わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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第34話 決勝の作戦会議と、それからのわたし

「さあて、どうしたもんかねえ」

 

 夜になって、宿に戻ったわたし達は部屋に戻るでもなく……。

 ただ、そのままリビングに集まって頭を抱えていた。

 

「とりあえず現状の敵戦力と、目黒がやろうとしてたことは分かった。分かったけどさ~」

 

 こっちにそれを当てはめられるか、と言われると別問題になってくる。

 そんな風に、珍しく『海神の槍』は悩んでいた。

 なんだかんだで、いつも余裕綽々、へらへらしている水野部長が本気で頭を抱えていた。

 

「もういっそあいつ本人に弱点聞くか。その方が早い」

 

 なんてことまで言いだしていた。

 

「あの……水野部長? それは無理ではないでしょうか……」

 

「なんでよ~。あの『不条理』なら割としれっと答えるかもしれんぞ」

 

 …………。

 …………困った。たしかにあの人ならしれっと答えそうだ。

 

 しかし、常識的に考えてもあり得ないことだし、何より水野部長には逸見さんに貸しがある。

 

「四万返せって言われたらどうします」

 

「……よし、当人に聞くのはやめた」

 

 凄い、マジで返したくないんだこの人……。

 逆になんでそこまで返したくないんだろう。それこそ縁とかそういうのなのかな。

 

「いやだって女子高生に四万は大金ぞ?  佐守ちゃんぽんと出せる?」

 

 などという、至極真っ当なことを言われてしまった。

 その後、真剣な表情で呟く。

 

「逸見相手なら“勝負”はできる。昔、あたしはあいつと無駄試合やったし。でも今回それはやらん」

 

 と、タイマンを張るなら善戦できると唄う『海神の槍』。

 でも問題はその他四名だ。全員が強い、奇策を通す隙がない。

 白夜高校なんていう学校自体が、ある意味水野弥生メタになっている。みたい。

 

「まずは、三年生の加藤だなぁ~……本当のこと言うとコイツを真っ先に墜としたい。コイツがいると、仮に、もし、万が一、先に逸見が堕ちても、すぐに立て直せる。一年坊主は置いといて、正しく指示を出せる。あたしと山名と一緒」

 

「な、なるほど……」

 

 たしかに三回戦で水野部長が落ちた瞬間の山名先輩は……凄かった。

 わたしなんてもうアタフタしてて、全然反応できなかったのに、山名先輩は即座に全員に指示を出してわたし達を勝利に導いてくれた。

 そんな人が向こうにもいる。

 だとすると、早めに墜とした方が――

 

「いや、加藤先輩は放置で良いと思いますよ。ていうか私の罠でなんとかします」

 

 と、その考えにむしろ反対するのが、山名先輩だった。

 さらに山名先輩は続ける。

 

「だってこいつに与えられてる『輝剣の加護』は『アロンダイト』。『裏切りの騎士、ランスロット』だ。ついでに言うと『主の致命に間に合わなかった騎士』でもある。与えられた『加護』がどんくらい逸話を再現するかは分からんが……」

 

 少なくとも逸見明音の危機に、彼女は間に合わないと山名先輩は言う。

 しかも続けて――

 

「で、当人の『異能』も『モラルタ・ベガルタ』――『ディルムッド』でしょ。ますます間に合わん。ついで、私は獣じゃないけど狩人だ。森なら得意分野だ」

 

 いや、明日のフィールドが森になるとは限らんがと付け加えつつも、我らが『狩人』山名有為先輩は。

 

「ので、加藤先輩は私が――あー、嫌がらせと足止めはします。狩れるなら狩りますが」

 

 そう言ったのであった。

 わたしはちっとも話についていけなかったけど、とりあえず山名先輩が単独で何とか出来る相手だということだけは理解した。

 

「そして、二年の諸星、『ジュワユース』はあたしがやる」

 

 そう『海神の槍』は断言する。三年五指と呼ばれている人が、二年生を相手に直接対決をすると。

 

「……だって、ほぼ小型逸見だ。一年分の経験値や対応力さっぴいても、『一人で十三の異能を使える』ってのは変わらん。戦闘能力云々じゃない。対応力の差が要求される。これをなんとかできんのはあたしぐらい」

 

「フィールド次第では気づかれる前に後ろから突き殺す」とまで言っていた。

 その後、水野部長は望月さんの方を見た。

 

