わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

6 / 86
第6話 練習試合、『鶴久の絶剣』と『征服者』(後編)

「噂に聞く『聖剣』と同等の『熱剣』。それに……きみがわるい一年生がひとりですか」

 

 ……目黒さんは、例の凱旋戦車には乗っていなかった。

 この森では徒歩の方が良いと判断したのか。いや、それにしても、王がこんな無防備に敵前に現れる?

 

一応、古い型の鉄砲を腰にぶら下げているけれど、こちらに向けることは無かった。

 

試合用の模擬剣すら持っていない。

 というより、そもそも敵意を感じない……?

 

「もう一人、一年生が見えませんね。……であれば、この倦怠感はそちらの仕業ですか。なるほど……言われてみれば納得です。あれは乾いて飢えている」

 

 ぽんと両手を叩いて、彼女は笑顔を浮かべた。

 楽しい時の笑みじゃない。あれは勝者の余裕だ。

 今、投降すれば楽に殺してやるぞという、敗者の意志を折る笑顔。

 

 ……なんだか、すっごい癪に障る。

 あちらは四人失って、こちらはまだ一年生とはいえ三人いる。

 なのに、唯一残った当人は、武器すらも構えていない。

 たかだか一年生、自分一人で十分だというように。

 

「そして……。それが件の『終の熱剣』ですが。あの『聖剣』と同等というのも頷けますね。おかげで、こちらの領土も半分、持っていかれました。これでは部隊の展開もままならない」

 

「……やっぱり。そういう理屈でしたのね。貴方の自前の魔力量で、ここまでの掃射は不可能だと思っていました」

 

「ええ、その通り。私は『征服』・『侵略』の概念。――ならば、一度征服した領土の魔力(モノ)は、すべて私のモノとなる。それが私の『異能』の一端」

 

 脅威を感じていないのか。目黒先輩の態度は、どこか他人事のよう。

 それどころか、自分の『異能』の一端をわざわざわたし達に開示している。

 

「……とはいえ、今回は本当に厄介でした。貴方の熱剣は領土ごと焼き尽くすものですし、加えてこの『夜』は、私の領土が広がるほどに邪魔をしてくる」

 

 足元の草木が枯れていく。土壌から緑が失われ、初夏だというのに冬前の景色が辺りに広がる。

 望月さんの吸血能力が、目に見えて発揮されている結果だろう。

 

 目黒先輩は領土を失い、『異能』の力を削られ、残った魔力すらも望月さんに吸われている。

 仮に彼女が再度『異能』を展開しても、大した火力は残っていないだろうし、何より戸枝さんの一振りの方が圧倒的に早い。

 だというのに――

 

「見事。『白夜の聖剣』と同等という噂。たしかにこの目で拝見致しました」

 

 ――目黒次美は、勝者の余裕を崩さない。

 

 ……気味が悪い。

 ただの挑発にしては無意味だし、強がりにしても限度がある。

 

 ここで目黒先輩は敗れる。それが運命。それが必定。

 ――けれど、道理を曲げるのが『異能』ならば。

 

 あの敵には、まだ奥の手が……ある……?

 

「ああ、きみは気づいたのですね」

 

 笑顔。いつもの悪夢で見るような、決して良い意味ではない笑顔だ。

 そのまま、目黒次美は古式銃を抜いて。

 

「普段はなかなか発動条件を満たせないのですが……ここまで土地が不浄にまみれているならば、使えます。望月さん……でしたか? あのきみがわるい一年生には、感謝をしなくては」

 

 ――その銃口を、枯れ果てた地面へと向けた。

 

「え……?」

 

 予想外の行動に、わたしも戸枝さんも止まってしまう。

 

「見てのとおり、私の『異能』の本質は『征服』・『侵略』という概念。……より厳密にいえば、東より西に押し寄せる侵略者。それが私です」

 

 目黒先輩の声音は、教室で先生が教科書を読むみたいに軽やかで、朗々と耳に入ってくる。

 だから聞いてしまう。必要のない彼女の話を。

 本当はそんなことをする前に、斬り捨てる必要があったのに。

 

