わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
――寄藤環の『ガラティン』は砕け散った。
彼女の誇り。彼女の憧れ。
憧憬たる『白夜の聖剣』――逸見明音から譲り受けた輝剣は、佐守あおの『クサナギ』に、それこそ雑草の如く両断された。
――堕ちる。
一刀両断された瞬間に理解した。
彼女本来の『異能』はまだ発揮されていない。
あくまで砕けたのは『白夜の聖剣』――その『十二の輝剣』から譲り受けた『加護』であり、当人の『異能』はまた別物だから。
――だというのに、彼女は泥に膝をつく。だって、もう理解してしまった。
自分では決して敵わない。
『白夜の聖剣』は、もちろん分かる。それは彼女の憧れだ。自分はその理解者でありたい。
『鶴久の絶剣』も、まだ許す。来年には必ず届いてやる。
『秋原の熱剣』も……小癪だが、今日は負けを認めてやってもいい。
なのに、佐守あおという少女に。
別段、気にもしていなかった彼女に。
……何なら、少し妙な親近感を抱いてすらいた彼女に自分は一切敵わないのだと。
――格が違う。才が違う。術理が違う。魂が違う。
『運命』が、皆が、他ならぬあの二人が『お前は違う』と囁いている。
――『
それを、寄藤は誰よりも、その身に受けて、理解して――
(――して、たまるか)
――両腕に力が籠る。泥に堕ちた足はもうとっくに動かない。
ならば、この前脚ではいずってでも、あの極みに至ってやる。
「――『お前が和解を求めても、今はもう遅すぎる。我が刃は既に抜かれ』」
それは、彼女本来の『異能』の詠唱。
『抜けば必ず誰かを殺す魔剣』の詩――『聖剣』と並び立つには相応しくないと自ら枷をした『血濡れの魔剣』を引きずり出した。
だが、それでは足りない。ちっとも足りない。
自分の魂では格が足りない。力が足りない。
矜持が、自信が、殺意が足りない。
あの神威の剣を殺すには、『特別な何か』が必要だ。
「――『円卓の者よ聞け、王は
選ばれざる者の、二つ目の『異能』。あり得ざる『伝承』の異形の融合。
それは、あり得てはならないものだ。
だって『同一視』すらもされていない。『異説』、『風説』ですらない。
明確に『
だから『それは違うのだ「知ったことか」
「――『抜剣。抜剣。ダインスレイヴ=ガラティン』」
あまりにも無理のある二重詠唱。
抜かれた異形の魔剣はしかし、やはりすぐに消し飛んだ。
そんなあり得ない物は、まず先に世界が拒む。
泥に堕ちる、腕が動かない。ならば這いずり、この身を進ませ――ああ、いや違う。
違う。違うと言っている。
それは違う。
お前は違う。
舞台が違う。
土俵が違う。
――そもそもお前は、『
『
「――――
違う違うと一つ覚えに、そんなモノは当の昔に自分が一番よく知っていて、君《ぼく》は、私《あなた》は、選ばれなかったと、報われぬ私達《ものたち》の断末魔を背負って、彼女は吠える。
――『異能』が『逸話・伝承と相性がいい』ならば、
今、ここに、『ソレ』を啼こう。
もはや無茶を通り越した所業である。道理も何もあったものじゃない。
魂が砕け散る音がした。
命が割れる声がした。
それはもう剣ではない。刀でもない。刃でもない。
それはもう、ただの――
「――ただの、『
◇
「――――!?」
嘘でしょ。って、思わず叫んだ。
一撃目では仕留めきれない。あの『聖剣』と『十二の輝剣』を両断しても、その先の『逸見明音』を墜とせない。
だから二撃目、残った魔力のすべてを使って、全力で振ろうとした剣が止まる。
だって『ソレ』は真っ直ぐに、わたしを殺しに飛んでくる。
『謡われたものを殺すまで、道理を無視して止まらない牙』が、何もかもを消し飛ばして一直線に貫いてくる――!!
「――ば、『抜刀』……!」
ダメだ、これは止まらない。わたしと同じ、道理を全て無視した刃。
だからもう残った魔力で、全力で――
「――『クサナギ』!!」
本当は逸見さんに振り下ろすべきだった刃を、その牙に向けた。
余力を残すなんてことはできない。無茶に対抗するのは無茶だけ。
『視界に映る剣の軌道上を、道理を無視して両断する剣』は、その『謡われたものを殺すまで、道理を無視して止まらない牙』とぶつかって……。
――弾けた。
大蛇さんから生まれた、わたしが謳った剣と、もう何なのかも分からないソレはぶつかり合って。
同時に、砕け散った。
「――ちっくしょう」
声が。わたしがまったく意識していなかった声が、
「……届かなかったか」
ため息、残響。……そして、倒れる寄藤さん。
「――――」
それに、わたしはなんて答えればいいのか、分からなかった。
だってこの牙は『
わたしはもう残った魔力も全て使い果たして、彼の剣はぶった切れて――何なら、触媒になっていた試合用の模擬剣すらも圧し折れて、完全にわたしの胸に突き刺さっていたから。
……多分、あと数ミリで。
ただの偶然。本当にたまたま。
何かが違えば、わたしはここには立っていない。
そもそも、この状況で、わたしはどう――
「――すまない。一旦試合を中断したい」
声はすぐそば。
気づいたら逸見さんは、試合用の模擬剣を捨ててそこに立っていて、寄藤さんの捻じれた身体を抱きかかえた。
「……うん。多分まだ間に合う。でも、結構ヤバいな、これは――」
多分すぐに命は尽きるぞと、何なら後遺症も多分、残るかもとか。
じゃあ、もうそれは急がないと。
「は、早く……! えっと、あの、タンカを――!」
これは命の取り合いじゃない。
いや……まあ、ほとんど命の取り合いに見えるけど。
でも、これはあくまでスポーツだ。
言ってしまえば『派手なショー』だ。
怪我人は出るけど、命が助かるならそっちが最優先だ。
「慌てなくていい――いや、慌てるべきだが。君が慌てると周りもパニックになる。……とにかく、今は寄藤の身が一番大切だ」
なので、下手に叫んだり衝撃を与えるようなことはしてはダメだと、逸見さんは言う。
分かるけど、分かるんだけど。
なんだか感傷に浸ることが多すぎて、ちょっと色々、困る。
そんな事をあわあわやっていたらいつの間にか戸枝さんが隣に来ていた。ついさっき、逸見さんに両断されていたのに、凄い。
脱落していた彼女は、本当は立ってたらいけないけれど、そんなこと言ってる場合じゃない。
「……運営には、こちらでもう連絡済みです。すぐに向かわれるのでご安心を」
「……すまない、助かる」
そう言って、逸見さんは寄藤さんの身体を戸枝さんに任せた。
「はあ……この、バカが……だから。ああ、もう……! こんなことを、二度と、するな……!」
任せながら、泣きそうな顔で。
「はぁ……でも、ありがとう、寄藤。お前が居ないと、負けていた」
そんな言葉を告げながら、彼女の頭を撫でていた。