わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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第33話 準決勝の後と、鶴久のひとたち

 準決勝を終えた後。

 わたし達は宿に戻ることもなく、そのまま水野部長に連れられて、鶴久の宿へと向かっていた。

 そこで待っていたのは、もちろんのこと。

 

「なんですか。笑いにきたんですか」

 

 という、目黒次美その人。それから武光さんと、里見さん。

 それにうちの悪党は笑いながら。

 

「うん」

 

 と、凄い素直に答える。

 もはや逆に凄い。いやもう逆に凄いことが多すぎて、普通にクズに思えてきた。

 いや、だめだ……この人は一応うちの部長さんなんだから……『海神の槍』なんだから……。

 

 そんな一言で済ませていい人じゃない。た、多分――

 

「いや、うちの部長はクズだからそこは気にするな」

 

 と、折角自分に言い聞かせていたのに、山名先輩に台無しにされた……。

 酷い……。

 

「いや待て、別に笑いにだけきたわけじゃね~よ? 笑いにもきたけどさ~」

 

 本当に酷いなこの人。しかし、笑いにだけきたわけではないとは……?

 

「お前は、対『白夜の聖剣』を想定してただろ。ちゃんと」

 

「それを、きみに教えろと」

 

「うん。ほら、なに? 負けた奴の意志を継ぐみたいなさ~」

 

「絶対そんな気はないでしょう、きみ」

 

「それは本当にそうだと思います……」

 

 目黒さんの言葉に同意するのは癪だけど、実際うちの水野部長はそんな殊勝な心掛けは一切ないと思う。

 純粋に、『どうせ対白夜戦の用意があるんだろ、よこせ』くらいの気持ちだと思う。

 

「はあ……まあいいですよ。どうせ私達は今年が最後、『白夜の聖剣』も、今年が最後なんですから」

 

「話が早くて助かる。うちの奇策に組み込めたらいいよね~」

 

「残念ながら、きみの奇策に組み込めるような策は用意していませんが。というか………ですね。私から話したいことが一つあります」

 

 そう言って目黒さんはわたしと、あと戸枝さんを見た。

 な、なんだろ……思わず戸枝さんの背後に隠れる。

 

 と、目黒次美はくすりと微笑んで。

 

「……本当、変わったのやら変わらなかったのやら」

 

 そう、苦笑を漏らした。

 

「ひとまず、『秋原の熱剣』。戸枝さん」

 

「はい」

 

「きみだと正面衝突では、『白夜の聖剣』には届きません、あの輝剣の数本は落とせるかもしれませんが、『そこまで』」

 

「…………はい」

 

「落ち着け佐守。目黒先輩は事実しか言ってない」

 

 ぐいっと山名先輩に首根っこを掴まれる。

 その様子を、武光さんは笑いながら見ていた。

 隣の里見さんは、ぼけっとしていた。せめてわたしぐらいは見ろよ、なんだこいつ。

 

「私の策は、『鶴久の絶剣』武光と『白夜の聖剣』が一対一になる状況を作ることでした」

 

「なんか随分堅実じゃん」

 

「奇策で倒せるなら、今も『アレ』はあそこに立ってないでしょう」

 

「それはたしかに」と三年五指が一人、水野部長は頷く。

 

「なのでうちの最高火力をぶつける。一対一なら、武光ならいい勝負が――いえ、勝てる」

 

 それこそ去年は立つより前に吹き飛ばされましたが、と目黒さんは言う。

 

「あの去年の決勝戦。私はまだ副部長だったので、そこまで発言権はありませんでした。それに、そうですね……別に先輩方を貶めるつもりはありませんが、『鉄腕』、『邪竜』、『神槍』は、どれもネタが割れていた」

 

「んで、それを油断して、見事に打ち返された。そういうのを過小評価って呼ぶんじゃねえの。相手はあの逸見明音ぞ」

 

 へらへらと、しかりしっかりと状況分析している水野部長に、目黒さんは珍しく感情を露わにしていた。

 

「だからそこまでの発言権はなかったと言ってるでしょう。私は先輩方が勝手に動いている間に、武光をぶつける予定でした。……その結果が、『伝説』を補強したあの決勝戦です」

 

「お前、先輩への敬意とかないんか」

 

 と、この中では一番敬意とかなさそうな人が言う……。

 そして、それに目黒先輩も特に反論はしてこない。

 コホンと咳ばらいをしてから話を戻す。

 

