わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
――『最後の戦い』は、とても静かに始まった
何故ならば森林内――戸枝小春の最後の『レーヴァティン』によって多少視界が開けたとはいえ――
「――はぁっ!」
「おっと、危ない」
あの絢爛な十二輝剣はほとんど失われ、移動に使った『ローエングリン』以外、今や『白夜の聖剣』が左手に握る『サグモラール』、そして寄藤に渡した『ガラティン』だけ。
故に、ここでは二刀の『白夜の聖剣』逸見明音と、『秋原の熱剣』戸枝小春の純粋な剣術勝負になっている。
燃え上がる熱剣を冷静に、しかし迅速に裁ききる逸見明音の剣術は、見る者が見れば驚愕するほどの手腕ではある。
だが、先程――二度の脱落ブザー。『秋原のジョーカー』こと望月干果と『白夜の綺羅星』こと諸星阿左美の派手な殺陣に比べれば、実に地味である。
『異能』の飛び交うこの『国異』において――『白夜の聖剣』逸見明音は純粋な剣術。
戸枝小春は炎を剣に宿しているとはいえ、『レーヴァティン』程の火力は出ない。
故に、観客は既に飽き始めていた。
確かに『白夜の綺羅星』が吹き飛ばされたとはいえ――
「おっと、よっと」
「このっ!」
残るのは四名――『白夜の聖剣』と『秋原の熱剣』。それとついでが二人。
剣術においては完全に『白夜の聖剣』が上回っている。
故に、後は消化試合。
『白夜の聖剣』が『秋原の熱剣』を斬り捨てて終わりだと、皆が思っていた。
とはいえ、想定外に『秋原の熱剣』は追いすがる。
それだけ、『白夜の聖剣』の剣の腕は輝いてみえる。
――だが『秋原の熱剣』にも、多少期待する声はあった。
なにしろ『白夜の聖剣無敗伝説の最後の敵役』として、これほど良い相手もいないからだ。
「さすがに、少しきつくなってきたな」
「よくも……! まあ、少しで、済みますわね……!」
などと、華麗さもない泥臭い剣捌きで『白夜の聖剣』に挑む『秋原の熱剣』。
「む。いや、本当だ。私はこれでも開幕から、水野とやって、君ともやって、部員に指示出しもして、さらにここだ。――君も派手に動いてくれるので、こちらも追いかけるのが大変だったんだ」
「フィールド中駆けまわったんだぞ」などと、『白夜の聖剣』は、相変わらず本気とも冗談ともつかないことを言いながらも、しかし流麗な二刀で熱剣を受け流す。
――そう。『受け流して』いるのだ。
戸枝小春の剣には炎が纏わりついているにも関わらず。
灼熱の業火をあくまでも自然体で、それも隣で戦う寄藤に被害が及ばない方へと。
「本当に貴方といい武光さんといい――!!」
「武光と比べられても困る。こちらは人間の範疇で剣を振っているだけだ」
なんて、目の前の『
やはり、正気ではない。確かに人外の動きをしているわけではないが――
人間の範疇で、『熱剣』を受け流すなど正気とは思えない。
――だが、これが本当に『人間』であるならば、確実に『炎』は貫ける。
たとえ剣術で圧倒されようとも、その延長戦にある炎ならば……!
「はあっ――!!」
振り落とされる『エクスカリバー』を受け流しつつ、返す刃で突きを狙う。
無論、その程度ならば逸見明音は後方へ跳んで避けるが、しかしその突きは『炎』による延長が――
「だろうね」
しれっと宣い、『サグラモール』で『炎』を受ける――否、受け流される。
「…………っ!」
「む……まずいな、少々罅割れた」
『サグラモール』の刃に罅が入る。ならば今が好機だと、戸枝は間合いを詰めるが――
「――では、こうしよう」
「は――?」
ぽいと目の前に投げられる『サグラモール』に、一瞬、戸枝の目は奪われる。
――弾く?
――――躱す?
―――――斬り落とす?
