わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
「……ふざけないで、くれますか」
心からの怒りとともに、言った。
でも、その十二輝剣を背にまとう『白夜の聖剣』逸見明音さんは――まだ自然体で、本気とも冗談ともつかないことをいう。
「いやふざけてない。これで私の魔力は本当にからっきしだ……なので寄藤、『ガラティン』を。これで魔力共有できる」
「え、あ、はい……!?」
――また、一本の輝剣を寄藤さんに渡す。
また、あの寄藤さんの瞳が輝く――
「――はい!」
また、あの騎士気取りの野良狼は――
「――『我が理想、憧憬の煌めきよ。この身を貴女に捧げよう』」
模擬剣と白光の輝剣を持って、それを重ね合わせ。
「『円卓の者よ聞け。王は
彼女の言う――『真の異能』とやらを、抜いた。
「――『抜剣。ガラティン』」
再度構え直す寄藤さん。
――逸見さんの魔力がからっきし、っていうのはそうなんだろう。
多分、もう再展開はできない……と、思う。
この人は、そういうところで嘘を吐く人ではない。
でも、戸枝さんはもうギリギリだし、わたしは今の、戸枝さんとの合体『レーヴァティン』で、大分削れた……。
戸枝さん、いつもあんなに撃ってるんだ……。
いや、でもこれで……確かに寄藤さんの魔力はまだ残っている……。
寄藤さんだけが、消耗が少ない……!
「うん。寄藤、とりあえず下がっていて。私が倒れても君が生きていれば白夜は勝てる」
いや、でもそんな――
「さて……いくらか名も知らぬ騎士もいるが……。今なら特に問題はないかな――『サー・トリスタン』」
「ぐっ……!?」
……!?
「――と、戸枝さん!」
戸枝さんの肩に、輝剣が刺さっている……!
聖剣の先が、指揮棒のようにあげられる。
ただそれだけで、残る十一本の剣は、こちらへその切っ先を向ける。
あの去年の『決勝戦』の最後――目黒さんを撃ち抜いた時のように――
「――さあ『円卓の騎士達よ、その威光を指し示せ』」
十一の輝剣は加減なく、わたし達にむけて撃ち出される……!
「ぐっ、んぅっ……!」
「戸枝さん……!」
次から次へと飛んでくる輝剣達を、戸枝さんは弾いている。
弾こうとしているけど、次々飛んでくる絨毯爆撃は弾き切れない。
「ぐぅ……“払え”」
こんな輝剣なんて、消え去れ……!
「だろうね。『サー・ラモラック』」
「…………! ぐっ!」
また輝剣が飛んできて、こっちにまで――!
「佐守さん……! 炎よっ!」
今度は炎が燃え上がって、わたしを守ってくれる……けど……!
「戸枝さん……!」
だめだ、このままじゃ……!
「戸枝さん、わたしの魔力で、もう一回……っ!?」
「ん。……寄藤」
「はい! ……あんたは、こっちだ!」
「…………っ! また!」
またあの騎士気取りが、ガラティンをもってこっちに来る…………っ!
「“払え”――!」
問答無用、全力で射程を伸ばして撃ち払うが、あの狼は剣を持ったまま空中へ跳び上がり、そのまま蹴りつけてくる………!
「ぐっ……は! 聞いて呆れますね、『次代の聖剣』が!」
「黙れ……っ! 先輩は、私を……!」
「『選ばれた』――なら、そんな借物でいつまで唄ってるんですか!」
とにかくこいつは邪魔だ。
端役は脇に飛ばさなければ、戸枝さんが倒れてしまう……っ!
「さっさと、どけ! お前は違う!」
「あんたもでしょうが!!」
「ええ、そうですよ……! わたし達は違う! 舞台が違う! 土俵が違う!」
斬り結びながら、なんどもなんども叫ぶ。
この女の/あるいはわたしの 心を斬り捨てる。
「――そもそも、
「あんたが、言うなぁ……っ!」
『運命』が、皆が、他ならぬあの二人がお前は違うと囁いている。
それを、あなただって、わたしだって、知っているはず、だ……!