「ともかく、武光なら『白夜の聖剣』に敵う可能性が去年でもあった。でも『秋原の熱剣』は、まだその『鶴久の絶剣』にも勝てない」

 

 そこには純粋な実力差がある、と目黒さんは言う。

 

「よって、アレを倒すには『秋原の熱剣』では足りません。無論そこの半端な吸血鬼も、一刀両断で終わるでしょう」

 

「ああ、死ぬだろうね」

 

 すっごい適当に返答する望月さん。

 言われたことも、別に気にしていないらしいい。

 

「山名さんの狙撃でも……輝剣の一、二本は落とせるでしょうが。そこまで。いえ、そもそも狙撃が飛んでくるなら、それを守護する輝剣を用意してくるでしょう」

 

「?」

 

 ……用意してくる、とは。

 

「彼女の十二輝剣。十二と聞いた時点で、『円卓の騎士』の力を呼ぶものだろうというのは、なんとなく把握できる……とは思いますが。まず『円卓の騎士』は、何人いると思いますか?」

 

「…………?」

 

 わたしは、ちょっと考える。

 円卓の騎士。十二人。

 

「十二人じゃないんですか?」

 

 って、素直に答えると、目黒さんは苦笑して。

 

「大体三百人です」

 

 なんて、とんでもない数を返してきた。

 

「伝承で盛られている分もいるので、呼んだところで意味がない者もいますが。他にも、ちゃんとアーサー王伝説で名前が上がっている英雄から、大体円卓だろっていう英雄も円卓扱いして呼んできますよ、アレ」

 

 それこそ「マーリン」とか。なんて目黒さんはいう。

 さすがに無法が……過ぎるのでは……。

 

「そういうのを扱えるのが彼女、『白夜の聖剣』。円卓が示す通り、誰も彼もを対等に見る。故に彼女は王でありながら、十三の『異能』を同時に扱える」

 

 『異能』は魂の形。

 ならばそれを、自分の聖剣と合わせて十二本も扱える逸見さんは……。

 なんというか、それだけの他者をちゃんと見ている。

 

「もしかしたら……いえ、さすがに無法が過ぎますか」

 

 なんて呟いてから、目黒さんはため息を吐いて、わたしと、戸枝さんと、望月さんを見た。

 それから、何か苦笑を漏らしていた。

 

「惜しかったですね。『秋原の熱剣』。きみの覚醒が、せめて決勝戦であれば、あの『聖剣』にも届いたでしょうに」

 

 そう話を振られた戸枝さんは、これと言って感慨だとか、あと感情もないまま答える。

 

「いえ。私が準々決勝で至らなければ、あの臆病者には負けていました。ただ、貴方の発言自体は興味深いです」

 

 戸枝さんの言葉は、どこか真剣だった。

 

「逸見さんは、『一度に十二本』しか召喚できず、かつ『必ず十二本』を召喚しなければならない。と仰っていった。しかし、三百という数は――」

 

 ああ、そういえば。

 あの狼に噛みつかれた時に、そんなことを言っていた気がする。

 でも、それがどういう意味を持つのか……。

 

「そうですね。だからあの『伝説』は、『十二本を召喚する時にはもう、全体の盤面を読み終えている』」

 

 だから、最初から的確な十二輝剣を呼び出せる。

 だから、どれだけ対処をしようとも、ちゃんと『弱点を突いた十二輝剣』が用意される。

 

 …………やっぱり怪物じゃない? あの人。

 

 いや、やっていることは凄い堅実。対象に合わせた装備を持っていくという意味で、かなり甘さのない戦術。

 

 ――けど、初見。けれど初戦。

 その状況化で、あっという間に組み立てるなんて、あり得ていいのでしょうか?

 

「……ともかく、『白夜の聖剣』を倒すには、まず真剣勝負に持ち込む必要があります」

 

 それでも勝てるか否かは別として。なんてぼやきながら、目黒次美、最も『白夜の聖剣』に近いとされる『征服者』は、今度はちらりと隣に立っている武光さんを見た。

 

「私? 言えるのは斬ることしか言えんけど……。あー…そうか、まず『斬る』までの土台に昇るのが難しいか、『秋原の熱剣』には」

 

「また……戸枝さんを悪くいう……」

 

「別にお前の戸枝を悪し様に言ってるわけじゃないよ。実際、『終わりの炎』は、確かにあの人に届く」

 

 そう、『白夜の聖剣』と同等と呼ばれている『鶴久の絶剣』は答える。

 

「――そして、だから対策を取る。お前が何発撃てるかは知らんけど」

 

