わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
今回のフィールドは『森林』。今の秋原チームが、最初の練習試合で戦ったような場所と同じところ。
視界は悪く、射線は通りにくい。不意の遭遇戦が多くなるであろう。
――試合開始のブザーが鳴る。ここに、最後の戦いが幕を開ける。
それと同時に、『白夜の聖剣』逸見明音は、試合用の模擬剣を掲げる。
「――『彼方の果て。湖の底。常世を超えて飛び立とう』」
それは騎士にして王の詩。選ばれし英雄の伝説の唄。
長い黒髪は金髪に、合せて剣も黄金色の光を灯す。
「『花園の門よ開け。今ここに王が選ばれる』」
数多ある『聖剣』の伝説。その中でももっとも知名度に優れる王の剣。
それは間違いなく、この場の頂点――
「――『抜剣。エクスカリバー』」
無駄もなく、隙も無く、美しく。
その剣は、彼女を選んだ。
「――『集え円卓。我が剣に覚えがあるならば』」
さらに始まる英雄譚。王の逸話が呼び起こされる。
「『騎士の本懐。常勝の伝説よ。今こそ刻まれた証を示せ』」
その剣を見た者ならば、必ずや集うであろう騎士達の物語。
今回の秋原――なにより水野弥生が相手であれば、必要となるであろう十二人を選定し――
「――『招集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
輝く色とりどりの十二の輝剣が、彼女の周りに召集された。
「さて――」
其々の部員にひとつずつ、自分の輝剣を一本ずつ渡していく。
特に寄藤環には、念入りに。
「――君がこの『加護』を、いつか、乗り越えてくれることを祈るよ」
もはやこれが最後の試合。
結局、寄藤環は今に至るまでこの『加護』を乗り越えていない。
だからこそ、少しだけ悲し気に。けれども寄藤環はまだ気づかない。
「――はい、お任せください!」
「うん」
少しだけ悲し気に微笑んでから、『白夜の聖剣』は一歩前に出た。
――あとはいつもの常勝不敗、常に無敵の『白夜の聖剣』がそこに――
「――よしっと」
と、そんな気軽なノリで、逸見明音は一歩前に出る。それから背後の副部長、加藤と、次期部長の諸星――そして、自分を慕う寄藤に珍しいことを――というよりも、これまで一度も言った事がない言葉を告げる。
「すまないが、ちょっと博打を打ってくる。私が負けたら加藤が指示を出してくれ」
――あの『白夜の聖剣』が。
『自分が負けたあと』を想定した。
『端的に事実だけを斬って捨てる化物』が、『博打を打つ』と言った。
当然、それに反応するのは寄藤環。
なぜなら彼女にとっての逸見明音は『白夜の聖剣』――理想たる憧憬の煌めきそのもの。
「は、はぁ……!? ちょ、ちょっと逸見先輩」
「いや、これが本当なんだ。あれと勝負できるの私くらいだし。……まあ、勝率は半々くらいだが、なんとかするよ」
などと、後輩の怒りもどこ吹く風に、彼女はいつもの本気とも冗談ともとれない気軽さで前を歩いて――
「――サー・ラモラック」
背後に浮かぶ八の輝剣から、一本を呼び出した。
驚異的な跳躍力を持つと唄われる、その騎士の名を。
「君の脚を貸してもらう。なに、あとは自力で頑張るさ」
そう言って、彼女は――『白夜の聖剣』は空へと跳んだ。
◇
決勝のフィールドは森林。不意の遭遇戦が多くなる――
つまり、わたし達が最初に戦った練習試合と同じようなフィールドだ。
だからまずは視界の確保が最優先――なんだけど……。
「え――?」
ふと空を見上げたら、太陽を背に――
『白夜の聖剣』が飛んでいる。
「はい……はい?」
しかもこっちを指差しながら、ちょいちょいと手招きまでしている……!
あの『伝説』が! あの『聖剣』が! あの『規格外の怪物』が一番最初に前面に出て、しかもわたし達を挑発している……!?
