わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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第14話 第一回戦と、『雪崩』のような日(後編)

 彼女――薄い灰色がかった、鈍い髪。

 あんまり手入れしていないのか、ぐしゃぐしゃと荒れた感じ。

 

 なんだろう。すごく、よく知っているけれど。

 でも、絶対にわたしには出逢わない/だって、それはわたしだから

 なのに誰か(わたし)を思い出せる、鋭い『圧』。

 飢えた狼を思わせる彼女は、真っ直ぐ『白夜の聖剣』へ詰め寄った。

 

「逸見先輩! またどこに行っていたんですか!?」

 

「寄藤。私は、普通に他校に挨拶をして回っていただけだよ」

 

「それは大事、ですけど……ともかく! ちょっと、またその感じでふらりと消えられたら、わたし達だって、困ります!」

 

 寄藤……さん? 彼女は、それからキッと、わたしの方を見た。

 その瞬間に、凄いピリピリとした圧が、肌にかかる。

 

 なんだろう/彼女は、寄藤さんは。

 その感じは/わたしと、佐守あおと見た目は違うのに、よく似ている

 凄く理不尽なのに、凄く怖い/だから、今、彼女が自分に向ける感情が分かってしまう。

 

「あんたが――『佐守あお』」

 

「ひっ――」

 

 録音した自分の声を聞いた時みたいな、違和感のある嫌な声。

 思わずびくりと身体が震えて、わたしは『終の熱剣』、戸枝さんに抱き着いた。

 彼女の肌を感じていると、安心する……から……。

 

「佐守さん、落ち着きなさい。挨拶もまだでしょう?」

 

「寄藤も落ち着け。君もそうピリピリするな。怖い」

 

「「――――ん」」

 

『熱剣』と『聖剣』――二人の『剣』から言われて、わたしたちは同時に黙る。

 

「うん。……ええと、そうだな。ここは『白夜の聖剣』として、私からそれぞれ紹介しよう」

 

「なぜなら、現状双方を把握できている唯一の人だ」と『聖剣』は言った。それはまあたしかに……。人かはおいといて。

 そうしていると、まず逸見さんは隣にいる、その――狼みたいな子の肩を叩いて言った。

 

「まず、この娘は寄藤。寄藤環だ。うち――白夜高校の生徒で、一年生」

 

「……よろしくおねがいします」

 

 すっごい素直。だけど、すっごい不服そうに、彼女――寄藤さんは頭を下げる。

 ……いや、今のは下げたのかな? なんか顎をしゃくっただけにも見える。少なくとも、内心は絶対によろしくしてない。

 

 でも、それを見ていた『聖剣』さんは苦笑――のような何かを浮かべて、頷いた。

 逸見さんからすると、まあ『ギリギリ許せる無礼の範囲』だったのだろう。

 

 その後で、その寄藤さんの肩を叩いて。

 ――というか、掴んで。……なんかこう、今にも飛び掛かりそうなのを無理矢理押さえながら、今度はわたし達の紹介をする。

 

「それで、寄藤。君にはなぜか分かったようだが、まずこちらが『佐守あお』さんだ」

 

「――――」

 

 寄藤さんと目が合う。瞳が揺らぐ。

 ……なんだか、気分が、ひどく悪い。

 

 なんだっけ。ドッペルゲンガー? わたしと同じ顔をしているやつ。

 彼女とは、顔も背丈もちっとも違うのに。なぜだかそれを連想させた。

 

 ただ、ココで問題なのは、どちらがどちらかは分からないこと。

 わたし(あなた)と、あなた(わたし)、いったいどちらが『偽物』なのか――

 ふと、こんと肩に温かい熱がこもった。戸枝さんだ。

 

「――佐守さん、挨拶」

 

 あっ。

 

「さ、佐守……あおです……」

 

 よろしく、おねがいしますといってペコリと頭を下げてから、わたしは戸枝さんの腕に抱き着いた。

 戸枝さんから伝わる熱。これで何とか……わたしはわたしで、いられる。

 わたしは彼女とは別人なんだと、自分に言い聞かせる。

 

 その後、逸見さんは、今度は戸枝さんを示して言った。

 

