「聞いて。君の頭には、たくさんの疑問があるでしょう。でも、それを説明してあげられる時間はないの。」
声が聞こえる。
「聞いて。これから君には、幾つもの選択の機会が与えられるわ。その時に、自分が後悔するようなことはしちゃダメ。」
その声はやけに心地よく、頭の中に真っ直ぐに届いてくる。
「聞いて。君がこれから歩む旅の先には、幾つもの苦難が待ち受けているわ。それでも君は、きっとそれを乗り越えていく。」
なぜかは分からないが、その言葉に従わなければと思わされる。
「聞いて。君はこれから、私以外の全てを忘れるの。」
その言葉を聞いた途端、頭を思い切り殴りつけられたかのような衝撃と共に、意識が朦朧としていく。
「それじゃあ、ばーい。次に会う時には私を驚かせられるといいわね。」
そして私は、そのまま意識を失ってしまうのだった。
「...はぁ、はぁ...逃がしちゃったみたいね...」
先の一幕が繰り広げられていた路地裏へ、長い赤髪と、周りを浮遊するドローンが特徴的な女性が入ってきて辺りを見回していた。
そんな彼女の目に、暗がりで寝そべる人の影が飛び込んできた。それを見た彼女は、慌ててその影に近づいていく。
そこに居たのは、灰色の髪をした10代前半くらいの少女だった。
「どうしてこんなところに...?」
疑問は尽きないが、女性は少女に外傷がなく、小さく寝息を立てていることを確認すると、少女を起こさないよう慎重に抱き上げ、その場をあとにしたのだった。
それから数年の月日が経ち...
とある中学校の3年生の教室にて。
「
「え!?
「うん。銀河打者たる私なら絶対に合格できるからね!!」
「...3年間同じクラスだったけど、お前の
放課後になって、帰る準備をしていた私の周りに同級生みんなが集まってきていた。
帰る準備をしていたのに...とはちょっとだけ思うけど、主人公である私に憧れる気持ちを尊重して答えてあげるとしよう。私はなんて優しいんだろうか。
『えー、3年2組の無量塔さん、至急職員室まで来てください。』
おっと、放送で呼ばれてしまった。
おのれ、まだ私の優雅な帰宅を邪魔しようと言うのか。その手には乗らないぞ。私ははやく帰って日課のゴミ漁りに繰り出さないといけないのだ。
しかし学校の玄関に向かうまでには職員室の前を通る必要がある。遠回りをすれば...と思ったが、今は階段が下級生の個性の暴走で壊れて修復中なんだと思い出した。
おのれ学校!そうしてまで私のゴミ漁りを邪魔しようとは小癪な!
そうとくれば...スニーキングミッションの開始だ!!
あれから数分、職員室の前まで誰にもバレることなくやってきた私は職員室に2つある扉のうち一つを突破していた。ふふん、こんなに簡単に通り抜けられるなんて、大人はなんてちょろいんだ。
「あの人って、3年の人だよな...何やってんだ?」
「あー、無量塔先輩な。ここらじゃ奇行で有名な人だよ。今やってるのもその奇行の一種だろ。」
そして私は視線を次なる目標、職員室の残り一つの扉を捉える。あそこを切り抜ければ私は無事に玄関にたどり着けるのだ。必ず乗り越えてみせる。
覚悟を決め、大きく一歩を踏み出した瞬間、目の前の扉が横に開かれたのを確認した。
その瞬間、私はこれまで生きてきた中で最も早いと断言できる速度で扉の横にある目安箱の影へと身を潜めた。そしてそのまま息を殺してじっと待つ。職員室から出てきた教師が私に気づくことなく通り抜けていく瞬間を。
(3、2、1...今だ!!)
