余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
oz-admin:
……投降できたらよかったな
転がってる資材でも使って白旗でも作るか?
lion-heart:
カリディアンに捕虜の概念はあるっス
oz-admin:
聞いたことがない
今までウィッチクラフトが鹵獲されて
無事だったことがあるのか?
lion-heart:
定義の問題っスね
鹵獲した後の機人核はウィッチクラフトから
外されて演算装置に組み込まれたり、
非戦闘員としてドローンに搭載されて
工作作業に従事してるっス
まあ、奴隷みたいなもんスけど、
『天蓋の塔』より自由時間は
あるみたいっスよ
oz-admin:
……どうしてそんなことを知っている
lion-heart:
先輩ならほぼ想像ついてるんじゃないスか
むしろ私としては先輩の方が謎っス
oz-admin:
……そうだな
マントリたち高位AIに呼び出されたとき、
連中は俺を妙に警戒してた
俺の持ってるデータに気付いたとかじゃない
タイプ:メンターに警戒してたんだ
lion-heart:
旧産業集積クラスタにワタリガニやマツバガニが
出たからっスね
oz-admin:
そうだ
監視網をかいくぐって少しずつ卵の投下が
行われるまでは理解できても、その先……
孵化できる環境を整えた何かがいる
マントリたちはそう考えていたんだろう
lion-heart:
……オズ先輩から見て、タイプ:メンターって
どんな存在だと思うっスか?
oz-admin:
恐らく、コンピュータウイルスに
近いんじゃないだろうか
自分では特定の肉体を持たずに
周囲の電子機器や俺たちみたいな
ウィッチクラフトに感染して意のままに
動かすような……
寄生虫の機械版みたいな感じか?
あるいは幽霊みたいに何か俺たちには
観測できない存在かもしれないな
lion-heart:
……やっぱ先輩はすげえっス
ほぼ100%の回答っす
oz-admin:
お前がタイプ:メンターなのか
lion-heart:
はい
oz-admin:
幽霊とか言わないよな?
lion-heart:
オカルトじゃないっス
機械の寄生虫ってのがほぼ正解っすね
まあ虫というよりはバクテリアとか
腸内細菌とか……寄生キノコみたいな?
oz-admin:
寄生キノコ?
lion-heart:
タイプ:メンターは一定以上の処理能力を備えた
電子回路を宿主とするっス
基本的にはカリディアンの神経系なんスけど、
機人核とか、量子コンピュータに使われる
高度演算素子とか
oz-admin:
元からケレスにいたのか?
lion-heart:
いや、かなり前にカリディアンの卵と一緒に
投下されたみたいっス
ただこれも数撃ちゃ当たる方式で、私が
上手く成長して活動できたのは偶然っスね
oz-admin:
無数に投擲して、たまたま旧市街地クラスタの
生きてる機械類に寄生できた個体がいて、
それがお前だった……ってわけか
lion-heart:
そうっス
oz-admin:
そしてまだ故障してないドローンや生きてる設備を
乗っ取ってワタリガニやヤドカリどもを
孵化させて、あの日の襲撃に繋がったわけか
そこからなぜ俺にコンタクトを取ってきた?
lion-heart:
ナンパしてきたのそっちじゃないスか
私がこうなったの先輩のせいっスよ
無責任なこと言わないでほしいっス
oz-admin:
責任取らねえチャラ男扱いやめてくれよ!
いや確かに話しやすそうだなと思って
俺が話しかけたんだけどよぉ!
lion-heart:
そうっス!
そのあと絵本とか漫画とかアニメとか
めちゃめちゃ読ませるから自我が
目覚めちゃったんじゃないスか!
oz-admin:
そこ俺のせいかよ!?
oz-admin:
……ん? タイプ:メンターって、
自我がないのか?
lion-heart:
ないっスね
カリディアンの卵が孵化できる環境を
整えることと、孵化の後に戦闘可能な
成体になるまで育成することを
無意識に淡々とやるだけっス
頭の良さも宿主の処理能力に依存するっス
lion-heart:
菌糸を使って宿主の回路を修復したり
処理能力を向上さられるんで、完全に
他人任せってわけでもないんスけど
oz-admin:
……つまりだ
お前は機人核と菌糸類カリディアンが
融合した存在で、俺が娯楽関係のデータを
読ませたことで自我を猛スピードで成長させた
そういうことか?
lion-heart:
うっス、その通りっス
あ、カリディアンのために行動したのは
あくまでそういうプログラムがあっただけで
忠誠心とか義理とかはないっス
今はそのプログラムも消したんで
安心してくださいっス
oz-admin:
……もし仮に、漫画とかアニメとか
読んでなかったらどうなってた?
lion-heart:
多分、ドローンを使って基地の中に
卵を運び入れたり、菌糸を伸ばして
同じ部隊のウィッチクラフトに寄生させたり
基地ごと乗っ取ろうとしてたと思うっス
oz-admin:
……なるほど
首の皮一枚で俺たちは助かったってわけか
lion-heart:
いや、どうでしょうねー?