「では、問題。東(・)よ(・)り(・)齎(・)さ(・)れ(・)、(・)西(・)に(・)壊(・)滅(・)的(・)な(・)打(・)撃(・)を(・)与(・)え(・)た(・)欧(・)州(・)最(・)大(・)の(・)侵(・)略(・)。(・)そ(・)れ(・)は(・)、(・)何(・)で(・)し(・)ょ(・)う(・)か(・)?」

 

 ……? 突然の問いかけに、わたしは硬直した。

 それこそ、教室でいきなり先生に当てられた時みたいに。

 ここが戦場だということを忘れて、彼女の質問の答えを探して――

 

「――! 佐守さん!」

 

「うわっ」

 

 ぽけっとしていたわたしを、戸枝さんの腕が引っ張る。

 そのまま地面に投げ捨てるみたいにして、戸枝さんは上段で剣を握る。

 

「――『世界よ、終われ。私と共に、私以外のすべてを焦がせ――』!」

 

 戸枝さんが、本日二度目の詠唱をする。

 撃てるの……? 一発が限度って言ってたのに、魔力は残っていないはずなのに――

 

『……あれは、削ってはいけないものまで削っているな』

 

 大蛇さんの声が聞こえる。

 削ってはいけないもの、それは例えば――生命力とか、そういうの。

 

 一方の目黒先輩は、変わらず余裕を崩さない。

 

「――『父が子を、妻が夫を、兄弟が片割れを見捨てた。この病は息や視線を通して侵略する』」

 

 戸枝さんの詠唱に割って入るように、静かで、しかし怖い声が聞こえた。

 聞いたことのない詠唱だ。少なくとも話に聞いていた『征服者』の詠唱は、こんなのじゃなかったはず。

 

 ただ……どうしてだか、寒気がする。

 望月さんの吸血よりも、もっと直接的で、もっと悍ましい何かがやってくるような――

 

「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き尽くし、私だけの春よ来い――!』」

 

「『黒き死はどこまでも。この世の果てまで行軍し、やがて世界を塗りつぶす』」

 

 病。

 黒き死。

 行軍。

 

 ――あっと声が漏れた。

 世界史で習ったことがある。

 むかし、大きなパンデミックがあった。医療も未発達の当時では、『それ』は呪いとも、天罰とも畏れられた。

 当時の欧州人口を凄まじい勢いで削り取った、最大級の侵略者。

 

 それは、その名は――

 

「――『伝染。モルス・アトラ』」

 

 瞬間、目黒先輩の全身から、黒い死の波動が一気に拡がり――

 

「――『抜剣。レーヴァティン』!」

 

 戸枝さんは、上段の剣を振り下ろすのではなく、地面へと突き立てた。

 視界が真っ白になる。束ねられた魔力も、襲い来る黒い死も感じない。

 

 ……ただ、少し暖かな春のような風が吹いて。

 

 ゆっくりと視界が戻る。見えている状況は、直前と何ら変わりない。

 目黒さんの銃も、戸枝さんの剣も、二人の立ち位置も変わっていない。

 

 ……ありえない。

 あれだけの魔力の衝突があって、『変わらない』なんてことはありえない。

 

「……戸枝さん?」

 

 かけた声に、返事はない。その背中はいつになく頼りない。

 まるで、燃え尽きた煤のように。はらはらと焦げた髪がひとふさ、春風に攫われて。

 

「――――」

 

 ……そのまま、彼女は倒れた。

 

「……戸枝、さん?」

 

 脱落のブザーが鳴る。

 誤判定がやかましい。そんなことより、敵の前で寝ている暇はない。

 

「…………ねえ、戸枝さん」

 

「土地ごと浄化して相殺しましたか。……一応こちらも隠し玉だったのですけど。まったく、さすがの魔力ですね。『聖剣』と同等という話も、あながち嘘ではない」

 

 ……急速に頭が冷える。

 状況を正しく認識したくなくて、ひたすら戸枝さんを復活させる手段を想う。

 