心の中でカウントを終えた私は、目安箱の影から飛び出して扉を一気に通り過ぎた。もちろん誰にも見つかっていない。
やった、これでミッションコンプリートだ。
「...ん?おーい、廊下は走るなー!...また無量塔か...あいつさっき放送で呼ばれてなかったか?」
教師という監視の目を逃れた私はるんるんで歩いていく。あとは靴を履き変えて歩き慣れた通学路を進むだけだ。もう私の進路を拒むものはひとつも無い。
そう思って下駄箱へと続く廊下を曲がった時のことだった。
「よし、来たな。職員室に行くぞ、来い。」
「!?!?先生、なんでここに!?」
まさかまさか、先程私を放送で呼んだはずの担任の先生がそこに立っていたのだった。
「もう3年間も担任やってんだ。お前の考えそうなことくらい想像つく。」
そういいながら道を戻っていく先生に引きずられながら私は遠ざかる下駄箱へと手を伸ばすが、その手は虚しく空を切るばかりなのであった。
「それで、要件だが。お前、雄英高校のヒーロー科を受けるって話だが、もう姫子さんには話してんのか?」
「もちろん、姫子には了承を貰ってるよ!」
「そうか、姫子さんはここら一帯を取り締まってくれるヒーローだからな。あの人がいいと言うなら俺から言うことはない。」
姫子とは私の母親...いやママだ。今から3年ほど前に私を拾って養子に入れてくれた人。私にはそれ以前の記憶がないから分からないけど、私は姫子のお腹の中から生まれた気がしている。
それはそれとして、要件とはそんな簡単なことだったのか。それならもう帰っていい?
「...のだが。」
「ん?」
「お前、雄英を受けるにゃちょいと学力が厳しいぞ。受験勉強、ちゃんとやってるのか?」
「なっ!?」
勉強、私の嫌いな言葉のうちの一つだ。
そんなものをするくらいなら姫子のコーヒーを飲んだ方がマシだというもの。...いや、ちょっと考えさせて欲しい。
嫌いなものを、現実を突き付けられた私は、ついさっきまでとは打って変わって、肩を落としながら家路につくのだった。
そして3ヶ月後、あれだけ嫌いだった勉強も、姫子のサイドキックをやっているヴェルト、丹恒、なのの3人に手伝ってもらったことで、完全に克服していた。
今や姫子のコーヒーを飲むくらいなら勉強をすると自信を持って言えるくらいだ。
そして私は今、雄英高校の校舎へとやってきていた。
あんなにも自信のあった筆記試験は、終わってみれば分からないことが多かった気がする。
果たしてあの問題の答えはあれで合っているのだろうか?私は不安な問題の解答が無事正しかったことを祈りながら手元のサイコロ鉛筆を握り締める。
しかし筆記試験は既に終わったことだ。今更後悔してもどうしようもない。それに今からは...実技試験が行われるのだから。
『今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!』
シーーーン...
実技試験の説明が行われる講堂の中、見回せば数えるのも億劫になるほどの受験生が揃っている中で、誰も返事を寄越さないとは、テレビで見る割には人気がないんじゃないだろうか、プレゼントマイク。仕方ない。次のコールに対しては私は返事をしてあげよう。あぁ、私のなんと優しいことか。
『こいつあシヴィーー!!
受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?
Yeahhhh!!!』
「いえーーーい!!!」
やはりというか、返事を返したのは私だけだった。
もしこれがイベントのミニゲームとかだったらSランククリアなんて夢のまた夢だ。星玉も満足に貰えないぞ。
...星玉ってなに?
『オーケーオーケー、素敵なレスポンスをありがとう、受験番号6504番のリスナー。
それじゃあこれからは実技試験だ!入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!
持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!
OK!?』
「OK!!!」
『演習場には仮想敵を3種・多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!
各々なりの個性で仮想敵を行動不能にしポイントを稼ぐのが君たちの目的だ!もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為は御法度だぜ!?』
「...質問よろしいでしょうか!」
プレゼントマイクが説明を終えたタイミングで、唐突に私の後ろにある席から声が聞こえた。
そこにはカッチリと制服を着こなし、四角いメガネをかける、まさに真面目が服を着て歩いているような男子がいた。あれは絶対委員長タイプだ。多分私とは合わない。
「プリントには4種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!
ついでにそこの縮れ毛の君!...先程からボソボソと...気が散る!そしてそこの灰色の髪の君もだ!さっきのはなんだい!?先生が説明をしている途中だっただろう!
物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
なんとあの真面目君は、私への文句を言いやがったのだ。ムカッときた私はその場に立ち上がって振り返ると、こちらを見る真面目くんに対して反論を開始する。
「異議あり!私はプレゼントマイクのコールに応えただけ!そういうあんたこそ、プレゼントマイクのコーレスも分かんないなんて、勉強不足なんじゃないの?真面目が服を着て歩いてるみたいな見た目してさ!」ズビシッ!!