「それから、こちらが戸枝小春さん。彼女は凄いぞ。私にも迫る。きっと二年後には、絶対に今の私より強くなっている」

 

「……は、はぁ!? 先輩、それは――!」

 

「よろしくおねがいします。寄藤さん」

 

 相変わらずの狂犬病を相手にしても、まるでその扱いには手慣れているかのように、戸枝さんは堂々と前を向いて、頭を下げた。

 

 綺麗な一礼だ。『白夜の聖剣』に勝るとも劣らず、ましてやわたしや寄藤さんとはまるで違う。だって、彼女が背負う自負と覚悟は、誰かに依拠することのない、彼女だけの焔(ほこり)なのだから。

 

 一方、首輪を握られた狂狼は、余計に『聖剣《かいぬし》』の腕を強く握っている。

 …………なんだか、すごく気分が悪い。汚れた鏡をみているようで、吐き気がする。

 

 『熱剣』の腕を握りながらそんな所感を浮かべていると、『白夜の聖剣』、逸見さんはやれやれと首を横に振りつつ、わたし達三人に纏めていう。

 

「君らは同年代だ。私や水野が卒業しても続く縁だぞ? もっと大切にしなさい。仲良くしろ……とまでは言わないが、少なくとも『選手としての礼節』までは、忘れるな」

 

 それすらも失えばただのチンピラ。誰にでも噛みつく狂犬は選手ですらないと『聖剣』は語る。

 

 でも、そんなことは、多分今の彼女にはどうでもいい。

 『白夜の聖剣』は三年生だ。今年が終わったら、もう卒業してしまう。

 

「…………っ」

 

 ……そっか。

『わたしにとっての、今の戸枝さん』を、先に彼女は失うんだ。

 その大事な二週間を奪った相手――それが、わたし。

 

 ――それは、うん。

 恨まれても仕方がない。

 この熱を奪われるだなんて、今のわたしには思いたくもない。

 

「……逸見先輩」

 

「うん。どうした、寄藤」

 

「わたしは我慢を……しました――! が――!」

 

 ぐいっと無理矢理、あの『聖剣』の腕を剥がして、彼女はわたしに近づいてくる。

 凄い。あの『聖剣』の腕からも今この瞬間は逃れ、鏡がわたしを覗きこむ。

 

「いい? 今から、あなたに言うこと、全部ただの事実だから。あんたは、それを黙って聞きなさい」

 

「え、は――はい!」

 

 めちゃくちゃにピリピリとした『圧』を受けながら、わたしは答える。

 

「まずあんた、『佐守あお』。わたしはあんたを絶対に許さない。必ず『殺す』。なぜかというと、『わたし』――いいえ、まず『白夜高校』の貴重な、大会前の、二週間を、あなたがぜんっっっぶ奪ったから!」

 

「そ、それは――!」

 

「寄藤、その話は」

 

「今の言葉のどこかに違う点でもあった? ないでしょうが。なら、まず、あんたは受け止めろ」

 

「はい……」

 

 ……そうです。

 まったくもって、申し開きも御座いません。

 

 多分、『白夜高校』とか、本当はどうでもよくて。

 『わたし』から『聖剣』を奪ったというところが、彼女の、寄藤さんの大事な一点。

 だから、この殺意はあまりにも正しすぎる。

 

 殺意に正誤もなにもないかもしれない。けれど、立場が逆ならわたしもまったく同じことをしただろうから、わたしは彼女の殺意を肯定する。

 

「……佐守あおに、わたしから伝えることは全部終わったわ」

 

 言いたいことだけを言った寄藤さんは、「ふう」と、小さく息を吐いた。

 マウンティングを終えて満足した狼のように。

 

 ――けれどその牙は、すぐ『次の標的』へと向かう。

 あ、ダメ。それは。

 

「――で、その佐守が抱き着いている、あんたが例の『戸枝小春』」

 

「……ですが、なにか?」

 

 戸枝さんはどこ吹く風というよりも、そもそもまるで気にしていない。

 これだけの遠吠えを受けても尚、彼女は『そんなものはこれまで散々通って来た道だ』とでも言わんばかりに、怯えることもない。

 

 だけど、『それ』を、彼女を、『主役の光』を、穢すことは――

 