「え、えっと――どうします、狙撃とか!」
「いや、分かっている。分かってるが――」
山名先輩までパニックになっている。
当然他の一年生たちも同じ。
「――山名」
その中で。
いつものへらへらした口調が消えた、凄い静かな、水野部長の声がした。
「すまん。今からお前が部長だ。あたしはアレを墜としてくる。あとみんなちょい離れて」
「――はい?」
◇
『海神の槍』こと水野弥生は奇策で有名である。
おまけに『三年五指』に数えられるほど、純粋な実力でも強い。
なによりもその気まぐれな性質――『異能』の出力も、本人のやる気も気分次第という性質は、かの『白夜の聖剣』にすらも読めない。
そして、本日の水野弥生は――まあ『好調』である。
なので作戦会議中はあれこれ言ったが、奇策を通せるのであれば通してやろうと考えていた。
そのためにまず墜としやすいものから狙うか、あの一年など、とも考えていた。
――そういう考えは、全部あの挑発で吹き飛んだ。
「――『我は大地の神である。我は嵐の神である。我は海の神である』」
嵐が吹きすさぶ。ただ槍を顕現させるためだけの水分を集めるだけなのに、それだけで世界が崩れそう。
「『この穂先にて綿津見を掻き混ぜ、世に嵐を齎さん』」
雷雲が轟く。その勢いはもはやあの『神鳴』すらも圧倒的に超えており――
「――『抜槍。トリアンナ』」
――次の瞬間、水野部長の『体自身』に、『絶好調中の絶好調』の雷霆が降り注いだ。
しかも、それも自爆ではない。
水野部長は全身を雷で覆ったまま、本当に、本気で、しっかりと槍を構えて――
「――私立秋原、三年生。水野弥生。いざ参る」
『三年五指』でも、『海神の槍』でもない。
ただ一人の戦士として、水野弥生は一直線に逸見明音に向けて跳んだ。
槍投げではない。己自身を雷化しての突撃。
「――サー・ガラハド」
それを分かっていたかのように、十字盾で受け止める逸見明音。
しかし反動で背後の輝剣が四本纏めて砕け散る。
地上百メートルを超える高度での、部長同士の空中戦――
そんなとんでもない形で、決勝戦は幕を開けた。
◇
「嬉しいな。君なら飛んできてくれると思っていた」
ははと笑う逸見明音に、水野弥生も鼻で笑い飛ばす。
「け~っ! どうせあたしが飛んでこなければ、なんか適当に爆撃する気だったろお前~!」
「うん」
素直に答える逸見明音――『聖剣』を唄う、他を圧倒する剣術が、自由落下しながら水野の槍とせめぎ合う。
お互いに空中制御なんて出来るわけがないのに、互いに互いの体を足場にしながら剣戟を続けている。恐らくは他の『三年五指』だの『征服者』ですらも仰天する光景。
しかしその中でも二人は軽口をたたき合いながら本気で殺し合う。
「つ~か、思いっきりあたし指名で挑発してんじゃね~よ、ふざけんな!」
「む。一応ふざけてはいないぞ……本当に『君は読めない』からな。なのでこうして、本気を出してもらった」
その結果が『絶好調中の絶好調』をも超えた、水野弥生の『最高潮』。
加えてそれは逸見明音の想定すらも、しっかりと超えていた。
伸縮自在の水の槍――加えて空からは一撃でも墜とせる雷霆。
今は残った輝剣で周辺を保護し、避雷針代わりに残る輝剣を上空に置いている――が、それにも罅が入っている。
雷を防ぐ逸話ではないにせよ、相応の固さがあるものがもう壊れかけている。