数多の選択肢が戸枝の思考を占拠する。
それゆえに――
「よ」
――そんな、軽い言葉で『サグラモール』ごと斬り落とされる『エクスカリバー』への対応が遅れる。
「…………っ!」
対応出来たのは、彼の『鶴久の絶剣』の人外の剣技を見た後だから。
かの『聖剣』が頭を打つギリギリで『熱剣』で弾き返す。
互いの間合いが離れる。
「……困った。後はもう『エクスカリバー』と、寄藤の『ガラティン』だけだ」
「『ローエングリン』は移動用だし……」なんていいながら、『白夜の聖剣』は再び正眼で剣を構え直した。
そうだ、コレの本領は一刀流。そもそも二刀流でやりあっていたこと自体が、曲芸のようなもの。
――すなわち、これからが『白夜の聖剣』の真骨頂である。
「はっ――困っているようには、見えませんが……」
上段に構える戸枝小春。だが、そろそろ限界も近い。
なにしろ試合序盤からナグルファルを撃ち落とし、この『聖剣』とも撃ち合い、それから水野と加藤を墜とし、尚且つ今だ。
隣では『熱剣の影』を名乗った少女と、『次代の聖剣』を唄う少女が斬り合っている。
そちらも気にかかるというのに、目の前の敵は泰然自若な構えで答える。
「いや、これが本当に困っている。それなりに消耗しているからね」
ふうと息を吐いて、『聖剣』を構える逸見明音。
……ただ、真っ直ぐに剣を構えているだけだというのに、どこにも打ち込む隙がない。
少なくとも、今の戸枝にはそう見える。どう崩そうとしても、すぐにこの『白夜の聖剣』という不条理は切っ先を喉元に突き付けるだろう。
……故に、戸枝は握る手に力を籠める。
限界を悟られぬように、あえて強気に前へ出る。
「―――であれば、そのまま斬り捨てましょう……!」
上段からの斬り落とし。それを後方へ躱されるが、炎による慣性制御で即座に熱剣を切り上げる。
後方へ下がり続ける逸見へと、勇猛果敢に攻め続ける。
「はぁああああああっ!」
――だというのに。
「なるほど。もう『レーヴァティン』は撃てないのか」
「…………っ!?」
『聖剣』で受け止められ、さらには返す刀。
どうにか背後に跳んで避けるが、肩口を軽く斬られた。
――だが、今はそんなことはどうでもいい。
なぜ『レーヴァティン』が撃てないと思われたのか――
「簡単なこと。君は斬撃で炎の檻を作れる。それをいつでも『終わりの炎』にできる。それが一番恐ろしいんだ」
「武光でもなければ、あの炎檻は突破出来ないだろう」と答えながら、『白夜の聖剣』は続ける。
「だが、今の君は『ただ熱剣で斬りかかるだけ』だ。炎の斬撃を残留させず、前へ前へとせめてくる。――つまりもう『終わりの炎』はない」
「……は、それはどうでしょうね」
「うん。ブラフの可能性もあるが――今の君の焦燥を見るにそうも思えない。……よかった、これならなんとかなりそうだ」
深呼吸をして、改めて『聖剣』を構える逸見明音。
消耗している――事実なのだろう。少なくとも、試合前程の気力は、戸枝には見えない。
――見えないのに尚、その構えはあまりにも流麗で美しい。
「なるべく早く終わらせる、と言っていたね。うん。そうしようか」
ちらりと、横目に佐守と寄藤の剣戟を見る逸見。
彼女なりに、二人の戦いに思うところがあるのだろうか。だが、そんなことは戸枝にとってどうでもいい。
ここで戸枝が堕ちては、いよいよまずい。そうなれば佐守あおが一対二で追いつめられる。
『大蛇さん』を知る戸枝にとって――そして、彼女に『矜持』を施した戸枝にとって。
佐守あおが一人残されれば、必定、その『矜持』が発動する状況まで追い込まれるだろう。
「……ええ、『終わらせます』。貴方を斬って」
「そういう気合は嬉しい。私も全力を持って相手に出来る」
右足を前に出し、上段で構え直す戸枝に、逸見は正眼。
――本当に、癪に障る。
この『伝説』は、どこまで追いつめても自然体を崩さない。
それが余裕なのか、それとも演技なのかは戸枝には分からない。
だが――
「――いいかげん、倒れてくださってもいいんですよ」
「それは出来ない。何分加減の出来ない性質だ」
かつて、はじめて自分が佐守に出会った時に言ったことと、似たような言葉を返されて、思わず脳内で毒づく。
……だが、この『伝説』だけは、自分一人で倒す。
『白夜の聖剣』に、『秋原の熱剣』は『勝つ』
独断で水野を墜とし、望月に『勝って』と言ったのだ。その責任も取らずに、『秋原の熱剣』は――『秋原代表』は――
――佐守あおの『友だち』は名乗れまい。
残る魔力のすべてを使い、剣に、腕に、全身に炎を纏いながら戸枝は前へ出る。
「――全力で行きます」
「うん」
――このふざけた『伝説』を墜とすまで、断じて諦めない。
◇
隣では、戸枝さんと逸見さんが戦っている。
でも、どう見ても戸枝さんが劣勢だ。ただ一本の『聖剣』がただその技量だけで戸枝さんを押し返している。
――そう、ただ純粋な『剣の技量』で、戸枝さんが押されている!
