わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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後日談:『他の一年生ズの割とガチマジカルチャンバラ集」

 わたしの名前は佐守あお。

 広島県私立秋原女学園に通う十五歳で、『国異』の選抜メンバーで、今年、決勝戦の最後の一撃を決めちゃった者。

 

 なのでとても困っていた。

 確かにわたしの『異能』である『クサナギ』が開眼して。

 

 ――した結果、『秋原の神剣』なんて呼ばれるようになってしまった。

 

 イジメはなくなったが『腫れ物扱い』は変わらない。  

 クラスメイトには異能も詳しく説明してないから『見られたら斬られる』ぐらいなんだろう。

 

 ……まあいいか。とりあえず、ここはたしかにわたしの場所ではなかった。

 

◇

 

 というわけでとりあえず部活に向かったのだけど部室にはまだ山名部長が一人……。

 なんか頭を抱えている……。

 

「えっと……山名部長……?」

 

「ああ、佐守か……はぁー」

 

 何かを悩んでるっぽい。

 

「どうしたんですか? ていうか他の……一、二年の人達は……」

 

 選抜メンバーはあくまで五名。でも部員数は違う。

 うちはもう水野部長の采配で全力で五名レベリングしたまま向かったけど……そういえば、他の部員の人とか話してない……。

 

「ああ。みんな退部しおった」 

 

「はい?」

 

「だから逃げおった」

 

「なんで……?」

 

 優勝校なのに……?

 

「優勝校だから。個々人が強い言うても秋原は『中堅校』、せいぜい一、二回戦敗退だろうとか考えてたお遊び連中ばっかだったからな。それがいきなり優勝校なんてたまったもんじゃない」

 

 そこは普通、逆に向かうのでは……?

 

「お前とか戸枝とかあと決勝の望月とか見てみんな逃げた」

 

「え、えぇー……」

 

「まあ来年はうちもネームバリューで色々来てくれるだろ……『秋原の熱剣』に『秋原の神剣』までセットなんだから……」

 

 いつの間にかわたしと戸枝さんがセット扱いされている。

 ていうかなんでこんな『秋原の神剣』の名前が広まって……。

 

「ああ、それね。私」

 

 と、山名部長はあっさり答えた。

 

「来年の勧誘用の知名度に使えるからな。あとお前は分かりやすいし目立つし。戸枝とは逆方向に走らせてクサナギさせとくから」

 

 すごい雑な運用方針を聞かされる……。

 「まあどうせ対策済みだろうが」とかもしれっと言われる……。

 

「……でも、実際のわたしそんなに強くないですけど」

 

「でも『秋原の神剣』だってさ、格好いいだろ」

 

「うっ……」

 

 ……たしかに、カッコいい。あと愉しい。

 『白夜の聖剣』逸見さんがそうだったように、名前を、伝説扱いを喜んだっていいんだ。

 

 ……わたしの中身はまだまだだけど!

 

「まあ来年はお前らのネームバリューで期待の新人待ちとして……この半年だよなぁ。水野先輩はさすがに受験勉強だろうし。優勝校が草試合も練習試合も出来ないほど足りん、と言うのは流石にメンツがたたん」

 

「たしかに……」

 

「――などと悩む間もなく、うちに白夜の馬鹿どもと鶴久のバカどもと、宝徳の弓馬鹿どもがやってくる。あと洛陽の村田も来る」

 

「はい?」

 

「合同練習したいと言ってたが、ノリからしてまあ多分勢いだ」

 

「うちで?」

 

「うちで」

 

「北海道とか東京とかから?」

 

「うん。なのでまあ雑にバカどもに人を借りて一枠に足りんものを見極めるぞ」

 

 ……それはもう、ただマジカルチャンバラを遊びたいだけなのでは?