「……ですが、まあいいでしょう。強い方を墜とせた。あとは、きみがわるい一年生が二人だけ。これなら、私ひとりで事足りる」

 

「…………」

 

 何を言っているのか分からない。分かっているけど、認識したくない。

 

「……さあ。いい加減腹は決まりましたか? 逃げるのも自由ですが、それでは、せっかく貴方を庇ってくれた戸枝さんの犠牲を無駄にしてしまいますね」

 

「………」

 

 ――そうだ。

 わたしは、戸枝さんに庇われた。

 

 でなければ、あの黒い死を浴びて無傷でいるはずがない。

 でなければ、わたしは彼女に声をかける前に倒れている。

 それが事実。だからこそ、

 

「なんで……」

 

 どうして? という疑問が頭をよぎる。

 確かにあの状況、わたしの方が前にいて彼女の射線を邪魔していた。でも、それがどうした。

 終わりの剣。彼女の主役の熱剣は、その程度で妨げられるほど、やわではない。

 わたしごと焼き尽くせば、目黒さんを倒せたはずだ。もし一撃で仕留められなくても、目黒さんは相応のダメージは負う。そして無傷の戸枝さんなら、黒い死が回る前に目黒さんに打ち勝てる。

 

 なぜなら終わりの剣、だから。

 彼女は主役の光だから。

 

 ――だと、いうのに。

 

 戸枝小春は、迷うことなく我が身を晒してわたしを庇った。

 一瞬でも逡巡があれば、あの黒い死はフィールド中に蔓延していた。

 少なくとも、間近で浴びたわたしが無傷なんてことはない。

 なのに、犠牲は戸枝さん一人で済んだ。

 

 ……つまり、彼女にとって、『それ』は、迷うまでもない当たり前のことで。

 相手が卑怯な手で彼女を破ったわたしだろうと、望月さんだろうと、彼女にとっては何ら変わりない『守るべきもの』で。

 

 ……本当に、本当に、本当に癪に障る。

 主役を謳うなら、もっと我儘でいいのに。わたしや望月さんのように、手段を選ばず貪欲でいいのに。

 

 ――でも、きっとそれを戸枝さんが選んだら、わたしは安心して、同時に失望するんだろうな。

 

 ……頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 ここのところよく分からないことばかりで、ただでさえ混乱しているのに。

 こんなことまで起こったら、一旦、脳内を整理する時間が必要だ。

 

「……『大蛇さん』」

 

『うん』

 

 大蛇さんは、炎って出せる?

 

『うん。火を吐くという逸話も、己にはある。だが、それは――』

 

 分かっている。何となくだけど、大蛇さんと火は相性が悪い。

 拡がった伝承の一部として、大きく見れば使えるのだろうけど、きっと存在の根底が真逆なのだ。

 だから戸枝さんみたいな炎は使えない。余分な魔力を消費するだろうし、なにより――

 

『――なにより、それは余計なことだ』

 

 でも、わたしには必要なことだ。

 

 わたしがわたしであるために。このわがままだけは通さなくちゃ。

 

『……分かった。しかし、己は濁流の化身なれど、火そのものではない。火災を拡げるには、火種が必要だ。そこの死体から借り受けよ』

 

 分かった。でも、滅多なこと言わないで。戸枝さんは死んでない。

 

『……うん、ごめん』

 

 戸枝さんの体に切っ先をあずけると、火花が散って小さな灯が宿った。

 『熱剣』にはほど遠い、吹けば消える程度の焔。それでも消えない誇りの証。

 

 ……焔の向こうに大蛇の影を幻視する。

 頭はひとつではなく、『双頭』。陽炎の見せる幻ではない。

 わたしの内にいる大蛇の影。

 

 顔がいくつもあるのは、何となく察していた。

 多分双頭どころではないのだろう。けれど、今はそんなことはどうでもいい。

 どうでも、いいから。

 

『不浄を清めたくば、その焔』『思いっきり真横に――』

 

『――払え』

 

 双頭の口から放たれる、二重に聞こえる大蛇さんの言葉。

 ――その通り、全力で。彼岸を経つように地面に向けて薙ぎ払った。

 

