滑走路のようなもの……マスドライバーがある。
マスドライバーとは、超巨大な輪ゴム鉄砲だ。勢いよく物を押し出して吹っ飛ばして送り届けたり、あるいは敵艦に物理攻撃もできなくはない。重力と空気抵抗のない宇宙空間ならばこれも立派な手段になる、というわけだ。
……って、宇宙港側を見たらすでにドンパチが始まってんじゃねえの。
第一部隊がヤリイカの群れとやり合ってて、第二部隊が降下し始めている。拠点を構築しつつ第三部隊が宇宙港から突入するという流れだ。
そして俺たちもマスドライバー側から侵攻開始をすることになる。シンデレラたちのおかげで作戦通りの状況なわけで、ここからは俺たちが頑張らなきゃいけないところだ。
マスドライバー側はまだ俺たちに感知していないようだが宇宙港側では派手なビームやら爆撃やらが飛び交っている。
『感知された! シールド最大出力!
このまま突っ込むぞ!』
ヤリイカの一部が気付いてこちらに向かってきているが、ごく少数にすぎない。こちらに割く余裕がないのだろう。
まばらな砲撃を弾きながら俺たちの船はマスドライバー側の資材搬入口に突っ込んでいく。
凄まじい衝撃が船体に走った。
◆
輸送船のシールドによってこじ開けれられた資材搬入口にヘルム隊長の操るドローン部隊が飛び込んでいき、そしてウィッチクラフトたちも続々と侵入。続いて俺たちも突入する。
「あーもう最悪! 死ね死ね!
とりあえず死ね!」
「ちょー最悪だねー」
「シンデレラ! 上手く避けるですよ!」
侵入したとたんに激しい砲撃に襲われた。
ここを防衛しているのはワタリガニとヤドカリの混成部隊だ。ヤドカリが盾となり、その隙間からワタリガニがビームマシンガンを撃ちまくって対抗している。
膠着状態になりかねないところ、俺たちは遊撃的に動いてヤドカリを撃破していく。
実戦経験を繰り返し新たな武器を得たシンデレラたちにとってヤドカリはもはや雑魚だ。初出撃のときは命がけだったが、そのときと比べて段違いに強くなっている。
俺=シンデレラは飛び掛かってきたヤドカリの剣を寸前で避け、最小限の動きで胸の奥にある核を切断する。
ウッドマン=人魚姫がうっかり俺=シンデレラの背中を撃った……かに見えて、連携された射撃データの情報だけで目視さえせずに避ける。
そしてビームはシンデレラの奥にいたヤドカリの頭部に命中。ヤドカリは距離を取るが遅い。ウッドマン=人魚姫が砲撃を撃ち続ける。しかも俺=シンデレラが展開してるディストーションシールドを利用してねじ曲げて、ヤドカリの頭部を的確に射抜いた。
ウッドマン=人魚姫の射撃の上達が目覚ましい。ディストーションシールドによって歪む軌跡を計算し「光学兵器を曲射っぽく撃つ」みたいな離れ業を編み出したのだ。
そして混乱した隙にピノキオ=ライオンハートが重水プラズマナックルでヤドカリを一掃する。
制圧完了……と言いたいところだが、奥から続々とカリディアンが現れる。更に、ピノキオのプラズマが放たれる前に伏せて死んだふりしたヤドカリが俺たちの背後を取った。ちっ、向こうの方が速いか……!
『やるな! 月齢2ヶ月とは思えんな!』
と思ったら、俺の背後を取ったヤドカリが一刀のもとに切り伏せられた。
ツヴァイハンダーだ。
自慢の両手剣の電磁フィールドを伸ばしてこちらを援護してくれた。
「おじさんこそやるじゃん。
今度は現実で模擬戦やっとく?」
『おっ……おじさん……!?』
ツヴァイハンダーがシンデレラに煽られてちょっとショックを受けていた。
『失礼な話し方やめなさい。
お兄さんとか……先輩とか……』
「こっちの方が戦果上げてるんですけどー?」
『い、いや、好きに呼ぶといい……。
射撃訓練場での模擬戦も歓迎だ。
だが賭けはしないぞ』
「わかった! また今度ね!」
『それより皆さん、先に進まないと!
