わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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準決勝と、”約束”と、”運命”
第29話 準決勝と、鶴久との再戦(1)


 ……わたしの名前は佐守あお。

 年齢は十五歳。広島県、私立秋原学園に通う『無能』だった少女。

 

 今日は『国異』――『全国高校生異能大会』。

 『異能』なんていう、ちょっと馬鹿げた力を使える女子高生たちのチャンバラ大会も遂に準決勝。

 

 殺伐とした『異能』は飛び交うし、『どう見ても死んだだろ』みたいな状況もあるけど、それも試合場全体の『異能』によって、あくまで『スポーツ』の範囲に抑えられる。

 言ってしまえば『派手なショー』、その本舞台。

 

 わたしは広島代表、私立秋原女学園の選抜メンバーだ。……ここまで来ても、まだ、自分の『異能』も分かっていない。

 

 『異能』は魂の形を、そのまま超常の力として再現する力。『運命』だとか『道理』だとか、そういうものすら斬り飛ばして。

 

 昔は魔術とか超能力とか呼ばれていたものが、今は一括りに『異能』と呼ばれている。

 基本的には『逸話』だとか『伝承』だとか、そういうのの再現と相性がいい。

 なんていうかな。自分の魂の形を一番言語化しやすい、つまり例えやすい『逸話』、『伝承』に当てはめることで『異能』は出力される。

 

 ――とはいえ、もちろん限界はある。

 それが元々持っている『魔力』量。誰でも多かれ少なかれ魔力を持っているけれど、その量は人によってブレ幅がある。

 中には――ていうかわたしの仲間にも、土地や他者から魔力を簒奪するとかいうイカれた異能を持つ人もいるけど、それでも上限値っていうか、ストックはあるらしい。

 

 ――わたしは、これまでずっと『無能』だった。

 ていうか大会直前まで無能だった。この辺はなんか、色々理由がある。

 

 ……その昔、大蛇を再生する『贄』にされる『運命』だったせいだとか。

 でもその儀式は、大蛇――いや、わたしが大暴れしたせいで失敗したとか。

 その結果、復活するはずだった大蛇さんは――

 

『――ふむ。多少は、マシな顔になったか』

 

 伝承にある、いくつもの顔をもつおっきな蛇は、わたしの内側に巣食っている。

 ……巣食っているっていう言い方が、もう正しいのかもよく分からないけど。

 

 どちらかというと、交じっている?

 今、わたしが元々持っていた『魔力』は大蛇さんが制御してくれている、らしい。

 ともかく、彼とわたしは一蓮托生なのだ。

 

 ――儀式は失敗した。わたしが彼に食べられる『運命』は、もう消えた。

 それでも、いつか「わたしが至高に達した時に、わたしを食べてくれる」という“約束”をした。

 そのために、愉しく生きる。明日を生きる。……今はもう、何が愉しくて、何が苦しいのかも、もうよく分からない。

 

 ――分かんないけどさ。

 

『――それでも、今日やるべきことは分っているだろう』

 

「うん」

 

 今日は『国異』の準決勝。

 相手は――私立鶴久女学校。

 わたしと、今の私立秋原女学園チームがはじめて練習試合をして――

 

 ――そして、初めて負けた相手。

 

「――よし」

 

 だから、今日やることは、とても分かりやすい。

 

「少なくとも、ここを超えないとわたしは絶対、至高には至らない」

 

 リベンジマッチだ。

 罪科も『運命』も、それに蛇さんとの“約束”も一旦置いといて。

 これまでの戦いも、剣を振るう理由も、何かよく分かんない複雑怪奇な話も、一旦脇において。

 

『うん。あの『征服者』を超えねば、御前が至高に辿り着く事はないだろうよ』

 

 でしょうね。結局のところまだわたしは、自分の『異能』がよく分かってない。

 『自分の魂の形』をまだちゃんと把握出来ていない。

 難しいことばっかりで、よく分かんないことばっかりだけど。

 

 それでも。

 

「――――」

 

 ……試合用の模擬剣を握る。初めて握った時は、重くて苦しかった。

 今は、これを握るのが愉しいと思う。

 

「――わたしは『秋原の熱剣の影』。そして『水野部長の剣』。ならば」

 

 深呼吸をして、心を決める。

 自分の立ち位置を決める。心の所在を決める。

 

 ――多分、このままだと永遠にわたしは自分を見つけられない。

 だけど、今日はこれでいい。このままでいい――というかこれじゃないと駄目。

 私立秋原の代表の一人として――そして、『熱剣』の影として。水野部長の剣として。

 

