財団記録・情報保安管理局からの通達
本特別収容プロトコルおよび説明文は、SCP-1887-JP-Cに一時的に迷入し、その後帰還した財団職員へのインタビュー記録を基に再構成されたものです。対象の性質上、報告書内には多分に主観的なバイアス、記憶の混濁、あるいは実態とは異なる情報が含まれている可能性が否定できません。実地での機動部隊運用および収容手続きに際しては、記載されたデータを盲信せず、常に状況論的な警戒を怠らないでください。
— RAISA管理官 マリア・ジョーンズ
SCP-1887-JP-C 報告書
アイテム番号: SCP-1887-JP-C
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル
SCP-1887-JP-Cに関する情報は、クリアランスレベル*1。4以上のセキュリティクリアランスを有する職員にのみ開示されます。クリアランスレベル4未満の職員がSCP-1887-JP-Cの存在、主要接続地点、内部構造、現地勢力、異常存在などに関する情報へアクセスした場合、その情報の重要度に応じて記憶処理*2を実施してください。また、SCP-1887-JP-Cへの主要接続地点であるSCP-1887-JP周辺地域は財団の管理下に置かれており、一般人の侵入を防止するため、長期的な立入禁止区域として封鎖されています。民間人に対しては「大規模な崖崩れによる地盤崩落の危険性」を理由とするカバーストーリー*3を適用してください。
SCP-1887-JP-C内部への侵入には、クリアランスレベル4以上の職員による正式な承認が必要です。許可を受けた職員についても、帰還後には身体検査、精神状態の検査、記憶検査を実施してください。内部から持ち出された物品、生物、文書、映像、音声記録などについても異常性の有無を確認し、異常性が確認された場合は即座に隔離してください。特に現地で確認されている「能力」「妖怪」「神格」「奇跡論」「結界」などに関する情報は、既存の財団資料との照合および専門職員による分析が完了するまで、無断で利用してはなりません。
説明
SCP-1887-JP-Cは、基底現実*4とは異なる空間領域に存在する巨大な異常世界です。内部には自称「幻想郷」と呼ばれる地域が存在しており、現在までに人間、妖怪、妖精、亡霊、神格存在など、多数の知的生命体および異常存在が確認されています。これらの存在は単なる野生生物として存在しているわけではなく、集落、宗教施設、組織、勢力圏などを形成し、それぞれ独自の文化および社会構造を維持しています。
幻想郷では、基底現実における既知の物理法則だけでは説明困難な現象が日常的に発生しています。特定の個体が有する特殊能力によって空間、時間、境界、精神、物質などへ干渉する事例が確認されているほか、魔術、呪術、奇跡論*5、結界術など、財団が確認している異常技術と類似しながらも、異なる体系に基づく技術の存在も確認されています。
特筆すべきは、幻想郷における「異常」の扱いです。基底現実においては収容対象となる可能性が高いものを幻想郷では社会の一員として扱われている場合があります。また、人間に対して危険性を持つ存在であっても、一定の規則や均衡のもとで人間社会と共存している例も確認されています。このことから、幻想郷では異常存在と人間が完全に隔離されるのではなく、独自の社会的関係を構築している可能性があります。
現在までの調査によって、幻想郷内部には財団が保有していないSCPと類似した性質を持つ存在が複数存在することが示唆されています。しかし、それらが財団のSCPと同一の起源を持つのか、あるいは性質が偶然類似しているだけなのかについては判明していません。さらに、幻想郷内部における異常存在の発生原理そのものが基底現実とは異なる可能性も指摘されています。
SCP-1887-JP-C内部の地理的構造も異常性の一つとして記録されています。内部には森林、山岳、河川、湖沼、平地などの自然環境が存在しているほか、人間が生活する集落や、特定の異常存在が居住する施設なども確認されています。これらの環境は単なる人工的な景観ではなく、一定の法則に従って維持されていると考えられています。また、季節変化や昼夜の概念も確認されており、SCP-1887-JP-Cは単純な閉鎖空間ではなく、一つの独立した世界に近い性質を有している可能性があります。
しかし、幻想郷が安全な領域であるという証拠は存在しません。現地には財団の標準装備では対処困難な戦闘能力を持つ存在が複数確認されています。さらに、現地の住民がどのような基準で敵対・友好を判断しているのかについても完全には解明されていません。そのため、調査職員による不用意な挑発、現地文化を無視した行動、異常存在への無許可接触などは原則として禁止されています。
