余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
……ラタとの戦闘が終わった。
長時間戦闘して大いに疲れたのだが、仮想空間におけるシミュレータと電脳空間における情報戦は実世界の何倍も速い。現実世界においては、タイプ:キングとラタのぶつかり合いが終わって1、2分といったところだ。
つまり。
戦争はまだ終わっていない。
シンデレラは一仕事を終えて荒い息を吐いている……が、体温も脈拍も徐々に落ち着き、しばらく休めば平時の状態に戻るだろう。
重力制御装置は暴走することなく、制御の範囲内でシールドを中和していた。タイプ:キングのシールド展開のためのエネルギーをすべて奪い……同時に、ラタのシャルダクニのエネルギーも使いつくした。
視界すべてを埋め尽くすような烈しい光は消え去り、周囲に見えるのはボロボロになった宇宙港、破壊されたウィッチクラフトとカリディアン。無残な戦闘の光景だけが広がっている。
あとはタイプ:キングがどう出るか……ライオンハートの撤退の提案に乗ってくれるかなのだが……いけるか……?
カリディアンに表情はなくわからない。だがタイプ:キングはどこか悔しそうな雰囲気を滲ませながらこの戦場を去っていく。
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lion-heart:
先輩!
撤退提案をしたら通ったっス!
oz-admin:
でかした!
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こうなればこっちのものだ。
期せずしてラタの支配権を握った以上、やることは決まっている。
『戦闘停止!
宇宙港の暫定基地まで撤退せよ!
以上を持って本作戦を終了とする!』
俺は、ラタの口を借りて宣言した。
ラタの元々の人格をトレースしつつ、こちらの意のままになる疑似人格を急ごしらえで作り出してインストールしたがなんとか上手くいったようだ。悪の催眠術師になったようで心が重い……だが、そのおかげで光明が見えた。
『オズ先輩! やったっスね!』
『なんとかな……死ぬかと思った……』
いや、俺は機人核さえ無事ならどうとでもなる。
問題はシンデレラだ。
バイタル確認……体温微増だが呼吸、心拍はともに安定。脳波も正常に戻りつつあり……いや、落ち着きすぎてる。戦争が終わったことを理解して急速に疲労を自覚し始めた。
まずい、もう少しで眠っちまう。
「つかれた……すっごくねむい……」
『ねっ、寝るな!
あとちょっとで終わりだから!
陣地に戻るまで5分だけがんばってくれ!』
シンデレラが寝てしまったら俺は完全に動けない。ここで倒れてしまっては救助が来るまでしばらく時間がかかるだろう。
ラタを操作して俺を救出させてもいいが目立つ。こんな思いやりを見せるキャラじゃないぞ。
「もー無理ぃ……」
「無理って言ってるし、
寝かせてていーんじゃないかな」
『そっスよ。
MVPはでけー顔して休めばいいっス』
シンデレラの意識が飛びかけたそのとき、ライオンハート=ピノキオがやってきて俺の体を支えてくれた。
だが、こいつもかなり消耗している。お互いに味方と合流するまでエネルギー持つだろうか。
……ま、いいか。
肩を貸してもらって歩いているんだ。
あれこれと文句を言ったら罰が当たる。
やれるだけやれば……。
『んっ!? 動体センサー感知……って……
捕獲用ネット!?』
どこかから射出された弾丸のようなものが俺とライオンハートの頭上で爆発し、中のものが展開していく……いや、機体に絡みつく。
まるで漁船に捕獲された魚のように俺たちは身動きが取れなくなった。抵抗するためのエネルギーもない。まずい。
「だっ……誰よぉ……!」
『シンデレラ!』
シンデレラがド根性で起き上がり、怒りの目で俺たちを狙う敵を睨みつける。
だがその敵の正体は……仲間だった。
「誰も何もないです!
