余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
『言っておきますが不正ではありませんよ。
僕たちはオズに全アクセス権限を譲渡しています。
ゆえに戦闘に参加する権利がある……
というより参戦義務ですかね?』
『なっ……全アクセス権だと……!?
そ、それでは貴様ら、奴隷ではないか!』
ガントレットの言葉にラタが驚愕した。
……そんなに驚くことか? 高位AIともなれば、部下を従えるウィッチクラフトが反旗を翻す……くらい想像してそうな気はするのだが。
『だからどうしました?
あなたこそ奴隷扱いができる機体の
1機や2機いるのでは?』
『……格下の手助けなどいらんわ!』
『どーせ好きなようにいたぶって
使い物にならなくなったんじゃねえのぉ?
お前、生意気なウィッチクラフトに
資源供出要求を散々してきたじゃねえかよ。
バッカだねぇ、人も機械もエネルギーも
大事な資源だ。
散漫に使うやつが戦略会議だとよ、
お笑い草だぜ!』
えっ、嘘? マジかこいつ? 自分に歯向かってきたウィッチクラフトを、再起不能にしてきたってことか?
『……殺す』
ラタの目に本気の殺意が宿る。
どうやら図星のようだ。
『おーこわ。殺すってなんだよ殺すって。
今の内容わかってねえんじゃねえの?』
『あなたは作戦行動における絶対的な命令権を
持っていますけど、ウィッチクラフトという
機体は決してあなたのものではありません。
仮に機体に懲罰や破棄を申し渡せるとしたら
マントリでしょう?
分際を弁えてはいかがですか?』
こいつらレスバ強いなー。
……と思ったが、ちょっと煽り過ぎだ。ラタがもう怒り心頭でいますぐ攻撃してきそうだ。時間を稼いでほしいところなんだが……。
『名誉の戦死を遂げたことにしてやる……
貴様らも! マントリもガジャも!
ヘルムもツヴァイハンダーも!
俺を侮る連中すべて、宇宙の藻屑に
してくれる!』
『ハッ! 3人相手にそんな大砲を
使うなんざ臆病者のやることよ!
その前に蜂の巣にしてやらぁ!』
ジャベリンがライフルを撃ちまくる。だがラタは回避動作もせずにその銃撃を受け……まったくの無傷だった。
砲口から放たれる光……重力崩壊現象がラタの身を包んでバリアとなり、ライフルのダメージをすべて無効化している。くそ……何らかの防御手段があるとは思っていたが、攻防一体の武器だったか……。
『なっ……くそ、そんな使い方アリかよぉ!』
『貴様ら相手にこの手を使うことに
なるとはな……。いずれ他の高位AIと
対立したときのための奥の手だったが、
これを見た以上は死んでもらうぞ……!』
ラタが、ガントレットを睨んだ。
そして一気に加速して距離を詰めていく。
『くっ……重水プラズマナックルっ……!』
『そんなオモチャで勝てるわけが
ないだろうがッ……!』
ガントレットがプラズマを放つ……が、ラタが物ともせずに一直線に突進した。
その後に残ったのは、肩から先を失ったガントレットの無惨な姿だ。バランスを失って膝を突いた。
『くっ……!』
自分の全周囲にバリアを張れば、そのまま体当たりするだけですべてが崩壊する。ンプルな理屈だ。頭部レーダーを折ったことで射撃の命中精度が下がって砲は使いにくいのだろうが、目視での体当たりであれば何の問題もない。
そしてこの場所は、床以外に一切のオブジェクトがない仮想空間だ。爆炎のようなエフェクトは現れるものの、隠れられる場所は存在しない。
『大丈夫かガントレットッ!