「……アーサー王伝説に、終わりを防ぐ逸話なかったはずですが。むしろ、滅亡に向かう話では?」

 

「だねえ。だから……名前、なんだっけ……そうそう『ベディヴィエール』だ」

 

 べでぃびえーる? 首を傾げてしまう。

 

「聖剣を湖に返すのをためらった男。『二度も終わりを拒否』した男。三度目にはちゃんと返したけど。お前の『終わりの魔剣』の炎は、少なくとも二、三回は、全部その輝剣に吸われる可能性がある」

 

 魔力量とか関係無しに、そういう逸話なのだから。と武光奏先輩は言っていた。

 ついでにいうと、「私にはちょっと硬いだけの輝剣だ」とも言っていた。

 

 ここにきて最強に対する最強の相性メタが発生している……。

 

「ふむ」

 

 それに反応するのは、戸枝さん。

 指先にぽんと小さな炎を、マッチみたいに出しながら、軽く首を傾げていた。

 

「『逸見明音』に届かせれば、聖剣も輝剣も無関係では?」

 

 そう、ある意味真理を告げる彼女に、目黒さんは笑いながら。

 

「それこそ受け止めますよ。あの『伝説』は」

 

 なんて答えてくれる。それから一度咳ばらいをして。

 

「まあ……いいでしょう。水野さんに教えるのは癪ですが、真面目に攻略を考えている後輩には、正しい勝ち筋も教えます」

 

 そう答える。水野部長は凄く怒っていたけど、怒られることはしたのでいいかと思う。

 

「まずは武光。きみならあの聖剣を折れますよね」

 

「まあね。相手が『さあ折ってこい』ってするならさ。少なくとも折れるよ」

 

「そしてそれは戸枝さんも同じこと。……斬れはしなくとも、終わらせはできる」

 

「そうですね。相手が『さあ終わらせてこい』ってするのであれば」

 

「でも、そんな余分をアレはしてこない。『白夜の聖剣』はどんな相手でも――いや、さすがに子ども相手なら加減はするでしょうが――少なくとも同学年の選手なら、いつだって誰だって対等に扱う。我も人、彼も人、故に対等であり、そこに上下は無い――がアレの信条ですから」

 

 それは、とても……少なくともわたしにとっては正しくて、誠実な言葉に聞こえた。

 しかしその誠実さが、今は裏返っている。

 

「加えて言うと、周りも強い。というわけで、ここから白夜のメンバー紹介と参りましょう」

 

 ぽんと手叩いて、目黒さんは笑顔を浮かべた。

 なんだか急に『シナリオモード』から『ボスラッシュモード』に、戻った感じ。

 でも。

 

「いいんですか……? ていうか、敵校なのに」

 

「「いい」」

 

 と、二人の部長――『白夜の聖剣』に勝るとも劣らないと称される二人は同時に答える。

 

「そもそもあいつも全試合。それこそ昨日の試合も、今日の試合も見てる。あいつだけ情報にアドがあんのはアンフェアだ」

 

「それに、きみ達は私を負かした相手です。ここで、しかも情報の差なんかで負けられると私の二年も無になります。あとやっぱりアンフェアです」

 

 と、フェアプレイ精神なんて絶対に持ってない二人の部長が語る。

 それから、目黒さんは近くの椅子に腰掛けると、鞄からぱらぱらと写真を取り出した。

 

 それは、白夜の選抜メンバーの顔写真だった。

 

「まずこちらが、三年生で、幼馴染の加藤さん。『白夜の聖剣』には『輝剣の加護』として『アロンダイト』が与えられていますが、そもそも彼女自体が『モラルタ・ベガルタ』の二刀流使い。純粋に当人が各学園の部長クラスの実力者」

 

 少なくとも他の学園にいたら、三年五指に入っていたでしょうね。などと恐ろしいことも言いつつ。

 

「……ただ、この人の『アロンダイト』自体は、さほど気にしなくていいでしょう。見たところサブアーム。というか本当にお守り程度。それは加藤さんを軽視してるんじゃなくて、ちゃんと実力を信頼しているから」

 

 ああ、あの一回戦でも見た、変則二刀の使い手……。

 たしかにあれは、『異能』が強いというより、『本人』が強い。

 変幻自在、武芸百般という意味では、秋原だと水野部長がぶつかるのかな……。

 

「それから、こちらが黒縄さん。同じく三年生。当人の『異能』は『ナグルファル』。死人の船。……本当に死人を呼び出すことはないでしょうが、少なくとも『国立競技場の怨念』くらいは呼べるでしょう。彼女には、『硬い腕のアグロヴェイン』が付与されています。死人の長の癖に、当人も硬いとか、ちょっと反則でしょう」