このままだと負ける。秋原が――水野部長が、山名先輩が、そして望月さん、があんなに頑張ってくれたのに……!
折角、ここまで来たのに。後はこの二人を倒すだけでいいのに。
みんなで、ここまできたのに……!
「――すぐに『斬る』!」
「『殺す』……!!
「――『ガラティン』!」
「…………“払え”!!」
彼女の剣を弾き返す。『騎士気取り』の薙ぎ払いは、まるで合わせ鏡のようにわたしの剣を弾き返す。
「くっそっ……! 邪魔をしないでくれますか……!?」
お互いに距離が離れる。
「こっちの台詞だ! 狂犬が……!」
「はっ……!」
どちらの台詞だと、斬り返すが、もはやこの狼はその本性を隠すことをしない。
手に持っているのは『ガラティン』なのに、正しく彼女の喧嘩殺法。
「ぐっはっ……!」
手数が多い相手には、どうしたって防戦に回らざるを得ない。
どうする――こいつを墜とすには――この鏡を斬るには――
「つ……っ!」
剣戟を防ぎながら、冷静に思う。
――どうして、彼女はこうも鏡なのか?
なにが、わたし達を慌てさせているのか――
……いや、もっと正しく考えよう。
わたしは分かる。だってこのままだと『秋原の熱剣』は、きっと『白夜の聖剣』に負けてしまう。
わたしの『友だち』は、あの不条理に負ける。それは冷静な戦力分析として。
だというのに、この狼はまだ慌てている――ああ、そうか。
「随分と、慌てているんですね、寄藤さん……!」
「はぁ!? 何を言って……!」
「――もしかして『白夜の聖剣』が、『秋原の熱剣』に負けると思っていますか?」
「なっ――!?」
「――“浸せ”!」
「んぐっ……!?」
動きの止まった彼女に一気に――望月さんの杭みたいに突き穿つ!