「いい加減……泥にでも、膝を……!」
「それはあんただ、佐守あお!」
もう、どちらの声なのかも分からない。
向こうでは絢爛な輝剣と踊る炎の攻防――だけどこちらでは破滅的なぐらい、互いに組合ながら、ほとんど殴り合いだった。
「あなたの、誇りは、しょせん借物だ…………っ!」
「あんたの、憧れだって、どうせ借物だろうが!」
ああ、そうだよ。
知ってる、わたしはあんな風に輝けない。
それをわたしは誰よりも、その身に受けて、理解している。
そうだとも――そしてそれは悪いことじゃない。
憧憬は、けっして悪いことじゃない。わたしは彼女の影でいい。
それはきっとわたしの一部だ。一面だって、言ってくれたから……!
――だからこそ、誇りの炎は、絶対に守る!
「ぐぅうっ……っ!」
――っ! 戸枝さんが、もう……っ!
「――『斬る』!」
「『殺す』――!!」
「――そうだな。ちょっと危うい。ここはもう、終わりにするか」
――は?
ふっと、寄藤さんの先にいた『白夜の聖剣』が消えたかと思ったら、あっという間に戸枝さんの目の前に現れた。
「…………っ!」
戸枝さんが剣を振り下ろす、けれどそれをあっさりと輝剣で防いで――
そのまま聖剣が、戸枝さんを……。だめだ、それだけは、それだけは……っ!
「は」
一閃。雑に振るうわたしの剣よりもさらに無造作な一撃が、力強く戸枝さんを斬り捨てる。
「あ…………っ!」
――そして、わたしの視界は暗転した。
◇
――毎夜、毎晩夢を見る。
いつも決まって同じ夢。
わたしは暗い所にいて、蝋燭の灯が周りの人々の口元を照らしている。
笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。
歯茎を出して笑いながら、みんながわたしを祝って/呪っている。
よく生まれてきてくれた/消えてほしい。
大事に育ってほしい/早く餌食になってほしい。
大切に、大切に、いつその日が来てもいいように。
笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。笑顔。
綺麗に、美しく、清らかに/汚らわしいものを遠ざけるように、誰もわたしに触れようとしない。
……そして、やがて蝋燭の灯が消えて。
大きな、大きな大蛇が、チロチロと舌を出しながら、わたしを丸のみにしようと口を開いて――
「――そんな夢を、いつも見ていたなぁ……」
『うん。そうだな』
顔が、目の前にある。
七つの顔――いや、やっぱりもう八つ目の顔が。
「なんでしょうか。――わたしはもう、至高に達したんでしょうか?」
『……そうだな。お前は至高に達した』
……は。と失笑してしまう。
そっか、ここか……。
「じゃあ……ええと、食べていいよ」
『御前は何を言っている』
「ずっと“約束”していたじゃん。――わたしが、至高に達したら。あなたが、わたしを食べにきてって」
『…………』
まあ、こんなとこかぁ……って、ちょっと思った。
『……負けるぞ、御前達は』
でしょうね。
でも、いいんだ。命のやりとりじゃない。
スポーツなんだから。
でも、これは違う。もっと根っこから違う。
なんていうか……うん。
「うん、なんていうかな……」
『……わからん』
「わたしもわかんない」
本当はもっと色々あるんだって思うよ。
ていうか怖いよ。いたいのやだし。
やだけど、でも約束を破るのだって癪だし。
……友だちに、みんなに心配かけるのも癪だし。
「でも多分…………なんだろう」
なんだろう……うん。
「――きっとこれが、わたしの『運命』なんだよ」
『は』
大蛇さんは、笑っていた。
なんだか泣きそうな感じで、笑っていた。
『御前の一番嫌いな言葉だっただろう』
「――うん。でもさあ」
人生ってそういうものじゃないかな。
なんていうか、上手くいかない感じで。
だけどすっごく嘆いたよ。暴れたよ。足搔いたよ。
――――なによりも、愉しんだよ。
「うん……すっごく愉しかった」
本当に、本当に愉しかった。
短い時間だったけど、こんなに愉しい一か月なかった。
「だから『ここまで』で、いいと思う」
『御前の友は、泣くよ』
大蛇さんの声は、いつになく優しい口調で。
なんだか笑ってしまった。
そういえば遺言とかってどうすればいいんだろ。
もう残せないのかな。
まあいっか。どうせ罪人だものね……。
「じゃあ、“約束”どおりに食べに来て」
『――むう。では、最後に一つ教えてやる』
「はい?」
『御前の村とかいうあの呪村な。滅ぼしたのは己だ』
「――――」
…………はい?