逸見明音を守る輝剣は、もはや残り三本のみ。
ここまでの苦戦を強いられる状況を、過去に誰一人見た事がない。
だからこそ――
「つくづく……君との殺り合いは愉しいな!」
「そらぁ嬉しいねぇ! だったらさっさとその首よこしなぁ!」
『最高潮』の水野弥生、それはもう『三年五指』などには収まらない。
言ってしまっていいだろう。『水野弥生』は『白夜の聖剣』よりも『逸見明音』よりも、明確に上回っていた。
「あと、あたしがお前を先に倒せば佐守ちゃんとかも色々、なんとかなる……!」
「そういう機微も、やっぱりあるんだな……!」
海神の槍を十字盾で防ぎつつ、聖剣で斬り返す。
しかし水膜がその剣戟を防ぐ。
「とはいえこちらも『白夜』を背負う身だ。そう簡単には譲れない……!」
半ば力づくで水膜を斬り捨てる逸見明音。
華麗さもない本気の剛剣。だがそれすらも、水野弥生は軽く躱す。
未だに落下中だというにも関わらず、水野弥生の柔軟性は今ここにて至高へ辿りついた。
そう、あの『白夜の聖剣』を超える程に――
「だから、君は絶対に最初に墜とす。そう決めていた」
「あ?」
「ところで水野。
「は?」
ぽかんと、思わず水野の思考が止まる。
上空百メートルの自由落下をしながらの華麗な剣戟。
派手だし、目立つ。だが、なによりも「落ちている」。
あれ――そういえば今はどの程度だと思う時にはすでに背後に地面が近づいて。
「やっべ……!」
そう言って水の膜を後方に貼る。この高さからではあまり意味がないかもしれないし、なにより逸見にも無事な着地をさせてしまう。だが、それでもマシだ。
今は『白夜の聖剣』への対処より、『安全な着地の方が優先度が高い』。
故――
「じゃあな、水野。うん。君のお陰で三年間愉しかったぞ」
「あたしゃ愉しくね~わ~!」
再び振り返った目の前には、件の十字盾。
逸見明音はそれを、持っていなかった。両足に乗せて、サーフィンみたいに――
なによりも、落ちていく水野弥生を押しつぶすかのように――
頭上から真下へ向けてのシールドバッシュ――というかただの押しつぶしが、水野弥生を襲いかかった。
◇
(いってぇえええええ~……!)
森林中央の方で爆発が起きた……というか、水野部長と逸見さんが落下した後なんだけど……!
とにかく念話は生きている――なにより脱落ブザーも鳴っていない……。
つまり、水野部長はまだ堕ちてない……!
(水野部長、大丈夫ですか!?)
(全然大丈夫じゃな~い! つうかあいつ、ふざけやがって~……! このまま――)
まだちょっと怒り気味な水野部長。それに。
(あ~水野先輩、下がってください。あんたに堕ちられると念話がなくなる。困る)
山名先輩の声が混ざる。
(あ~!? いや、そうだけど――)
(『部長命令』です、下がれ。先輩、今のでほぼ出し切ったでしょ。一旦は念話だけ残して温存)
は…………!?
そういえば、さっき山名先輩に部長権限が移った――!?
(あ~う~……ぐぅう……!)
(いいから下がってください。あんたは十分仕事した。――つうか、もう向こうが来ている)
そう言って山名先輩は頭上を指差した。
そこには――空を飛ぶ船があった。
でも、戦艦じゃない。戦艦じゃないけど、黒い……黒くて、おどろおどろしくて――
(あ~! くそ、『ナグルファル』か……!)
