わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
――その日は、珍しく夢を見た。
夢……夢、なのかな……?
少なくともわたしが覚えている限りでは、わたしは『夢』を見ない。
いつも見ていた悪夢は、もう見なくなった。
代わりに真っ暗な空間の中で、自分一人だけが立っている。
「なんだか、いつかと同じときみたいな感じ」
思わずぼやく。
最初に戸枝さんに会った日の、最初に戸枝さんに斬られた時の『走馬灯』。
――だから、向こうから十六の光が灯って。
それから、七頭の首を持った蛇が、わたしの前に現れる。
「……なんだかなぁ」
『うん。どうした』
「まだ隠すんだって、思って」
あと一頭、絶対あるのにね。
なのにこの律儀な邪蛇さんは、それを明かさない。
ちゃんとわたしが至高に至るまで『それ』を守り続けてくれている。
ばればれなのに。
『御前が』
なんてことを呟く大蛇さん。
『御前が、至高に至る時は、多分近い』
「多分なんだ」
『…………正直、読めん』
読めん、とは。
『どういう形になるのか。あの海神もそうだが、あの『あれ』も大概だ。故――』
「どういう感じになるのか大蛇さんにも分かんないんだ」
『己は全能の神などではないのでな』
寧ろ討伐されるべき化生側だ、と何度も言う。
『けれど――その時は必ずくる』
「うん」
明日にはその日がやってくる。
やってきてしまう。
終わりが近づく。
どういう形であれ。
「――あれ」
変だな。
おかしいな。全然、気にしてなかったつもり、だったのに――
ちゃんと“約束”したのに。
ちゃんと贖罪しないといけないのに。
体が振るえる。怖い。
怖い。怖い。とても怖くて仕方がない。
『当たり前だ。御前の友も言っていただろう。喰われるということは、死ぬことだと』
「そう……だけど……」
『……きっと、凄く痛かろうよ。苦しかろうよ。辛かろうよ』
「そう、だけど……!」
『――御前と友の明日から先は、無くなるだろうよ』
「――――」
その言葉が、多分一番辛かった。
変なの。あれだけ消えたかったのに。
あんなに人生とかイヤだなって思っていたのに。
こうやって、具体的に言葉にされると――
「――わたしの“約束”は」
『無効にするか』
「――いやだ。果たす」
我ながら、一番矛盾した言葉だった。
死にたくないけど、“死ぬための約束”は手放さない。
「――なんか、癪だし」
少なくとも、これは自分から決めたこと。
色んな要因、要素、色々あって、なんか複雑になったけど。
「わたしが至高に至った時に、あなたはわたしを食べにきて」
ちゃんと、真っ当しないといけない。気がする。
『……それを聞くのも。もう何度目やら』
はあとため息を吐いている大蛇さん。
蛇にため息を吐く機能とか、あるのかな。とか、何か少し思った。
『無論だ。“食べにいく”。……己は元よりそういう化生だ。そういう“運命”なのだ』
最後の言葉はよく分からなかったけれど――
でも、改めて約束をした。
ここは神前ではないけれど。
もっと禍々しいものだけど。
わたしと彼の、“約束”を。