「――今度こそ、目黒次美を『斬る』」

 

 それ以外は余分だと心に決めて、わたしは模擬剣を握って部屋を出た。

 

◇

 

 いよいよ迎えた準決勝。控室。

 

「さ~て、お相手は言うまでもないねえ? 北海道の、鶴久女学校。昨年の準優勝校――つまり、三年無敗の『白夜の聖剣』に最も近い存在だ」

 

 ぱんと、控室の机を叩くのは、わたし達の部長――水野弥生部長。

 わたしよりも小柄だけど、『海神の槍』の異名を持つ、現三年生で五指に入る実力者。

 かの『白夜の聖剣』だとか、『三年五指』だとかがひしめく、現高校三年生最高峰。その中でも身も蓋も無い天災の一人。

 『異能』は『トリアンナ』――いわゆるポセイドンのトライデント。そのまま海神の槍。

 能力は『三叉槍の顕現』、『水流操作』、『天候操作』、そして『念話共有』だとか、多芸だけども当人の調子でブレ幅がある。

 

 でも、今日は当人曰く『絶好調』だそうで、とりあえずブレは気にしなくてよさそう。

 

 ――とはいえ、この人は奇策闇討ちお手の物な気まぐれ悪党。

 ブレがあろうとなかろうと、絶対に奇策を通す人。

 ましてや相手は――

 

「鶴久の部長はもはや言うまでもない。現状で最も『白夜の聖剣』に近いとか何か言ってる存在――『征服者』こと、目黒次美だ。『異能』は『ファーティフ』――征服者。大規模かつ安定した軍事力と機動力を展開する。それだけじゃない。こいつが『征服した』と認識した領土の魔力は、全部こいつのモノになるとかいうふざけた輩だ」

 

 そう、『征服者』・目黒次美。

 わたしが、初めて敗北した相手。

 水野部長はああ言ったけど、それだけじゃない。

 

 目黒次美の『征服者』足る所以――それは、仲間同士での魔力や『異能』を共有できるということ。

 それが遠く離れた場所にいる仲間であっても、共鳴可能。連携可能。

 最強の個ではなく、『鶴久』という巨大な個の頭脳――

 

 それが目黒次美さん――わたしが斬るべき相手。

 

「それだけではないでしょう」

 

 それに補足するのが、赤銅の髪を後ろで束ねた、凜とした少女。

 

 平均より少し上くらいの背丈の、わたしと同じ一年生でありながら、先日の準々決勝で『秋原の熱剣』として、わたし達秋原の代表選手として、そして新しい『伝説』となった規格外。戸枝小春さん。

 

 『異能』は『レーヴァティン』。その規格外の魔力量から放たれる炎は、一撃で一キロも燃やし尽くす。

 それどころか、先日の準々決勝で『その炎に当たったものは、みな終わる』なんていうちょっと身も蓋もない力を手に入れた……らしい。

 

 以前までは『一撃放つたびに大規模な魔力を消費する』という欠点があった。

 今でも、自前で新しい炎を生み出すためには、やっぱり魔力を消費する。

 

 けれど、今の『レーヴァティン』は少し進化した。

 それが誰かの直接制御下にない炎なら制御権を奪いとれ、それを『終わりの炎』にするのは、そこまで魔力を消費しなくなったんだとか。

 

 ……わたしは準々決勝で途中リタイアしたから、詳しく知らないけれど。

 ともかくそんな秋原のエースは、それでも鶴久の『征服者』に慢心しない。

 

「彼女の『異能』の本質は、『征服』、『侵略』という概念そのもの――より厳密にいうならば、『東から西へ押し寄せる侵略』。それは決して、兵器だとか武器だけではない」

 

「そうだね。もちろん通常火力も脅威だけど、あいつの奥の手は『黒死病』――黒い死の呪いだ。……ただし、『不浄な土地』でないと扱えないっていう『発動条件』がある」

 

「対抗する気はありますの?」

 

「あるよ~。そのために、期待してるよ。『秋原の熱剣』」

 

 ぽんぽんと、戸枝さんの肩を叩く水野部長。

 だけど戸枝さんは何か凄い嫌そうな顔をしていた。

 

「……そうですわね。今回は、貴方の思惑に踊らされてあげます。……残念ながら、私個人では目黒次美を上回る策は思いつきませんので」

 

「さすがだね~。君が冷静だとあたしも助かるよ」

 

