わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
第三回戦も終えて、いよいよ明日は準々決勝だ。
今日一日の休みはみんなで楽しく遊んだし、景気よく明日に臨みたいんだけど……。
「じゃあ、“勝負”するわよ」
……なぜか、わたしと『終の熱剣』戸枝さん。
それから『白夜の聖剣』逸見さんと、寄藤さんは、夜の試合場で向かい合っていた。
いつだか、彼女に『八つ当たり』をされた時のことを思い出す。
違うのは最初から、『熱剣』『聖剣』が揃っていること。
それから、寄藤さんの殺気が、わたしじゃなくて戸枝さんに向かっていること。
……それは、許せない。許せないけど、一旦事情を聞かないと、わたしが暴れ回ったら、多分すぐに逸見先輩に取り押さえられてしまう。
なので、なるべく我慢して、つとめて冷静に黙る……。
「ええと、これはどういうことですの?」
質問をしたのは、戸枝さんだった。そりゃそうだ。
だって今のところ寄藤さんが、戸枝さんに喧嘩を売る理由がない。
「喧嘩じゃなくて、勝負。今日は逸見先輩にも見られているんだし。佐守あおに用はないの」
…………はあ。
危なかった。さすがに手が出そうだった。
「寄藤……まず聞かせてほしい。これはどういうつもりだ? あとなんで私を呼んだ?」
しかも、かの逸見さんすら事情を把握していない。
この人、事情も説明せずに『白夜の聖剣』を連れてきたんだ……。
ある意味凄い……。
「こいつらが、わたしを舐めてかかっているようだから。わたしの『真の力』を見せてやろうと思って」
舐められてしかるべき人ではないでしょうか、あなたは。わたしも同じだけど。
それにしても、『真の力』というのは……? あの『異能』……『血濡れの魔剣』以上の何かを、彼女は隠し持っているの?
「で、それなら飼い犬の相手は無駄でしょ。わたしは『白夜の聖剣』を継ぐ者――ならば」
「ああ、なるほど。『終の熱剣』である私を打ちのめしたい、と」
『白夜の聖剣』が卒業した後、次を継ぐのは『鶴久の絶剣』武光奏でも『終の熱剣』戸枝小春でもなく、自分だと証明するために。
まずは同年代の『終の熱剣』を、相手に選んだ。
馬鹿げている。
『わたしの戸枝さん』と『白夜の聖剣』ならともかく、騎士気取りの野良狼如きがなにを。
「ええ。事情はよくわかりました。……そうですわね」
戸枝さんは、いつになく悩んでいるけれど、悩む必要もないだろう。
あなたの誇りを傷つける者は、一切わたしが斬り捨てるんだから。
「……佐守さんは、少し黙っていてくださいな」
ふむ、と自分の拳に炎を生んで、『終の熱剣』は悩んでいた。
「すまない。うちの我儘に乗る必要はないよ」
「いえ……分かりました。やりましょう。悩んでいたこともありますし」
言って、戸枝さんは試合用の模擬剣を上段に構える。
その剣に炎が、彼女の誇りの焔が灯る。
「戸枝さん……やる気なんですか……?」
「ええ、そんなに心配した顔をしないで。そもそも私は、ちゃんと売られた勝負は買う主義ですよ?」
「貴方と初めて会った時もそうだったでしょう?」と、彼女は優しくも、この狂犬の我儘に付き合ってあげるつもりだ。
ただ、どうやらそれ以外の思惑も、何かあるようだけど……。
『聖剣』の飼い犬は、にやりと口の端を吊り上げて――それから、隣に立つ逸見先輩に、模擬剣を渡した。
「逸見先輩、わたしに『加護』を下さい」
「…………」
すごい。
あの、『白夜の聖剣』が。
規格外の最強、埒外の頂点が。
……マジで言ってる? みたいな顔をしている。
「…………寄藤、分かってるか?」
「はい! 無論です!」
「はあ……まったく、明日も試合なのに……」
そうため息を漏らしつつも、逸見さんは剣を構えた。
「――『彼方の果て。湖の底。常世を超えて飛び立とう』」
いつもの、王の到来を唄う詠唱。何度聞いても、やっぱり綺麗。
「『花園の門よ開け。今ここに王が選ばれる』」
逸見さん自体はやる気なさそうなのに、詠唱に引かれて黄金色の光が模擬剣を包む。