『まあ、ちょっとムカついたのでな。我が子……いや、うん。御前をこう、酷い目に合わせとったので、軽く暴れてやった。我は水害の化身だ。……故にちょっとこう、わっとした』
「え、あ、あ~……え?」
ああ、だから――えっと?
村の様子が変で……?
わたしが斬り殺したはずなのになんか、災害で、崩れた、みたいな――
でも、それとこれと、どう関係が……?
『うん。まあ御前が斬り殺した村人とかいうアレらは、己のせいだ。……いや、まあ生き残りもいるのかも、だが』
「え、いや……え? でも――」
『そもそも儀式用に詰まれた剣に刃がついとると思うか』
…………。
……………………。
………………………………まあ、そう、だけど。
「でも愉しかったけど…………多分」
わたしはきっと、暴力を愉しんでいたはずだ。
『ああ、それは間違いない。……だから、前にもいった。罪の所在を置き違えるな』
加虐性はある。人は殺していない。だけどちゃんと暴力は犯した。
……その責任は、ある。
じゃあ、やっぱりさ――
『…………だから程度を知らんのか、御前は。まあ、もういいか』
「だって“約束”したもん」
『子どもか。子どもだったな……』
はあ、っと息を吐いてから――大蛇さんはわたしを睨んだ。
『とても痛く食べてやるよ』
「…………」
『御前の明日はなくなるよ』
「――――」
『御前は友だちが実は嫌いだったか? もう明日から一緒にいたくないか?』
「――なんで」
『あ?』
「なんで……人が、人がさぁ……! うけ、受け入れようとしてるのに……!」
なんで、この蛇は……この蛇は……!
「生きたいよ」
死にたいわけないよ。
「まだまだ、みんなと愉しみたいよ」
人生を愉しんだよ。
「わたしは、わたしはっ……!」
――でも。この大蛇に、わたしは“約束”したんだもん。
『はっ』
って、大蛇さんが笑った。
大蛇が笑う機能あるのかな。
『そうだな。確かに御前は“約束”を果たした。嘆いているな! 暴れているな! 足搔いているな! ――そして人生をまだまだ愉しみたいんだな!」
「愉しんだよ! 愉しかった! 愉しみたい! 凄く、凄くさぁ――! でも“約束”だって果たしたいんだよ! 果たさないと、なんか癪なんだよ!」
『ははは! いいだろう! 確かに御前の心格は極上に達した! ああ! やっと己も喰らう気になったというものだ!』
嗤いながら、その大きな大きな口が、わたしを本当に丸のみにしようと――
『ならば、己も“約束”を果たそう! 美味そうな贄よ、喰らうてやる!』
――ぽつりと。
小さな火が。
わたしの――前に……。
それは、ただの火だ。でも、分かる。
でも、知ってる。だってこの火はわたしが一番見てきた誇り。
「――え?」
なんで、それが、ここに――と思ったら、なんだか急に燃え上がって――!
