余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
味覚を教えた後は色々と大変だった。
シンデレラは立て続けに3杯おかわりし、だがこれ以上飲ませるのはまずいのでストップした。
ただの水と言えど、小さい体にそうたくさん入るものではない。確実にお腹を壊す。てか副脳が発する健康情報に「水分過剰」と出ている。
それを伝えると、シンデレラが泣いた。
ひどい、と。
そうだよなー俺だってワガママ言って親を困らせたことあるわ。懐かしいよ。
俺は心を鬼にして「絵本やアニメの子供たちだって、量を制限されるだろ?」と伝えてたが、シンデレラがすかさず反論した。
「私、生まれて初めてジュース飲んだんだもん。
水と戦闘糧食しか食べたことないもん。
絵本の子供たちもあんこもちマンの子供たちも
私より全然贅沢だしずるい」
実際は涙と鼻水で声は乱れ、言葉も途切れ途切れで聞き取るのに苦労したが、理解した瞬間、俺はダメージを受けた。ヘビー級ボクサーにボディブローを食らった気分だ。
そうだよな、とんでもない贅沢だよな、お前に比べたら。お前が俺の時代の子供だったらきっとママやパパに甘えられて誕生日には蝋燭のついたケーキを食べていたことだろう。寝る前にジュースを飲んで、俺のような鋼鉄ロボではなくパパやママに叱られていたことだろう。
お前に用意してやれるものがあまりにも少ない。
戦闘糧食なんて味のないおかゆやオートミールみたいな謎の流動食だ。糖質、脂質、タンパク質、そして食物繊維や各種ビタミンミネラルが配合された完全栄養食で生存に必要なものだけが詰まっていて、食の喜び、楽しみがきれいさっぱり排除されている。
ああ、畜生、コンビニとまでは言わない。
22世紀の合成食料プリンタさえあれば、もう少しマシな食べ物を用意してやれるのに……。
そういう思いを隠しながら、俺は今回に限り5杯まで飲むことを許した。そして翌日、シンデレラは「……私、死ぬの?」とげっそりした顔で呟き、失礼ながら俺は思いきり笑ってしまいヘソを曲げられた。単に水を飲み過ぎてお腹を冷やしただけなのだが、そんな感覚さえ生まれて初めてだったのだろう。
お詫びを兼ねて、戦闘糧食にも色んな味を試してよいことにした。今のところカレー味、鳥ごぼう飯味、梅シソ味などを試したがどれも好評だ。
シンデレラは甘めのカレーやハヤシライス風味が好みで、梅味などの酸味はあまり好みではないようだ。この環境は適温、もしくはうっすら肌寒いくらいに維持されているので「さっぱりしたものがほしい」という感覚があまり湧かないのかもしれない。
そんな訓練生活を送り続けて、変化が起きた。
味覚を覚えてから、シンデレラは明らかに表情が豊かになってきた。
笑顔、悲しい顔、悔しい顔、渋面、甘えるときの顔、美味しさを感じたときの顔、好みじゃない味だったときの顔、いろんな表情がシンデレラの顔に浮かんでいる。
これは想像だが、今まで何の喜びも悲しみもなかった食事が楽しくなり、咀嚼回数が増えたのだ。頬や顎をよく動かし、結果として表情筋の筋トレとなっている。
表情が豊かになり、情緒も育まれている。あんこもちマン以外のアニメも理解できるようになり、児童書やマンガも楽しむようになってきた。
最近は料理が出てくる作品がお好みのようで、児童小説「若板長は小学生!」と、子供向け料理番組「クッキンプリンセス」をヘビロテしている。美食家兼新聞記者が父親と料理バトルを繰り広げる「美味いボーイ」や一部の大食い漫画はあまりお気に召さなかった。
「何でも食べられるからって料理捨てるとか
人の作ったごはんけなすとか信じらんない!」
……と、怒りでイライラするのだそうだ。
シンデレラはこんな風に、猛スピードで情緒や感性を豊かにしながら今日もコックピットで訓練……という名の情操教育に励んでいる。
◆
「オズ! 今日は何するの!? 訓練?」
今日のシンデレラは少しテンションが高い。
俺が何か新しい娯楽を用意している気配を察したのかもしれない。
『ちょっとゲームやってみないか?』
「ゲーム? なにそれ?」
『ま、シンプルな遊びだよ。
俺が昔やってたゲームで……』
ただ、いきなり戦闘シミュレータと似たゲームをプレイさせては、モチベーション低下が心配だ。シミュレータに近ければ近いほど「娯楽」ではなく「仕事」になってしまう。まずは「ゲームは楽しい」という認識が必要だ。
『スーパーヨシヒコブラザーズやろう』
「……なにそれ?」
VRパネルにパッケージ画像を表示させる。
そこには赤い帽子とオーバーオールを身に着け、スパナを握ってるヒゲのおじさんが描かれている。
オズは不審者を見る目でそれを眺めていた。
「なんかこわい……」
シンデレラは自分と同じような背格好の少年少女しか見たことはないだろう。絵本もアニメも、少年少女が主人公でおっさんはほぼサブキャラだ。
おっさんが主人公というのはシンデレラにとってカルチャーショックなのかもしれない。
『怖くない怖くない! 全然怖くないよ!
