わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
「諸星、ちょっといいか」
そう呼ばれるのはかの『白夜高校』の次期部長と言われる二年生。
諸星阿左美二年生。そして呼んだのは『白夜の聖剣』こと逸見明音である。
「はいはい、なんすか」
この規格外の伝説、埒外の対象に対しても、諸星は特に狼狽えない。
……いや、さすがに一年の頃には憧憬も、それこそ今の寄藤の如くあったが。
それはそれとして今は二年生にして実力者。
加えて『ジュワユース』などという『白夜の聖剣』と良く似た異能を使っている。
……とはいえ、彼女はあくまで持っている武器を適宜『十二勇士』の武器に変化させる。
なんとなく人格というか性格を乗っている『異能』に寄せるだけであり、逸見のように十二輝剣を独立させたり、人に貸し出したりなどはできないのだが。
しかし、彼女も「王」である。
少なくとも次期部長である。逸見明音相手に臆していては、『白夜の剣』は名乗れまい。
「んで、どうしました先輩。なんか困りごとでも――」
「いや、うん。君に関わりそうで、関わらないことなんだが……」
そういう逸見の瞳は、大変深刻そうだった。
珍しいものをみた、と諸星は思う。この人はそういうのとは無縁の完全無欠な方だと思っていたのに。
「私は、今年卒業する。試合がどうあれ」
「はあ、そうですね」
「……来年、寄藤はどうなるだろうか」
「…………あー」
退部する……ということはないだろうが。
凹むだろう。
凹むですめばいいが。
『加護』を失った狼は、どんな道を奔るのか。
「なんだろう、なんというかな、私では駄目なんだ……」
はあっとため息を吐く『白夜の聖剣』。
そういうところを見せればいいのでは、と思うが、寄藤の逸見明音への信仰化は重症だ。
このぐらい『気のせい』で済まされる可能性がある。
そう深刻に、後輩に頭を悩ませている先輩に対して、諸星は。
「ま、あれですよ。別に憧憬とか捨てなくていいんじゃないっすか」
と、気軽に返す。
「憧憬か――そうだね。あれは憧憬なんだろう。ただ、ちょっとこう……」
「いいじゃん。王道に格好いいもんは、格好いいんすよ」
逸見には逸見の理屈があるのだろうが、諸星の判断基準は、少し違う。
諸星は『格好いいか』、『格好良くないか』で判断する。
「で、格好いいもんに憧れるのは普通でしょ。なれるならなりたいでしょ。ヒーローに」
少なくとも自分は『ヒーロー』になりたいと、『王道』を唄う諸星二年生。
「……たしかに、私もみんなでワイワイと、マジカルチャンバラをやるのは好きだよ」
「だと思った。そうでもないと、あんなに愉しめないですよねぇ」
他校の生徒は、『白夜の聖剣』の首を狙っているだろう。
なんなら諸星だって、出来るなら『白夜の聖剣』の首を取ってやりたいと今でも少し思っている。
「あいつは荒っぽい自分を嫌ってるみたいですけど、荒れてる時のあいつが一番おもろいし。ダインスレイヴの喧嘩殺法も格好いいっすよ? むしろ首輪繋がれてる時のほうがションボリしてて格好良くない」
「そうだね。私もそう思うよ」
「だから~そうだなぁ……アレだ」
そう言って諸星は、とんと自分の胸を叩く。
「ここに、自分の中で『格好いいモン』を一個置けばいいんですよ。私の場合は『逸見明音』を置いてますけど」
「私はそこにはいないが」
「そ。でも『私が逸見明音ならこうする』、多分それが『格好いい』生き方になる。って私は思ってる」
だから、現実の『逸見明音』に、『白夜の聖剣』に認められなくても。
自分が信じた『王道』を行くことが出来る。
それが、諸星二年生。
「格好いいな、君は」
などと、『白夜の聖剣』に言われてしまった。
強いだの弱いだのではなく、『格好いい』と。
自分は自分が思ったことを言っただけなのに、なぜなのだろう? と思う諸星。
「……結果、私の教え方が良かったのかも分からない。過保護にし過ぎたのか、厳しくし過ぎたのか……」
「アレも来年には、多分凄くなってますよ」
などと、どこまでも誠実な逸見に、諸星は気軽に答える。
「だって狼じゃん、あいつ。狼、かっけーじゃん。来年には暴れ回ってくれますよ」
白夜高校の、実直堅実な戦い方とは少し違うかもしれないが。
しかしそういう荒々しい戦い方も、『有り』だ。
なぜなら、格好いいから。
「そんな感じで、先輩方が卒業したらうちは再編する気なんで。あいつが気にしないでいいくらいに、色々と」
それこそ綺羅星の如く。
それぞれの『格好いい』を絢爛に魅せたい。
「ついでに勝ちたい」
「――そうか」
ふっとなんでか、逸見明音は寂しそうに笑うと、諸星の肩をポンポンと叩いた。
「私のいない『白夜』を頼むよ、諸星」
『白夜の聖剣』から、『白夜』を任された。
その重圧は、相当なものだろう。
けれども、新たな星。諸星はそんな言葉にも笑いながら。
「ま~、今年の『剣』は鶴久に奪われちまったけど、その分みんなでパぁっと明るい白夜にしたりますよ」
次期部長は、どこまでも陽気に微笑んでいた。
◇
某刻――秋原では。
「ちゅ~わけで、こいつは能力が柔軟な癖に性格が王道まっしぐらで分かりやすい。さくっと闇討ちすっぞ~」
諸星さんの説明をしながら、「ついでに最高に格好悪い体勢で脱落させたろ」
なんてケタケタ笑っている『海神の槍』――
やっぱりうちの部長が一番悪人なのでは…………ないでしょうか……?