「――『抜剣。エクスカリバー』」
聖剣を抜いた逸見さんは、長い黒髪が金色に変わる。
相変わらず美しい。見ただけで焼き切れそうになるほどの力を感じる。
「――『集え円卓。この剣に覚えがあるならば』」
続けての詠唱。聖剣を呼び水に、更なる逸話を呼び起こす。
「『騎士の本懐。常勝の伝説よ。今こそ刻まれた証を示せ』」
動画や今年の試合で何度もみた、輝く十二の輝剣たち。
それが、一本ずつ集まっていく。
「――『招集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
十二の輝剣は王の背後に、主命をまつ騎士のようにふわふわと浮かんでいた。
十二色の、色も形も違う輝剣が立ち並ぶ姿は、やはり美しい。
「…………常に十二本ですのね」
わたしは、その光景に呆けているばかりだったけど、それを見た戸枝さんが呟く。
え、どういうこと? と首を傾げていると、逸見さんは「さすがにバレるか」と苦笑する。
「そう。『召喚時は常に十二本』がこの『異能』。詠唱破棄しても、単に出力の下がった十二本になるだけ。何本か欠けて再召喚する時にも、一度全てを消して全てを再召喚しなきゃいけない。もちろん魔力も一から。どうだい。意外と扱いに困る代物だろう?」
あっさりと自白する逸見さん。
「他学園にも、ちょくちょく気づいている者がいる頃合だろうとは思っていた。……とはいえ、ここまでハッキリ見せるのは君達だけだ。他の学園には内緒にしてほしい」
頼む。と逸見さんは頭を下げてくる。
こんなのバレてもどうにもならない気がするけど、かの『白夜の聖剣』に頭を下げて頼まれたのだ。
これはしかたない。どの道、本当に事故のようなものだし……。
「なにはともあれ……寄藤、『君は今からガウェイン卿だ』だからこの『ガラティン』の……いいか、喧嘩はするな。勝負ならば、使用許可を与える」
ふわりと、十二の輝剣から一本の白剣が降りてくる。
それは、なんとなくスケッチブックを想像させた。まだ何も書かれてない白紙。ここに何を描くのも君次第というような。
「は!」
そう言って、彼女はその『加護』を握り、同時に試合用の模擬剣を抜く。
今度こそあの魔剣との二刀流……? と思っていると、寄藤さんはわたしを見て、はっと鼻息を立てて笑う。
「馬鹿? 『血濡れの魔剣』なんて、喧嘩ぐらいでしか抜かないの。これは、ちゃんとした“勝負”なんだから。さあ、見なさい――」
そう言って、彼女は試合用の模擬剣と、その輝剣『ガラティン』を重ね合わせると――
「――『我が理想、憧憬の煌めきよ。この身を貴女に捧げよう』」
初めて聞く詩を唄う。瞬間、重なった二本の剣が融合して光を放つ。
目を焼くような、眩しい光。その光は、聖剣とほとんど同じもので――
「『円卓の者よ聴け。王は
それが、それこそが己だと誇示するかのように。
寄藤環は、その剣を抜く。
「――『抜剣。ガラティン』」
彼女が抜いたのは、真っ白な聖剣。
名前こそ合流した輝剣と同じものだが、存在強度が圧倒的に上がっている。
与えられた『加護』に収まらず、その『加護』を自分の『異能』としたのだ。
それに加えて、逸見さんの背中に浮かぶ十二の輝剣の何本かが、寄藤さんの元へ向かう。
「どう? これがわたしの、『真の異能』よ。わたしは王の影。そして王の後継者候補。――ならばわたしは、
自信満々に言い張る彼女は、ちゃんと剣を正眼に――あの逸見さんと『同じ構え』を取る。
さすがに当人とは比べるほどもないが、二週間程度、それも基礎の基礎しか訓練を受けていないわたしより、圧倒的にしっかりしている。
王を名乗るには洗練が足りないものの、元々の寄藤さんの荒々しさがその聖剣に異質な雰囲気を与えている。
たしかにすごい……。以前の魔剣の荒々しさも怖かったけど、この聖剣も十分に脅威だ。
逸見さんの聖剣が秩序を守る光なら、寄藤さんの剣は悪を滅する光。
……ていうか、普通に『半逸見さん』みたいなものでは?
