わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
一回戦で無事……無事に? まあ、一応無事に勝利を迎えた後。
なにかの天災が起こったせいで、試合時間がとても早まってしまい、次の試合準備まで時間がかかるらしい。
なぜだろう……。理由はひとつしか思い当たらないけど、その理由さんは、
「あ~~もう眠い……怠い……でも、アイツの試合を見に行かなきゃならん……佐守ちゃ~ん、飲み物買ってきて~」
と、完全に控室でダラダラモードだったので、どうせ行くならついでに、ということで、わたしだけで皆の分の飲み物を買っていくことにした。
やっぱり望月さんはトマトジュースなのかなぁとか思って聞いたら、「トマトとかなんかすっぱくてやじゃん……」と至極真っ当かつ偏食を見せてくれたので、トマトジュースを買っていくことにした。
そうして、みんな分のペットボトルを抱えて歩いていると。
「あいたっ」
ぼんやりしていたからか、他人と廊下でぶつかってしまった……。
そのせいで、わたしの抱えてたペットボトルが散らばる。
「あわわ……ど、どうしよう」
水野部長の分は炭酸なのに……水野部長ならいいか。
とりあえず拾わないとって思っていると、上から声がする。
「あ~ごめんね? 私が当たっちゃったせいだ。手伝う手伝う」
そんな、優しい声がして見上げる。
そこに立っていたのは、知らない制服を着た知らない人。背の高さは普通の人くらい、髪も長くて、なんだか優しいお姉さんって感じ。
……いや? この制服、どこかで見たような……?
「あ、君。秋原の一年だ」
しかも、わたしを知っている…………?
「え、えっと……ど、どこかであったことが……?」
「あるある。ついさっき。私、卯尾弾世っていうんだ。知ってる?」
うお…………たまよ…………。
卯尾……弾世……?
「さ、三年五指のひと!」
あと、ついさっき対戦したばっかりの人! ちゃんと試合開始前の挨拶で顔を見てるのに、緊張でガチガチですっかり忘れてた……!
「す、すみません! あ、あの……!」
「あー、大丈夫大丈夫。どう見てもガチガチだな~って思ってたし? にしても水野め。こんな小こい子にパシらせるかね。ほんと」
「自分もちびっ子だけど力はあるんだからさ~」とかぼやいてた。
水野部長のことも知っている……ていうか、あの人ちゃんと友だちって言ってた。
ていうか、第一試合……。あのほぼ天災で終わった一回戦……。
対戦相手というよりも、『被害者』と呼ぶのが正しい気がする相手に、わたしはどう言えばいいのか分からなかった。
そうしてたら、『雪崩』こと卯尾さんは、苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
「ん、あ~。アレは気にしなくていいよ? うちらも水野の性質は理解してるし」
ちゃんと天災で終わった、ということも理解していただけているようで。
「――ていうか、なんならうちも初手『雪崩』ブッパしようとしてたし」
なんて、とんでもないことまで白状してくれた。
――え?
「いやあ、だってあの水野相手だよ? 意表つくならもう身も蓋もなく行くしかないなって決めてて。あ、もちろん部員達には避難通達済みね。……詠唱もあと一節だったんだけどねえ。あれは完全に水野に先越されたなぁ」
「私も詠唱破棄で『雪崩』出せばよかった」とか、三年五指の一人はぼやいていた。
それはもう、本当に身も蓋もない話なんだけど……。
「というわけで。あの勝負でなんか負い目とか感じてたら、そんなのないから。単にうちが、そっちの速攻戦に、速度で負けたってだけ。以上! 気に病むな一年生!」
最後の一本のペットボトルを、押し付けるようにわたしにくれる。
それから、にっこりと微笑みながら、卯尾さんは。現三年五指にして、一回戦で何も見せる事ができずに終えた、ひとりの女子高生は。
「は~~! これで私の青春も終わりか~! 最後に逸見の首だけでも取りたかったけどな~!」
なんて、物騒なことを呟いて。
「ま、くよくよしても仕方ない。人生なんて上手くいかないまま滑り続けていくもんさ。それこそ雪崩みたいにね?」
快活に痛快に、だけどちょっと寂しそうに微笑みながら。
「んじゃ、頑張れ一年。頑張れ秋原。水野のことは応援しないけど、君らは応援してっからね~。うちに勝ったんだから、ちゃんと勝ち上がれよ~!」
そんな言葉と共に、わたしは、ありがとうを言う暇すらも無く。
卯尾弾世という高校三年生は、まさに雪崩のように、去って行った。