敵が増援を寄越しちゃうっス!』
『その通りだ! いくぞ!』
うおっと、喋ってる場合じゃない。
地図情報を確認して……って言っても、微妙に頼りにならないな。広いフロアはカリディアンが勝手に改造して防壁を置いたりしてるから、古いマップを更新しつつ進まなければならない。
そんなわけで俺たちは前進しながらヤドカリを撃破して進んでいく。
幸いなことにこの小隊、強い。
新兵ならあっさりヤドカリにやられちまうところだが、一体一体が単独で撃破する技量と装備を持っている。
特にツヴァイハンダーとヘルム隊長がなかなかの腕前だ。わんさか敵が現れて多勢に無勢となった瞬間、ヘルム隊長が自慢の兜のツノから電磁フィールドを発生させる。
これはマツバガニよりも出力が弱く範囲も狭い。本来ならば数十メートルの範囲を焼き尽くしあらゆる攻撃を弾き返す電磁フィールドだが、ヘルム隊長の兜は1秒未満だけ敵の身動きを止め、光学兵器の威力を弱める程度だ。
だが、弱くはあるが欠点ではない。
出力を低下させたために再使用まで一分程度しか掛からない。そして0.2~0.3秒程度の硬直は、戦場においてあまりにも致命的な隙となる。
『今だツヴァイハンダー!』
『言われんでもやっている!』
ツヴァイハンダーが硬直したカリディアンの頭蓋を刺突し、とどめを刺していく。コンビネーションが抜群に上手い。
「へえー、おもしろ。
今度あーゆー武器作ろうよ」
『流石に設計までは教えてくれないだろ』
『俺が死んだら兜をくれてやるさ!
こんなところで死ぬ気はないがな!』
激しい戦闘が継続したが、俺たちの方が優位だ。
マスドライバー側の資材搬入口はほぼ制圧できたと言っていいだろう。
『人口天体いさりび』はコインのような形をしているが直径は20km、厚さは1kmといったところだ。
そして俺たちはようやく50メートル程度進んで橋頭保を確保した……といったところか。
ここを拠点に俺たちはマスドライバー側でカリディアンの作業が何なのかを突き止め、場合によっては破壊工作をする。
それが結果的に宇宙港側の味方の軍勢を援護する形になるわけで、これからも派手にやらかす必要があるわけだが……妙だ。
『ヘルム隊長!
カリディアンが工事してる場所を
探すんだよな!?』
『その通りだ!』
『工作用カリディアンがいない!』
『……確かに。
ヤドカリとワタリガニだけか?
誰か見た者はいるか!?』
ヘルム隊長に全員がネガティブと返す。
そもそも妙な工事をしているはずだというのに、その痕跡も見当たらない。
『いや……変なもんあったっス!』
ライオンハートの視線の先にあるのは空のコンテナ……ではない。
熱源や電波探知では何もなかったが、目視で見ればよくわかる。機械でも熱源でもないから一瞬わからなかったわけだ。
『これ、戦闘糧食のパッケージか……?』
最低限の印刷が施されたアルミ蒸着のパッケージ。この中には半固体の完全栄養食が詰まっているはずだ。
『シンデレラ』
「ん、りょーかい」
ウィッチクラフトの指先から、更に細長い作業用アームを伸ばしてパッケージを破る。
そこから出てきたのは、乳白色の四角い何かだ。角がなくどこか丸みを帯びている。
いつもシンデレラが食べているものとは質感がやや異なる……ていうかこの質感、もしかして。
「あのぉ……これと似たものを見たことが
あるんですけどぉ……」
『人魚姫の言葉は事実だ。当機も覚えがある』
『だよなぁ……』
『お前たち、これが何かわかるのか?』
と、ヘルムが質問してきた。
そうか……これを見たことがあるやつは少ないのか。
『……旧市街地クラスタに捨てられてた、
カリディアンの卵の破片に似ている。
俺たちが探索したときは完全に乾いてて
質感は微妙に違うが、色合いは同じだ』
俺の言葉に、俺たち以外のウィッチクラフト全員が驚愕した。