怨念をまき散らしながら空を飛ぶ死霊船。
悍ましいが、同時に神聖すらも感じさせる。
(あ~……と、まずは――)
(戸枝、打ち落とせ)
(分かりました。山名部長)
すっと、戸枝さんが一歩前に出る。
その手に持つ剣に、『終わりの炎』が巻き起こる。
もう既に最初の作戦からは大きく変わっている。
だって、本当はアレを墜とすのは、望月さんの仕事で――
「ああ。僕はいいよ? だって繋がり的にはそっちの方がいいっしょ」
「……まったく。『レーヴァティン』で『ナグルファル』を落すとは」
そんな、わたしにはちょっとよく分からない愚痴を言いながらも、彼女は――『秋原の熱剣』はその炎を掲げる。
「まあいいでしょう。最初の見せ場を奪われたのが、少し癪に障りましたから」
剣から燃え上がる炎は、既に森林を超えて国立競技場の照明塔に届かんばかりに。
向こうから位置は丸見え。立ち位置は完全に把握されている。
――故に死霊の怨念達は、まとめてこちらに飛んでくる。
だから戸枝さんに歩幅を合わせて望月さんも一歩前に。
「――『世界よ、終われ。私と共に、私以外のすべてを焦せ』」
そんなの知るかと言わんばかりに、戸枝さんの炎は燃え上がる。
いくらかの死霊達はその炎に焼き尽くされる――けれど残る死人が追いすがる。
「――『ああ、寒い。雪と狼と夜が来る』」
そこに合わせて冷たい死人の詩。
白熱する業火に渦を巻くように、漆黒の影がまとわりついて、怨霊達を残らず吸い尽くす。
「『処女達《はなよめ》の血が無ければ、僕は魂まで凍えてしまう』」
「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き尽くし、私だけの春よ来い』」
春を唄う炎に、冬の風が纏わりつく。混じり合う炎と影。
『終わりの炎』に『永久の夜』が合わさって――
「――『着憑。デア・ナハト』」
「――『抜剣。レーヴァティン』」
ぶんっと振り下ろされる激熱の剣。
それは漆黒を抱いて渦を巻きながら、空を飛ぶ死霊の船を燃やし尽くした。
いや、燃やし尽くすどころの話じゃない。そこからちゃんと魔力を、望月さんの影が奪いつくしている……! 逃げ惑う死人達も、影に飲まれて消えていく。まるでブラックホール。
黒い太陽が、船を完全に奪い取った……!
最初の脱落ブザーが鳴る。それは、白夜側だった。
◇
黒炎の斬撃は、死霊の船を墜とすだけに留まらない。
どころか森林を真っ二つに燃やし尽くした。
縦振りの斬撃だ。準決勝のように全フィールドを燃やし尽くすようなことはないが、それでも見事に道が開けた。
加えて白夜側の機動力――『ナグルファル』を墜としきった。
少なくとも初動は完全に秋原の優勢。
――だというのに、
「おっとと……危ない危ない、燃えるところだった」
水野を緩衝材に降り立った『白夜の聖剣』は、未だに自然体のまま。
どころか落ちてきた黒炎の斬撃を、小石に躓きかけた程度の塩梅で軽くかわす。
「ふう……うん。まあ、半々か」
即座に状況を把握する。
水野は墜とせなかったが、あのダメージではしばらく行動不能だろう。
代わりにこちらも輝剣を想定外に失った。特に『ベディヴィエール』を消し飛ばされたのは痛い。あれは『終わりの魔剣』を回避するために用意していたものだから。
この状況で二度目が来ると、少々まずい――なので。
(加藤。すまないが『アロンダイト』を返してくれ)
聖人の十字盾(ガラハド)だけでは、終わりの魔剣は防げまい。
ならば、終わりの先を用意する。
(いいよ。つうかお前の自由采配だろ、これ)
(一応、確認を取るのが礼儀だろ――と)
ふわりと黒剣が彼女の背後に戻ってくる。
彼女はそれを聖剣とは別の手に持って軽く振るう。
二刀流――逸見と同じく白夜の副部長、加藤が得意とする剣捌きを、『白夜の聖剣』は当たり前に使いこなす。
「――さて。少々屁理屈ではあるが、これなら受け止められるかな」
右手に聖剣を、左手に黒剣を持ちながら、水野を探す。
だが、『海神の槍』は縦横無尽。もはやとっくに逃げおおせていた。
代わりに向かってくるのは、『秋原の熱剣』――現状でもっとも見えやすい位置に立つ『白夜の聖剣』に、『新しい伝説』が立ち向かってくる。
全身に灼熱を纏うその姿は、もはやその身自体が『終わりの炎』と言っても過言ではない。
だというのに、『白夜の聖剣』はひどく愉しそうに。