ちょ、ちょっとこれには、勝てないのでは……!
「なるほど」
しかし、対する『終の熱剣』戸枝小春は、これを見ても全然動じていない。
むしろ、何かに納得したようだった。そうしていると、審判の位置まで移動した逸見さんが、改めて戸枝さんを見る。
「すまない、付き合ってもらえる? こちらもここまで見せたんだ。うちの部員にも経験を積ませたい」
「勝手に見せておいて。と言いたいところですが。構いません。私も少し試してみたいことがありましたので」
そう言って頷く戸枝さんを見て、逸見さんは改めて「すまないね」という。
それから、片手を上にあげて。
「試合――開始」
ひゅんっと静かに落ちる手刀。それと同時に、寄藤さんは駆けだした。
彼女が、あの『白夜の聖剣』ならばあり得ない光景だ。
しかし、攻撃的で荒々しい寄藤さんなら、あり得る光景だ。
「――『サー・モルドレッド』! 『サー・ヴェイリン』! 『サー・トリスタン』! 王の名代として告げる! 我が元に集え!」
駆けると同時に、三本の輝剣を同時に呼ぶ。それらを、戸枝さんは涼しい顔して避けていく。
「本当に、逸見さんの輝剣を呼べるんですのね」
「そうよ! 舐めんな!!」
正眼からの振り下ろしを、戸枝さんは背後に下がりつつ薙ぎ払った。
彼女の剣には炎が宿っている。レーヴァティンを解放しなくとも、それだけで灼熱が壁を作る。
「――『サー・モルドレッド』! 全部、全部ぶち壊せ!」
しかし、その壁を一本の輝剣が突き穿つ。
「ん…………ちっ!」
戸枝さんは面倒くさそうにその剣を祓うが、寄藤さんの猛攻は止まらない。
「――『サー・トリスタン』とにかく撃ち殺せ! 今はお前が矢だ!」
続く藍色の輝剣による多重掃射。寄藤さんの剣術――『白夜の聖剣』と基礎は同じだが、より荒々しい剣の隙を埋めるように、輝剣たちが守っている。
「炎よ」
戸枝さんは少し苦しそうに背後に下がりつつ、さらに炎を展開していく。
一つの壁では抑えきれないと思ったのか、彼女は追撃の斬撃で、次々と火を巻く。
彼女が剣を振るう時、その炎は斬撃の軌跡を保ったまま空中に停滞する。
まるで炎の檻だ。彼女と戦えば戦うほど――つまり彼女に剣を振らせるほど、炎撃は残り、重なり、織り合いながら生者を逃がさぬ焔の檻となる。
さらに、それはレーヴァティンの触媒にもなる。
彼女は『自らの出した焔を触媒に、詠唱破棄してレーヴァティンを撃つ』という新技を合宿中に身につけた。
つまりこの焔檻は、牢獄でもあり死刑執行台でもあるのだ。
「…………燃えろ!」
「『サー・ヴェイリン』! 本当の、破滅を見せろ!」
彼女が終わりの剣を解放しようとした瞬間、三本目――破滅の魔槍が炎ごと、纏めて周囲を吹き飛ばした。
「…………っ!」
「と、戸枝さん……!」
「佐守さんは、近寄らないで……!」
思わず駆け寄りそうになるわたしを、戸枝さんは制した。
彼女は度々の連撃にふらふらになりながらも、剣を再び上段に構えた。
――その剣には、もう炎は宿っていない。
…………嘘だ。
あの『終の熱剣』が……わたしの誇りの焔が、こんなモノに圧倒されている……?