「――『終の熱剣』ねえ。『白夜の聖剣』と同等の一年生――なんて、噂されてるけど? そもそも、広島の中堅高に入学して噂されて嬉しいワケ? わたしだって同じ位の魔力りょ――はぐっ!?」

 

「え」

 

「は」

 

 あ。

 しまった。どうしよう。

 

 本当に、言葉より先に手が出ることってあるんだ。

 

 でも、こんなの人生で初めてで、わたしは突き出した拳をどうすればいいのか、困っていると――

 

「あ・ん・た・ねぇ~~……」

 

 床に膝をついていた寄藤さんは、しかしプルプルと震えながら、自力で立ち上がった。

 

 ……その根性には、素直に感動している。なんなら、少し好感度は上がってしまった。

 けれど、問題はここからだ。

 

 試合中ならともかく、ただの道端での暴力沙汰なんて、わたしは全然慣れていない。

 怖い、どうすれば――

 

「……そんなにやりたいなら、ちょっとツラ貸しなさい。試合前なんだし、模擬剣持ってるでしょ」

 

「え、いいんですか? やりましょ――んぐ」

 

「――お待ちなさい」

 

 なんだ。それなら話は早い、と思っていたのに、戸枝さんに口を塞がれた。

 

「はあ? ちょっと――「待て」――んっ」

 

 そして、当の寄藤さんも逸見さんに「待て」と言われて、なんかしゃんとなった。

 しかし、なにゆえ――?

 

「すまん逸見。今回は完全にウチの落ち度だ。なんなら代打でウチの部員貸す――てか、あたしが出る」

 

 なんて、水野部長が言い出す始末。

 ……なんで? この人さっきまで二万だか四万だか踏み倒そうとしてた人なのに。

 

「いや――うん……いや、そうだな。まあ、その……うちのも、無関係な戸枝さんにまで嚙みついたのが、よくないと、思う。……ダメだろう、寄藤。試合前に余計な消耗をしたら」

 

「はい……」

 

 あ。そうか。

 ……そうじゃん。いまから大切な試合じゃん。

 なのに、その前の余計な諍いで体力を消耗するのは、時間の無駄、というか……。

 

 ――普通に、わたしが、悪い、のでは?

 

「んぐ、ぐっ」

 

 さすがにごめんなさいと言おうとしたのだけど、戸枝さんに口を塞がれていて言えなかった。

 そうしているうちに、逸見さんはこちらに背中を向けて。

 

「じゃあ、また――そうだな、試合では『新技』を見せるよ。あと貸しを忘れるなよ。ほら、行くぞ寄藤」

 

「は、はい……」

 

 しょんぼりした感じで逸見さんについていく寄藤さん。

 なんだか、飼い主に叱られてるわんちゃんみたいだ。

 そう思っていたら、ないはずの垂れた耳とシッポが見えてくる気がする。

 

 ――などと思っている場合ではなく。このままでは、わたしが、完全に悪なのでは……?

 

「ぷぁっ――ご、ごめんなさい……!」

 

 とか思っていたら、やっと戸枝さんが手を放してくれた。

 でも、その謝罪の言葉をいう相手は、もう控室を出ていってしまっていた。

 

 しょんぼりしていると、さっきまでわたしの口を塞いでいた戸枝さんが、わたしの耳元に口を寄せて――

 

「……まあ、先程の一撃自体は、あなたが悪いとは思うのですけど」

 

 と、ちゃんと釘を刺した上で、少し気恥ずかしそうに。

 

「ただ、私のために怒ってくださったのは嬉しかったですし、寄藤さんのおっしゃることも間違っていませんので……。何と言いますか、私の落ち度でもあります」

 

 とか――え?