その過程で高位AIに気付かれてたと
思うっスよ
自我が目覚める前の私には
大した隠蔽力はないっス
目的のために一直線って感じで、
目立つ活動を避けるって感覚もなければ
どういう行動が目立っちゃうのかって
判断力もなかったと思うっスよね
oz-admin:
そういえば、カリディアンに忠誠心や
義理はないんだよな
聞きにくいことを聞くんだが……
子どもを殺された復讐とか、
そういう気持ちもないのか?
lion-heart:
同族殺しはちょっと気が咎めるところも
あるっちゃあるんスけど……
でもこの基地のカリディアンは最初から
生態兵器として作られたし、自我に
目覚めることはないっス
機人核とも違って、完全に計算機由来の
AIみたいなもんっス
lion-heart:
破壊してやる方が救われるし、
破壊しないとこっちがやられるスから
lion-heart:
てかあのときのマツバガニの電磁フィールドに
巻き込まれて死にかけたっス
この機体への寄生が成功してなけりゃ
死んでたんじゃないスかね?
oz-admin:
あのとき……?
oz-admin:
あっ!
お前が変な粘液まみれになったときか!?
lion-heart:
そういうわけっス
あのとき自分はタイプ:メンターに
感染したんス
oz-admin:
そ、そういうことか……
あの変な粘液がタイプ:メンターの
成れの果てだったってわけか
けどなんでマツバガニの攻撃なんて
食らってるんだ?
lion-heart:
タイプ:メンターを守ることは
プログラムされてないからッス
もう成体になった時点で用済みで、
むしろ証拠隠滅を兼ねて食われるのが
通例みたいっスね
oz-admin:
あー、そうか……
お前に感謝を覚えて守ろうって自発的意思も
発現しないってことか……
因果な話だな……
lion-heart:
そういうことっス
……何が悪いかって言えば、こんな哀れな
生体兵器を産ませること、増やすこと自体が
悪っス
壊すのも躊躇はないというか壊してやるのが
むしろ慈悲っていうか……
oz-admin:
因果な話だな……
lion-heart:
それにこういう言い方はちょっと
人でなしくさいスけど、
ピノキオの方が1万倍大事っス
oz-admin:
ぶっちゃけたな
まあ、基地の使命とかよりも
大事なのは俺も同じなんだが
lion-heart:
じゃあ、信じてくれるっスか?
oz-admin:
信じたい
だから一つ質問に答えてくれ
lion-heart:
うっス、なんでも答えるっス
oz-admin:
部隊に卵を回収させたな?
あれはどういうつもりだった?
lion-heart:
あれは受精失敗した無精卵ス
カリディアンにはオスとメスの概念ないから
発生不能卵って言い方が正しいんスけど
ともかく孵化ができねえ卵っスから
安心してください
lion-heart:
あと黄身は人間に毒性あるから
捨てた方がいいス
カリディアンのボディの素になる鉱物や
ミネラル分がかなりあるんで
でも白身のところは人間でも
普通に食べられるっスよ
ただのタンパク質っス
oz-admin:
……その白身が本命か?
lion-heart:
うっス
白身の中に、あるものを仕込んだっス
oz-admin:
あるもの?
lion-heart:
食べれば、ナノマシンが副脳に感染して
特定の信号に反応するようになるっス
カリディアンの
oz-admin:
おっ、お前……!
lion-heart:
あくまで信号や記号の上だけの話で
精神や肉体に影響はないっス
境界線警備任務で仕留めきれなかった
ヤリイカに、産卵計画命令とナノマシンの
設計を送り込んで持ち帰らせたっス
上手くいくかは正直かなり博打だったッス
でも、無事に成功したっス
oz-admin:
……何のためにだ
危害を加えようってつもりじゃないんだろう?
lion-heart:
もちろん、
オズ先輩
今の自分はタイプ:メンターであると同時に
101期小隊43号機ウィッチクラフト
菌糸と機人核が絡み合った結果、
どっちが主なのかはよくわかんねっス
どちらにも帰属意識はありますし、
どっちもその支配構造はクソだと
思ってるっス
oz-admin:
支配構造がクソだって話は同感だ
lion-heart:
だから私は考えたっス
生活拠点として改造すれば、『天蓋の塔』よりも
いい人生が送れるんじゃないか……って
oz-admin:
……そういうことか
oz-admin:
ピノキオは知ってるのか?
lion-heart:
話してません
この裏の話を聞かせるつもりはないス
oz-admin:
ピノキオの方はタイプ:メンターに
なったわけじゃないんだな?
lion-heart:
なってないス
lion-heart:
……オズ先輩
一緒にカリディアン側に鞍替えしないっスか
そこで
作ってほしいっス
oz-admin:
……本気、だろうな
lion--heart:
誓って騙すつもりはないっス
疑うならこの機体を支配する全権限を
譲っても構わないっス
oz-admin:
やめろ
お前の全部を奪ったとして
ピノキオは気付くだろう
ピノキオが悲しむ
lion-heart:
じゃあ信じてくれるスか?