「そいで黒縄とかいう三年。『ナグルファル』は多分望月が喰える。当人は別としても『異能』は無効……どころか怨念の塊なんだからお前には最高の燃料だ」

 

「ああ、そうですね。んで力奪った上でぶん殴れと」

 

「うん。蹴り飛ばしてもいい。お前そういうの抵抗ないだろ」

 

「一応、ありますよ」

 

 蹴りますけど、という望月さん。

 その後、水野部長の視線はわたしに向かう。

 

「んで、佐守ちゃんは寄藤とやってもらう。ただし、倒せなくてもいい。とにかく、アレを見て付き合え」

 

「え?」

 

「『ガラティン』持ってるあいつは脅威だ。佐守ちゃんも、負けるかもしれない。だから適当に逃げ回っても、別にいい」

 

「は?」

 

 何を言ってるこの人は。

 あの『血濡れの魔剣』ならまだしも、『ガラティン』なんて聖剣の偽物で喜んでる相手にわたしが負ける?

 

「絶対、真っ正面から、『斬り』ます」

 

「へへへ~、それができたらね~?」

 

「…………」

 

 なんだ、なんか癪に障る。

 水野部長の表情は、霧がかっているみたいに見えない。

 ただ、何かを挑発してきているのは分かる。

 

「絶対に、絶対に『斬り』ます」

 

「だめだね。たしかに合宿で体力はついた。でも、君は、誰を、どうして、何のために斬るのか、それをちゃんと答えられない」

 

「…………」

 

「『斬り』ます『斬り』ますって、バカの一つ覚えみたいにさ。何をどうする?」

 

 ……以前の合宿は、本当に基礎の基礎だけだった。

 燕さんに教えてもらった時は、ただ剣を振るうのが愉しかった。

 

 ――そしてそのまま『国異』に来た。

 何をしたいか分からないまま、『運命』に流されるままに、やってきた。

 だから、水野部長は改めて問うているんだろう。

 

「……わたしは」

 

 言葉に詰まる/いつかの加虐が手に残る。

 

「寄藤環《わたし》を」

 

 ……息が詰まる/それは自傷と同じことだと分っている。

 それは二回戦で、望月さんが見せたものだと分っている。

 それは三回戦で、山名先輩が見せてくれたものとは真逆だと知っている。

 

 ――それでも。

 

それは、準々決勝で戸枝さんが一面だと斬り捨てたものだと、分かっているから。

 

「あの人(汚れた鏡)を、真正面から『斬り』捨てます」

 

「へへ」

 

 けたけた笑う『海神の槍』。

 この悪党、どこまで知っているんだろう。

 

「うむうむ。きっとそれで君は完成する。――よし、勝ち筋も見えたところで。戸枝ちゃん」

 

「はい」

 

 これまで静観を決め込んで……いやでもなんか凄い怒っている、なにゆえ……。

 そんな戸枝さんの怒りをガン無視して、水野部長は肩を叩く。

 

「もちろん君には『白夜の聖剣』と対決してもらう。他の選手に輝剣を配っても、あいつはまだ八本も持ってる。でも、君の終わりの炎なら『纏めて薙ぎ払える』のは前に聞いた。それでも十分な脅威だ。ちゃんと相手してもらうよ~?」

 

「言われなくても。あの人ならとっくに対策を立てているでしょうが」

 

「そうだね~、だからさ」

 

「だから私が倒します。誰より早く、何より先に。……そうですね、寄藤さんと佐守さんの決着がつく前に」

 

 怒りと共に水野部長に告げる戸枝さん。それに、水野部長は微笑んだ。

 

「うん。それでもいいよ? だって、それできんならそっちの方が楽だし」

 

「貴方は、本当に……」

 

 はあっとため息を吐く戸枝さん。笑う悪党。

 それから水野部長はみんなを一度見渡して。

 

「ま、これが最後だ。奇策も通せないし、相手もバカ強いとなれば、緊張するだけ損だよ。そんじゃ全員、明日に備えて休むこと~」

 

 なんて、気軽に言ってから、自室の方へと向かう。

 本当に最初から最後まで、どこからどこまで本気なのかも分からない『海神の槍』は。

 

「なに、決勝戦だ。気軽に勝とうぜ~」

 

 ひらひらと手を振る水野部長の姿は、わたしより小柄なのに、ずっとずっと、格好良く見えてしまった。

 

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