俺の時代は大人気コンテンツだったんだよ!』
「うそだぁ……」
シンデレラを宥めすかしてプレイするまで1時間を要した。
◆
『シンデレラさぁ……ゲーム上手くない?』
「んー? そーかなー?」
いや、めちゃめちゃ上手い。
スーパーヨシヒコブラザースなんてクリアできない人も多いのに、何度かプレイしてコツを掴んで全クリしてしまった。鬼畜難易度と言われるスーパーヨシヒコブラザーズ2さえも普通にプレイして裏面に突入した。
流石に裏面となるとリトライは必要だろうが、このまま続けていれば普通にクリアする。予想以上に攻略スピードが速い。
「んがー! ちょっと難しいんだけどぉ!」
シンデレラがVRコントローラーを投げ出した。
あくまで指の動きを俺が目で追いかけてボタン操作を画面に反映してるだけで、実体ではないから投げ出しても消えるだけなんだけどね。
『いやいや……裏面に行ける時点ですげーよ』
「そーなの?」
『普通は到達できずに投げ出すわ。
他のゲームもやるか?』
「うーん……もうちょっとやりたいかも……」
クリアできていないことがとても悔しそうだ。
『じゃ、もうちょっとプレイしたら休憩しよう。
そしたらカリキュラムをこなして、今日は
おしまいだ』
「やだ!」
『やだって……おいおい』
「おしまいしない! ここで寝る!」
『まずいって。異常個体と思われちゃうぞ』
俺は「まったくもう」みたいな口ぶりをしつつも本当は内心で嬉しかった。
この子には自我が芽生えつつある。
自分のワガママを押し通そうとする自我が。
「……それもやだ」
『ベッドに戻る前にシンデレラ読んであげるから
ちゃんとベッドで寝よう。な?』
「……」
ぷくーとほっぺを膨らませて、ご不満ですというオーラを放っている。
自我がある!
この子には、自我がある!
嬉しい!
「……オズ、なんか喜んでる。気持ち悪い」
なんで機械知性の感情がわかるんだろう。
『よっ、喜んでないぞ?』
「別にいいけど……」
『さ、おやすみ』
「……オズって、終わるときにいっつも
おやすみって言うよね? 変じゃない?」
『そうか?』
「だって、寝るのってお仕事でしょ?
体が必要だから寝てるだけで、休みたいから
寝てるわけじゃないもの」
この子は、睡眠を欲する感覚がないのだろう。
寝るときは副脳にアクセスして入眠モードに入るだけなので、「眠い」という感覚もなければ「眠れない」という感覚さえない。
『……子供はみんなそう言うんだ。
大人になれば寝たくてしょうがなくなる』
「私、ずっと子供だもん」
『……そうだな。
ま、そのうち忙しくなればわかるさ。
眠い、寝たいって感覚が』
「つまんないより全然いいと思うけどなー」
『俺は寝たいよ。お前がいないときは
特に意味もなくスリープモードになって
寝てるフリするくらいだ』
機人となった俺に睡眠は必要ない。
身体感覚がないのはやっぱりちょっと寂しい。
味覚がある擬体とか無いんだろうか。
「ふーん……オズは寝るのが好きなんだ」
『そうだな。一日8時間寝る生活を夢見てたよ』
「変なの」
シンデレラにはまだわかるまい。
ま、その方がいいんだけどな。忙しすぎて寝る暇もない生活なんて来ない方が良い。
「まーいいや。オズ。また明日ね」
『ああ、おやすみ』
シンデレラがコックピットのベルトを外してハッチを開ける。
そして自分のカプセルベッドに戻る前にちらりとこちらを見て、小さく呟いた。
「おやすみなさい」