「だから言ったでしょ。たかだか中堅高でイキがっているようなガキ、白夜に比べたら十把一絡げの量産品なのよ」
だというのに、あの狼は。
これが力の差だとでも言うかのように、聖剣を構えながら嗤っている。
『終の熱剣』? だからどうした、自分は『白夜の聖剣』だと、己が身を顧みずに嗤っている。
「…………」
それを、何とも言えない表情で、逸見さんは見つめていた。
違うのだ、そうではないのだと、言葉にしたくても黙っているみたいな。
「だからさぁ……図に乗ってないで、地元にでも帰んなよ!」
徐々に調子に乗ってきたのか、寄藤さんの猛攻は彼女を守護する輝剣も合わせて、もはや息を呑む暇もない。
事実、アレは呼吸をしていないのだろう。仕留めるまで息をするなどという無駄な行為は捨てて、目の前の『獲物』を狩ることだけに集中している。
「っ、ぐっ」
一方の終わりの熱剣は、防戦一方だ。炎もあまりでないまま、彼女の猛攻を受け切っている。
……こんな姿は見たくない。こんな姿は、間違っている。
『終の熱剣』が、孤狼に押し負けるなんて、あってはならない。
「…………すみません。『斬って』いいですか」
「佐守さん、待って」
次の瞬間、ごうっていう爆音を立てて、戸枝さんの全身から炎が吹き上がった。
いつかの、『鶴久の絶剣』と戦った時と同じく全身ガード。
これには、かの『聖剣狂い』も手が出せず、周辺の輝剣と合わせて一気に背後に下がる。
「は。生き残るのは随分得意じゃないの。でも、分かったでしょ? あんたじゃ、足りないの」
――わたしには、『聖剣』には、『絶剣』には、お前は絶対に届かないと、嗤う狼。
――――何をいきがっている。借り物の武器で。
――――――――『おもちゃの剣』で、自分こそが『聖剣』だなどと、よくもまあ。
「佐守さん。……しかし、そうですわね、これではたしかに」
「わかった? だったらさっさと『死ね』!」
これで決めると、聖剣を振り上げる寄藤さん。
その姿はもはや聖剣などと呼べるものではない。彼女が隠す魔剣の殺意。
ただ、だからこそかの『聖剣』は、かつてないほどのうなりをあげて浄化の光を放ち――
「――『抜剣』」
とんと。
振り下ろされる刃に、戸枝さんの模擬剣の切っ先がぶつかる。
まだ、終わりの炎は抜かれていない。
詠唱を省略しつつ最大火力を維持するための触媒となる炎は、ここにはない。
――どころか、それはただの模擬剣でありながら。
「『レーヴァティン』」
一言。彼女が告げた瞬間、これまで寄藤さんが振るっていた聖剣が砕け散った。
それに合わせて、彼女の周囲を浮かぶ輝剣も同時に纏めて砕け散る。
「は、はあ…………!?」
模擬剣に戻った刃を見て、目を白黒させる彼女に、戸枝さんは首元に刃を突き立てる。
「ここまでにしておきましょう。私は……一方的な加害は好きじゃない」
そう言って、ちらりと逸見さんを見る。逸見さんはコクリと頷いて。
「両者、それまで。……寄藤に追従させていても、あくまで私の魔力で造った輝剣だったんだがな。『追従するものまでまとめて終わらせる』か……さすが『終の熱剣』だ」
試合終了を告げる逸見さんは、驚きと苦笑いをちゃんと浮かべていた。
どうやら、『終の熱剣』の誇りの焔は、たしかにこの規格外の伝説に届くらしい。
それから彼女はまだ、今にも『首に刺さる剣なんて関係なく食い殺してやる』とでも言わんばかりの表情をしている寄藤さんを見て言った。
「……寄藤、戻れ」
「先輩……! でも!」
「でもの続きは? ある? ないなら斬るぞ、私は」
あの聖剣が、怒っている。
というよりも、ちゃんと、部員の負けを悔しがっている。
――そう。負けだと判断されたのだ。
「ただの喧嘩はするなといった。ここから君が手を出すなら、それはただの喧嘩だ」
……元からただの喧嘩だったのでは? と思うけど、とりあえず、戸枝さんが無事で安心した。
けれど戸枝さんは、口元に手を当てて、何だか悩んでいた。
「戸枝さん…………?」
多分、彼女に他意は無かったのだと思う。
今の彼女の眼は、自分の熱剣にしか向いていないから。
その眼は、わたしにも、逸見さんにも、ましてや先程まで戦っていた寄藤さんにも向いておらず。
ただ、独り言のように、ぽつりと。
「
「…………っ!」
真似っ子、ごっこ遊びは、そもそも相手にすらしていなかったという旨の独り言を呟いた。
「あん、あんた…………っ!」
「寄藤」
少し……いいや、大分怒りのこもった声音。
「問題を、起こすな」
「は、はい……でも……」
「……学ぶものもあっただろう。君の剣は、私が教えた事を自分の術に上手く落とし込んでいる。それも、私が思った以上の速度で」
少なくとも今の寄藤さんは、逸見さんの期待を上回る成果を見せたようだ。
借り物の剣で『白夜の聖剣ごっこ』をしていた子どもに、一体どんな成果があるの?