また、幻想郷内部では財団の存在そのものがどのように認識されるかも不明です。財団が基底現実において採用している「確保、保護、収容」という理念が、幻想郷側にそのまま受け入れられる保証はありません。したがって、現地勢力との接触においては財団の価値観を一方的に押し付けることを避け、まず相手側の文化、政治、倫理、異常存在に対する認識を把握する必要があります。
現在、財団内部でもSCP-1887-JP-Cの存在を認識している職員は極めて少数です。クリアランスレベル4を有する職員であっても、本オブジェクトについて知らされていない例が確認されています。これは情報漏洩によって基底現実および幻想郷の双方へ重大な影響が発生する可能性を考慮した措置です。
SCP-1887-JP-Cは、財団にとって単なる収容対象ではありません。内部には未知の文明、未知の異常存在、未知の技術体系が存在していると考えられており、その情報は財団の今後の異常存在研究において極めて重要な意味を持つ可能性があります。一方で、これらの情報を得るために不用意な接触を行えば、財団と幻想郷との間に敵対関係が成立する危険性もあります。
そのため、O5評議会はSCP-1887-JP-Cに対する方針を、単純な確保・収容から情報収集および外交的接触へと移行することを決定しました。担当職員には幻想郷内部の地理、文化、勢力関係、異常存在、技術体系などに関する情報収集が要求されます。また、可能であれば現地勢力との協力関係を構築し、財団と幻想郷の双方にとって有益な関係を確立することが望まれます。
担当職員:高柳神学部門部門長クリアランスレベル4、Aクラス職員
追記
SCP-1887-JP-Cに関する情報は、財団内部でも極めて高い機密性を有しています。本報告書の存在そのものを知る職員は限定されており、無許可での複製、転送、記録媒体への保存は禁止されています。
報告書を最後まで読み終えた僕は、椅子へ身体を預けながら深々とため息を吐いた。未知の世界、未知の文明、未知の異常存在。そのうえ現地勢力との交渉まで要求されている。僕は外交官ではないし、異世界探索の専門家でもない。戦術神学部門*6の責任者という立場ではあるものの、それだけでこの任務を押し付けられる理由にはならないはずだった。
「…………どうして僕なんでしょうね」
僕は机の上に置かれた報告書を睨みながら、もう一度ため息を吐いた。今の僕には部門の仕事が大量に残っている。ここで異世界へ行けと言われても、素直に「分かりました」と答えられるほど暇ではない。
「神居さん、別の人間に任せられませんか?」
「俺に言われても、その話はどうにもならんな」
「しかし、僕には今の仕事が大量に残っていますよ5日前にはオーストラリアに神格が出現しましたし...」
「だったら誰かに投げておけ、それくらいはできるだろ」
「本当にそれで問題ないと思いますか?」
「知らん。俺はお前の上司じゃないからなあくまで同僚の関係でしかない」
神居さんは腕を組んだまま、淡々と答えた。彼は僕の上司ではない。同じAクラス、クリアランスレベル4の未確認動物部門*7の部門長であり、立場としては対等だ。だから僕の愚痴に付き合う義理もない。それでも、もう少しくらい相談に乗ってくれてもいいと思う。
「O5*8の命令なら、僕には拒否権がないでしょう」
「そういうことになるな。だったら諦めろ」
「もう少しくらい慰めてくれてもいいと思いますけどね」
「俺にそんな趣味はない。慰めるより死なないような準備をしろ」
「優しさのない神居さんらしい返事だと思っておきます。」
神居さんは小さく鼻を鳴らした。長年、危険な現場を歩いてきた人間らしく、危険な任務を前にしても必要以上に騒がない。淡々としているというより、危険そのものに慣れすぎているのだろう。
「まあ、死ぬなよ高柳。それだけ守れば十分だ」
「いきなり物騒なことを言わないでください」
「未知の場所へ行くんだ。それくらいは覚悟しておけ」
「……分かりました。覚悟だけはしておきます。」
僕は渋々ながら任務を受け入れた。O5からの直接命令である以上、拒否する理由を並べても意味がない。それなら、せめて出発までに自分の仕事を片付け、必要な準備を整えるしかなかった。
「それではお楽しみの支給品発表だ」
神居さんはそんな僕を横目に見ながら、足元に置いていた大型ケースを机の上へ載せた。金属製のロックが外され、蓋が開かれる。その中には、これから僕が幻想郷へ持ち込む装備が並べられていた。
「まずはグロック17だ。予備弾薬も大量に入っている」
「拳銃まで用意されているんですね」
「丸腰で未知の場所へ行かせるほど、財団も馬鹿じゃない」
