わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
燕さ――『白夜の聖剣』、逸見さんとの二週間の修行を終えたわたしは、みんなの修行場所へと戻った。
戻ったんだけど……そこにあったのは、わたしの知る村ではなかった。
少し残っていた建物はほぼ全焼、黒焦げ。
緑豊かな森林は、除草剤でも撒いたんじゃないかってくらい枯れて、あと燃えてる。
おまけに、爆撃にでもあったかのようなクレーターがいくつも空いてる。
少なくともそこに、わたしの帰る場所
それにほっとするような。
でも、少しだけ寂しいような。
複雑な心境。
「さて。本戦まであと二週間で、佐守ちゃんも本格的に加わった!」
そんな、微妙な感傷を打ち消す、先輩の明るい声。
「でも、やるべきことはこれまでと変わらない。今度は『一年生三人』で、『私と山名』をぶっ倒してみろ! ここからは、あたしと山名もそこそこ本気で行くからさ」
にやりと笑みを浮かべて槍を背中に抱える水野部長。
今日は結構好調なのか、以前の鶴久との練習試合で『絶剣』を含む二年生三人対一で互角に渡り合っていた時のような雰囲気がある。
おまけに、山名先輩も……いつもの狙撃銃に、なんか見覚えのない剣……? ナタ……? みたいなのを握っている。
「課題も、長所も、短所も、いい加減自覚してきたころだろう? さあ、この二週間でどこまで伸ばせるか、見せてみな」
雷鳴が轟く中で、海神の化身は笑っていた。
◇
それからの二週間はほぼ怒涛。わたしは、強くなっていた皆に驚きっぱなしだったし。
わたしたちは徐々にチームワークがついてきたけど、やっぱり水野部長と山名先輩同時だとキツイ。
特に戸枝さんの終の熱剣と、望月さんの吸血の夜は相性最悪で、気をつけないとお互いに足を引っ張り合う結果になる。その辺のやり取りを上手くしたいんだけど、中々上手くいかず……。
結局、『一年生三人』で『先輩二人』を倒すという課題は、クリアできないまま帰りのバスに乗った。
でも一応、個々人の課題は何となくクリアした、ような?
わたしはちゃんと体力をつけたし、基礎はあの『白夜の聖剣』直伝だ。
戸枝さんの剣技も、なんだか凄く……激しくなっていたし。
あと、望月さんも……? 彼女の課題は知らないけれど、何故か『異能』が変化してた。
一か月の成果としては、中々の仕上がり――なんじゃないだろうか?
そんなことを思いながら、バスの中から窓の外を見る。
少しずつ、あの村が遠ざかっていく。
いいや、もうあそこに村はない。
わたしが帰るべき場所はない。
あるとすれば、それは――
「――佐守さん。ぼうっとしない。置いていきますわよ」
多分、この『私立秋原女学園』だ。
◇
「疲れたぁ~……」
一か月ぶりの自室に戻って、着替える間もなく布団の上にダイブする。
『うん。……とはいえ、かなり体力はついたようだ。体も、健康になっている』
そうしたら、なんだか久しぶりに大蛇さんの声も聞こえた。
『……良いことだ。ちゃんと肉付きがある方が、己も食いでがあるというもの』
……大蛇さんは、まだわたしを食いでとして見ている。
『なんだ。今更なしとは言わんだろう。……いや、言ってもいいが、まあ』
何かもにょもにょしてる大蛇さん。
変なの。でもたしかに約束した。わたしに食いでができたら、大蛇さんはわたしを食べてくれるって。
そう言えばあの時からこの蛇との共同生活は始まった。
……ちょっとだけ、聞いてみようかな。
『うん。今の己は気分がいい。何でも答えてやろう』
あの村だったものが、わたしの育った村でいいの?
『……そうだな。御前はあの村でクシナダの代わりに育てられた。
その理由は、吐き気を催すものだったが』
村に行って、少し記憶が鮮明になったからか、大蛇さんの声でノイズがかかっていたところが、ちゃんと聞こえるようになった。
くしなだは、何か聞いた覚えがある。
昔のお姫様ってこと以外はあまり教えてくれなかったけど。
そのためにわたしは大切に育てられたんだとか。
……分かった。それで、大蛇さんがわたしを食べるのは『運命』なの?
『否、それは“約束”だ。滅んだ村の宿願なぞ、今更叶えても仕方あるまい』
じゃあ、わたしがそれを嫌だといったら?
『どうもならん。どうもならんが……そうだな。今の御前では、また無能に戻る』
無能。――つまりいつもみたいにお気に入りの動画配信者を見て、いつもどおりに寝て起きて、学校に行く生活に戻るってこと。
『ああ。……ただ、不可逆な変化は、ある。あの悪夢はもう見ない。それに――』
それに?
『学園も』
学園生活での扱いも変わるはずだと、蛇さんは言う。
たしかにあれだけ戸枝さんに脅されてたのなら、わたしへの扱いは変わるだろう。
わたしが無能かどうかはともかく、またあの腫れ物扱いに。
『……嫌そうだな。その扱いか。それとも、友とのことか』
……両方かな。
『うん。前はともかく、後はなんとかなろうよ。御前の友は、そんなたまに見えん。あの浮気性もな』
あ、蛇さんも浮気性とかって呼ぶんだ。
でも、わたしが嫌だと言ったのは、そういう面ではなくて――
『うん。御前を、心配するだろうな』
「…………」
『……けったいなものだ。あれだけ身捨てのような技ばかりして、御前は心配するなという。二律背反だ』
……わたしよりも難しい言葉を使わないでほしいと思う。
『……だが、そうはならん。そうはならんよ。御前が、気にしすぎなければ。御前はあの女共の友でいられるし、己もまた食いでがでるまで眠りにつく』
わたしがまた食いでがでるまで/けれど、それではきっと遅すぎる。
ただ、戸枝さんや望月さんと友だちになって。/大蛇さんが消えちゃって。
それでおしまい。それだけのハッピーエンド。/大蛇さんは、もういない。
――だから、そんな運命は斬り捨てる。
「ねえ、大蛇さん」
『うん』
「約束、してね。わたしに食いでが出たらちゃんと食べにくるって」
『…………』
珍しく、声が返ってこない。
なんでだろう、彼がずっと言ってきたことなのに。
『……約束なら、以前した』
「あれ、わたしが答える前にぶん投げたじゃん……」
『そうだな、だからあの“約束”は無効だ』
ああ、やっぱり。
やっぱりこの蛇、そのつもりだったんじゃん。
なんだ、この嘘つき大蛇。
「なら、あらためて。わたしとあなたで、“約束”をさせて」
ここは神前でもないけれど。むしろもっと禍々しいものだけど。
それでも“約束”する。
「わたしが至高に至った時に、あなたはわたしを、食べにきて」
『…………は』
大蛇さんは笑ってた。
それは嬉しいからなのか、悲しいからなのか。
分からないけど、少し寂しそうに。
『…………いいだろう。それが己と御前の“約束”だ』
再度の約束。
今度は、前みたいに一方的じゃない。
わたしと“彼”との約束だ。