 

 などと思いながら、わたしは黙っていた。

 

◇

 

 ……そんなわけで、なぜかうちこと私立秋原に、鶴久だの宝徳だの、そしてなにより白夜だのの人々が集まっていた。

 とても逃げたい。とても逃げたいのに、逃げられない……。

 なんか二年生の方々で雑なマッチングが始まっている……。

 

◇

後日談:『秋原のジョーカー』対『絶剣の忠犬』

 

「せっかくなんで、ウチの里見とそこの吸血鬼をやらせてくれんか。連れてきた意味がない」

 

 などと言う、謎の化物『鶴久の絶剣』さん。

 

「お前が勝手に連れてきたんだろ」

 

 と、山名部長は当たり前のことを答えるが、何か考えることがあったのか……。

 

「ふーむ……そういや、そこの忠犬と望月はやってなかったな」

 

「マジで死にますよ」

 

 望月さんはもはや即答だった。

 だって相手は『ムラサメ』――化生殺しの太刀だ。

 つまり望月さんは普通に死ぬ。

 

「いや構わん。……それ込みでお前が今どこまでやれるか見たいから」

 

「雑に真剣勝負を振らないでくれます?」

 

 そう言いつつも望月さんも一応、触媒の懐中時計を取り出した。

 

「はあ――『ああ、寒い。雪と狼と夜が来る』」

 

 それはそれとして、ちゃんとやる気なのだろう。

 件の冒涜的な詠唱が始まる。

 

「『処女達(はなよめ)の血が無ければ、僕は魂まで凍えてしまう』」

 

 魔性で夜で何より『吸血鬼』……っぽいもの。

 それが望月さんの真骨頂だ。

 

「――『着憑。デア・ナハト』」

 

 詠唱を終えた瞬間、首元から影が伸びて漆黒のマントみたいになった。

 ……なにあれ、カッコよ。

 

「ああ。一応、カッコいいだけじゃないよ? というか全身ガードだよ」

 

 と、望月さんはこっち向いて言ってた。

 ついでに言うと今日は模擬剣らしい。例の『杭』は持ってない。

 

「真面目に打ち合うと死ぬからね……ああ、そっちも用意してー」

 

「ん……」

 

 そう言って里見さんも剣を構える。

 

「――『邪を退け、妖を治め』」

 

 件の宝刀――化生殺しの太刀を、腰に抑え――

 

「『抜けば玉散る氷の刃』――」

 

 試合用の模擬剣は、一本の美しい刀変化した。

 

「――『抜剣。ムラサメ』」

 

 その化生殺しの宝刀は、しかし、まだ鞘に収めている。

 何しろ、里見志乃さんは『ムラサメ』とかいう『異能』が真骨頂ではない。

 むしろ『鶴久の絶剣』直伝……っぽい『縮地』。

 さらに納刀したまま背中で刀の長さを隠すとかいう、割と実戦的な術使い。

 つまり『化生殺し』で『縮地』で跳んでくる『居合使い』……とか言う意味わからん存在が里見さん。

 

「ほな試合開始ー」

 

 という、山名部長の雑な合図とともに、里見さんは一歩で近づく。

 

「――『消す』」

 

「あっぶね……!」

 

 などと言いながらほぼ影に溶けつつ、初撃を避ける望月さん。

 しかし里見さんの恐ろしいところは、別に『居合縮地化生殺し』なんて一発屋で終わらないところだ。

 

「ほっ」

 

 さらに握り直した宝刀を足元の影に振り下ろす里見さん。

 即座に影を退いてまた人間形に戻る望月さん。

 

「ああ……えっと、どう言うかなぁ……!」

 

「――『消す』」

 

 そう言いながらもちゃんと、今度は普通の体術で里見さんの剣を避けてる望月さん。

 『異能』の性質上、まともに剣を振るう機会が少ないだけで、望月さんはちゃんと剣を納めている。

 

 実力的には戸枝さん未満、わたし以上くらいだ。

 ……比較対象が狂ってるからどの程度が分かりにくいけど。

 

 ともあれ、望月さんはちゃんと『里見さん』の剣を避けていた。

 件の『漆黒の杭』ではなくて、あえてただの『模擬剣』で刃を逸らしている。

 そしてひたすらに距離をとっている。

 まあ多分『ムラサメ』が一発でもまともに食らえば即死するだろうし……。

 

「ほっと」

 

 なんて言いながら鋭い剣を横に凪いでいる。

 わたしは間合いに狂わされて苦戦していたけど、少なくとも望月さんの表情はまだ余裕そうだ。

 

