わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
――中央では、望月さんが例の諸星さんと戦っている。
けれど、わたしにはなにも出来ない……いや、多少の助太刀は出来るかもだけど、あの諸星さんとか言う人はちょっと苦手だ。
少なくとも、真正面からやり合うのはやだ。
……なによりも、わたしには決着を付けないといけない相手がいる。
そして、その相手の殺意は凄く分かりやすい。分かりやすいから、その気配を“察し”つつ森を抜けていき――
「――『サー・モルドレッド』! ぶち殺せ!」
……!
「――“払え”!」
突然目の前で起きた爆発に、慌てて魔力を込めて払い飛ばす。
森の中で起きた爆音。相殺は出来たけど……!
「――ちっ。殺せなかったか」
大きく空いたクレーター。
その中心に立っているのは、『ガラティン』の加護を持ってる寄藤さん。
加えて、その背後には一本の輝剣が立っている……。あれが、さっきの爆発の正体か。
「佐守あお」
「……寄藤さん」
もう、言葉とか要らない。剣を正眼に構えて、彼女を睨む。
向こうも正眼――『白夜の聖剣』と同じ構えを取っている。
――ああ、完全に鏡合わせだな。
ならば――
「……わたしは、あなたを『斬り』にきました」
「ええ、わたしも『殺し』にきたわ」
互いに同じ師から習った構え。
けれども、お互いに別のものが混ざっている。
わたしには『大蛇さん』の技――寄藤さんには、『狼の牙』の技。
――故に。
「わたしは『秋原の熱剣の影』、佐守あお」
「わたしは『次代の聖剣』、寄藤環」
「――いざ、参ります!」
「はっ! 来なよ、佐守あお!」
一歩前に踏み出して、一気に斬りかかる。
以前の八つ当たりとは違う、純粋な真剣勝負……!
「――『大蛇さん』!」
「――『抜剣。ガラティン』!」
こちらの模擬剣と、向こうの借物聖剣が鍔迫り合う。
それと同時に、彼女の背後に浮かぶ輝剣が自由自在に飛んでくる。
「ぶち殺せ! 『モルドレッド』!」
「…………っ!」
逸見さんみたいに二刀ではないが、自在に飛んでくる輝剣が、寄藤さんとは違う動きでやってくる……!
「――“払え”!」
鍔迫り合いから、力づくで寄藤さんの体を強引に弾き飛ばしつつ距離を取る。
それと同時に、飛んでくる輝剣からも離れた。
突き落とされる一撃は、あまりにも重い。彼女が握る『ガラティン』よりも、こちらの方がよほど脅威だ。
……というか爆撃。何とか“払い”で弾けるけれど、それでも落ちた地面がひび割れる。
「ぐっ……!」
燃え尽きる――というか『滅びの剣』だ、これは。
戸枝さんの『終わりの魔剣』に近い一撃。直撃すればただではすまない。
――加えて。
「――『殺す』!」
『ガラティン』を握る寄藤さんも迫ってくる。
事実上の一対二。彼女の『偽聖剣』にも対応しながら、『モルドレッド』の滅びを回避しなければならない。
「は――!」
思わず、笑いそうになるのを堪える。
迫る寄藤さんは、聖剣を握っているにも関わらず、間違いなく以前の『血濡れの魔剣』だ。
『白夜の聖剣』の教えに、荒々しい『狂狼』の剣技が混じり合っている。
……ああ、嫌いだ。癪に障る。――だから愉しい。
あの美しい剣筋が、『白夜の聖剣』の剣が穢れて罅割れて荒れている。
「――ははっ! それで、『次代の聖剣』だとか、笑わせますね!」
笑いながら突き穿たれる『モルドレッド』を強引に“払う”。
しかし、狼は止まらない。
「はっ! あんたこそ、『熱剣の影』だとかいうには荒れすぎでしょうが!」
「確かに………!」
突き穿たれる剣を“薙ぐ”。返す刃で首を狙う。けれどもそれも止められる。
――なるほど、『ダインスレイヴ』でなくとも、彼女は十分狂暴だ。
『邪悪を滅する聖なる白光』。加えて『滅びの剣』。
面白い。『大蛇の化身』に、『終わりの魔剣の影』に、『これ』はたしかに突き刺さる。
「意外と性格が悪いな、あの人」
「黙れよ狂犬! ここで『殺す』!」
もはやお互いに剣技なぞどうでも良くなっていた。
ただ、互いの殺意をぶつけあうだけの時間。