『ぐうぅぅうう……! あぁ、ふざけるな、ふざけるな……! なんだこの火は、なんだと、ぐうぅっ!』
「お、大蛇さん……!」
『ぐ、あぁ――御前の友か、余計な真似を! はぁ! “終わりの炎”とは、なんとも痛いものだなぁ……!』
「え、ちょっと、ねえ!」
『ははは、はっはっはぁ! これにて邪蛇は無事に討伐された! “運命”通りに、果たされた!』
――なんだよ。
なんだよ。なんなんだよ、この蛇――!
芝居が下手にもほどがあるじゃんか……!
「ちょ、ちょっと、待ってよ……!」
思わず駆けよるわたしを止めるみたいに、燃え尽きかけてる邪蛇さんがわたしを――いつかの夢みたいに咥える。
炎に照らされているからか、いつもよりも大蛇さんの姿がすごくよくみえる。
お尻のほう、尻尾の一つ。それがなんでかひとつなくなっていて……。
――ああ、多分あれがわたしの生まれた場所なんだろうなって、なんでか理解した……けど!
「ねえ、ちょっとやだ……! そんな『運命』なら斬り捨ててやる!」
『はっ……御前の口癖であったな……だが、斬り捨てる先ならば、もっと先にあるだろうが……!』
力のない大蛇さんの頭が、わたしを咥えていた頭が動く。
何だか、慣性で、ぐいって上に持っていかれるみたいに。
――ていうか、実際に投げるフォームで……。
『だがまあ、なんだ……御前は極端だから、これも一例だ……なんでもかんでも、運命も道理も斬り捨ててばかりでは、いかん……たまには諦めも大事だ……うん……』
「しらないよ、そんなの……! ちょっと、放して――“約束”は……!?」
『――ははっ』
そう、彼は笑って――
『――己は邪蛇よ。人間との“約束”なぞ、はなっから守るつもりはない』
「ふざ……けっ……!」
『さあ…………使い方が分からんと言われても、もう教えられんから、な……なので、さっさと、この夢から、覚めろ……』
「それ……あなたが、言うっ……なぁ!」
ぽ~いって。
いつかのわたしの夢よりも弱々しく、真上に投げられたのだった――
◇
――誰かの、ブザーの音が聞こえた。
わたしの大事な友だちが、倒されている。
わたしはいつの間にか、たくさんの輝剣に吹き飛ばされて、空を舞っていて――
いたい。いたいけど、もっと、いいたいことが、あって。
なんだよ。なんだ、なんなんだよ。あの蛇。
ふざけるなって、思う。結局“約束”守るつもりなんてなかったんじゃん。
やっぱり悪い大蛇だよ、あの人。あの蛇。
――あんな茶番に付き合われて、酷い悪蛇だよ……!
本当に、あんなから生まれたなんて……酷い話。
だけど――
「――『
……それと、一応あの村にも。本当に、大嫌いな村だったけど。
でも、あの村がないと、わたしは彼に出逢えなかった。
――いいや、あの『
「『わたしは、
涙に揺らぐ視界では、狙いなんてつけられない。
かの『白夜の聖剣』――逸見明音。ましてや取り巻く十二の輝剣なんて、そこらの雑草、野火の難と変わりはしない。
だからもう、これを全力で振りぬいて――
――ああ、でも。
『だから、御前は先ず正面から立ち向かうな』とか、大蛇さんなら言いそうだな。
――そうだね。『一撃じゃ、アレには足りない』。
この刃をもって尚、『聖剣』は墜とせても『その先』に届かない。
だから、まずは残った魔力の半分、それを
一撃でまずは『聖剣』を割り、即座に二撃目で『斬る』と決め、わたしはわたしの『異能』……いや――
――『
「――『抜刀。クサナギ』」
目から零れる雫と共に――『視界に映る剣の軌道上を、道理を無視して両断した』。