くそっ、この野郎!』
ジャベリンが撃ちまくるがすべて無効化されてしまう。あえて余裕を見せるように、どれ一つとして避けさえしなかった。
『ハッ! その程度の火力でよくもまあ
ほざけたものだな!』
『ちっ、いい気になりやがってぇ……!』
『まだ終わってませんよ……!』
やがてジャベリンは銃撃を諦めトリガーフィッシュを乱発。ガントレットも続いて弾幕を張り、数十発の実弾が仮想空間を乱れ飛ぶ。
『無駄だ無駄ァ! いくら目眩ましを
したところで何の意味もないわッ!』
トリガーフィッシュが次々と起爆して映像と熱源反応を擾乱させるが、ラタは一切をものともせずに爆炎そのものに体当りしていく。
ラタの体が通過した場所の炎は、まるで虫食いのように穴を穿たれた。そして炎は凄まじい速度で動き回るラタに喰われていき、体積をどんどん小さくしていく。
『消え失せろ、この鉄屑どもが!』
ラタはトリガーフィッシュの爆炎を消しきった後、ガントレットとジャベリンの体を削り取っていく。右腕部、左腕部、右脚部、左脚部と、あえてボディ中心部を残していたぶる。ラタの哄笑が響き渡る度に二体の体積が減っていく。
『無理ゲーだぜこりゃ……』
『くっ……あとは……頼みましたよ……!』
やがて、ガントレットとジャベリンの体は完全にこの空間から消失した。
実際のボディの方に意識が戻ったのだろう。
……これが模擬戦で良かった。実際の戦闘であれば中の機人核も
だが安堵などしていられない。俺が負ければ同じことだ。確実な破滅が待っている。
『絶体絶命だな?』
『さあ、下駄を履くまでわからんのが勝負だぜ』
勝利の余韻に浸るラタは、ゆっくりと浮遊しながら俺を見下ろす。
ラタを取り巻くN粒子の輝きは衰えるどころか、むしろラタの昂りに呼応するように強く輝いている。
『お前の考えてることなどわかりきっている』
ラタがせせら笑う。
『考えていること?』
『エネルギー切れを狙っているのだろう?
だが甘い。
俺がこの状態をどれだけ維持できるか
試しに計算してみるか?
エネルギー収支の情報くらいならば
くれてやってもいいがな』
勝利を確信したラタが、俺を睨みながら告げた。
『いらん。N粒子の解析は可能だ。
実際に見せてもらったわけだしな』
『お前は所詮、モデル:プラクティカス。
レーダーは汎用のものに過ぎず
機人核の性能はどのモデルでも大差はない。
お前ごときにN粒子を分析する知能も
演算力もない』
『そうだな』
『遺言はあるか?
お前のアクセス権を奪った後に何かを
聞いてやるほど俺は優しくはないぞ?』
ラタの周囲に張られたバリアが螺旋を渦巻き、虹のような輝きを放っている。最大威力で突進し、俺を一撃で消し飛ばすつもりなのだろう。
『お前の言う通りだ。
分析にはあと一歩足りていなかった』
『なに?』
『限られた情報だけでN粒子兵装なんて
オーバーテクノロジーを分析しきるなんざ
俺でさえ到底不可能だったよ。
だが、お前が譲渡してくれたんだ。
重力制御装置と共にな』
『俺のデータで解析をしただと?』
『解析もすでに完了している。
残るはお前に対抗するための兵装を
考案することだった』
『……何か奥の手があるのかと思ったが、
ただのハッタリか。失望したぞ』
ラタが俺を射程に捉えた。
空気抵抗を無視した幾何学的な動きで周囲を飛び回る。もはやこの機体性能ではカメラアイで追尾することすら敵わないだろう。
そして奴が俺の死角を捉えた瞬間、来た。
『死ね』
『結局、警戒してやがるじゃねえか。
どんなに有利であっても正面からこないのが
お前の強さであり弱さだ』
この瞬間を待っていた。
俺をとどめに刺しにくる一瞬を。
『なっ……!?
