わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
秋原の準々決勝で戦った、私立洛陽の二年生。
かの『吸血鬼』望月干果に、特に描写もなく墜とされた村田知子。
その『異能』は『ムラマサ』――『妖刀』とよばれるその能力は『土地の魔力を吸い上げて、攻撃対象と自分の魔力量差分を埋める』という、自分でもよく分からない異能だった。
しかしこう見えても村田は、同じく『洛陽』の二年、『化生殺し』の『シシノコ』使いである渡辺舞よりも周囲からは酷く評価されている。
残念ながら本編において、その力量を発揮する機会は恵まれなかったが。
少なくとも、例えば秋原の山名に聞けば。
「まあ、面倒くさい……」と嫌そうに返すだろう。
そして現二年生最強『鶴久の絶剣』こと武光奏に聞けば。
「あれは『斬る価値のある敵』だ」と笑って返すだろう。
ついでに最近降ってきた弓馬鹿こと須藤千与も。
「うむ! 討って面白い的だ!」などと豪快に笑ってくれる。
それが村田である。格上殺しの極み。ジャイアントキリングを得意分野とする彼女は、性質上、演出上、ほぼ必ず『格上を、なんか強い剣士が倒した』という、大変「主人公」らしい活躍をしてしまう。
というよりも、『主人公の異能』だ、これは。
あるいはこれが別の物語ならば十分主人公として機能する。
そして当人も割と、「正義の味方は気取らんが、自分の手の届く範囲ならまあ助けるだけの力は欲しい」とか割と素で思うタイプである。
してしまうのだが――
「面倒くさい……勝手に主役に押し上げんなよ……」
というのが、まず村田の所感である。
あの半端者に敗れたせいで猶更に、ちょっと自嘲が混じっている。
ところがどっこい、彼女には素で厄介事が襲いかかる。
部長である『明王』はもう無視するとしても。
街中で迷子の子どもを助けたことが何度あったか。
路上の迷惑なヤンキーを打ちのめしたことが何度あったか。
なんだか、助けを求めている手を取ったことが何度あったか。
(あとでしっかり警察に叱られたが)強盗犯を斬り返したことも何度あったか。
彼女は『手が届く範囲ならなるべく助けたい』という現実的なことを思っているだけなのに。
なぜか厄介事に巻き込まれる。素の力量で解決出来てしまう。
もはやこれが『妖刀』の呪いのせいか。『異能』が自分の魂の形ならば、厄介事なのが自分なのか? などと疑心暗鬼。
はあと大きくため息を吐きながら、観客席で他の洛陽面々と一緒に準決勝の、白夜側の相手を見る。
白夜高校が準決勝で当たっていたのは、岩手の私立花巻高校。部長は『幻燈。遠野物語』という、怪異物語を操る宮沢二年生。
同じく妖怪、化生の類だが、単発火力で言えば三年五指こと『戯曲の悪魔』薄墨時雨よりも高い。
なにしろあれは『怪異を召喚する』のではなく『怪異の物語』に相手を引きずり込むのだ。体が筋書に勝手に動いてしまう、そうでなくても無意識にやってしまうという強制力を持っている。
今はそれを、『白夜の聖剣』が「しらんがな」みたいな顔で「本ごと」スパスパ斬っているのを眺めている。
それを見ながら、村田は隣の渡辺に問う。
「渡辺~。髭切なら、アレ出来っか?」
「いや。物語内にいる怪異なら殺せるけど『物語そのもの』は殺せん」
「そらそうか」
宮沢は二年生。なので来年ぶつかる可能性がある。
なので村田はとても困っていた。
「なんだその顔、次期部長だろ」
「なんで私が次期部長なんだ……」
村田知子は、『面倒くさがり』である。
だから『能力差分を埋める』なんて変な『異能』が生まれている。
しかし、それで埋められるのはあくまで『魔力』だけ。
要は刀の力量は自前で鍛えねばならない。
「せめて私を勝手に剣豪にしてくれ~」と、本気で思っている。
しかしそれにツッコムのが、同じく二年生で化生殺しの太刀を使う渡辺。
「でもお前、ちゃんと強いだろ……」
少なくとも化生殺しに特化した渡辺よりは、村田はちゃんと剣士として鍛えている。
さすがにあの『鶴久の絶剣』に届くほどではないが、実はちょっとだけ傷を負わせたこともある。
「だってそうしないと勝てん……。鍛錬とかマジで面倒なのに、よりにもよってそこだけ自前だ」
つまり、『ムラマサ』の真の性能は格上殺しではなく。
『魔力量を揃えてやるから、剣術の腕は自力でやれ』という矜持なのである。
そして、それに村田だけが気づいていない。
「……お前結構アレよ?」
「んだよ」
秋原の吸血鬼に負けてふてくされてるところに、さらに追い打ちをかけるつもりかこの女は、と村田が警戒していると。
「いや~……なんか、綺麗だなって」
などと、大変ふざけた回答が飛んできた。
「だってさあ、ちゃんとせんと失礼だし。いやもうほんとは朝のメイクも面倒だけど……」
「は」
やはり来年の洛陽の部長は村田である。
渡辺も相応の格はあるが――というよりも『髭切』の時点で相当だが。
「まあいいよ。私が面倒事は支えたるから、お前はちゃんと神輿になってくれ。そんで『冬の狙撃手』だの『鶴久の絶剣』だの、来年こそぶった斬れ。うちの『明王』さんも……まあやる気になってくれたし」
「あの人今年で卒業だろうが~……はぁ~! 面倒くせ~!」
などと言いつつ、やらないともやれないとも言えない村田に、渡辺は苦笑を漏らすのだった。