「ああ、いや余裕ないよ? 一撃まともに食らえば死ぬもん……しかも、まあ……なんか懐かしいな」

 

 などとよく分からんことを言うたかと思えば、望月さんはふっと一歩前に出た。

 あの『逃げ回ればだいたい負けない』望月さんが。

 

「じゃあ、こう言おうか」

 

 とか、なんか懐かしいことを言いつつ、抜かれる前の刀の柄を押さえ込みながら――

 

 

「『忠犬の割には、この程度? これじゃ『鶴久の絶剣』の名も汚れるね』?」

 

 とか、思いっきり地雷を踏み抜いた。

 

「――――『消す』」

 

 とんと、望月さんから距離を離す里見さん。

 さらにそこから、一気に『縮地』で詰め寄る。

 

「まあそうだ」

 

 とか望月さんは言いつつ、今度こそ影に溶けてその抜刀術を回避した。

 しかし相手は『絶剣の忠犬』――ただ『居合』が本領ではない。

 

 そのまま、刀を握り直し、下方の望月さんそのものとも言える影に差し落とす。

 

「――のを、待ってた」

 

 そう言う望月さんの影から急に『ただの模擬剣』が飛んでくる。

 

 『ムラサメ』は宝刀ではあるが、化生殺しではあるが、ただの剣にはただの刀。

 

「――――っ!」

 

 故、弾くしかない。

 その間に望月さんは、里見さんの後方に実体化して、後ろから抱きついた。

 

「んで、ほい」

 

 さらに剣を握る手首を持って、鞘も体で押さえつける。

 

「…………っ!」

 

 望月さんの影、というか身体にはドレイン効果がある。

 何か凄い魔力量とか、凄い耐久力とかがあれば話は別だけど、普通なら触れられてるだけで『色々』吸われていく。

 

「……あう」

 

 などと弱い言葉を発して、里見さんはそこに倒れた。

 そこで望月さんも『異能』を閉じて――それから大きくため息を吐いた。

 

「……はぁぁぁぁ。……ほんと、一手間違えたら死んでた」

 

 そう。結果は望月さんの優勢……。

 だったけど、『ムラサメ』一発で望月さんは即死なので、本当にこれしかなかったのだろう……。

 

 それにしても本当に逃げ足だけは早いな……などと思うわたしの後ろで。

 

「う~ん……やっぱり、望月も支援に回せるけど……こいつ前線でもいいなぁ……」

 

 などと、山名部長は唸っていた。

 

◇

後日談:『秋原のジョーカー』対『秋原の神剣』

 

「よし、佐守もやらせるか」

 

「マジで言ってます?」

 

 などと言ってる山名部長に真顔で返す望月さん。

 それはもはやただの校内戦……では……。

 

「いやまあ、『クサナギ』はバカ強いが化生殺しではないし。お前も何とかやれるだろ」

 

「ああ……いやそらそうですけども」

 

 と、望月さんはなんかやる気がない。

 しかしわたしはやる気である。

 

 何しろなんだかんだ、わたしは望月さんにまともに勝った覚えもない。

 あと、二回戦で恥ずかしいこともさせられた私怨もある。

 

 ――なので。

 

「望月さん、やりましょう。今度こそ『斬り』ます」

 

「なんであおちゃんまでやる気なんだよ〜……」

 

 とかボヤきながらも、今度は『杭』を半身片手で構える望月さん。

 あの人は、基礎魔力量は平均だけど、射程圏内にいるだけでドレインされる。

 ついでにあの『杭』とか、直接触れると更に吸収速度が一気に上がる。

 つまりわたしみたいな『規格外の魔力量持ち』は、望月さんにとっては「なんか都合のいい魔力タンク」である。

 

 なので長期戦は本当に無理――

 

「ほな試合開始ー」

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 合図と同時に『視界範囲内剣軌道上道理無視切断』で薙ぎ払う。

 スパッと、望月さんの胴体が斬れる。――が。

 

「よいせ……!」

 

 と、当たり前に再生しとる……。

 

「よし、行くよ~あおちゃん」

 

 などと気軽な声とともに、本気で突き穿ってくる望月さん。

 人のことは言えないが、容赦がない……。

 

「よっ“阻め”!」

 