 

 もはや他人事だからか、少し適当な感じで目黒さんは語る。

 それに対応するのは望月さん。

 

「ああ。死霊船だのは、僕の得意分野だ。任せな」

 

「硬い腕にぶん殴られなければですね。ひょろがり」

 

 実際怨念とか呪いとか、そういう類は得意分野。

 とはいえ、物理的な殴り合いは弱い。……いや、腕相撲したらわたしよりは強いけど。

 それでも秋原では下から二番目ぐらい。

 

「あともう一人。二年生。つまり来年の部長になるであろう人物。それが、諸星阿左美。『異能』は『ジュワユース』。つまり彼女は……というかもう、ここまで言えば分かるでしょう」

 

「じゅわゆーす?」

 

 いや勝手に分かられても。わたしは何にも分かりませんけど……。

 そもそも初見だしっていう顔をしていると、目黒さんに「マジかよ」みたいな顔をされた。

 申し訳ないですね。不勉強で。

 

「あー……フランク王国の王様の剣です。『カール大帝』と言えば分かりますか? ……うん、分かってないですね、その顔は。一番有名なのは『シャルルマーニュと十二勇士』」

 

 勝手に分かった顔をされても、困る。実際分かっていなかったけど。

 でも、十二勇士って言われると、聞いた覚えはないけど予測はつく。

 多分、十二人の強い人たち。それこそ円卓の騎士みたいな。

 

「ただ、さすがに彼女も十二輝剣を呼び出すとか、そういうことはありません。けれど、状況に応じて握っている剣が『変化』する。例えばうちの『デュランダル』から、他の『十二勇士の武器』まで。……とはいえ、持ち主の力量が変わるわけではありませんが」

 

「部長、もう終わったからって私刺さんでください。ミラーマッチなら単に実力勝負になるってだけでしょ」

 

「だからきみが勝つじゃないですか……。ともあれ、それが諸星さん。与えられている『輝剣の加護』は、『マルミドワーズ』。かの英傑、ヘラクレスが使い、アーサー王に流れ着いたとされる剛剣。これはもう、純粋に強いです。真っ向勝負で挑むべき相手ではない」

 

 これで、逸見さんを入れて四人。残りの一人は、私はよく知っている。

 だって、誰よりも対峙して、誰よりも対面したくない相手。

 汚れた鏡。血に飢えた狂狼。騎士気取りの野良犬――

 

「――最後が一年。期待のエース。寄藤環さん。『異能』は『ダインスレイヴ』。道理を無視して必ず相手を殺す牙。少々厄介な相手です。……ただ、彼女が『ガラティン』。つまり『輝剣の加護』を受けている間は、『ダインスレイヴ』は抜けないようですね」

 

「抜けない……んですか?」

 

 抜かないのではなく、と思わず問いかけると、目黒さんはええと答える。

 

「自分の中で折りあいがついてないんでしょう。『騎士としての己』、『血濡れの刃としての己』。どっちも本物なのにねえ。どっちかに寄せようとするから、片方は使えない。そして『ガラティン』を抜いている間の寄藤さんは、さしたる脅威でもない。うちの里見でも、佐守さんでも十分止められる」

 

 初めて名前を呼ばれたからか、ぴくっと里見さんが反応した。

 でも、その視線はずっと語ってた目黒さんじゃなくて、武光さんに。

 

「先輩、わたし、野良狼なんかに負けませんよ」

 

「そういうのはやってからいいな……ねえ、山名さぁ!」

 

「なんだよ、急に……」

 

「うちのこれはもう一年しかない! さらには白夜の狼は一年すらない! お前んとこで佐守と一緒に躾けてくんない!」

 

「ひとんちをドッグスクールにするな。……いや、白夜のアレはともかく、お前はまだ一年あるんだから」

 

 「そりゃそうだけど……」とぶつぶつ呟いている武光さん。

 そんな話を横耳に聞きながら、目黒さんはぱっと手を開いた。

 

「はい、以上が私の持っている情報全部です」

 

「あ~……ん? 待て待て。カタログスペックだけ並べられても困る。こっちはお前の戦術丸っと貰いに来た」

 

 「というか、攻略法を強奪しにきた」と仰る『海神の槍』。

 つくづく仲間でありがたい。

 

「別にいいですが、きみたちに適応はできませんよ?」

 

「いい。こっちで勝手に魔改造する」

 

「なら答えますか。まず黒縄――『ナグルファル』は、『ファーティフ・ヤマト』で上から押しつぶす気でした」

 

 ひぇ…………!?