「それは僕への配慮と考えていいんでしょうか?」
「好きに考えろ。次は記憶処理剤だ」
神居さんは容器を取り出し、机の上へ置いた。
「記憶処理剤は二十回分、記憶補強材も二十回分ある」
「二十回分ずつとは、かなり多くないですか?」
「多いくらいで丁度いい。向こうで何を見るか分からん」
「確かに、その判断には納得できます」
続いて、大量のカロリーメイトがケースの中から取り出された。さらに、その横にはK社製の回復薬まで用意されている。未知の世界でどの程度の危険に遭遇するか分からない以上、治療手段を確保しておくのは当然なのだろう。
「食料も入れてある。カロリーメイトは好きなだけ持っていけ」
「どうしてこんなに大量なんですか?」
「飯が食える保証のない場所へ行くんだ。腹を空かせるよりマシだろ」
「そこまで言われると、何も反論できませんね」
神居さんは続けて、回復薬の入った容器を僕へ渡した。
「それからK社*9の特異点産回復薬もある。治療用だから持っておけ」
「K社製の回復薬まで用意してくれたんですか?」
「向こうで負傷してから後悔するより、最初から持っていた方がいい」
「かなり手厚い装備になっていますね」
「生きて帰ってこいってことだ。余計な意味はない」
次に渡されたのは、一台の携帯端末だった。見た目は普通の携帯電話だが、財団の技術によって特殊な異常性が付与されているらしい。
「これは報告用の携帯だ。異常性で充電が無限に続く」
「それなら電池切れの心配はありませんね」
「通信できる保証まではない。そこは自分で確認しろそれと援軍が欲しい時も連絡しろよリンバスカンパニーの社員を派遣する。...運が良ければ特色をだ...」
「分かりました。報告だけは欠かさないようにします。援軍は...必要な時は要請します。」
そして最後に、神居さんはケースの奥へ手を伸ばした。取り出されたものを見た瞬間、僕は思わず目を細める。
「……E.G.O*10まで持たせるんですか?」
「そうだ。ジャスティティア*11を使えロボトミーコーポレーション*12から無償提供だ。」
僕は渡されたジャスティティアを手に取った。グロック17、弾薬、記憶処理剤、記憶補強材、食料、K社の回復薬、特殊な携帯、そしてE.G.O。改めて装備を確認すると、今回の任務が単なる視察ではないことを実感する。
未知の世界、異常存在、交渉、そしてE.G.O
「O5は、随分と僕を信用しているみたいですね」
「信用してるなら、もっと難しい仕事を渡してるだろうな」
「……それもそうですね財団に言わせてみればバカンスですから...一風変わった死の危険性のある」
僕は苦笑しながらジャスティティアを装備へ収めた。これから向かう場所がどんな世界なのか、僕にはまだ何も分からない。分かっているのは、そこへ僕が行かなければならないということだけだった。
「それでは、無駄話をやめて僕は出発の準備をしてきます。」
「忘れ物だけはするなよ。向こうで取りに戻るのは面倒だからな」
「そこまで間抜けなことはしませんよ」
「ならいい。あとは好きに準備してこい二時間後ここに集合だ。」
「分かりました。それでは、失礼します」
僕はケースを持ち上げ、神居さんへ一礼してから部屋を出た。扉が閉まる直前、ふと振り返ると、神居さんは椅子に座ったままSCP-1887-JP-Cの報告書を眺めていた。その表情はいつものように落ち着いていて、何を考えているのかは分からない。ただ、ほんの一瞬だけ、何かを考え込むように目を細めていたのが妙に印象へ残った。
廊下へ出た僕は、ケースを持ったまま歩き始めた。幻想郷。財団がようやく存在を確認した、未知の異常世界。そこには人間だけではなく、妖怪や妖精、亡霊、神格存在など、こちらの常識では測れない存在が暮らしているという。そんな場所へ僕が向かうことになるなんて、少し前までの僕なら到底信じなかっただろう...僕はAクラス職員なのだから。
それでも、O5から直接命令が下された以上、逃げることはできない。僕には僕の仕事があり、戦術神学部門にも片付けなければならない仕事が山ほど残っている。それを他の職員へ引き継ぐことには多少の罪悪感があるが、異世界へ向かう以上、仕方がないと割り切るしかなかった。
ただ、最後に神居さんが見せた表情だけが、どうしても頭から離れなかった。あの人が何を考えていたのか、僕には分からない。けれど、長年財団にいる神居さんがあんな顔をする時には、何か面倒なことが起きる。そんな妙な予感だけが、僕の中に残っていた。
「……本当に、とんでもない任務になりそうですね」
僕はそう呟きながら、出発の準備を始めるため、自分の部門へ向かって歩き出した。
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