 なので、取り合えす魔力を込めて防御膜を貼る。

 

「ああ、貰う」

 

 しかし、望月さんはそれに杭を突き刺した。

 それだけで、“阻め”に使っていた魔力を奪い取られる。

 

 ……すご。なんかドレイン速度も上がってる。

 とはいえこちらも、全部の魔力を使ったわけではない。

 

 なので――

 

「――"浸せ"!」

 

 今度はこちらから突き穿つ。

 望月さんは距離を開けるが、わたしの"浸せ"には魔力による射程拡張がある。

 

「いてっ……!」

 

 それが見事に突き刺さった。

 望月さんの動きが止まる。……よし、ここだ!

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 詠唱破棄しつつも、それでも十分な威力は出る。

 ついでに袈裟斬り。なのでいくら望月さんでも避けきれないはず――

 

「いってぇ……!」

 

 とか言ってちゃんと袈裟がけに斬り捨てられる望月さん。

 まあまた再生してるんだけど……。

 

「……でも、ここだ」

 

 一歩、前に出る。クサナギでは斬れても即再生される。

 いや、連打すればなんとかなるかもだけど、その間に望月さんは対応してくるだろう。

 ――なので。

 

「――“払え”!」

 

 ただ魔力を込めた全力の横薙ぎで、『望月さんの影ごと』まとめて吹っ飛ばす。

 こちらは規格外の魔力量。望月さんは平均。

 

 だから、この一撃で望月さんは終わるはず――

 

「ああ――まあいいけど。後ろ見なくて平気?」

 

「へ?」

 

 一歩、踏み出した。

 望月さんの影の領域に入り込んだ。

 

 ――そして望月さんは、影の中なら本当に『吸血鬼っぽいもの』を色々できる。

 

「――たっ!?」

 

 なんか急に背中から、望月さんの杭が突き刺さった。

 わたしが目の前の望月さんに集中してる間に、影から伸ばして杭を突き刺したのだろう。

 

 更に直接触れている――というか貫かれている。

 わたしの『規格外の魔力量』も、一気に吸われていく……。

 

「うぐぅ……」

 

 とか言って、その場に倒れた。

 ……大体、里見さんと似たような負け方である。

 

「ああ……はあ、怖かった〜」

 

 なんて、望月さんは本気でため息を吐いている。

 まあ実際、スペック差ならわたしが圧倒なのだから、望月さんの安堵も嘘ではないのだろうけど……。

 

「卑怯では……」

 

「いや、あおちゃんに正面対決するほうがアホだよ」

 

 完全論破された……。

 

「クサナギで切れないなら、望月は……ふむ……?」

 

 なんか山名部長がぶつぶつといやなことを言っているし……。

 

◇

後日談:『秋原の熱剣』対『絶剣の忠犬』

 

「ほな次はうちのターンやね」

 

 などと言う武光奏という化物。ターン性なんですか?

 

「ああ、頑張れー秋原代表ー」

 

 そしてもう自分のターンは終わったと思っているようで、望月さんも完全に観客モードである。

 

「……そこは真面目に応援してほしいのですが」

 

 などと苦言を言いつつも戸枝さんもちゃんとやる気である。

 

「――うーん。『抜剣。ムラサメ』」

 

 そして、里見さんは詠唱破棄で宝刀を抜く。

 まあ、戸枝さんに化生殺しは効かんので良いのだろう……。

 

「じゃ、試合開始ー」

 

「――『消す』」

 

 そして『縮地』で攻め込む里見さん。

 まあ、相手は戸枝さんだ。『秋原の熱剣』だ。

 長引くほど炎の檻が完成する不条理だ。

 

 なので里見さんの判断は正しい……と思う。

 

「はい」

 

 しかし、その、わたしでも困る抜刀術を、戸枝さんは普通に剣で受け止めた。

 

 おまけに剣から炎が上がる。

 

「――っ熱」

 

 と、里見さんが離れる。そこにさらに攻め込む戸枝さん。

 『炎の斬撃』を残しながら、今度は斬り上げ。

 

「――『消す』」

 

 しかし、それを『縮地』で横に回避する里見さん。

 さらに刀を抜きながら、横薙ぎで戸枝さんを斬りに向かう。

 

「――と」

 

 でもそれも剣で弾く。ついでに炎の慣性制御で無理矢理、里見さんを『弾き飛ばす』。

 

「ん……!」

 

「――『抜剣』」

 

 体勢が崩れた里見さんに向けて、炎で拡張した剣を伸ばす戸枝さん。

 規格外の魔力量から放たれる、詠唱破棄での『終わりの魔剣』。

 

「――『レーヴァティン』」

 

「ふっ」

 

 ――それを、体勢を崩しながらもトンッと刀の鎬で止める里見さん。

 いやどういう反射神経してるの?