だが――
「……絶対に、あなただけはここで『斬る』!」
水野部長……もう部長ではないけれど、あの人の思惑に乗せられるのも癪に障る。
故にさっさと、『わたしが何かを見つける前に』、絶対にこの汚れた鏡だけは『斬る』と決めた。
◇
同刻、逆方面の森林内では。
「――は~。二天一流に、『モラルタ・ベガルタ』とか、ふざけてんな~、マジで」
「お前も大概だろ。もうとっくに魔力はからっきしのくせにっよ……!」
加藤三年――すでに逸見の加護は失っているが、二刀流の達人であり、尚且つまだ魔力もほとんど消費していない相手に対して、件の水野弥生は純粋な槍術だけで渡り合っていた。
「『モラルタ』!」
振り下ろされるは相手を一撃で両断する切れ味の剣。
それを水の槍で軽くいなす――というより、斬られても別に問題無い。
なぜなら水野弥生の槍は水で出来ている。斬られたところで即座に修復される。
さらには、その上でひょいっと躱して、長さを変えて突き穿つ。
「ちっ――『ベガルタ』!」
左手、『異様に頑丈な剣』でその槍を受け止める。
かの『鶴久の絶剣』――『デュランダル』ほどの知名度はないが、『ベガルタ』もまた『不屈の剣』だ。
無論、今の水野では弾かれる。それを見ながら水野はぼやく。
「面倒だな~。ったくよ~……」
「こっちのセリフだよ……逸見に迫る相手にアタシ一人とかふざけてやがる」
純粋な技量において、逸見明音に迫る加藤汐。それでも尚、水野は『純粋な槍術のみ』でやり合えている。
それも当然のことだろう。――なにしろ相手は水野弥生。
こと技量においては逸見を上回る。つまりは――
「まあい~か……は~あ、あたしの三年間はお前の首でも」
などと言いつつも、その目はまだ逸見明音を諦めてはいない。
そう、加藤は『水野弥生にとっての通過点』なのだ。それが殊更に癪に障る。
「あいつを取りたいなら、まずアタシを殺してから行きな」
「うん。そうするわ」
最初に怒りを吐き出し切ったからか、既に水野弥生は普段の気まぐれで余裕綽々な態度に戻っている。
故にこそ面倒なのだ。この海神はどこから何をしてくるか分からない。
副将、加藤がいまだ万全であるのにも尚、負ける可能性が十分にある。
その槍術も変幻自在にして縦横無尽。――かつて、逸見明音を追いつめた時と同じ技の冴えが、今ここでも生きている。
「ち、くっそ……!」
「ほらほら、どうしたよ加藤ちゃん。逸見の幼なじみなんじゃろ~? だったらもっと張り合いが欲しいなぁ!」
「本当に腹立たしいな、あんたは!」
――加藤汐は、逸見には敵わない。これは純粋な力量差として。
あの『聖剣』とは親しく、幾度も練習で稽古を付けたことはあるが、それでも尚『勝てたことがない』。
かの『不動明王』と同じ諦観――しかし、それが小学生時代から何度も何度も、何度も続いている。
故にその諦めは、もはや『苦手意識』と言っても良い。
だからこそ、それに迫った水野弥生を見てしまった時の衝撃は、他に類を見ない。
誰よりも――そう、なによりも『わたしのヒーロー』だった逸見明音を追いつめた海神と、自分が鬩ぎあわなければならない。
「――ったく。マジで……!」
二刀を合わせて強引に水野弥生をはじき返して間合いを取る。
それから、はあっと息を吐きながら、両手で構える加藤三年。
「……くそ。アタシが超えなきゃならんのか」
この化物を。
『化物』を追いつめた『化物』を。
――今、ここで超えなければならないという局面に、加藤汐は立たされている。
だからこそ、はあっと息を吐いてから、彼女は再度、両手に握る双剣に力を込めた。
「……わかったよ、絶対にお前だけはここで倒す」
――二刀を持って迫る加藤を軽くいなしながら、水野弥生は答える。
「お~。それでいいよ? あたしゃもう出がらしだからな」
「どうせ万全ではない」――と、自分自身を理解している。
加藤がどう実力を評価しようと、水野弥生は『自分はもうあまり必要のない駒だ』と理解している。
故に――
「――『抜剣』」
「あ?」
「――『レーヴァティン』!」
