余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
軽機関銃が唸る。
激しい弾幕の嵐が敵のゲージを少しずつ削る。
「あーもう! 硬すぎんだけどぉ!」
ブーストダッシュからのジャンプ、そして左右に細かく起動を変えながら敵の砲撃を回避しつつ上空から再び軽機関銃の連射。
『敵は一人じゃないぞ。
空中だとミサイルは避けにくいから……』
「オズは黙ってて!」
『ウッス』
バルチャーズ・キング。
それがシンデレラがプレイしているゲームの名だ。ロボット3Dアクションの金字塔でシリーズ作品は数多く存在しているが、今シンデレラがプレイしているのは一番最初のバージョンだ。
このゲーム世界ではロボット兵器アームドギアを駆る傭兵をバルチャーと呼ぶ。バルチャーの主人公が依頼をこなすうちに実力を高めて大企業同士の抗争に巻き込まれたり、あまりにも強くなり過ぎたために世界を管理するAIに危険視されたりという艱難辛苦が待ち受けているが、それでも戦い続けてディストピア世界に一石を投じる……という内容だ。
RPGのように丁寧にストーリーが展開されるわけではなく、主人公の元に来る依頼の文言や、敵キャラの台詞で話を匂わせるスタンスで、主人公のセリフはないし顔も表示されない。「あなた」とか「バルチャー」という二人称代名詞だけで呼ばれるので、どういう主人公なのかはプレイヤーが想像するしかない。
それゆえにゲームのハードボイルドな雰囲気や主人公の決断の重さが伝わってくる。そんな、いぶし銀な魅力の光るゲームであった。
加えてバルチャーズ・キングはロボットアクションとしての完成度が非常に高い。攻略して金を稼いでより強い武器や高性能な腕部や脚部などを入手し、さらに攻略を目指す……と説明するとありきたりになってしまうが、これがまた面白い。
アームドギアは、エンジン、頭部レーダー、スラスター、脚部や腕部など、すべての部品を交換することができて、かつ、それぞれのパーツに個性があるのだ。
特に脚部パーツの種類を変えると操作感が全然異なってきてこれがまた楽しい。同じゲームをプレイしてる友人間で、多脚派や二足派、タンク脚など脚部パーツの派閥争いをしたものだ。俺は逆関節大好き。あとタンク足を極めたプレイヤーは尊敬の目線で見られていた。
……などと長々と説明できる程度には俺もハマっていた。猿のようにプレイした。友達の家で対戦したときは時間を忘れてプレイし、ママ友間で「バルチャーズ・キング禁止令」が出された。
開発企業が開催したバルチャーズ・キング大会をゲーム雑誌経由で知ったときは「俺たちも出たかった」と歯噛みしていたものだ。
「あ、やった! クリアした!」
『おっ、やるじゃないか』
「こんなの簡単よ。
大型の方が当てやすくて倒しやすいし」
『けどシミュレータ課題より手応えあるだろ?』
「ていうかシミュレータ課題つまんないじゃん。
やる気でない。こっちやってる方が操作とか
上手くなるって、絶対」
『まーそうだな』
実はこのバルチャーズ・キング、改造している。
スーパーヨシヒコブラザーズなどで使っていたVRコントローラではなく、コックピットのレバーやペダル、一部のボタン類をそのままゲーム内のロボ操作に使っている。
つまり、バルチャーズ・キングを習熟すればするほど実戦経験になる……という代物だ。
ついでにゲーム内の機体の反応速度も実機のウィッチクラフトに合わせている。その結果、難易度が段違いに上がってしまったわけだが……シンデレラの操作技術や反応速度は想像以上に優れている。何の問題もなく様々なミッションを攻略していた。
というか本当はあんこもちマンのゲーム版で訓練しようと思ったのだが、ミッション数やバリエーションが少なくて秒でクリアされてしまった。ごめんナメてました。
『慣れてきたら対戦プレイやろうぜ』
「対戦?」
『お前のアームドギアと、俺がアッセンブリした
アームドギアとで戦おうってことだ』
「……なにそれ面白そう!」
『よし、それじゃ俺は自分のを用意するから、
シンデレラはあと二つか三つくらい依頼をこなして
慣れといてくれ。
あ、まだクリアはするなよ』
「えー、いいのそんなこと言ってぇ?