こ、この光は……!?』
俺は、隠していた重力制御装置を起動した。
だが、ラタが巨悪な笑みを浮かべているのを感じた。獲物を食らう獣の気配を隠しもしない。
『いや……だろうと思ったよ。
その程度のオモチャで俺のN粒子を
消し飛ばそうと思ったのだろう?
時間を稼いで正常動作するキャンセラーを
組み上げたのだろうが、無駄だったな』
『お前には無理とか言って、やってくると
疑ってたんじゃねえか』
『単独ではな。
どうせ他のウィッチクラフトに
演算を肩代わりしてもらって、
急ごしらえで作ったのだろう?
ヘルムどもと協力したか?』
その瞬間、ラタが身に纏ったバリアを消失させてカリディアン兵装のブレードを構えた。
シールドキャンセラーはN粒子兵装を封じるものだ。シールドのみならずラタの砲撃も同じ理屈で防げる……が、それを利用しない敵に向けたところで何の意味もない。
『死ねい!』
『ちいっ!』
そしてラタは十分な速度を保ったままブレードのみで俺に突撃してきた。そもそもモデル:フィロソファスの出力はこちらとは段違いだ。ただでさえツヴァイハンダーのブレードと同程度の威力がある。
こちらは死ぬ気でブレードを弾く……が、当然出力も速度も向こうが上だ。
『はははは! その余裕、いつまで保てる!』
『死ぬまでたよポンコツ野郎!』
ツヴァイハンダーと似ているのはブレード形状だけではない。まるでトレースしたかのような鮮やかなブレード捌き。出力に囚われない自由な機動。鋭く、強い。
人を小馬鹿にする態度が板についているくせに戦闘においては油断がない。ふざけるなよと思う。
だがそれでも、予測可能な範囲の動きだ。俺自身予想外だが、ブレード戦で食らいつくことができた。
『貴様……なぜ、なぜだっ……!』
『俺もわからん、こればかりは偶然だ。
一つはシンデレラの技能を学習してたこと。
それと、小隊のブレードの名手の動きを
解析して模擬戦闘に活かせたらいいな……
程度で解析を進めてたこと。
ドンピシャだった』
『ヘルムか、ツヴァイハンダーか!?
あいつら……俺を裏切ったな……!
俺の技能を教えたな……!』
『どんな確執があるのかは知らんが、
裏切られたくないなら優しくしてやりゃ
よかったんだよ……!』
『やかましい!』
ブレードの横凪、唐竹割り、逆袈裟と猛攻を仕掛けてきた。
怒涛の攻撃に抵抗し、回避し、防御し……だがやがて抵抗しきれなくなった。脚部の先端が弾き飛ばされる。スラスターでバランスを取り直立姿勢を維持するも、その隙を狙われる。メンタルにダメージを負ったなら弱くあれよ、なんでクソ強いんだよ。
こうして俺の防御はこじあけられ、ラタは必殺の一撃を放ってきた。
いや……凄いよラタ。
これだけの性能差に甘んじることなく俺を殺そうと一手一手を着実に積み上げてきた。
だからここまで引っ張らないと、俺の奥の手が無駄になる恐れがあった。
ラタのブレードが俺の首を斬り落とす寸前、俺はカトラリーにN粒子の力を纏わせて、斬り上げた。
『あ……え……?』
『はぁ……ぶっつけ本番だが、上手くいったな』
一瞬の斬り合いの結果、切り落とされたのはラタの手首だった。
『なっ……なぜ俺の刃を……俺の体を、
斬り落とせる……!?
その輝きは……キャンセラー、ではない……。
俺とまったく同じ力……?』
『俺が作ったのはN粒子キャンセラーじゃない。
お前のボディそのものと、重力崩壊現象だ』
『ば、バカな!
ここはただの模擬戦闘空間でしかない!
現実世界を模倣したに過ぎん!