 ケラケラ笑う水野部長に、戸枝さんはなんか複雑そうな顔をしている……。

 一体なんなんだろう……昨日、何かあったのかな…………。

 

「ああっと。はい質問いいですか~?」

 

 そんな二人の間に、ちょっと抜けた感じの声が割って入る。

 知人でライバルの望月干果さん。いつも飄々としていて、のらりくらりとした感じの、ちょっと怪しい中性的な美貌。

 『異能』は『デア・ナハト』。なんか英語とドイツ語が中途半端に混ざった変な名前。その能力は『吸血鬼』だ。とりあえず吸血鬼っぽい能力を使えたり、使えなかったりする、なんか半端というか器用貧乏な人。

 だけど、彼女は実は一年生の中でも戦歴は高い。水野部長と同格の『三年五指』の一人を倒したり、昨日の準々決勝では『ムラマサ』とかいう格上殺しを格下のまま迎え撃ったり。

 軽薄で、中途半端で、器用貧乏で――だけど『負けない』っていうことに関しては百戦錬磨の異形さん。

 ……ちょっと性格も適当なのもアレだけど。

 

「鶴久の強さって、征服者だけじゃないですよね。確かもう一人凄い逸脱したのがいたはずじゃないですか?」

 

「『鶴久の絶剣』だ」

 

 そういう望月さんの胡乱な言葉に、ああと答えるのが山名有為部長代理。二年生。

 『異能』は狩人道具と大鉈を取り出す『ハントレス』と狙撃銃を召喚する『モシン・ナガン』。

 ……もう一つ、実はすごい『異能』があるんだけど、それはもう今大会で見せる気はない。って言ってた。

 

 その現二年生の中でも上澄みに入る(当人無自覚な)人は、名前を指差しながら答える。

 

「現状、二年生で最も『白夜の聖剣』に近い――というか、現二年生の『最強』。武光奏。『異能』は『デュランダル』――絶対に折れない、不屈の剣」

 

「先輩が相手してくれます?」

 

「馬鹿言え。私は裏方だ。コイツ、二年生の癖にもう『白夜の聖剣』にかなり近づいてるんだぞ。……少なくとも、『三年五指』とか言われてる連中よりは少し、強い」

 

 と、裏方を語る主役な先輩は眉根を寄せながら言う。

 それに対応するのは、比較対象に出された『三年五指』こと水野部長。

 

「なんだお前、あたしが武光に負けるとでもいうんか~?」

 

「あ~……いや、え~……」

 

 山名先輩は、凄く悩んでいた。……一応、水野部長を立てたいという思いもある。

 あるけど、実際の武光さんがちょっと規格外な人なので、悩んでいるんだと思う。

 

 ……気持ちは分かる。

 わたしと戸枝さん……あと一応、望月さんも練習試合で件の『絶剣』とやりあった。

 

 だから、知ってる。

 彼女の武器は『異能』じゃない。彼女の『異能』自体は『決して折れない剣』という、割とありふれた『異能』だから。

 

 でも、だからこそ『自分を鍛えた』とかいう、よく分からない人。

 だから『一太刀』、『一太刀』、そのすべてが『縮地』とかいう、ちょっとよく分かんない人。

 ……『縮地』は何か瞬間移動みたいな、予備動作を消す『歩法』であって、『異能』じゃない。

 でも一挙一動全部がそれっていうのは、ちょっとよく分からない。

 

「……逆に質問したいんですけど、いくら水野先輩が武芸百般でも、本気の武光に勝てます?」

 

「馬鹿だねぇ。『不屈の剣』にあたしが正面対決すると思うかい?」

 

「そういうとこが味方で良かったと思いますよ……。少なくとも、正面から『剣』で挑むには、こいつは規格外過ぎる――もしかすると、あの『白夜の聖剣』にも届く可能性がある」

 

「ああ。じゃ、うちの『秋原の熱剣』にもぶつかってもらおっか。ね、戸枝さん」

 

 山名先輩はめちゃくちゃ真剣なのに、すっごい雑な望月さんの提案。

 たしかに一年の規格外と二年の規格外の戦いは……見たいよ!

 わたしだって見たい、見たいけど……!

