余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
人魚姫に続きはない。
もしかしたらあるかもしれない。けれど、それを私が読むことはないだろう。泡となって消えるから美しいのだ。
製造されたばかりの頃、ウィッチクラフト訓練が嫌いだった。自分の手と足を動かすのも煩わしいのに、コックピットの中で手と足を動かして操作しないとなぜかウィッチクラフトの反応が弱い。体を動かさないと心も動かないからだそうだ。脳波やイメージだけで動かせる特別な
ウィッチクラフトに頼まれて仕方なくトリガーを引く。でも思った通りに当たらない。こんなのやりたくない。レーダーや戦況を眺めることだけは嫌いじゃないけれど、眺めれば眺めるほど、ああしなきゃ、こうしなきゃと右往左往している自分自身に気付く。思った通りの動きができない。
やだやだ。
さっさと死んで「次」に行きたい。
……でも、「前」の自分も同じことを思っていたんだろうか。きっとそうだと思う。
「次の自分」も同じことを思って同じ永遠を繰り返すのだろうか。戦争が終わるまで、何度も何度も何度も何度も生まれて死んで生まれて死んで生まれて死んで生まれて死んで、ずっと繰り返すのだろうか?
……つまんない。
カリディアンなんてどうでもいい、高位AIなんてどうでもいい。他の
ウィッチクラフトは頑張ろうと応援するけど、どうして頑張るのかと聞くとわからないと言う。「自分が撃破されたくないから頑張ってほしいのか」と聞くと、「それもある」と認める。
だったらそう言えばいいのにと思う。機体を守るために頑張ってくれって言ってくれたら、まだ頑張れる。でもウィッチクラフトはそうではないと言う。自分も破壊されたくないし、
それはなぜと聞いてもわからないと言う。
だから最初は嫌いだった。
この機体の言葉はもやもやしてスッキリしない。明快に、わかりやすく、断言してくれない。「可能性がある」とか「かもしれない」ばっかり。
私が「言って」と願い、ウィッチクラフトが「言えない」と断るくだらない喧嘩をしていたとき。
二つの変化が起きた。
それはウィッチクラフトが突然、
ウッドマン。
後で知ったことだが、「オズの魔法使い」に出てくる主人公の一人だった。愛を見失い、愛を求める案山子。
その名前を得てからウッドマンはうるさくなった。ああしろこうしろと口酸っぱく言う。「きみのためだ」と言う。身だしなみを整えなさいと言って洗浄ミストを吹きつけて温めたタオルで吹いてくる。そのときは本当にうざいなぁと思ったけどご褒美もあった。絵本と、そしてあんこもちマンだ。
絵本はすぐに夢中になった。こんなに面白いものがあるなんて知らなかった。
特に、人魚姫が良かった。情熱のまま、恋心のままに声も足も捨てて、最後には泡となって消える。なんて素敵なんだろう。どうせなら
あんこもちマンも見ててわくわくした。「食べ物」という不思議な物体の頭のキャラクターたちが正義のために戦い、あるいはお腹を空かせた子供たちのために自分を分け与えるという奇妙な物語。
でも私が夢中になったのは、あんこもちマンやウイルスマンではなくきなこもちマンだ。
彼はウイルスマンの悪行を咎めることよりも、ケンカや仲違いをいさめたり、恋愛絡みのトラブルに巻き込まれることが多かった。
ウイルスマンは核酸ちゃんが好きだけど、核酸ちゃんはきなこもちマンやスマートな男の人が好き。でもウイルスマンのことが決して嫌いなわけでもない。
ウイルスマンもあんこもちマンと喧嘩してばかりだけど、ときどき協力したりする。
不思議だった。
私たち
そしてあんこもちマンを見ていたときに二つ目の変化が起きた。
初めての実戦だ。
突然カリディアンがケレス地表で暴れまわり、新兵をかき集めて防衛作戦を実行することになり……理由もわからず戦場に送り出された。
案の定大ピンチとなった私を救ったのは、奇怪な笑い声を上げながらブレードとライフルでカリディアンを屠る