けれど、それでも『ガラティン』の刃に防がれる。
「あんた……! よくも言うわねぇ! 『秋原の熱剣』は負けるとでも!」
「はっ、そうですね……! だから、あなたを『斬って』、助太刀に行くんです」
「だから行かせないって言ってるでしょう……!」
「どうして? あきらかに逸見さんが押しているのに?」
さらに激しくなる剣を受け止め、鍔迫り合う。
あの不条理に勝つには、絶対にみんなの力が必要だ。
それは、きっとわたしも含んだみんな。
「――でも、あなたは別に『
耳元で囁く。――きっと、この言葉は彼女に響く。
「『白夜の聖剣』は、あなたの助太刀を『
見れば分かる。
だって、どう見たって現状戸枝さんが劣勢だ。『白夜の聖剣』はあのまま勝つ。
でも、わたしは、わたし達で勝つって決めた――だけど――
「あの『聖剣』は、あなたを待ってなんていませんよ」
状況はどう見ても白夜の優勢。
わたしが入り込んだところで大したことはできない。
『白夜の聖剣』の剣術に、わたし一人加算したところで大した脅威にはならないだろう。
だが、多少はマシになるはず。
――でも、寄藤さんが入ったところで、大したことはできない。
『白夜の聖剣』の剣術に、彼女も全然届かないのだから。
むしろ、渡された『輝剣』を一本破壊した。どころか寄藤さんを助けるために『アロンダイト』まで破壊した。
盤面的には、完全なお荷物だ。
「だから、『白夜の聖剣』はあなたを待ってない……っ! 見てもいない……!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ……っ!」
「あなたには――あの戦いに入り込む資格がない――」
格が違う。才が違う。術理が違う。魂が違う。
『運命』が、わたしが、他ならぬあの二人が、『あなたは違う』と囁いている。
「――あなたは、『白夜の聖剣』に『選ばれて』いない……っ! こんな借物の聖剣で遊んでいるようなあなたじゃぁ!」
「黙れよ、佐守あお……っ!」
「
「…………っ!」
寄藤さんの言葉が止まる。動きが止まる。
でしょうね、あなたが一番言われたくない言葉なんですから。
――
「わたしは熱剣の影――秋原の剣です」
だから友だちの……そして秋原の優勝のために。
「だから――そろそろ、舞台から降りてください……“払え”!」
「がっ……!?」
一瞬で動きを止めた彼女を、強引に魔力を放出して弾き飛ばした。
距離が開く。あとはもう、あんなのどうでもいい……!
わたしは後方へと下がりながら――
「戸枝さん! 一度下がってください!」
――いつかの練習試合の時のように、戸枝さんを呼んだ。
「ええ、ああ、はいはい……!」
『白夜の聖剣』と距離を離す戸枝さん。
――逸見さんは、相変わらずこちらを見つめている。
『聖剣』一本で、わたしたちを睨んでいる。少しでも油断をすれば、すぐに斬り捨てるつもりだ。
「……で、呼び戻したからには、なにか作戦が? ……ちなみにこちらの『レーヴァティン』がないことは、先程バレました」
言葉は端的。
……さっき脱落ブザーが二回鳴った。多分望月さんだろう。
だからもう念話は使えない。
「だったら――なおさらですね」
大蛇さん。
“交じり”ってさ。わたしの魔力を乗せられるよね?
『……うん。なんだ、急に――』
――ありがとう。だったら話は至極単純。
「さっきわたしに火を貸してくれましたよね、戸枝さん」
『白夜の聖剣』と、あとまだ倒れたままの狼を睨みながら、わたしは隣の戸枝さんに問う。
「……ええ、まあ、そうですが」
「それなら、お返しします」
模擬剣を構えたまま、戸枝さんの傍による。
戸枝さんの魔力では、もう『レーヴァティン』は撃てないんだろう。すっからかんだ。
なら――
「……戸枝さん、わたしの剣を持ってください」
「勝ちの目があるんですね?」
「ええ、もちろんです……!」
――彼女の体に、この“剣”に、わたしの魔力のありったけを抽入する。
ただそれだけで、戸枝さんは「ああ」と声をあげる。
「……そうですわね。何より――」
「何より、このまま続けたらわたしたちの負けです――でしょう?」
いつかわたしが言いたくなかった言葉を言うと、戸枝さんはくすりと笑い。
「なので、その策に乗りましょう。……ええ、意表を突いて勝ちを拾うのは、あなたの得意技ですものね」
と、いつかと同じ答えと共に――残る自分の魔力を剣に乗せた。
さらにごうっと燃え上がる炎、二人で握る剣に、一気に『終わりの火』が灯る――!
「む」
などと、ふざけたことを言う『白夜の聖剣』が、一気に背後に飛びのく。
――だが、遅い。だってわたしは、たかだか狼風情にしか魔力を使っていないのだ。
「――『世界よ、終われ』」
戸枝さんの声が聴こえる。
終わりを唄う歌が、灼熱の剣を白光に変える。
「『私と共に、私以外の全てを焦せ』」
合わせて、唄う。一言一句違わずに。だって、ずっと聞いてきた歌だ。
誰よりも一緒に、傍で、熱剣の影として、聞き続けてきた彼女の心――!