 

「望月さん。『斬って』もいいですか」

 

「ああ。なんで? 怖。なに、じゃあ佐守さんは『秋原の熱剣』は、『鶴久の絶剣』に敵わない、とか思ってる?」

 

「うぐっ……!」

 

 そんなことは……そんなことは、言いたくない。

 言いたくないけど……少なくとも一か月前の練習試合だと……えっと。

 

 ……本気の勝負、だと――

 

「そうですね。さすがに私も『勝てる』と断言は出来ません」

 

 戸枝さんは、あっさりとわたしが言葉に詰まったことを、言う。

 

「けれど、だからこそ『やります』。『鶴久の絶剣』から逃げるようでは、『白夜の聖剣』には届きませんから」

 

 勝てる勝てないではなく『やる』と、戸枝さんは断言した。

 その目には前の練習試合の時のような『負ける』という意識はない。

 ……だったら。

 

「だったら、わたしも……!」

 

「いえ、佐守さんは目黒次美を『斬る』約束を果たしてください。この『絶剣』は私一人で止めます」

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

 練習試合ではわたしと戸枝さんと望月さんの三対一。それもギリギリでなんとか勝てた相手だ。

 いくら戸枝さんが『秋原の熱剣』でも、『秋原の熱剣』だからこそ、その『影』として、わたしは――

 

「……その結果が、『征服者』相手に手も足も出ずに敗北、でしょう。こちらに割く戦力は、私一人で十分です。……というより」

 

 そこで言葉を切って、戸枝さんは水野部長を睨む。

 

「…………どうせまた、なんかロクでもないことを企んでいるんでしょう?」

 

「ん~? いやいや、フィールドによるよ~? とりあえず、今回のを見てから決めようぜ~」

 

 先輩がそう言ったところで、試合準備のブザーが鳴る。

 まだ、他のメンバーのことは教えてもらっていないけれど――

 

「んじゃ、行こうぜ~。な~に。どっちにせよ勝つのは変わらん。あとはあいつの出方次第よ」

 

 当たり前に『勝つ』と断言する水野部長。わたしより小さな背中は、やっぱり頼もしかった。

 

◇

 

 ――今回のフィールドは『平野』。

 前回、練習試合で鶴久と戦った時の『密林』とは、全然違う。

 もちろん完全な平地ってわけじゃないし、ちょっとは林とかもあるんだけど――

 

「なんだ、目黒。おまえもあれか~? 運営と寝たか?」

 

「酷い言われようですね、水野さん。ああ、でも秋原にとっては逆に良い言い訳が出来ましたね」

 

 水野部長の、わたしでもちょっとアレだと思う挑発にも、彼女――目黒次美はクスリと笑みを浮かべる。

 

「これで、『負けてもフィールドのせいにできる』。盤面がここまで私達に有利なら、負けても仕方がない……なんて、ねえ?」

 

「ははは。逆におまえは、これで負けたらいよいよ恥ずかしいなぁ~? 『征服者』が機動力で負けたら、それこそ笑いもんだ」

 

「あら、機動戦を仕掛けてくれるのですね。ふふ、それならとても助かります。こちらも色々、手間が省けますので」

 

 バチバチしてる……。

 以前の練習試合の時の舌戦は、水野部長がちょっと優勢だったけど、流石に今回は『国異』の準決勝。

 あっちも負けないし、逃げないし、真っ向から叩き潰すつもりでいる。

 

 それはそうだろう。だって『ファーティフ』は騎馬民族系の長。

 少なくとも、このフィールドにおいて、『機動力』であちらを上回る術は、こちらにはない……。

 

 ……それにしても。

 

 やっぱり、向こうのメンツは部長の目黒さんと『絶剣』以外は、様変わりしている。

 多分、他の二人は三年生か二年生……だと思う。それと一人、一年生が入っている。

 この前の網野美琴さん? じゃない。別の一年生だ。

 静かに、『鶴久の絶剣』こと武光さんの隣に寄り添っている。

 

 ……なんか、初めて見るのにどこかで見覚えがあるような。

 

「よ」

 

 とか思っていたら、その『鶴久の絶剣』から話しかけられた。凄い気楽に。

 隣では、まだ部長同士でバチバチ舌戦してるけど、こっちは関係ないらしい。

 それに対応するのは、うちの二年生、山名先輩。

 

「なんだ、心理戦なら乗らんぞ……」

 

「やらないよそんなん……いやそうじゃなくて、一応こっちはこっちで挨拶しときたいし、させとこうかなって」

 

「させとく……?」

 

「そうだよ。ほら里見。せっかく一年同士なんだから仲良くしなよ。相手は『秋原の熱剣』。それにそのお友達さんだ」

 

 そう言って、『絶剣』こと武光さんは、自分にくっついている一年生――里見さんって言う人を前に出した。

 でも、その里見さんは『秋原の熱剣』こと戸枝さん。その影であるわたし。『吸血鬼』の望月さんの方は、あまり見ないまま。

 

「里見志野です。よろしく」

 

 すっごい不愛想な感じで頷く……なんですかこの子、ちょっと礼儀がなってないんじゃないですか?

