余命2年の強化幼女を甘やかしまくったら最凶パイロットになった ~オズとシンデレラ~ 作:富士伸太
翌日、いつものように導者たちは定刻に起きて、各自のウィッチクラフトのコックピットに搭乗し、訓練に励んでいる。
シンデレラも同じように起きて……というにはちょっと足がふらつき、のそのそしているが、それでもなんとか俺のコックピットに辿り着いた。
『シンデレラ、なんか妙に……眠そうだな?』
俺がそう聞くと、びくっと震えて反論した。
「ふあっ!? 寝てない! 寝てないけど!?」
カマかけとかではない。
本当に寝不足の感じがする。
脳波がアルファ波からシータ波への徐波化が進行中……このままだと確実に寝落ちする。
『……なあシンデレラ』
「な、なに? あ、そーだ、今日は久しぶりに
ちゃんとした訓練やろーよ。
今日は調子いいから凄い高得点取れるかも」
……めちゃめちゃ白々しい。
お前、そんなポジティブな提案する子じゃあなかっただろう。
『誤魔化そうとしてるな?』
「な、なんのこと!? 知らないよ!?」
そんな露骨に知ってますみたいな顔をされても。
『まあ別に、秘密にしたいことがあっても
構わないんだ。
あんこもちマンだって、言いたいことを
言えない人や、秘密を隠したい人だって
たくさんいるよな』
「し……しらない」
シンデレラは俺に叱られると思っている。
いや、感情としては別に怒ってはいない。俺だって好奇心を元にいろんなイタズラをやらかしたし大人になってからもヘマをやった。
ただどうすれば危ない橋を渡らないように思いを伝えられるのかわからないんだ。
ログ消しは割とストレートによくないし。
『けどな、シンデレラ』
「……うん」
『秘密を持っているのは普通のことなんだ。
例えばバイタルデータや健康情報だって、昔は
個人情報って扱いで、医療関係者でないと
みだりに覗いていいもんじゃなかった』
「え、なんで?」
『色々と理由はある。
昔の社会は病気とか障害が理由で
仕事に就けなかったり
自分が住んでるところから
追い出されたり……』
「えっ、ひどいね……」
『お、おう
この環境の方が絶対に酷いんだが、それは今のところ棚に上げておく。
それを自覚するのは少々早い。
『でも本当に秘密にしなきゃいけない理由は、
体と言うものは大事にしなきゃいけないもの
だからだと思う。
たとえ|導者
俺もお前のことを大事にしたい』
「私は大事にされてるけど?」
きょとんとした顔でシンデレラが聞き返した。
『んん……いや、ちょっとニュアンスが違う』
「どういうこと?」
『シンデレラが言ってるのは、大事に
管理されるべき資源だから守られてる、
そういう理屈だろ?』
「違うの?」
補助アーム展開。
洗浄ミストでシンデレラの顔を洗う。
「わぷっ」
『目ヤニついてんじゃん。綺麗にしとけ?』
顔を洗うついでに髪も洗って、温風を吹きつけてさっぱりさせていく。
シンデレラは心地よさに身を委ねていたが、羞恥で頬を赤らめた。
「し……仕方ないじゃん……。
遅れそうだったから洗浄機能、
途中で切り上げたし」
『やっぱり寝坊しそうだったんだな』
「……話の途中だったじゃん」
『すまんすまん、話の続きだ』
ぷくーとほっぺを膨らませる。
アニメっぽいしぐさだ。
この子は読んでいるもの、見ているものから表情を学習している。
俺はそれを感慨深く思いながら、補助アーム操作をoz-002に任せる。三つ編みはこいつに任せるに限る。
『お前は、お前であるというだけで、尊いんだ。
誰しも尊重されるべきなんだ』
髪を
結び目が一つ一つ出来上がっていく。
『どんな病気になったとか、どういう薬を
飲んでるとか、お前が何が好きで、
何が嫌いなのかとか、俺はお前を守りたいから
知っておきたい。
けど、お前を本気で守るつもりもないやつに
そんなこと教えなくたっていいんだ』
「……病気になったことないからわかんないし」
『じゃあ、今読んでる本とか、アニメとか、
隠したいって思ったことはないか?』
「ンッ……な、ないし」
絶対あるって顔してやがる。
だが俺は、そこには突っ込まずに話を続けた。
『……大昔に、図書館って施設があった。
デジタルデータではなく紙の書籍を
貸し出す場所だ。そこでは利用者が何の本を
借りたのかはそこそこ大事な秘密だった』
「え、なんで?」
シンデレラが驚いて聞き返した。
『誰がどんな本を読見続けているかを知れば、
どんな考えを持ってるかが推測できる。
けれど心の中でどんな思想を持つかは自由で、
他人が立ち入ってはいけないことだからだ』
「……バルチャーズ・キングをやっても?」
『そうだ。CEROレーティングAのゲームなら
俺はなんら否定する権利はない』
「せろれーてぃんぐ?」