「『炎の剣』……!」
「『主役の光』――」
灼熱の『終わり』が改めて燃え上がる……!
“交じ”らせたわたしの魔力を燃料に、共に――!!
「「――『大地を丸ごと焼き焦がし、私だけの春よ来い――』!!」」
『白夜の聖剣』が、不意に姿を消した――何処へいった?
いや、どこでもいい…………っ! どうせこの炎は、半径一キロを焼く彼女の――
――いや、『秋原の熱剣』の炎だ……!
「「――『抜剣。レーヴァティン』!!」」
戸枝さんと一緒に、『熱剣の影』として……! 全力で炎を叩き落す――!!
初撃と同じぐらいの激熱の一撃が、全力で世界を、大地を、地表を、あの『白夜の聖剣』を燃やしつくす……!
上段から振り下ろされる世界の終わり。
爆音はどこまでも。灼熱の剣が森を切り裂いた。
◇
――業火は今度は森林の端から。
燃え上がる爆音と共に、開幕戦のような衝撃が国立競技場を薙ぎ払う。
いまだに中央――望月と諸星を見ていた観客たちの視線がそちらを向く――
◇
……燃やした。
燃え尽くした。
文字通りの『世界の終わり』を――彼女の剣を、誇りを振れた。
それが、なんだかちょっと嬉しい。実は少し、憧れてたんだ。
あとは――もう……脱落ブザーと、試合終了のブザーを待つだけ――
「おっとっと……危ない危ない、燃えるところだった」
――そんな、小石に躓いたみたいなノリで、逸見さんが燃え尽きた森の端から現れた。
…………は?
「――『白夜の聖剣』……?」
『白夜の聖剣』逸見明音さんは――
「よいしょっと……ふう、危なかったね、寄藤?」
寄藤環を――あの、狼を、脇に抱えて――
「いやあ、しかし豪華だ……危ない所だった」
そんな、冗談とも本気ともつかないことをいいながら――距離は三十メートルぐらい先の方で……。
「――なん」
なんで――? いや、逆になんでまだ生きてるの……?
しかも、寄藤さんまで、抱えて……。
「…………っ!」
私よりも早く自分の剣を構える戸枝さんが、再び火を灯す。
わたしも慌てて立ち上がって、改めて模擬剣を構えた……!
「ああ……いや、凄い一撃だったよ。危うく二人して『終わる』ところだった」
そう言いながら、寄藤さんを降ろして、模擬剣に戻ったそれを渡す逸見さん。
……いや、なんで生きて――
「全力で逃げて遮蔽に身を隠した……まあ、酷使しすぎて『ローエングリン』は壊れたが」
は?
「構えからして、縦振りだろうなと思ったからね。――『レーヴァティン』の詠唱時間と範囲だと、さすがの私も逃げられない。……ふう。来る前にいい岩陰を見つけておいてよかったよ。あれなら、『終わりの炎』が来てもなんとかなるだろうから」
「ちょうどよく進路上にいたね、寄藤」などと、本気とも冗談ともつかないことを言う不条理。
……ちょっと理解が追い付かない。
そんな、岩陰に隠れる程度で――レーヴァティンを防げるもの――?
「…………本当にふざけないでくださいますか?」
「む、ふざけてなどいないが。ともかく――そうだな。寄藤は少し下がっていてくれ。これで二体二だが、君が生き残れば白夜は勝てるし」
「え、あ――」
「さて、君達二人なら……」
まだ放心している寄藤さんを背にして、『白夜の聖剣』は前にやってくる。
あくまでも自然体に、その『聖剣』を構えている。
だが、もう『十二輝剣』はない――あとは、あの『聖剣』だけ――
「――『集え、円卓。この剣に覚えがあるならば』」
――は?
「『騎士の本懐。常勝の伝説よ。今こそ刻まれた証を示せ』」
――あの詠唱は、良く知っている。
だって、『レーヴァティン』よりも先に一番見ていた歌。
去年の『伝説の決勝戦』を確かなものとした、あの『伝説』の詠唱――
「――『招集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
――その瞬間。
私達の目の前で再度、絢爛豪華な色とりどりの十二輝剣が展開された。