 

「佐守、待て……あ~……武光、これは、何?」

 

 すっごいざっくりと、ついでにわたしに犬みたいに釘を刺してから、武光さんに問う山名先輩。

 それに、武光さんは苦笑しつつ。

 

「悪い……いや、私にも『こういうの』が出来るとは思わなかったんだよ。なので……え~と……とりあえず私と一緒によろしくってこと」

 

 どういうことだろう……。『こういうのが出来るとは』、とは……?

 と、首を傾げていると山名先輩――というか、わたし以外は全員得心したように頷く。

 そして山名先輩も答える。

 

「まあ、『聖剣』にも寄藤だの、『熱剣《うち》』にも佐守だのがいるしな……。そうか、『絶剣《おまえ》』も……そらそうだ」

 

「でも、私は放任主義なんでね。ていうか、今年は目黒部長の作戦によるから。ま、一応は隠し玉ってことで」

 

「よそ様にいきなり噛みつくような教育はするなよ」

 

「それ、あんたんとこが言う」

 

「……だよなぁ」

 

 なんか、分かり合ってる二年生の先輩……。というか、この場で分かってないのは、わたしとその里見さんだけみたい。

 とりあえずそれで、里見さんの紹介は終わったらしい。今度はかの『鶴久の絶剣』が『秋原の熱剣(わたしのとえださん)』をちらりと見つめる。

 

「見てたよ。昨日の試合。凄いじゃんか『秋原の熱剣』」

 

 『鶴久の絶剣』の言葉は、素直な称賛だった。

 ちゃんと、本気で、真面目に、『秋原の熱剣』と名乗りを上げた戸枝小春を認めていた。

 認めていたんだけど――

 

「……は。それで納得はしていないんでしょう?」

 

「まあね。あんたじゃまだ足りん――と、急に殴るな。手を出すな、バカ一年」

 

 わたしの渾身の一発は、『縮地』で避けられた……ていうか、普通に周りに止められた。

 何よりも、戸枝さんに一番止められた。

 

「まだ挑んでいない相手です。落ち着きなさい」

 

「むう」

 

 思わず口をとがらせるわたし。あと里見さんからちょっと殺気を感じた。

 ……表には出てないけど、軽く。

 そうしてると、武光さんは口元に手を当てて――

 

「んー……まあ、やればわかるか」

 

 そんなことをぼやいてから、再び隣の里見さんとやらの肩を叩く。

 

「ほら、戻るよ里見。うちの部長、このままじゃ試合開始まで言い争ってそうだから」

 

 そうなっては、もう真正面からの殴り合い。

 せっかくのフィールドが無意味になると、大変冷静な『鶴久の絶剣』さんだった。

 

◇

 

 そんな感じで、放っといたらいつまでも口喧嘩してそうな部長を山名先輩と武光さんが離して、お互いにフィールドの開始地点に着く。

 

 相手は遠い。

 いくら平野といっても、なだらかな丘があって、姿は見えない。

 向こうも同じようなものだろうけど、機動力でいうなら圧倒的に向こうが上だ。

 一応背後にちょっとした林はあるけど……そこに逃げ込んだところで焼け石に水。

 完全に向こう有利の盤面。そんなことを思っていたら試合開始のブザーが鳴った。

 

「よし。じゃあまず山名は登んな」

 

「了解」

 

 答えて、ひょいっと背後の林に入る山名先輩。そのまま木の上に登って、向こうの様子を狙撃銃で見るつもりだろう。

 

「じゃあ戸枝ちゃん。後は頼むよ~」

 

「……はあ、承知しました」

 

 そう答えて、戸枝さんが上段に剣を構える。

 

「『世界よ、終われ。私と共に、私以外の全てを焦せ』――」

 

 始まるは終わりの詠唱。世界を焼き焦がす炎が、その切っ先に宿る。

 

「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き焦がし、私だけの春よ来い』」

 

 ごうっと、火柱が立ち上がる。それはスタジアムを超えて上空まで。

 なぜならそれは一キロを燃やし尽くす炎。

 ましてや遮蔽物もない平野。ましてや相手は機動力の長。

 

 完全に鶴久の、目黒有利の盤面であり――だからこそ。

 

