余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
もらっていた地図情報を照らし合わせて、少しずつ歩みを進めていく。
幸いなことに、『いさりび』内部はあまりカリディアンの手が入っていなさそうだ。地図情報と実際の光景にズレがない。謎の分泌物で空気漏れが起きないよう補修してる程度だ。
『カリディアンは内部を改造しなかったのか?』
『多分、外周部に偏ってるんじゃないスか?
ウチらみたいに
内部構造をいじるメリットがないと思うんス』
『なるほどな』
『カリディアンがここを使うとなると
大事な機能って超巨大ミラーとか宇宙港、
マスドライバーくらいじゃないスか。
生身の人間のための機能は大して
興味ないんじゃないスかね?』
『……じゃあ、地図上にレストランって
書いてあるよな』
『書いてあるっスね』
『もしかしてこの設備、生きてるんじゃ』
俺がそう呟いた頃に、視界の奥に宇宙港に繋がる隔壁が見えた。
その向こうからずしんという振動が伝わってきた……いや、振動だけではない。音波、熱源、重力波、様々なデータが届いてきており、どれも異常値を示している。
その異常値には見覚えがある。
さきほどまで死闘を繰り広げたタイプ:クイーンとの戦闘中に観測されたものだ。
『聞こえたくないもんが聞こえてきたな……』
『いやな予感がビンビンにするんスけど……。
やっぱアレっスかね……?』
『ああ、N粒子だ』
すぐそこでN粒子型兵装を使った戦闘が起きている。しかも重力波の異常値がタイプ:クイーンのときの10倍以上だ。
『どうする?』
『どうするって……え、行くんスか!?』
『状況を確認しないわけにもいかんだろう。
戦闘が終わった後にノコノコ出ていったら
敵前逃亡やサボタージュを疑われちまう』
『そ、それも確かに……』
『それに、全部投げ捨てて一刻も早く
逃げた方がいいって危機的状況かもしれん。
何も決断せず留まる方がリスクだ』
「ライオンハート、こういうときは
反対とか賛成とか決めなきゃダメだよ。
まごまごするの一番よくない」
『ううっ、ピノキオが厳しいっス……』
うーん、ライオンハートも優柔不断なところは直ってないな……。まあ、性格の根っこの部分だし仕方ない部分もあるだろうが。
『……ううっ、行きましょう!
めっちゃ怖いスけども……!』
『わかった。
隔壁の電源は……生きてるな。
ちょっと待ってろ』
『開けられるっスか?』
『わからん、試してみる』
隔壁はロックが掛かっていたが、ハッキング対策はそこまで堅牢ではないようだ。
パスコード解析……いけた。
『よし、開けられるぞ。
いきなり流れ弾が来る可能性もある。
慎重に行こう』
『先輩のハッキング能力おかしくないスか?』
『その話は帰ってから……
げっ! ヤバいヤバいヤバい!
隔壁ストップ! 閉鎖!』
隔壁を少しだけ開けた瞬間に、何かが反応してこちらを自動で攻撃してきた。
その攻撃は熱量を感じさせないものだったというのに、メートル単位の分厚い隔壁にポッカリと穴を開けた。凄まじい威力だ。
『やっべー……なんスかこれ……』
『通信を拾ってみろ。すぐにわかる』
ウィッチクラフト側のオープンチャンネルで、あの野郎の哄笑が響き渡る。
『がぁーっはっはっは!
タイプ:キングとかいう奴、思ったよりも
骨があるじゃあないか!』
一人は、戦略会議AIラタ。
俺たち一般ウィッチクラフトよりも二回りは大きな漆黒のボディ。背中か左肩にかけて敵に狙いを付けているバズーカのような武器は、ラタご自慢の圧壊放射装置『シャルタグニ』だろう。
隔壁に穴を開けたのもこれだ。
それに対するは……。
『3V!D3NC3//PR353RV3D::0x9A//1NV35T!G4T3//PR053CUT3//KRRRAAA』
オープンチャンネルに強制介入して絶叫を上げている方は間違いなく、タイプ:キングだ。
タイプ:クイーンを男性的にしたような大きな肉体。まるでスパルタの勇猛な兵士のように大きな盾と槍を装備している。
『フン、撃ち合いでは埒があかないな……』
ラタがブレードを展開した。
一般のウィッチクラフトが持っているような超振動ブレードではない。刃の周囲の重力が歪んでいる。そして恐らくタイプ:キングの槍のような武器も似たようなものだ。
凄まじい戦いだ。余波に巻き込まれるだけで死にかねない。事実、周囲には大破したウィッチクラフトや下級カリディアンの死体がゴロゴロ転がっている。
ここは、機械兵士たちの地獄だ。
『やべースよオズ先輩!?
どーするんスか!?』
『落ち着けライオンハート、
通信で相談するぞ』
---
oz-admin:
多分だが、タイプ:キングが持ってるのは
防衛特化のN粒子兵装だろう
ラタのシャルタグニを防げる盾となると
そうとしか考えられん
周囲の被害も少なすぎるしな
lion-heart:
つーか大怪獣バトルになってんスけど!
