わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
――時は少し遡り。『国異』よりも一月前。
つまりは練習試合の直後。秋原が合宿に行っていた頃。
かの『征服者』、目黒次美がどっかから拾ってきた里見志野に、『鶴久の絶剣』こと武光奏は稽古を付けるように命じられた。
命じられたのだが――
「ううん……」
彼女は、頭を抱えていた。
『絶剣』は『熱剣』や『聖剣』とは違い、別に自分を慕ってくれる後輩、あるいは同僚に小難しいことは言わない。
それにうちの『犬』は大変利口である。秋原の狂犬やら白夜の孤狼と違い、ちゃんと言うことはある程度――少なくとも『絶剣』のいうことだけは、ちゃんと従ってくれる。
あと『元からある程度剣を習っていた』というのも重要だ。
彼女の『異能』、ムラサメと居合斬りの技術は自前。そこに『絶剣』の『縮地』を教えれば、無敵の『化生殺し』が完成すると、目黒も武光も思っていた。
思ってはいたのだが――
「いや、そうじゃなくて……なんかこう、腰をぐっとして、ぐいっとさ」
『鶴久の絶剣』は、人に教えることが大変下手であった。
というより、そもそもが我流である。
なによりも「なんかやってみたらできた」程度の所業である。
故に、体系化出来ていない。里見志野は忠犬だが、それ以前に教える側の頭が足りない。
(あ~~……諸星か村田がいたらなぁ~)
白夜の『綺羅星』、洛陽の『妖刀』。
あの二人ならば、自分よりうまく言語化できるだろうと、武光は考える。
当たり前だが二人が聞いても無理を言うなと言われるだろうが、自然とそれが出来ている武光にその発想はない。
そうして悩んでいると、ふと目の前に小柄な少女――里見がやってきた。
なんだかしょんぼりとして、それこそ叱られる前の犬のようだと武光は思う。
「…………すみません」
「ん、なにが?」
唐突に謝られたため、武光は驚く。
「わたしが、未熟なため――『鶴久の絶剣』の名前を汚して」
「いや、んなこたない。私の教え方が下手過ぎる」
そんなことで謝られては、武光は困る。
なにしろ武光自身が言語化できず、なんなら自分でも自分が何をやっているのかも分からず、『なんかやってみたらできた』ので、部長である目黒からも時折普通に引かれている。
「後輩の指導不足で私が叱られることはあっても、それはお前のせいじゃないよ。間違えんな、一年生」
「はい……」
まだ落ち込んでいる里見に、むう……と頭を悩ませる武光。
人間関係にせよなんにせよ、トラブルは基本的に『斬って捨てる』が信条なのだが、しかし自分を慕う一年。おまけに目黒から指導も命じられた一年生。
さすがに斬り捨てるわけにもいくまいと悩みつつ、かの『聖剣』やら『熱剣』やらはどうやって首輪をつけているのだろうか……などと思う。
ともあれ、自分の言葉では解決出来ない問題だ。ならば問答は不要と見なす。
「あ~。あれ、網野とか連れてさ。またクレーンゲームとか行く? 私上手いよ」
ちょっとした励ましと、ついでに気晴らしも兼ねてゲームセンターにでも行こうと誘うと、急に里見の瞳が輝いた。
分かりやすくてありがたい。
「あ、でも網野さんって…………誰ですか?」
「マジかお前」
今回の選抜には入っていないものの。
練習試合で『モーセの水割り』を発揮して、あの水野弥生を一時的に行動不能にした一年生を覚えていない。
なるほど、剣より先に教えることがありそうだ、などと『鶴久の絶剣』は思う。
「なんで、目黒部長。ちょっと一年共連れてずる休みしてきていいですか?」
「それを確認する時点でずる休みではないでしょう……」
などとぼやきながらも、一連の状況を一緒に眺めていた目黒はため息を吐いて。
「とはいえ、連帯感の欠如は問題ですねえ……」
丁度秋原も合宿中。連帯感がどうのとか行っているタイミングでの、これである。
目黒としては、勝手に動く駒があると困る。そして普通に部の空気が悪くなるのも困る。
もっとも、意識しても、無意識にも、『畏れられる部長』をやっている目黒ではそれは言えないので。
「分かりました。……行ってきなさい」
「はいはい。ああ、部長にもプレゼント取ってくるんで。――お~い一年共、遊びに行くぞ~!」
『鶴久の絶剣』が、片手をあげて声をかけるだけで、一年生たちは集まってくる。
それに一瞬、『絶剣の忠犬』が殺意を漏らすが、それは威圧で抑え込む。
武光奏の思考は酷くシンプルである。目黒次美に優勝をプレゼントするには、『目黒次美の有能な駒』が多いほどいい。そういう『異能』だから。
なので、それを求めて一年生たちを集めて、連れて、遊びに行くのだが――
「――どっちが部長か分かりませんね、これでは」
その背中を見ながら、目黒は思わずぼやくのだった。