「いいとも。君の剣を受けるのも、愉しみにしていた」
笑顔を浮かべながら、二刀の構えを取る。
対峙する『秋原の熱剣』は何かに焦っているようにも見える。
普段であれば、相談の一つでも乗るところ。
しかしここは真剣勝負の場。
ならば『白夜の聖剣』は、一切の驕りも油断もなく――
「――『抜剣。レーヴァティン』!」
詠唱もなく振りはらわれる斬撃を、その黒剣でいなしきった。
――否、『終わりの炎』を消火したのだ。
なぜならば、これは『アロンダイト』――なぜならば、これは『湖の騎士』の剣。
すなわち――
「あまり燃え広がると、危ないからね」
水流操作――もちろん、水野弥生ほどの出力は出ない。
だが、それでも『白夜の聖剣』の剣術と組み合わされば、『終わりの魔剣』を薙ぐことはできる。
加えて二刀。黒剣で熱剣を防ぎながら、聖剣でしっかりと戸枝の頚を狙う。
「ふざけないで――くださいますか……! あなたといい、武光さんといい――!」
思わず愚痴る戸枝。
先日の武光といい、『終わりの炎』に対しての対応があまりにも桁違い過ぎる。
一年を代表する『剣』である戸枝ですらそう思うのだが、逸見は至極真面目に答える。
「ふざけてはいない。というか、武光のアレは私にもできない。だから『アロンダイト』を使っている」
などと答える逸見明音。しかし、いくら『アロンダイト』が終わりの先の話といえど、屁理屈は屁理屈だ。
概念上はどう考えても『終わりの炎』の方が優勢。
直撃すれば、黒剣も砕け散るだろう。
――それを、いなしている。
しかも、利き手ではない左手で。
なおかつその剣戟をしながらも――
(寄藤、君は森林に隠れながら往け。諸星は私の援護に来てくれ。……あと、そうだな。加藤の加護はもうなくなったんだった。好きに暴れろと伝えてくれ)
と、部員に指示まで出している。
「こっの――!!」
それも、戸枝の逆鱗に触れる。
ただでさえ焦燥――佐守あおを『完成させない』という焦りがある。
故に、この『白夜の聖剣』は確実に――少なくとも佐守あおと寄藤環がかち合う前にケリをつけるつもりだった。
――そして、それは戸枝だけではなく。
「ん」
不意に足が重くなったのを感じて、逸見は下を見る。
見れば影――望月干果の吸血の影が、己の足を奪っている。
――無論、彼女は『聖剣』だ。たかだか半端者の吸血鬼の影など、剣を突き下ろすだけで恐らく仕留められる。
そう、逸見明音は考える。そう思ったからこそ――
「――『抜剣』」
戸枝小春の三度の詠唱。終わりの炎が燃え上がり、影に気を取られた『聖剣』を打ち砕――
「だろうね」
逸見明音は黒剣を投げ捨てると、自由になった左手で戸枝小春の腕を掴んだ。
「なっ…………!?」
この一瞬で剣ではなく素手に切り替えた。
正気ではない。どころか、そのまま聖剣は影に突き刺そうとしている。
とはいえ、相手は望月である。己の危機、逃げ場所への対応は早い。
ついでに、影で無理矢理、戸枝を引き剥がして後方へと逃げる。
「おや」
離れてしまった、とぼやきながらも、再び、先程落とした黒剣を拾う逸見。
「……ちゃんと薙いだつもりだったんだが、多少ひび割れたな。さすがは『秋原の熱剣』だ」
とはいえ、これを加藤に返すのも難しい。
『アロンダイト』がなければ、『秋原の熱剣』に対処する術はない。
そして現状、『秋原の熱剣』に対応できるのは自分だけだろうと逸見は思う。
「まあ、開幕戦はこれぐらいにしておこう。……サー・ローエングリン」
水野に半数以上の輝剣を割られてしまったが、手元にはまだ三本――それに、加藤から返してもらったアロンダイトがある。そのうちの一本を呼び出した。
その剣は、まるで白鳥のようで――
「君の翼を貸してもらう。ここからの私は指揮官だ。少し下がりたいからね」
『白夜の聖剣』の背に、白い翼が生えた。
輝剣に割く魔力量程度では、多少の滑空――あるいは滑走程度しかできないが、それでも戦場の中央から、瞬く間に自陣に戻る程度の事は出来る。
金色の長髪をたなびかせ、純白の翼を繰るその身はまるで天使の如く。
けれども当人はあくまでも、どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか分からない様子で。
「さて、思ったよりも劣勢だ。どうしたものかな」
などと、当然のように現状把握を進めるのだった。