 

「……ええ、まあ。『私の実力なら、どこへ入れば噂になるか』という考えが、入学希望にまったく無かったかと言われると……言えませんから」

 

「もちろん、家庭の事情だとか推薦や併願もありましたが」なんて言ってくれるので、「じゃあいいか」と少し思った……のだけど、これまでずっと黙って、知らぬ存ぜぬを決め込んでいた望月さんがこちらを向いて。

 

「いや、あれは佐守さんが悪いと思うよ」

 

 ……ダメかぁ。

 

 なにはともあれ……グチャグチャだ。

 今から一回戦なのに、その前から『白夜の聖剣』とのランダムエンカウント。

 おまけに多分わたしだけ、ドッペルゲンガーとの遭遇なんて不吉なことが起きてしまった。

 こんな心情でまともに試合ができるのか。試合中に立て直せるのか悩んでいると、ふと――

 

「……ま~、しかし、エグいなあ『白夜の聖剣』。あいつ、なんなんだ、マジで?」

 

 そうぼやくのは、白夜の二人が去っていった方を見る、水野部長。

「やっぱ、そういう怪異の類だろ」とか、吐き捨てている。

 

 わたし達の前では頼れる背中だった水野部長も、やはり今の……寄藤さんはおいといて、『白夜の聖剣』との遭遇で少し心をかき乱されていたらしい。

 後輩の前だから、耐えてくれていたのだろうけど、なんなら今すぐにでも槍を抜いて、『白夜の聖剣』が去っていった方に投げつけそうな雰囲気があった。

 

「あ~……『コレ』を、今から灘魏もされるんだ。ありえんだろ。も~、さぁ~――」

 

 バチリ――と、水野部長の全身から火花が散っている気がした……。

 

◇

 

 今回のフィールドは山岳地帯。

 別段珍しくもない、日本の山脈地帯の高速道路とかでよく見るような、どこにでも大体広がっているような光景だ。

 なんなら――そう、わたし達の合宿場によく似ている。

 

 ――そして、だからこそリアルに分かってしまう。天災が起こった時の恐怖が。

 しかもわたし達の開始位置は、向こうの開始位置よりも『下』にある。

 ただでさえ有利な高台に、身も蓋もない『雪崩』が降ってくる。

 

 一応中間地点には『山頂』が彼我を分かつように立っているけれど、そこに到達するのは、秋原よりも灘魏の方が早い。

 

 ……こんなの、どうすれば?

 ぽかんとしていると、山名先輩がこほんと咳払いした。

 

「落ち着け。まず作戦通りに、一年三人は最速で相手の大将を狙――」

 

「――あー。ごめん、山名。その作戦、一旦無し」

 

 その言葉に異を唱えたのは、他ならぬ水野部長だった。

 いつもどおりやる気の無さそうな表情で……でも、なんか。

 

 ……なんだか、今の水野部長は、怖い。

 触れたらばちって、静電気が流れそうな感じ。

 飄々として、気だるげな雰囲気は変わらないのに。

 

「あー……ああ、はい。そういうことですね」

 

 と、なにか得心がいったのか、山名先輩は頷いた。

 けど、わたしや戸枝さん、望月さんにはその意味が分からない。

 なにか別の作戦がある……とか?

 

「んや~。作戦とか大したものじゃないよ~」

 

 水野部長が答える。それと同時に、試合開始のブザーが鳴る。

 作戦を決めていないから、わたし達はまだ動けない。

 動けないけど。

 

「――『抜槍。トリアンナ』」

 

 水野部長は、槍を抜いた。

 いつもの詠唱も無し。詠唱を短縮してもある程度の力があれば、『異能』は顕現できる。

 

 けれど、もちろん威力は落ちる。落ちる――はずなのに……。

 

「まったく……せめて、決勝戦で『コレ』されんなら、よかったのにさぁ」

 

 水野部長の髪は逆立ち、全身からは戸枝さんと変わらないほどの魔力が迸っている。

 

「山名~? 目印だけあげてくれる? あたしじゃ大雑把にしか狙えないからさぁ」

 

「了解っす」

 

 言って、山名先輩は狙撃銃を空に向けた。

 ぱんっという乾いた音。それから敵陣地の頭上に光がチカチカ上がる。

 

 ……花火みたいだと思ったけど、あれはたしか照明弾とかいうやつだ。

 当然、攻撃力もないし、向こうも全然警戒していない様子……。

 

 けれど水野部長はその照明弾に向けて、槍の穂先を向けた。

 あの構えは――槍投げの構えだ。

 

「ま、一回戦からうちの『秘策』は見せたくないし? そういう意味では、良しとしましょう」

 

 ――穂先が光る。

 水野部長の態度はいつも通り――どころか、いつも以上に脱力しているのに。

 