 燃え上がる爆炎の壁。焔の壁が彼岸を両断する。

 

 ――その瞬間、ずっと体を包んでいた倦怠感が消える。

 どこかへ吸われていた魔力が戻ってきて、全身に活力が戻る。

 

 望月さんが『吸血の夜』を解除したのか――いや、違う。

 

 そっか、『炎』は『吸血鬼の天敵』だ。炎とは相性が悪い。

 戸枝さんはその辺意識して避けてたんだろうけど、わたしは知らずに振り切ったから、意図せず望月さんも斬り捨ててしまった。

 

 ――構わない。

 彼女が生きているなら再度『吸血の夜』を展開するだろうし、死んでいるならそれまでだ。

 

 ……とにかく今は、誰もこちら側に入ってくるな。

 ましてや、あの征服者だけは絶対。

 

「北欧神話の真似事ですか。熱いですね」

 

 うるさい。そんなの、知らない。

 

 とにかく、今は頭がぐちゃぐちゃで。

 なのに体は冷え切っていて。

 これを整理する時間が必要なんだ。

 

 ――だから、不浄なものは入ってくるなと。

 そう言っているのに、あの不条理は土足で焔の壁を乗り越えてくる。

 

 最大の征服者が、銃を片手にやってくる。

 

「――熱いけれど、熱いだけ。これであの『白夜の聖剣』を墜とそうなどと、思い上がりも甚だしい」

 

 ……苦しい。すぐにでも吐き出しそうな感情を抑える。

 今すぐにでも刃を叩きつけたい感情を抑えて、両手で剣を握る。

 

 ……大蛇さん。

 

『うん』

 

 アレに勝つ方法を、教えて。

 

『…………。択は、さほど多くない。最速で、脇目も振らず、まっすぐに突きつけろ。失敗すれば――』

 

 それでいいよ。元々失敗は前提にない。

 

 大蛇さんの声にいつになく迷いがあるから分かる。

 択が少ないのではなく、それしか択がないのだろう。

 

 なら、話は至極簡単。

 

「――――」

 

 余分を削る。

 視界を狭める。

 戸枝さんの姿が目に入ると、余計な躊躇が生まれてしまう。

 

「きますか。どうぞ? まだ勝算があるならば、どうか私に見せてください」

 

 ……やかましい肉塊だ。

 敵の言葉を聞く意味はない。

 聴覚を削る。聞いて意味があるものは、敵を討つ時の悲鳴だけ。

 

 集中しろ。

 思考を削れ。

 わたしがやるべきはただ一つ――

 

「――――」

 

 声もなく、音もなく。一秒でも早く、あの首に刃を突き立てることだけ――!

 

「――■だ■ちの■があると、本■にきみがわるい■年■■――」

 

 肉塊は音を放ちながら、無造作に古式銃を構える。

 あの銃は『異能』によるものだ。だからそれに再装填という概念はない。

 

 彼女の本質は、『征服』・『侵略』という概念そのもの。

 アレはただその異能に、分かりやすい指向性を持たせているだけ。

 

 だから――古式銃でありながら、機関銃のような連続掃射も、

 散弾銃のような多重掃射も、榴弾銃のような一斉爆撃すら可能になる。

 

「――――」

 

 戸枝さんに比べれば一撃一撃は圧倒的に軽い。

 ただ、それを面で展開されると、すべてを防御すること、回避することは困難になる。

 

 なら、防御や回避は斬り捨てる。

 必要なのは頭と胸。いや、最悪頭は消し飛んでもいい。

 神経が命令を送り、筋肉が実行し続ける限り、生命を維持し、全身に魔力を送り続ける器官以外は余分なものだ。

 

「……■■■」

 

 片足が消し飛ぶ。構わない。あと一歩なら、この体でまだ足りる。

 相手が回避に動く。このままでは仕留めきれないと、目ではなく剣先が捉えている。

 

 体をねじ切る。無理な方向転換で腰はあり得ない角度にねじ曲がり、片腕が脱臼する。

 いたい――けど、いたみは不要だ。だから気にしなくていい。

 