『子供がプレイしていいかどうかって話だ。
それはさておき……一つお願いがある』
「うん」
『俺のストレージの中に無断で侵入したり、
侵入した痕跡を消すのは……やめよう。
それは秘密がどうとかって問題じゃない。
てか、ちょっと傷つく』
シンデレラがびくりと震えた。
ぎゅっと拳を握り、怯えるように目をつぶる。
罰を恐れる子供の顔だ。
『お前が言いたくないことや隠したいってことを
正直に言ってくれたら俺は尊重する。
だからお前も、俺のことを尊重してほしいんだ』
「尊重……」
『具体的には俺のデータとか、他人の
ストレージの中とか、勝手に侵入するのは
よくないことだ』
「うん……わかった、ごめんなさい」
フゥー……第一目標クリアだ。
疑似人格たちとの話し合いで、融和的プロセスを取るか、それとも厳しく接するかで大激論となっていた。
融和的プロセスに至る条件は二つ。
ハッキングを悪いことだという認識をシンデレラがしっかりと持つこと。
そして謝罪の言葉を引き出すことだ。
『わかってくれてありがとうな』
「うん……」
シンデレラが涙ぐんでいる。
この子は、自分が軽率だったとちゃんと自覚している。その申し訳なさと恐怖で泣いている。
『じゃあ、俺もお前のことを尊重する。
一人で本を読んだりゲームしたいときは
邪魔しないし、タイトルも隠していい』
「でも、隠すって言っても……無理じゃない?」
その通りだ。導者の行動に感知しない、ということはウィッチクラフトにとって難しい。
日々のバイタルデータから訓練成績、ちょっとした発言や心拍の状況など、赤裸々に把握できてしまう。ハッキング以外でどうやって隠すんだというのは当然の疑問だ。
『何かを読んだり遊んだりするとき、ログ表示に
タイトルをアスタリスク(*)で隠す。
これなら記録にも残らないし俺も把握できない』
えっ、とシンデレラの口から驚きの声が漏れた。
「……いいの?」
『いい』
シンデレラは逡巡し、しばらく黙った。
会話している間に三つ編みは終わっていた。
そして、ぽつりと口を開いた。
「……バルチャーズ・キングの
ストーリーモードやってるときの顔、
見られたくなかった。
私、絶対変な顔してる」
まあ実際、変な顔はしてた。
はがががが、みたいに口を大きく広げて驚愕しているのはちょっと面白かった。
けど、顔を見られたくないというより、一人でじっくり考えたいのではないだろうか。
この世界とゲームの世界の違いは何なのか。どういう風に解釈すべきなのか。
これは、シンデレラが色んなものに触れて当人の心の中で大事に育てるべきものなのだ。
この世界に生きる人間として。
『……わかった。好きにプレイしろ。
対戦モードも、俺の疑似人格を用意する。
どういう会話したかのログも残さない』
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oz-001:
ガタッ
oz-002:
キタコレ!
oz-003:
フゥー……俺たちの出番のようだな
oz-004:
待ってたぜ! この瞬間(トキ)をよぉ!
oz-005:
さっすが~、オズ様は話がわかるッ!
oz-006:
俺たちがお兄ちゃんだ!
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……大丈夫かなこいつら。
ちょっと不安になってきた。
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oz-004:
ちょっと盛り上がっちまったが、やべーやつは監視しとく
oz-admin:
頼むからな? マジで頼むからな!?
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うーむ……oz-004はレスバで熱くなるタイプだが思考としては良識枠だ。
あとは信じて任せるしかないな。
「疑似人格ってなに?」
『……ま、後で挨拶させるよ』
若干不安なのも何人かいるが。
だが仮想人格にシンデレラの相手を任せられるなら、俺も空いた時間にできることが増える。
そろそろ動くか……。
『シンデレラ。色んなことやっていこうな』
「うん!」
実戦投入までの残り時間は短い。
この子が生きるために、全力を尽くさなければ。
そのためにはバルチャーズ・キングを利用した訓練も、仮想人格とコミュニケーションをすることで情緒を養い、メンタル面の成長を促すことも、どちらも欠かせない。
だが、俺はこの判断を後悔することになる。
……言葉遣いに気を付けろって、言い含めときゃよかったなぁ……。
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