「なっ...!?」
ふっ、決まった...みんな私の完璧な反論に賞賛を送ってもいいんだよ。そんな小さい笑いだけじゃなくてさ。
『オーケーそこまでだぜリスナー。受験番号7111君ナイスなお便りサンキューな!4種目の敵は0ポイント!そいつはいわばおじゃま虫!スーパーマリオブラザーズやったことあるか?レトロゲーの。
あれのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体!所狭しと大暴れしているギミックよ!』
おじゃま虫?倒せない無敵キャラってこと?ゴミキングみたいに弱点撃破したら去っていくとかあるんじゃなかろうか。
...弱点撃破ってなに?
『俺からは以上だ!最後にリスナーへわが校、校訓をプレゼントしよう!かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくものと!
先生に案内されてやってきたのは、市街地...にしか見えない施設だった。こんなのが校内にあるなんて、雄英高校は何を目指しているんだろうか。
とりあえず今は待機、準備時間だ。運命を壊滅に切り替えると、手に出現させたバットを力強く握る。
うんうん、銀河打者にはこれが無いとね。
...それはそうと運命?壊滅?まあ気にする必要は無いだろう。
『はいスタートー。』
「「「「は???」」」」
気の抜けたような声で遠くから聞こえてきたプレゼントマイクの声に、私を含めたみんなが間抜けな声を漏らした。今、スタートって言った?
『どうしたァ!?実践じゃカウントなんざねぇんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられてんぞ!』
その言葉を皮切りに周囲のみんなが一斉に走り出した。
私もそれに習って走る。そのまま一団から離れ、1人進んでいると、私の目の前に大きな塊が出てきた。
『イタゾ!』『ブッコロセ!』
さっき渡されてた資料に乗ってたロボットだ。これを壊せばポイントが貰えるんだったよね!
私は力いっぱいロボットに向かってバットを振りぬいた。...なんか思ったよりも固くなくてびっくりだけど、まあ壊しやすいなら好都合だ。そしてそのまま流れるように隣のロボットへと狙いを定めるのだった。
ロボットが震え上がったように見えたのはたぶん気のせいだね!
それからロボットを手当たり次第に壊していって、どのくらい時間が経っただろうか。
周りではみんなが「27!」とか「35!」とか叫びながらロボットを攻撃している。一体なんの数字なんだろうか、ダメージの可視化はされていないはずだけど...
そんな事を考えていると、急に地面が揺れだした。
周りの人も唐突な出来事に動きを止めている。しめた、このタイミングでロボットを壊しておけば...そう思って前に踏み出した瞬間、その方向でビルが崩れたかと思ったら、そこから一際巨大なロボットが姿を現した。
「で、でけぇ!?」「やべぇ、逃げろ!」「邪魔だ、どけ!」
巨大ロボの出現に周りのみんなが悲鳴をあげて逃げ出す。あのロボット、ヴェルトが喜びそうだなー。
そんなことを考えていると、ふとロボットの足元に向けた視線の先。腰を抜かしてその場に座り込み、動けなくなっている女子の姿を捉えた。
ロボットの視線は女子に向き、真っ直ぐにそこへと歩いている。その視線を受けた女子は涙に顔を濡らし悲鳴をあげていた。
その光景を見た瞬間、私は心臓が高鳴る。
((自分が後悔するようなことはしちゃダメ。))
頭の中に響いた声と朧気な紫色の髪を思考の隅に追いやって、私は走り出す。今にも女子を踏み潰さんと足を上げるロボットの方向へ。
おじゃま虫がなんだ。0ポイントがなんだ。無敵キャラだろうがなんだろうが関係ない、だって...
「ルールは、破るためにある!」
一際強く握ったバットが光を放つ。青い電気のようなエネルギーを纏う。
そしてロボットが足を振り下ろすよりも早く、その足元へと到着した私は女子の前に立ち力の限りバットを振りぬく。
バットの直撃を受けたロボットの足は、全体に大きなヒビを作る。壊れないながらも押し返す力によってバランスを崩したロボットは、その巨体を大きく仰け反らせ、やがて後ろに転倒した。
『終了〜!!』
その衝撃と共に聞こえてきたアナウンスは、実技試験の終了を知らせるものだった。
思いつきで書き出した物ですが、開拓者エミュがムズすぎる。なんであの子あんなに頭おかしいのさ。