 ただひたすらに余分を削る。思考も感情も、意識も記憶も。

 今この瞬間にいる己も冷やして、冷やして――冷え――

 

 捨て――

 

 ――――

 

 ――――――――

 

 

『……割れたか』

 

 ――――気づいたら。

 

 わたしは、仰向けに倒れていた。

 倒れている暇なんてないのに。

 いますぐにでもアレを仕留めないといけないのに。

 

 腕に力が入らない。

 見れば銃剣が手首と肩に突き刺さっている。

 それも両腕。しっかりと、地面に縫いつけるみたいに。

 

 これでは剣を振るえない。

 剣を振らないと、アレを仕留められない。

 

 ……冷えた頭が、理解を拒む。

 

 何が悪かった?

 

 余分な思考を削ったから? 無策な突貫に近かったから?

 いや、あれは無策なんかじゃない。

 わたしが勝ちを拾うには、突貫しか存在しなかった。

 

 炎の壁を作った時に、余計な魔力を使ったから?

 いいや、アレは余計だが必要なことだった。

 

 望月さんの吸血は? ……いや、それは前提だ。

 何より、あの夜は目黒先輩にとっても特効だ。

 彼女の異能は領土を広げる。それは、広げた分だけ生者を蝕む吸血能力の餌食となるということ。

 弱体化の影響は、わたしよりも目黒先輩の方が強い。

 

 ――つまり、択は間違えていなかった。

 望月さんの弱体化、戸枝さんの焔、そしてわたしの一突き。

 どれ一つとして間違えていなかった、はずなのに……なのに負けてしまったのは。

 

「きみがわるい」

 

 ……声が聞こえた。同時にみぞおちに衝撃。

 いたい。目黒先輩に踏まれたのだと後で気づく。

 

 銃口は、わたしの眉間にぴったりと。

 この距離なら、わたしが斬りかかるよりも引き金を引く方が早い。

 ……どの道、両手は封じられ、体は踏みつけられているのだけど。

 

「この状態でも、まだ剣を手放さないのですね。本当にきみがわるい」

 

 当たり前だ。

 剣を手放したら、お前を殺せない。

 

「この状況でもまだ、勝ちを諦めていないと」

 

 当たり前だ。

 勝負はまだついてない。何が起きるか分からないのが戦場であるならば、なおさら。

 

「……ああ。つくづく、きみは『剣』なのですね」

 

 どこか嬉しげに、納得した様子でわたしに語り掛ける目黒先輩。

 けれど銃口は外れない。ひとつでもわたしが余計な真似をしたら撃つと、その気配が言っている。

 だから……だから今は、彼女の言葉を聞くことしかできない。

 

「最後の剣気――見事なものでした。戸枝さんを倒したというのも納得できます。きみであれば、『いつか』、あの『聖剣』にも届くでしょう。『いつか』、その先にも届くでしょう」

 

 ……癪に障る。勝者からの賞賛も、余裕も。

 けれど、これは好機だ。コレはわたしを舐めている。

 ならば、必ず油断が生じるはずで――

 

「けれど――それは『いつか』の話。今じゃない」

 

 そんなわたしの浅慮も、みぞおちに込められたかかとの力で思い知らされる。

 

「あの『聖剣』を破るのは、私。他の誰にも譲る気はない。……ですが、あなたは私の邪魔になりそうです。なので、ここで枷を掛けておきましょう」

 

 銃が少し離れる。銃口の内側が見える距離まで。

 眉間に押し当てられていた時よりも、恐怖がよぎる。必死で逃れようとしても、身動きは取れず。

 

「きみは、『私には勝てない』」

 

 呪いのような声が、わたしの体に降りかかる。

 

「私に勝てない以上、『あの聖剣にも届かない』」

 

 魔力がこもった呪詛ではない。ただの言葉。ただの挑発。

 なのに、この状況だと――それはまるで予言のようで。

 

「だから、どうぞ頑張って練習してくださいな? 二年後に、私たちのいない玉座を、必死で奪い合うように」

 

 吐き気がするような言葉と共に、彼女の引き金は引かれた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。