 

 しかし、相手は『世界の終わり』。

 里見さんの握っていた『ムラサメ』は元の模擬剣に戻り、そのまま砕け散った。

 

 ――それでも『縮地』で、戸枝さんの間合いから離れていた。

 

「ふう……ん、負け」

 

 そう言って、里見さんは折れた模擬剣を投げ捨てた。

 しかし戸枝さんは不満げである。

 

「……貴方なら、その折れた剣でもまだやれるのでは?」

 

 なんて無茶を言っている……。

 

「まあやれるけど」

 

 と、里見さんも里見さんで凄いことを言ってる。

 

「……でも、多分泥仕合になる。そして多分、わたしの方が先に体力も尽きる」

 

 そう言えば、この人望月さんにドレイン喰らったばかりだった。

 

「あと練習だし。これ以上ネタを明かしても、本戦で困る」

 

 と、意外と考えてる里見さん。

 それに、戸枝さんも「まあ確かに……」と納得していた。

 

◇

後日談:『秋原の熱剣』対『秋原のジョーカー』

 

「ほなまあ……体力残ってるだろうし、戸枝と望月もやっとけ」

 

 「望月は散々ドレインしたから残ってるだろ」とか言う山名部長。

 

「正気で言ってます? 私、連戦ですよ?」

 

「その程度で折れんだろ、秋原代表」

 

「はあ……まあいいですが……」

 

 ……そう言えばこの二人が戦うところ、出会った時しか見てないな。しかもその時は、望月さんは『異能』を解放していなかったし。

 今ならどうなるんだろう。

 

「ほな試合開始ー」

 

 また山名部長の気の抜けた声と共に――戸枝さんは珍しく動かなかった。

 

「僕の意見も聞けよ……」

 

 とかボヤきながらも『デア・ナハト』を解放する望月さん。

 

 片手には漆黒の杭を持ちつつ、周囲全体に影を広げる――

 

 けれど。

 目の前には戸枝さんは『居なかった』。

 

「ああ……はい?」

 

 首を傾げる望月さんの頭上に恒星の輝き。

 炎による慣性制御で、思いっきり上空――多分望月さんのドレインが届かない距離まで剣を構えて跳んでいる――!

 

「――『世界よ、終われ』」

 

 しかも、迷うことなく完全詠唱。

 

「いや、ちょっと待っ――」

 

「『私と共に、私以外の全てを焦せ』」

 

 動揺してる望月さんだけど、戸枝さんはまったく容赦しない。

 

「――『降参しよっか』ー!」

 

 しかし望月さん。

 いつかと同じような詭弁を言いながらも影に溶ける。

 

 ――が、もう戸枝さんにそういう『甘さはない』。

 まして相手は望月さん。よく知ってる相手であるので――

 

「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き焦がし、私だけの春よ来い』」

 

「いやマジで降参するから! 今度は屁理屈じゃねぇから!」

 

 などと言ってる望月さんをガン無視して――

 

「――『抜剣。レーヴァティン』」

 

 頭上から放たれる『終わりの炎』。

 直線でも一キロ届くそれを、地面に叩きつけたのだ。

 

 望月さんの影の領域も、望月さんも、あともう練習場全域も、纏めて燃やし尽くした……。

 

「ふう」

 

 ……とか、軽い言葉で降りてくる戸枝さん。

 ちゃんと脚には炎をまとって、着地で足をくじくこともない。

 

 そんで燃え尽きた望月さんは……。

 

「……いやもう、ほんと『一年最強』だよ、戸枝さん」

 

 なんて愚痴っていた。

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