「――『抜剣。レーヴァティン』」

 

 世界を終わらせる炎が、わたし達の立っている場所から先の盤面を一気に薙ぎ払った。

 ――しかも、それでもまだ終わらない。彼女は燃え上がる草原の炎を触媒に、続けて剣を構える。

 

「――『抜剣。レーヴァティン』」

 

 二度目の『終わりの炎』。しかしそれでも終わらない。終わりの焔はまだ燃え上がる。

 

「――『抜剣。レーヴァティン』」

 

 なんかもう意味がわからないぐらい、開始と同時の『終わりの熱剣』三連打。

 最後の一撃は縦振りで、一気に爆発と黒煙が立ち上がった……!

 

 一瞬にしてフィールドは『平野』から『火の海』に。

 それをやった当人、戸枝さんは「ふう」と軽い息を吐くだけ。

 そして、それを指示した張本人、『海神の槍』は――

 

「まずはこの盤面を、全部ぶち壊させてもらおうかねえ~!」

 

 なんて、ケタケタ笑っている……!

 前から思っていたけど、目黒さん相手だと本当に容赦がない……!

 

 ……とはいえ、これでフィールドはほぼ燃え上がった。

 しかもただの炎じゃない。彼女が詠唱を告げる度に、この炎は『終わりの炎』になっていたはず。

 つまり、地表を文字通り焼き払った身も蓋も無い三撃だ。

 

 その割にブザーはまだ鳴っていないけれど、少なくともこれで、相手の機動力は完全に封鎖された……はず――!

 

「だ~れが機動戦なんぞに付き合うかって~の! 誰も堕ちんかったのは残念だが、このまま――」

 

(……おかしくないですか)

 

 「あれ」と、耳に山名先輩の念話が届く。

 なんか、戸枝さんの三連レーヴァティンの間に、気づいたら水野部長が槍を抜いていたらしい。

 

(あぁん? なにがだよ~)

 

 と、もう完全に勝ちを確信している水野部長。

 それに、答えるのが戸枝さん。

 

(遮蔽物のない、このまっさらな平原で終わりの炎を三度、薙ぎ払いました。だというのに、向こうが一人も堕ちていない……というのは――)

 

(あ~……『鶴久の絶剣』が盾にでもなったか? 戸枝ちゃんと武光なら矛盾になるから、純粋な力比べになるけど――)

 

(いや、だとしても――あ?)

 

◇

 

 ――最初に異常に気付いたのは、山名有為。

 大地を三度も焼き払ったレーヴァティンの威力は、確かに向こう陣地まで届いていた。

 届いていたのだが、黒煙が上がるせいで向こうの様子も見えない。

 なんとか黒煙の隙間から、向こうの様子が見えたが――

 

「あー…………」

 

 巨大な、巨大な何かが『そこ』にはあった。

 『ソレ』がなんなのか。

 『ソレ』がどういうモノなのか。原理上は似たような狙撃銃(もの)を持つ山名は一瞬言葉に詰まり――それの内側がこちらを向いていることにまで気づいた時には、脳よりも先に口が報告をしていた。

 

(あー向こうも機動戦に付き合う気なかったみたいです。デカブツ用意してます。あとすいません私堕ちます)

 

(は?)

 

 そんな言葉が、誰かから返ってくる。佐守か、望月か、或いは戸枝か、まさか水野部長か――などと考えている暇もなく。

 

 地鳴りのような轟音とともに、黒煙が引き裂かれて――それと同時に山名の隠れ潜んでいた林が『爆発』した。

 

◇

 

 ――おっきぃ船。

 最初に浮かんだのは、そんな他愛のない反応。

 

 黒煙の向こうに見えるのは、大きくて黒くて――そして巨大な船。

 あれが『戦艦』って呼ばれるモノだということは、なんとなく知識では知っている。

 

 ――知っては、いるんだけど。

 

「――大和だ」

 

 ぽかんと。

 なんだか初めて聞くような、無邪気というか放心した声が、水野部長から漏れた。

 けれど、意味がよくわからない。つまり――どういうこと?

 

「だから……大和だよ! 大和! 『戦艦大和』だよあれ!! ――だってアレ、『四十六センチ三連装砲』だぞ!?!?」

 

 水野部長の、何だか珍しく興奮したような声を聞いても、よく分からない。

 ただ二次大戦の『戦艦』が、『火の海』を航海している。

 そんな地獄みたいな光景を見て、思わず、わたしも戸枝さんも望月さんも、完全に放心していた――

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