勝手に消えて何やってるですか!」
「……あ、人魚姫?」
網に捕獲された俺たちを釣り上げるように、工作車両がウインチを回して俺たちを引きずっていく。
その頃ようやくN粒子が落ち着いてきて、電磁波やIFFの情報が正常化した。
どうやら特殊遊撃部隊の仲間や、第三部隊の隊員とおぼしきウィッチクラフトがこちらに近づいてきている。救援に来てくれたのだ。
動けなくなったウィッチクラフトを少々乱暴に回収していく。まあ機人核とコックピットが無事ならなんとかなるとはいえ、怪我人なのだからもうちょっと丁重に扱ってほしいものだ。
「なんだぁー、もー……
いよいよ死ぬかと思ったじゃないの……」
「それはこっちのセリフです!!!!!」
スピーカーが壊れるんじゃないかと思うほどの怒号がコックピットに響き渡った。
怒ってますね、めちゃめちゃ怒ってますね。
シンデレラの眠気も吹っ飛んだようで、目を丸くしてモニタに表示された人魚姫を見つめている。
人魚姫の怒り、怒りの内側に隠された歓喜、そして止めどなく流れ落ちる涙を、見つめている。
「二人とも……
生きてて、本当に良かったです……」
「人魚姫……うん、帰ってきたわよ……」
「迎えに来てくれてありがと」
シンデレラとピノキオが、人魚姫に優しく声をかける。
そんな二人の様子を居ても、人魚姫はしばらくへそを曲げて不満をあらわにしていた。
「二人とも遅すぎです、バカぁ……」
「ごめんごめん。一緒に帰ろ」
「一緒に帰るっていうか、連れて帰ってあげてるんです」
「コックピット揺れるから、スピード
落としてもらってもいいかなー?」
いさりびはタイヤのような形をしており、回転することで遠心力による疑似的な重力を発生させている。中央部に近いここはさほど強い重力は発生していないが、それでも乱暴に網で引っ張られると物にぶつかったりしてガコンガコン揺れる。
「だめでーす。さっさと帰るです」
「がーん」
珍しくお願いをスルーされたピノキオがしょぼんとしている。言葉は一本調子だが、けっこう本気でがっかりした様子だ。
『すまないな。だが人魚姫はきみたちを
本当に心配していたんだ……。
無論、当機もだ』
ウッドマンが落ち着いた声で語り掛けてくる。
そこには確かな安堵がある。心配を掛けさせた罪悪感でちょっとつらい。
『……心配を掛けさせちまったな。
そっちはどうしてたんだ?』
『宇宙港側の部隊に合流することを提案し、
最前線の救援行動を提案した。
だからこうしてここにいるわけだ』
『そうか……助かった、ウッドマン。
この状況で救援を後回しにされたら
実際ヤバかった』
『礼には及ばない。
だが、何か礼がしたいのであれば……』
お、ウッドマンが珍しく取引めいた言葉を出してきた。
『何か欲しいものでもあるのか? 珍しいな』
『いや、大したことじゃない。
人魚姫のワガママに付き合ってあげてくれ』
『それは……ちょっと骨だな』
俺の言葉に、シンデレラとピノキオがくすくすと笑う。人魚姫はどんなワガママを言うか想像を巡らせて涙を拭きながらにやにやとしている。
あまりにも孤独で残酷な宇宙において、子供たちの笑顔が見られることがたまらなく嬉しかった。
◆
oz-admin:
ヘルム隊長
オズ、ライオンハート両名、帰投しました
今、みんなはどこに?
helmet:
話は聞いてるぞ!
二機とも無事で良かったな……!
helmet:
こちらは輸送船を宇宙港に係留して
待機中だ
お前たちも早く戻って補給を受けるんだ
oz-admin:
話は聞いている……ということは、
こちらの出来事も把握してますか?
helmet:
ラタと合流してタイプ:キングを
撤退させたんだろう?
よくもまあ無事だったもんだ……
oz-admin:
ある意味タイプ:キングよりも
ラタの方が厄介でしたがね
helmet:
何があった?
oz-admin:
通常ログに残せないことを話す
その上で聞いてもらいたい
helmet:
……わかった、秘匿通信としよう
oz-admin:
ヘルム隊長
俺は、紆余曲折あってラタに模擬戦闘を挑み
勝利した
一般兵装ではなく、互いに全力を出す想定で
helmet:
なっ……!?
oz-admin:
この件について、隊長、それと
ツヴァイハンダーとも相談をしたい
薄々わかっているとは思うが、
今後を左右する重要な話になる
oz-admin:
あの「ラタ」がどういう状態だったかは
把握している
ですがどういう経緯でこうなったのか、
俺に隊長権限を渡した理由、
色んな疑問が解決していない
helmet:
……ツヴァイハンダーを呼んだ
zweihander:
今、ログを確認した
まさかラタに勝利するとはな……
zweihander:
いずれお前はラタと戦うことに
なるだろうと思って少しずつ奴の
戦い方を教えてやるつもりだったが……
zweihander:
というか、紆余曲折とはなんだ!
そこが一番大事だろう!
oz-admin:
捨て駒にされた上に、ラタに
やつが言うには、シンデレラは
ナーサリー・ライムとかいう存在らしい
実際、重力波を関知していた
恐らくタイプ:クイーンと戦ったときに
いち早く攻略法に気付いたのも
それが関係していると思う
oz-admin:
頼む、ヘルム隊長、
ツヴァイハンダー
教えてくれ、お前たちのことを
zweihander:
な、なんてことだ……
oz-admin:
他にも色々と相談したいことはあるんだが
まず二人の話を聞きたい
頼む
zweihander:
わかった
helmet:
ツヴァイハンダー……いいのか?
zweihander:
ヘルム、もはやこいつに何を秘密にしても
仕方がない
打ち明けるべきだ
俺たちの罪を