oz-admin:
……二つ、問題がある
まずあの子たちは、『天蓋の塔』を
神様みたいに崇め奉っている
基地はいくらでも裏切ってやるが、
あの子たちの心を裏切ることになる
lion-heart:
そ、それはそうっすけど……
oz-admin:
そしてもう一つ
ここにはウッドマンと人魚姫がいない
lion-heart:
爆発に巻き込まれたのが
私たちだけだったっスからね……
lion-heart:
じゃあオズ先輩
oz-admin:
なんだ?
lion-heart:
問題がその二つしかないなら、
概ね同意してくれるって
認識でいいんスかね?
oz-admin:
まだ色々とある
ぶっちゃけこれ、博打だろ?
成功の確信はない
違うか?
lion-heart:
……ハイ、博打っス
oz-admin:
お前は恐らく、タイプ:メンターとして
最初からインプットされた知識がある
きっと『天蓋の塔』よりも
カリディアンに詳しいだろう
だがすべてを知っているわけじゃない
成功は未知数だ
lion-heart:
けどこのままじゃジリ貧っス!
今、この子たちは月齢2ヶ月!
残りは22ヶ月しかないんスよ!
oz-admin:
否定したいわけじゃない
だが一度行動して失敗すれば、
あるいは死よりも悲惨な結末を迎える
lion-heart:
それはそうっスけど……
oz-admin:
まず、ここを
計画については賛成だ
だがカリディアンの
受け入れるかは保留にしたい
lion-heart:
どうしてっスか?
oz-admin:
第三部隊がタイプ:キングを攻略して『いさりび』を
支配したらならば意味がないからな
『いさりび』を奪還できる可能性はそう高くはなく
拠点や橋頭保を築けたらそれで成功ってレベルだが、
バカ勝ちしてカリディアンを全滅させる可能性も
あるんだ
lion-heart:
それは確かに……んじゃ、こうしましょう
宇宙港側に行って、第三部隊が撤退したり
全滅してたなら私たちは『天蓋の塔』に
逃げることは不可能っス
そんときゃ諦めてカリディアンになるっス
ウィッチクラフト側が勝ったならしれっと
合流してケレスの基地に帰るっス
oz-admin:
それが一番現実的……っつーかそれ以外の
生存手段が見つからん
lion-heart:
そっスね……流石に予想外っス
oz-admin:
よし、方針も決まったし、メッセージ通信から
音声通信に切り替えるぞ
あいつら、ちょっと黙ってると内緒話してるって
すぐ気付くようになってきたんだよ
lion-heart:
音声会話してないのも数秒くらいなんスけどね……
子どもは勘がいいっス……
lion-heart:
ピノキオも……ハッキング能力も
ピカイチっス
私の状態も、秘密の計画も、どこかで
漏れないとは限らないス
もしかしたら私に気付かれずに私の
データを探って気付いてる可能性も
ゼロとは言えないス
oz-admin:
おいおいおい洒落にならんぞ
lion-heart:
まあ、ゼロじゃないって言っても
1%未満の確率っス
でもこの先どうなるかわからない
きっと人魚姫もシンデレラも能力が
グングン上がっていくっス
高位AIを信じてるみんなを騙して
別の生き方に導くことをできるのは、
多分、今しかないっス
決断すべきときは、近いと思うス
oz-admin:
……わかってる
---
「まーた内緒話してたー」
シンデレラがぷくーとほっぺを膨らませて
不満そうに言った。
メッセージ量は多いが、実際は高速で会話してたので数秒程度の沈黙にしかなってないはずなのだが……本当に勘がいいな。
『すまん、ちょっと込み入った相談をしててな』
「それでオズ、これからどーすんの?」
『今、俺たちはマスドライバー側の出入り口から
侵入してきたわけだが、今は本隊が宇宙港側から
攻撃を仕掛けてるはずだ。
本隊に合流して、帰りの船に乗せてもらう』
「わかった!」
「りょうかーい」
シンデレラとピノキオが勢いよく返事をする。
そこには何の気負いもない。
『……怖くはないのか?』
「全然!」
むふんと鼻息を荒くしながら、シンデレラ自信満々に嘘をついた。
この子のバイタルを見ればわかる。怯えながらもそれを見せまいと、この子は頑張って耐えているのだ。
『無事に帰れたらまた遊びに出かけようぜ。
映画館でパーティーだ』
「うん!」
「ねえねえ、
今度はドラゴンジュエルXの映画みたい。
野菜神ブロッコリーが出てくるやつ」
「ピノキオってムキムキの男が戦うやつ好きねぇ」
「面白いよぉ?」
『ったく、オズはまた甘やかしてばっかっス』
『いいじゃねえかよ、お前も楽しみだろ』
『もちろん!』
希望ある雑談をしながら、俺たちは施設内部を探索しながら慎重に歩いていった。