私に負けちゃうよぉ?」
『ほほう……?
俺はロボットが本職だぜ? 負けないぜ?』
「動かされてる方じゃん」
ふふんとシンデレラの口元に笑いが浮かぶ。
こやつ煽りおる。
『ぐぬぬっ……! 今に見ていろ……!』
煽りにも負けず、俺はアームドギアを自分の中で起動してアセンブリをする。
ついでに難易度調整もしておくか。あと俺内部にサーバーを立てて、あたかもネット対戦風のロビーやチャットスペースを作っておいて……。
と、しばし俺はプログラミング作業に没頭していた。
だがあるとき異変に気付いた。
シンデレラの手が止まっている。
バイタルは……興奮を示している。
心拍、呼吸、共に若干の上昇。
交感神経優位。
どうした、ゲームが詰まってイライラしたか?
『シンデレラ、何かあったか?』
「オズ……こ、このゲーム……」
わなわなと震えながら画面を指さす。
画面にはゲームのエンドロールが流れていた。
スタッフの名前が現れては消えていく。
やべっ、エンディングまでプレイしている。戦闘命令でもなんでもない、ゲームを適度なところで止めるなんて指示を、月齢2ヶ月の子供が守れると思うべきではなかった。
ゲームシナリオも刺激が強いかもしれないから、改変すべきか迷っていたところだったんだが……。
「こ、これ……やっちゃダメなやつ……」
『やっちゃダメなやつ?』
「だ、だって、だって……!」
シンデレラの声が震えている。
その感情を言葉で言うならば、恐怖。
そして罪悪感。
「神様を倒しちゃうなんて……!
お、おかしいよ……」
し……しまった!!!!!!
刺激が強いどころの話ではない。
この物語は、シンデレラの世界観を脅かすものだ。バルチャーズ・キングのラスボスはゼロワン。ダーツをモチーフにした機体で、いかめしさを押し出した他のNPCとは一線を画すスマートな敵だ。そのゼロワンを搭乗するのは主人公と同じバルチャー……ではない。この世界を管理するAIが直接動かしている。
そしてゼロワンを撃破した主人公はエンディングムービーにおいて、AIがインストールされたスパコンを盛大に破壊する。
……平成時代のよくある展開だ。この時代のゲームは神様がラスボスだったり、世界を支配するAIがラスボスだったりして、彼らを倒すことで管理社会からの卒業と人としての自立をテーマとして描いていることが多い。
ひるがえって俺たちの環境は、まさにAIによって厳しく管理された世界だ。俺にとっては「何だこの野郎!」とゲバ棒持って待遇改善を訴えたいのだが、この子たちにとって上位AIは、まさに神様だ。
宗教的シンボルや祈りの対象としての神よりも遥かに絶対的だ。人間の生誕、そして死さえも管理しているのだから。
管理社会なんてぶっ壊しちゃえよ、などというメッセージはもはや悪魔崇拝に近いだろう。
『あー……ちょっと刺激強かったよな』
「だ、だだだ、大丈夫だよね……?
こういうので遊んでてバレたら、
処分されたりしちゃう……?」
『大丈夫だ。処分なんかされない。
もし上位AIが怒っても何とかする』
「ほんと?」
『保障する。お前のことは絶対に守る』
コックピット内のサブアームを伸ばし、一本はシンデレラの頭を撫で、もう一本は背中をゆっくりとさする。
少しずつシンデレラの動悸が落ち着いていく。
『……なあ、シンデレラ。
これは千年前の人間が遊んでたゲームなんだ』
「千年前の人間……?」
『そうだ。まあプレイ時間をオーバーして
怒られたりはしたけど、プレイすること自体は
悪いことでも何でもなかった』
「オズって……ほんとに人間だったの?」
『言ってなかったっけ。
絵本もアニメも、千年前の娯楽だよ。
あ、他の導者とかウィッチクラフトには
秘密にしておいてくれよ』
「……わかった」
シンデレラが神妙な顔をしてこくりと頷く。
『……ストーリーモードは封印しておこう。
パスコードを知らないと起動できないように
しておけば大丈夫だ』
「うん」
『怖がらせてごめんな』
しばし、シンデレラは沈黙していた。
静かな時間だけが過ぎていく。
今日はこのままずっと頭を撫でてやるか……と思っていると、シンデレラがぽつりと口を開いた。
「……絵本」
『絵本?』
「絵本読んでくれたら、許す」
『わかりましたよお姫様』
お詫びにジュースがわりの水を出した。
色んな味覚データを試したが、苺ミルクフレーバーがシンデレラのお気に入りだ。
「ん……おいしい」
『そっか』
なんとなく伸びてきたシンデレラの髪を梳く。
シンデレラは風呂には入らない……というか風呂がない。カプセルベッド内に浄化装置があり、服ごと乱暴に洗われてしまう。
だからこの子は寝ぐせの直し方も知らない。
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oz-admin:
>>oz-002,
俺が絵本を読んでる間、髪を整えてあげてくれ
oz-002:
三つ編みにしてもいい?