水野弥生の背後から、唐突に薙ぎ払われる『終わりの魔剣』に、水野と加藤は同時に両断された。
◇
――爆音と燃え広がる火災と同時、本戦では三度目の脱落ブザーが、白夜側から鳴る。
『肉を斬らせて骨も斬る』――最初の練習試合で水野弥生が行った『自分を囮にする作戦』。
それを戸枝は今回もやった。しかも、今回は水野の指示無しで。
……というより、なんなら加藤よりも水野を墜とすつもりだった。
この化生はちょっと存在してはならない。何より佐守あおのためにならない。
だというのに。
「うい~。ばっちし決まったじゃ~ん、戸枝ちゃん」
……などと、水野弥生はちゃっかり生き残っている。
「貴方毎墜とすつもりだったんですが」
隠すことなく、戸枝は答える。
……そもそも、どうやって『終わりの炎』から逃れたのか。
「だって、燃え広がると危ないじゃん? だから、薙いだ」
「……はっ」
『白夜の聖剣』と同じようなことを言っている。
ああそうだ。この人こそ、水流操作を最も得意とする海神。
――加えて、その『聖剣』を上回る技量。
「本当に癪に障りますわね」
同時に己にも苛立つ。
如何に『秋原の熱剣』などと持て囃されても、所詮は一年生だと自覚する。
――いや、目の前の化物がちょっと化物すぎるのだが。
「まあ待ちよ。そもそも、あたしが堕ちると念話が切れる。どうせ望月の眷属にもなっとるんだろうが、現状だとアイツが一番に堕ちる可能性が高い」
「でしょうね」
振り上げた熱剣はそのままに、身内の命乞いを聞く戸枝。
事実、『ジュワユース』と正面対決している望月が、秋原側では最も危うい。
「かと言って援護にもいけん。――だってもうそろそろ逸見が来る」
「は?」
「山名も言ってたでしょ。君は目立つ。こんなに燃え広がらせたんじゃ。――んで、多分あいつは『秋原の熱剣』には自分しか敵わないと思っている。君は『白夜の聖剣』に、正しく認められている」
「…………」
その言葉は、誉め言葉なのだろう。
なのだろうが、現状では最悪の一言だ。
「ちゅうわけで、出がらしのあたしと戸枝ちゃんで、あいつを相手する。君が前衛、あたしが隙間を埋める。喜べよ後輩。ここで逸見を墜とせば、
「……っ」
腹立たしい。本当に腹立たしいことだが、戦術上はそれしかないだろう。
「……分かりました」
「お、さすがだね~――」
「――ですが、貴方は墜とします」
「へ」
振り上げた熱剣を撃ちおろす。都合三度目の爆音が、今度こそ水野弥生を打ち砕く。
脱落ブザーが鳴る。それは秋原側。
それも、文字通りのフレンドリーファイヤーである。
「…………はぁ」
と、戸枝はため息を吐いた。
……怒りに任せた一撃ではある。
だが、これまでの水野弥生の佐守あおへの所業を思うと、これ以上好き勝手させるには、ちょっと戸枝の逆鱗に触れ過ぎていた。
(ちょっとちょっと、戸枝さん!? なんしてんの君!?)
望月との眷属化による念話が届く。その声は、彼女にしては明らかな焦燥。
そりゃそうだろう。何しろ『ジュワユース』と真っ向勝負の最中である。
その上で念話の維持まで一任された。――そもそもこちらは既に一年三人になった。
(そうですね。でも、もうあの人は部長ではないので)
ただの嫌な先輩なので。
(――ですが、これで三対三。貴方は諸星さんに『勝って』ください。わたしは『秋原の熱剣』として、あの『白夜の聖剣』を墜とします)
矜持として、絶対に。
(…………それから、佐守さん)
(え、あ、はい……!? 今ちょっと忙しいんですけど……!)
佐守あおにも念話を繋ぐ。
どうやら向こうも交戦中らしい。――となれば、あの『次代の聖剣』とやらであろう。
…………少しだけ、考える。
(そちらに行きます。寄藤さんは私と二人で倒しましょう)
(え――?)
ぽかんとした声に失笑しつつ、戸枝は念話を切る。
――ともかく、これでいい。
あとは二人で、さっさと寄藤環を倒す。そして『秋原の熱剣』として、『白夜の聖剣』を、『熱剣の影』と二人で倒す。
――断じて、今日、誰にも佐守あおの『運命』を決めさせはしない。
ついでに勝つと戸枝は決めて駆けだした。