 その力は、その『異能』は、あまりに規格外すぎて。

 

「――じゃ、『割る』ね」

 

 そんな、本当に気軽な一言と共に、水野部長は山名先輩があげた照明弾に向けて、無造作に槍をぶん投げた。

 

 瞬間、ピカって光って。

 それから少し遅れて、轟音が鳴り響いた。

 

「……!?!?」

 

 雷鳴、轟音。その衝撃波は遠く離れたこちらにまで届く。

 木々が圧し折れて、わたしは危うく飛ばされそうになるのを、後ろにいた戸枝さんに抱えられた。

 

 でも、向こうの方が被害は甚大だ。

 燃えている。消し飛んでいる。何もかもが壊されて、消え失せて――

 

 それから脱落のブザーが五回、続けて試合終了のブザーが鳴った。

 

「……え?」

 

 五回ってことは、五人。相手の全員。

 噂の『アバランチ』も纏めて、先輩の雷が消し飛ばした……?

 

「は……」

 

 声は、わたしを抱えてくれた戸枝さんから。上を見ると、戸枝さんも放心していた。

 

 あの『熱剣』が、茫然と立ち尽くしていた。

 望月さんも声はあげてないけど、同じような表情。

 

 一方それを成し遂げた水野部長は。

 

「ふぃ~……」

 

 なんて、弱々しい声をあげてその場に仰向けに倒れていた。

 

 それから、部長以外で唯一状況を理解している山名先輩が呟く。

 

「……これが、水野部長の『絶好調中の絶好調』。

 本当なら年に一、二回あるかないかだけどね」

 

 なんてことを、説明してくれたのだった。

 

◇

 

「わたし(私(僕))、いらないんじゃないですか?」

 

 試合終了後の控室で、思わず呟いてしまった。

 戸枝さんや望月さんもまったく同じ感想だったらしく、綺麗にハモった。ちょっと嬉しい。

 

 いや、それはそれとして――

 

「あの……『あれ』ができるなら、もう全部水野部長一人でいいんじゃ……」

 

「いや~。そんなことはないよ~。『あれ』、本当に『絶好調中の絶好調』の日にしか撃てないし」

 

 一方の水野部長は打ち上げた時とは打ってかわって、へたりこんでいた。

 普段からだらだらしてる人だけど、今日は本当にやる気が無くなってる感じ。

 

「しかもだよ~? まともに威力も操れないんだよねぇ……さっき山名も言ってたけど、年に一、二度しかないし。絶対試合がある日ってわけでもないし。なのに溜め込みすぎると自爆するし」

 

「あと、雷対策や加護があれば防がれる」とか、ぼやいていた。

 ……水野部長は不満気だったけど、何となく目黒さんが警戒してた理由が分かる。

 

 だって水野部長と対峙する限り、『今のが飛んでくる可能性』が常にあるのだ。

 そして水野部長の調子は、相手にも、味方にも――なんなら当人だって意識してないかもしれない。

 なによりも『聖剣』逸見明音にすら「君は読めない」と言わせた女。

 

 本当の意味での『天災』だ。当たったら不運っていう意味で。

 

 ……怖すぎない? この部長?

 

「え~~……怖くないよ~。あたしゃ、あの『怪異』と違って、気楽で気軽な部長さんなんだから~」

 

 その気軽な部長から『あれ』が飛んでくるのが怖いんですけど!?

 そりゃあ現三年生の五指に入るよ……。

 

「まあ、どの道『レーヴァティン』よりは火力低いよ……多分だけど。あと効果範囲も、知らんけど」

 

 しかも、凄い雑だし……。とか思っていると、戸枝さんがコホンと咳ばらいをした。

 

「えー……あー……とりあえずこれで、秋原は一回戦突破……ということでいいですのよね?」

 

 まるで実感は分からないけれど。と戸枝さんは呟く。

 うん。わたしも。……そもそも戦ってないし。

 

「ま、そうだね~。……つっても、本当に『コレ』は不条理だからさ。二回戦からは、ちゃんと働いてもらうよ~」

 

「あ、はい……」

 

 本当に恐ろしいことに、これがわたしの『国異』の初戦となったのだった……。

 

 

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