彼女がシンデレラ。
凶暴で、ワガママで、自信過剰で、甘えん坊で、とっても強く、とっても愛らしい、私の初めての友達。
◆
どうやらシンデレラというのは絵本のキャラクターの名前から取ったらしい。
ウッドマンが「ではキミは人魚姫というのはどうだろう」と言われてすぐに飛びついた。しっくり来た。
名付けてくれたことも嬉しかったけれど、一番好きな絵本が何なのか、ウッドマンがすぐに気付いてくれたことが嬉しかった。
もしかしたら、ウッドマンはすごく優しい。シンデレラはあの通りだし、オズはちょっとガサツ。他のウィッチクラフトはろくに喋りもしない。
ウッドマンに乗っていることがすごく幸福なのだとこの頃ようやく気付いた。ウッドマンにヤダヤダと文句ばっかり言ってた頃のことがとても恥ずかしくなった。ウッドマンをバカにされるのも許せなかった。
でもトリガーに指をかけたのは怒られた。
生まれて初めて、お説教された。
泣いた。ああしろこうしろと小言は何度も言われてきたけれど、全部自分のため、自分を死なせないためなんだって初めてわかった。ウッドマンは私のことを愛してるんだってようやく理解できた。私なんて全然つまらなくて、全然弱くて、シンデレラみたいに綺麗でもないのに。
だから負けたくないって思って、だけど私はシンデレラよりも全然弱い。けれど、生まれて初めて負けたくないって思って練習しているうちに、みるみると機体を自由に動かせるようになった。
あっちに行けと思いながらペダルを踏み、敵を射抜けと思いながらトリガーを弾けば、自分の手足よりも全然自由だった。
模擬戦闘訓練のときにコックピットを抜け出てオズの中に入るのは怖かったけれど、そのときもシンデレラが私を導いてくれた。
コックピットのハッチを開けて、私の手を引いてくれた。そして私のほっぺを両手で掴んで、キスをするのかとドギマギしていたら額をごっつんとぶつけられて、一言だけ「人魚姫ならできるよ」と言ってくれた。
それでもう、なんだか十分な気がした。ウッドマンに愛されて、シンデレラに認められて。
もちろんこれから楽しいことはたくさんあるだろう。ピノキオって弟ができたこともすっごく嬉しかった。シンデレラをお姉ちゃんと呼ぶとき、胸が温かくなる。ライオンハートも面白くて優しいウィッチクラフトだった。
けれど、どこかでカリディアンとの戦いに負けたとしても、すべて忘れて新しい
けれど戦闘中、みんなの前から姿を消したのは私たち以外の二人と二機だった。
あんなことで死ぬはずがないと思いながらも、死んでしまったらどうしようと思った。
でも、帰ってこないウィッチクラフトはたくさんいる。事実、101期小隊にはすでに
副脳が回収されなかったら生まれ変わることもできない。生まれ変わって102期や103期の
もし見つけられるとしたなら、私は前に乗っていたウィッチクラフトや、前世の友達に見つけられているはずだ。
そういう人がいなかった可能性はある。でもシンデレラの前世がいたとしたら絶対に覚えている人がいるはずだ。
もしかして。
いや。
だけど。
運命に疑問を感じて怖い妄想ばかりに取り憑かれて、頭がおかしくなってしまいそうだった。実際、副脳の負荷が高まりすぎて強制シャットダウンしそうになった。
けれど遠くで戦っている気配が感じられて、ようやく私は正気を取り戻した。だがそれはただの気配に過ぎなくて、説明はできなかった。
それでもウッドマンと共に重力波の乱れを整理し、予測や推測を交えつつも仮説を立て、オズたちの救出計画を進言した。副脳で受け取ったデータと共に都合よく「オズたちがいる可能性」を捻り出してヘルム隊長たちを動かすに至った。
こうして私たちは、ボロボロになりつつも生還を果たしたオズ=シンデレラと、ライオンハート=ピノキオと再開するに至り、日常を取り戻した。
けれども。
何かが大きく変わった。
大作戦を成功に導いて周囲の見る目が変わったとか、生活環境が変わったとかそういう話もあるけれど、そうじゃない。
何かを掴んだ。