「そのまま私の『加護』を乗り越えれば――きっと『それ』は本物になる」
だが、今は違う。慌てるなと、逸見さんはいう。それに寄藤さんは不承不承頷いた。
なんだか、お気に入りのおもちゃを取りあげられてしょんぼりしてる犬のよう。
…………なんだか、とてもよく似ている。
そういう関係性を、|わたしはどこかで見た覚えがある《それは、わたしと大蛇さんのような会話だったから。》。
だから、分かる。
多分、それは違う。
大蛇さんがわたしに言うのと同じように。
それでは真に届かないのだと。でも|聖剣の光に焦がれた彼女《あの村の呪いと、それを壊してくれた熱剣を想うわたし》に、その言葉は正しく伝わらない。
……ああ、いやだ。吐き気がする。
あんなもの見たくなくて、わたしはもうどうでもいい犬なんて忘れて、戸枝さんに駆け寄った。
「と、戸枝さん……! 大丈夫ですか……?」
「ええ、とはいえ『思った以上に』苦戦はしました。やはり、そうそう上手くはいきませんね」
はあ、と息を吐く戸枝さん。
それは寄藤さんとの戦いからくる疲弊……ではなく、純粋に自分の未熟を恥じている。
「…………『剣異合一』。剣と『異能』の完全なる合一こそが、私の剣。なのに、あと一歩がまだ足りない」
そう呟く戸枝さんに、かの『白夜の聖剣』がこちらを振り返って言った。
「なら、次の君達の相手から学ぶといいよ。目黒の言う三年五指だか七指だか。その内の一人がいる。吉祥の剣は、まさに『剣異合一』の極みだ」
つまり、戸枝さんの目指すべき目標――あるいは喰らうべき獲物だと、かの『聖剣』はいう。対する戸枝さんは、なんか不満気だった。
「私に、それを教えて構いませんの」
「どの道、明日には水野が教えてるよ。それを少し早めただけ。……逆を言うと、明日の試合で君がそこまで行けなければ、秋原はそこまでだ」
明日の試合で、戸枝さんが何かに――それこそ『聖剣』や『絶剣』の如き何かに至らねば、私立秋原女学園は準々決勝で負けて、白夜高校と戦うことはない。
二年連続、ベスト八。秋原が超えなければならない壁を越えるには、たしかに戸枝さんの力が必要だと、かの『白夜の聖剣』は言い切った。
「…………は。『聖剣』にそう言われると、少々逆張りをしたくなりますわね」
「だろうね。……でも、今はこういったけど、どうせ水野なら君が至れなくても勝つ手段を何個か考えているだろ」
……たしかに、考えていそうで考えていなくて、でもちょっと考えてるのが、我らが水野部長だ。
相手がよっぽど水野対策をしてこない限り、何かしらの作戦はありそう。
ちょっと面倒で、相当卑怯な手段かもしれないけど……。
「なので、水野も『君が至れば良し、至れなければぬるっと闇討ち』とか考えているんじゃないか?」
「……水野部長にも、踊らされたくありませんわね。はあ……いいでしょう。どの道、避けて通れぬ道ならば、押し通らせていただきます」
明日、絶対にそこへ至ると言い切る戸枝さんに、『聖剣』は楽しげに微笑んでいた。
『熱剣』と『聖剣』、二人の会話に、わたしと寄藤さんは割り込めない。
今やわたし達は、ただの端役だった。