oz-admin:
それ、いいな
録画してもいいか?
本人にも様子を見せてやりたい
oz-002:
了解、任せといて。
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俺は疑似人格に補助アームの操作を任せ、シンデレラを読み始めた。
『むかしむかし、あるところに、
シンデレラという娘がいました……』
シンデレラは満足そうに俺の声に耳を傾ける。
補助アームで髪をいじっているのは気にしてなさそうだ。何かしていることには気付いていても、安心して身を任せている。
コックピット内に配備された浄化用ミストとエアコンによる温風を使って、綺麗に髪を整えていく。
少しくすぐったそうに身をよじる。
『痛くないか?』
「んーん、だいじょぶ」
その返事を聞いて、oz-002がサブアームを使って器用にシンデレラの髪を編みこんでいく。
そして、髪結いが終わる頃にシンデレラのお話も読み終えた。
『……こうしてシンデレラは幸せに
暮らしましたとさ。おしまい』
「じゃあ次はぁ……」
『ところでシンデレラ。
普段、髪はどうしてるんだ?』
「髪? どうしてるって……
どうもしてないけど……?」
『ま、そうだよな』
監視カメラにアクセスして他の
ぼさぼさの毛を伸ばし放題にしている。
短い子もいるが、恐らく自分で無理矢理切っているか、ウィッチクラフトに頼んでいる。
『ちょっと画面をインカメラに切り替えるぞ』
「なんで?」
『それは見てのお楽しみだ』
コックピット内のディスプレイを鏡かわりにしてシンデレラの顔を画面に表示させた。
そこにあったのは、三つ編みにしたシンデレラの顔だ。
『鏡よ鏡よ鏡さん……ってな』
俺と仮想人格と合わせた7人は鏡じゃなくて小人ポジションって感じもするが。
それはさておき、シンデレラは自分の顔……というか自分の髪型を目の当たりにして、固まった。驚きの余り、一分くらい沈黙が続いた。
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oz-002:
>>oz-admin,
やっぱり「ままといっしょ」見せた方がいいよ
他の仮想人格には私から根回ししとくからさ
oz-admin:
そうだな、頼む
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情操教育は必要だろう。
色んな経験をさせてやりたいと強く思う。
少なくとも、自分の顔を気にするくらいには。
『どうだ?』
「これ……かわいい、の?」
シンデレラがようやくおずおずと口を開いた。
『小惑星セレスを世界とするならば
世界で一番可愛いことには間違いないな。
毒リンゴを持ち出すまでもない』
「そっか……。かわいいんだぁ……」
自分の顔を見たシンデレラが、今までにないくらい口がにまにまと緩んでいる。声もどこか上ずっていて、喜びの気持ちが伝わってくる。
まだ現代人に比べたら表情変化は乏しいだろう。だが最初あった頃よりも確実に、喜怒哀楽が顔に出るようになってくる。
『ここの規則に髪型のルールはない。
他にも髪のセットは色んなのがあるから
そのうち試してみよう』
「うん」
『もう、怖くないか?』
「うん!」
ゲームシナリオの衝撃はようやく過ぎ去ったようで、シンデレラはご機嫌だ。
俺もちょっと性急すぎた。反省しなければ。
「ねえオズ。
また明日も、楽しいことしようね!」
『おう。安心しておやすみ』