わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
『秋原の熱剣』こと戸枝小春は悩んでいた。
それは無論、諏訪みことなどという迷惑な後輩のこともそうである。
これといって余計を許さない戸枝小春は、迷惑な後輩とハッキリ言う。
ついでに、先の白夜とのチーム戦で白夜の寄藤環に『レーヴァティン』を真っ向から打ち砕かれたことも、悩みの種である。
「『世界の終わり』を突き破る、『名も無き者たちの咆哮』、ですか……」
ふうむ、と廊下を歩きながら頭を抱える戸枝。理由は幾つか考えられる。
あれは死人の怨念の集合だ。『終わっている者』だから『終わらせられない』。
あれは『名も無き者』たちだ、終わらせるにしても『何を?』という対象を見つけられない。
とはいえ、そういうのをまとめて『世界ごと終わらせる』のが戸枝小春の炎、『主役の光』だが――
「――『主役の光』である分、特効がのりましたか、いえ。その後か――」
仮設でしかない。『私だけの春を求めて世界を終わらせる』それが彼女の矜持ならば――確かに『何者にもなれない怨念』は、『お前だけ春には行かせない』と追いすがるだろう。
「色々と考えることが多そうですね、寄藤さん相手の時は――」
ぽんっと指先に火を起こし、それを消しさる戸枝小春。
そもそも己が振るう『異能』がなにを操るか、それを先に知るべきだろうか――などと考えながら、部活棟の扉を開けると――
「あ――」
などという、諏訪みこと、中学生。それと望月干果、一年生。
「なにをしているの……」
思わずため息を吐く戸枝に、もはや火災現場を前にした人によって怯えている諏訪ではなく望月が答える。
「ああ、いやあ……ほら、この前の洛陽との練習試合をね? こう、うまく……」
「あ~……」
なるほど、確かにそれは望月が適任であろう。
戸枝小春であれば、もう他意はなくとも言葉だけで諏訪みことを『終わらせて』しまうかもしれぬ。
「……とはいえ、まあ自衛力は上げて貰わないと困りますね」
もう、『念話を途中で切った』などという愚挙については触れず。
『念話以外』でもやれることが多いのが、諏訪みことである。
先日の白夜との練習試合――退部済みの杉森先輩を数合わせに入れていたとはいえ、実質的に『四体五』であった。
このまま助っ人で回していくのも、もったいない。
そして諏訪みことが来年の『主役』を唄うならば、猶更今から鍛えるべきだと余計を許さぬ『主役の光』は考える。
――故。
◇
「さて、やりましょうか」
さっさと練習場の扉を開けて、諏訪みことと対面する。
しかし諏訪が珍しく怯えていた。魔力量を絶対基準とする彼女にとって、規格外の魔力を持つ『秋原の熱剣』など、『勝てるわけがない』対象なのだ。
「ああ、『レーヴァティン』は抜きません。炎は抜きますが――あと、そうね。剣も一発だけ」
などと、ハンデを置いていく。無論戸枝にはハンデのつもりはない。
どちらかというと現状の自分を把握したいだけである。
また、『レーヴァティン』も『一キロを焼く炎』と聞けば恐ろしいが、やはり炎だ。
『クサナギ』のように両断はしない。木々などであれば燃やし尽くせるだろうが、耐熱性が高く不燃性のような場合、余波で砕ける程度以外は『炎は表面を舐める』。
無論表面は『終わる』が。
――故に、やはり『遮蔽』は問題なのである。
――などという『レーヴァティン』の今更な説明はさておいて。
「『高天原より地を降り。征くは葦原中国の総て』」
さっそく諏訪の詠唱が始まっている。
望月の方をちらりとみるが、首を横に振っていた。
まあいいか、どの道試したいことは別にあるし――などと思いながら、熱剣を片手で握る戸枝。
「『礼讃せよ。喝采せよ。叢雲抱いて降りたつ神を』」
彼女の『異能』は『嵐』と『雷』、そして『念話』と『道理無視』――ならば、丁度良い教材である。
「――『降神。スサノオ』」
瞬間放たれる雷撃をひょいっとさけつつ、望月に目を向ける。
「望月さん、試合開始の合図ください」
「はいはい、試合開始~」
「では――『秋原の熱剣』、“勝負”をしましょう」
そういって、『レーヴァティン』ではなく、ただ模擬剣に炎を纏わせる戸枝。