数分単位の戦闘を見ただけで
リバースエンジニアリングなど
できるはずが……あ』
『おっ、気付いたか?』
『お前、もしや……最初から……
戦略会議をしたときから、この状況を
想定していたというのか……?』
『ご想像の通りだ。
とはいえ威力はお前の10分の1にも満たないよ。
ただ、お前を斬り伏せる最低限度の力を
引き出せただけで十分だったがな』
『……どうやって俺の機体情報を盗み出した?』
『答える必要はない』
ラタは『天蓋の塔』において最強、最大の打撃力を持つウィッチクラフトだ。ラタを攻略できるならば、他の高位AIを打破するきっかけを得られる。ゆえに最初にラタ攻略を目論んだ。
だから俺は、会議に呼ばれたときからずっと考えていた……もとい、疑似人格たちに対処を考えさせてきた。
ごくわずかな重力制御を利用しているディストーションシールドからN粒子兵装の理論を創り上げ、タイプ:クイーンの重力制御装置、そして先ほどのラタとタイプ:キングの激突を分析し……生み出した。
oz-004が。
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oz-004:
なんとか間に合った……
oz-admin:
助かった、oz-004
oz-004:
助かったじゃねえよ!
あと一歩遅れてたら消し炭だぞ!
oz-admin:
いやマジでごめん
詫びは後で正式に入れる
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今回のいさりび奪還作戦が始まって以降、俺は疑似人格を一度たりとも呼び出してはいなかった。彼らには重要な仕事を任せていた。
ラタの攻略法だ。
重力制御装置を手にしたことで一気に研究開発は加速した。そしてもっとも僥倖だったのは、シャルダグニのシステムがN粒子の利用方法として非常にシンプルだったことだ。
重力制御装置の自爆と、ラタのシャルダグニによる砲撃は、仕組みが全くと言っていいほど同じものだ。
ラタの優秀性は、その重力崩壊現象を自由自在に操ることだ。
絶対的な破壊の力を放ってなお、傷一つ付かない砲身。力に指向性を持たせ、狙った場所を確実に消滅させる制御力。
この悪魔じみた破壊の力を自由自在に操るのは機体や機人核のスペックだけでは説明が付かない。こいつ自身の優秀性がある。
だが。
自分の身をぶち壊していいなら、これほど扱いやすいエネルギーはない。
『おっ……俺の、俺の俺の俺の!
俺の力を……盗みやがったな!!!!!!』
『盗んだはいいが、重力崩壊現象を
纏わせたブレードは一度でオシャカだ。
いや、この模擬戦闘空間は凄いな。
完全に現実をエミュレートしているよ』
使用後のブレードは粉々になった。
いや、それどころか腕部まるごと鉄くず状態だ。ダメージが本体に入り込む前に肩ごとパージした。手首を切り落とされたラタとさほど状況は変わらない……というか俺の方がダメージがデカい。
無論、ラタはそれをよく理解している。
『だっ、だが……! だが!
俺は生きている……! 俺の、勝利……』
ラタがシャルダグニを構え、俺を狙う。
右腕部を犠牲にした一撃では殺しきれなかったのは純然たる事実だ。絶体絶命なのは俺だ。
だからもう一本の腕を犠牲にすることにした。
『え?』
ラタがシャルダグニを撃つ寸前に、俺の左腕部ライフルがラタを捉えた。目の前の現実を理解できないラタの哄笑が、残響として響いている。
眩しい閃光が迸った。
それは重力崩壊現象の、虹のような光。それに耐えきれずライフルが融解し、そして腕部も溶けていく。パージが一瞬遅れて俺の中枢にまでダメージが入っていく。スラスターが異常をきたして墜落していく。あと数秒、判定処理が遅れていればイーブンとして判定されていた可能性はある。
【rathaの行動不能状態を確認。
模擬戦闘終了。
シミュレータフィールド消失処理開始】
それでもなお、模擬戦闘シミュレータは冷徹に俺の勝利を告げた。
体の中心に風穴を開けられたラタが、呆けたようにそれを聞いていた。