助けを求めるにしても投降するにしても
余波で死んじゃうやつっスよ!
oz-admin:
落ち着け……これはある意味チャンスだ
lion-heart:
チャンス?
oz-admin:
ここからは子供らには聞かせられない話だ
……この戦争、泥沼化してくれると助かる
それを助長させたい
lion-heart:
はぁ!? どういうことっスか!?
oz-admin:
そもそも俺たちの目的や勝利ってのはなんだ?
lion-heart:
子供たちを守って生き延びることっス
oz-admin:
わかってるじゃないか
ラタの勝利でもなければ
タイプ:キングの勝利でもない
oz-admin:
極論、生き残れるならどっちでもいいが
それならラタに協力した方が良い
お前がタイプ:メンターであることを
気取られるような行動は慎め
lion-heart:
ウッス
oz-admin:
だが……ラタがバカ勝ちしても困るんだよ
lion-heart:
へ?
oz-admin:
周囲を見てみろ
ウィッチクラフトが死屍累々だ
lion-heart:
うへえ……なんとも無残っスね……
oz-admin:
大破してるように見えるが、
小破、中破のやつも少なくない
ただ迂闊に動けば戦闘の妨害になるし
大破になっちまうから動けないだけだ
lion-heart:
あ、ホントだ
信号が出てる機体もけっこういます
oz-admin:
この状況でラタがタイプ:キングに
大勝利したらどうなると思う?
lion-heart:
……宇宙港とマスドライバー制圧だけじゃ
納得しないっスね
外縁部の制圧に乗り出すと思うっス
oz-admin:
そうだ
この状況で総力戦になってみろ
高位AIは自慢のボディ性能で生き残れるが
一般ウィッチクラフトは死屍累々だぞ
そして損耗がどれだけ出たとしても
いさりびを制圧しちまえば周辺宙域の
リスクは減るし、ここを拠点に資源回収して
戦力を補充すれば帳尻は合っちまう
lion-heart:
勝つも地獄、負けるも地獄ってことスか……
oz-admin:
だから、引き分けに持ち込ませたい
oz-admin:
それに、膠着状態が長引くとしたら
ここを前線として戦力配置がなされる
上手く行けば俺たちでここを実効支配できる
理想としては中央の宇宙港だけを実効支配して
外周部はカリディアンが支配したまま、
みたいな対立構造になるとベストだ
もともとこの計画では完全勝利までは
目標にしてないからな
lion-heart:
……つまり私が考えてた構想が、
形を変えて実現できる……かも?
oz-admin:
そういうことだ
ライオンハート、タイプ:キングに
情報共有はできるか?
もちろんラタにはバレないように
lion-heart:
できるっス
カリディアンの敵味方識別信号があれば
秘匿回線も使えるんで
卵をマスドライバー側に置いといたのも
それ使って命令を出したっス
oz-admin:
じゃあ命令も出せるのか?
lion-heart:
いや……
製造後の卵の配置や育成に関わるものなら
私の命令権が優越するんスけど、戦闘配置や
戦闘停止命令はタイプ:メンターの
権限じゃ無理っス
タイプ:キングにはあくまで参考情報として
伝わるだけで、行動を誘導できるかは博打っス
oz-admin:
情報が疑われることはあるか?
lion-heart:
多分ないっスね
カリディアンはウィッチクラフトみたいな
自我がないんス
だから味方からの情報を疑うって
発想そのものが生まれないっス
カリディアンをコントロールしてるような
命令者がいたら別なんでしょうけど、
少なくとも自我に目覚める前の私は、
最初にインプットされてた命令に沿って
動いてただけでした
ここに私からの命令を疑うような
カリディアンの上位者がいるとは
思えないっス
oz-admin:
ならいけるぞ
いいか、俺たちは表向き、ラタを支援する
お前はその裏でタイプ:キングに情報を
横流ししてくれ
戦況を五分五分に持っていくんだ
lion-heart:
ずっ……ずっるぅー!
oz-admin:
俺たちが宇宙港からマスドライバーまでの
中心部だけを制圧して、外縁部は
カリディアンが居座る膠着状態ってのが
ベストだ
戦争はするが損害は少ないって
冷戦状態になればもっと最高だな
lion-heart:
そ、それは確かに理想的な状況っスけど
そんなに上手く行くっスかね……?
oz-admin:
わからん
余力がどれくらいあるか聞いてみる
ライオンハートはタイプ:キングに
コンタクトを取ってくれ
lion-heart:
やってみるっス
---
oz-admin:
戦略会議AIラタ、応答願う
ratha:
なんだ貴様は! 邪魔だ!
ratha:
……いや、おまえ特別遊撃小隊のオズだな?
なぜこんなところにいる?
oz-admin:
マスドライバー側の破壊工作に成功しましたが
タイプ:クイーンの重力制御装置の
爆発に巻き込まれ、宇宙港側に
退避せざるをえませんでした
現在、今の攻撃で穴が開いた隔壁の場所に
潜伏中です
oz-admin:
エネルギー残量は減っていますが、
多少の戦闘支援は可能です
合流の許可をください
ratha:
ほう……2機ロストという報告があったが
貴様らだったか
だが支援などいらん、邪魔だ
oz-admin:
第三部隊への合流自体は問題ない、
ということですか?
ratha:
戦闘の不確定要素を増やすな
戦闘終了前に少しでも動いてみろ
その瞬間に撃ち殺すぞ
oz-admin:
ええ……
ratha:
そもそもN型兵装が無い機体など、
ここにいるだけで邪魔なのだ
生かしてやるだけでも……む?
oz-admin:
貴様が持ってるそれは何だ!?
oz-admin:
タイプ:クイーンの重力制御装置を
回収してきました
ratha:
使えるか?
oz-admin:
いや、カリディアンから奪い取ったばかりで
流石に独力で制御するのは……
ratha:
重力制御装置はカリディアンも
俺たちも共通のものだ
限りあるものを奪い、奪われる関係にある
たった一つであっても取り戻しただけで
十分な成果だ
oz-admin:
であれば、これを受け渡すまで
死ぬわけにはいきません
ratha:
そうだな……であれば合流を許す
oz-admin:
了解です
ratha:
ただし……一仕事してもらうぞ