それで飛んでくる雷鳴を打ち落としているのだが――
「ふうむ……」
少し、考える。
あの『主役』は、実に分かりやすく動いてくれる。
戸枝小春は主役を謳うもの、故に諏訪みことの主役願望を否定はしない。
とはいえ、荒いのはまあ中学生だし――と思いつつ、じっと彼女を観察する。
たとえ今年の優勝者であれ、たとえ今年の『謳われた者の一人』であれども。
「わたしの剣は炎そのもの――では、炎とはなにか?」
――『秋原の熱剣』戸枝小春は、現一年生最強は、まだその歩みを止めてはいない。
「世界よ、終われ。私と共に、私以外の全てを焦がせ」
魔力を込めないまま、その矜持を歌う。
その唄を、改めて見直す。つまり己は炎そのものでもある。
そして『世界の終わり』。
「炎の剣」
そして、なによりも『炎の剣』。
「主役の光」
そして、なによりも『主役』――まさに諏訪みことと同じく。
故、そこに込められている矜持は、やはり――
「世界を丸ごと焼き尽くし、私だけの春よ来い――」
世界を終わらせる主役の光。
それは『焼き尽くす』というものではなく――
「ふむ――であれば、こうでしょうか……」
飛んできた雷鳴を三つほど熱剣で奪い取り、その雷鳴を炎へと『変換した』。
雷撃を熱へ、熱を炎へ。当たり前に『発火』という現象に書き換えた。
「――――!?」
なにやら驚いているようだが、現状の戸枝の思考はそこにはない。
我は『炎の剣』である。そして『炎』とはなにか。
では、『雷』はどうだろう。雷は電気の放出だ。だが、その電気は『空気を加熱している』。
つまり、炎と雷は別物でありながら、熱という一点で繋がっている。
――ならば電気を熱へ、熱を発火へ変換していくのは『炎の剣』の真骨頂である。
少なくとも、戸枝小春の理解としてはそうである。
「ふむ、であれば……」
そうなると己の操る『炎の剣』とは、ただしくは『熱量の剣』なのかもしれぬ、などと考えながら、さらに激しく飛んでくる雷鳴の熱をまとめて『炎』に置換しながら、約束通り剣は振るわずに、すたすたと歩いていって。
『あ~、地面が濡れているなぁ』
などというあからさまなスっさんからの助言を聞いた諏訪は、さっそく両足を叩きつける。
なるほど、主役を歌うならばそのぐらいの大技は見せてほしいものだ、などと戸枝は思いつつ―――
「雷鳴よ――!」
「――ですが、この場の主役は私ですので」
雷鳴が地面を燃やした瞬間――その熱に自分の魔力を込めて発火させ、すべて、『己の炎』に置換した。
練習場はあっという間に灼熱の檻に。あとはまあ『レーヴァティン』を撃てば終わるが――
「約束は、約束ですからね――」
燃え上がる道を堂々と歩きながら、戸枝はさらに考える。
そも『異能』とは魔力を使った強制力――そして魔力はエネルギーだ。
ならば相手の魔力を発火させる、というのも可能なのではないだろうか?
などと想いながら、苦しんでいる迷惑な後輩の首元に剣を置いて。
「はい、『終わり』です」
面白い学習結果は得られたか。
これなら『ノーバディ・ロア』とやらの怨念も、炎に変えられるだろうか。
それならどちらの強制力が上か、などと悩んでいると――
「――『高天原に、称えよう」
おや、と剣を向けたままの諏訪から声がする。
「『これは、彼の邪蛇より奪い取った、奪い取った『大和国の剣』である」
ほぼあとは剣をサクッするだけで終わるのだが、敢えて待つ。
「――『抜剣。アメノムラクモ』」
を、ひょいっと避けて、あとは本当に『約束通り』一発、炎を消した『剣』で、諏訪の頭を叩いた。
「いって」
「まあ、『主役』を唄うなら、潔い引き際ぐらいは覚えなさいな……」
はあっとため息を吐きつつも、まだ未熟な主役に声をかけておく。
あとはもう模擬剣は収めて、背中を向ける戸枝。今の考えをもう少しちゃんと整理したいなどと思いながら――
後ろから飛んでくる雷鳴を当たり前に避けながら、『秋原の主役』は、帰路につく。
今年こそ『秋原の神剣』に最後の一撃を決められた。
それは友だちの成果だし、チームの勝利だし、無論喜ぶべきことではあるのだが――
「かといって、そちらばかり持て囃されるのも、やはりね」
――『秋原の熱剣』は、『主役の光』は、現一年生最強は、いまだにその歩みを止めないのであった。