 

「死霊船がどの程度の規模かは知りません。ですが『大和』を超えるサイズではないでしょう。なのでぷちっと」

 

「な~るほどね。いきなり空から戦艦振って来たら、そら普通は対処できんわ」

 

 しかし相手は規格外。

 仮にそれで『死霊船』を落とせたとして、そこからどうするつもりだったのだろう?

 

「諸星さんには、大谷……『ティタン』をぶつけるつもりでした。いくら十二勇士と言えど、さすがに巨人殺しの逸話は……たしか、なかったはずですから」

 

 「ローラン自体が巨人化する話はありましたけど」とか、目黒さんは言う。

 

「で、加藤さんがねえ……普通に他校だと三年五指クラスなので――武光と私で頑張ってスパッと。というか、これは私が頑張ります。武光に消耗されると困るので」

 

「そんで、最後に逸見と武光の一騎打ちかい。……ん、一年はどうする気だったのよ」

 

「里見をぶつけます。さっきも言いましたが、里見と寄藤さんと……あとそちらの佐守さんはよく似ているので。とはいえ、寄藤さんは真面目に『白夜の聖剣』の稽古を付けている。今は荒くなっているようですが。それでもこちらが防戦になるでしょうね」

 

「…………」

 

 里見さんが、凄い嫌そうな顔をしている。

 防戦一方、と言われたのが癪に障ったらしい。

 

「――なので、先に『白夜の聖剣』を武光に墜としてもらうつもりでした」

 

「はい?」

 

「別に雑魚から順に落としていく必要もないでしょう。とにかく、武光と『白夜の聖剣』の一騎打ちに持ち込めたらいい。そしてその状況なら武光は……勝てる」

 

 それは理屈ではなく信頼として。

 合理の化身である『征服者』は、『絶剣』なら『聖剣』を折れると断言した。

 

「あとは分かりやすいでしょう。他の――加藤さんだとかは『白夜の聖剣』が折れても立て直せるでしょうが、寄藤さんは絶対に立て直せない」

 

 いつか、わたしが戸枝さんに目黒さんから庇われた時のように。

 いつか、彼女のお腹に剣を突きさしてしまった時のように。

 

 寄藤環は、『白夜の聖剣』の敗北を受け入れられない。

 受け入れられないから、『加護』が消える以上の弱体化をする。

 

「あとは里見ですぱんと」

 

「なるほど。まじで性格悪いな、お前」

 

「きみにだけは言われたくないんですけどねえ」

 

 はあ、とため息を吐きながら、目黒さんは椅子を立つ。

 そして、ついてきていた武光さんと里見さんを連れてロビーの奥へ向かう。

 

「さようなら、『海神の槍』。私はきみの負けを願います」

 

「そこは負けたもんが勝ったもんに激励するところじゃね~んかい」

 

「他の人たちなら、まだ。きみだけは絶対応援したくないので」

 

 「うへえ」と眉を寄せる水野部長。

 そのまま、鶴久の三人はロビーの奥に帰って――

 

「ああ、そうだ」

 

 行く前に、『征服者』は振り返った。その視線は、水野部長ではなく、水野部長を抑えているわたしに向けられていた。

 

「…………そこの馬鹿が何を考えているかは知りません。知りませんが、きみはつくづく『剣』になりましたね」

 

 いつかの言葉。呪いの言葉よりも前の、吐き捨てる様な忌々しい言葉。

 『異能』でも、呪いでもなんでもない、ただの言葉。

 

「その刃なら、届きます」

 

 ずっと、ずっと言われ続けた言葉。

 わたしが『国異』のメンバーに選ばれてから、ずっと、色んな人達から。

 他の出来事は色々変わってきたけれど、それだけは絶対に変わらない。

 

「きみの剣は、『アレ』に届く。――だからこそ、使いどころを間違えないように」

 

 忠告なのか。それとも心配なのか。

 どちらにせよ、こうしてわたし達の最初の相手。

 そして、最後の最後まで立ち続けた相手。

 

 『征服者』目黒次美。わたしの最初の因縁は――

 

「……それと、この大会が終わっても、人生はまだまだ続くんです。きみはまだ生まれてすらいないけれど、だからちゃんと生まれなおしなさい」

 

 そんな、よく分からないことを呟いて、去って行った。

 

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