わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
余談:『冬の狙撃手』対『鶴久の絶剣』
『国異』、準々決勝前。一日だけの休憩日。
日中の後、『鶴久の絶剣』に絡まれた『冬の狙撃手』、山名有為二年生。
彼女の『異能』は『モシン・ナガン』などという伝承とは程遠い狙撃銃。
それから『ハントレス』などという、『狩人』という曖昧な概念。
――もう一つ、三回戦で撃った『本気の異能』もあるのだが、基本的には裏方である。
少なくとも『絶剣』だのなんだのと、真正面から打ち合う『異能』でも性格でもない。
なにより『勝つ手段』をある程度整えないと、まともにやりあえない平凡さ。
故に現状は斥候・狙撃・隠密・代理指揮などの裏方をほぼ全部纏めているのだが――
「じゃ、やろう」
「本当になんでだ?」
夢の国で遊んでいる最中、気づけば練習場に連れ込まれていた山名。
何となく一緒に射的やら何やら遊んでいただけなのに、気づけばここである。
「だって、準決で当たるじゃん」
「まだ準決まで行くと決まってない。いや行くが。そもそもお前と当たらん」
山名有為はあくまで裏方である。後衛である。狙撃手である。
前衛剣士とやりあう機会はない。まして二年最高峰の『鶴久の絶剣』と直接対決する機会はない。
まあ狙えたら狙撃するだろうが。この距離でやりあうことはない。
本当にない。
「でもあんた試合中に狙えるなら撃つだろ」
「そりゃ狙えたら撃つよ」
「じゃあその前に斬る算段をつけたい。なのであんたは狙撃出来る距離でいい」
「なるほど……?」
本当によく分からない理屈である。
よく分からんが、遠間でやれるならまあいいかと山名は思う。
「確かに私も撃ち抜けるかは試したい」
「でしょ。んじゃさっさと移動して~」
「……せめて遮蔽が欲しいんだが」
場所はただの広い練習場である。
まあいいか。遮蔽の有無に関わらずどの道狙うことには変わらないし。
などと思いながらとりあえず其々遠間について『モシン・ナガン』と『ハントレス』を抜く。
「まじでいいんだな~!」
「いいよ~! こっちも抜いてっから~!」
そう言う『鶴久の絶剣』の手には、確かに『デュランダル』が握られている。
困ったことに、『デュランダル』は砕けない。
ついでにいうとあいつは消える。馬鹿縮地ですっ飛んでくるだろう。
「どうするか……」
珍しく悩む山名。
とはいえ、本戦でも遮蔽がない可能性はないでもない。
なので、とりあえず『ハントレス』の狩り道具を適当に巻きつつ、迷彩を纏う。
アレは強いが馬鹿なので、まあ引っ掻かってくれるだろうなどと思いながら。
「どうする~! もう始めていいか!」
「いいよ~! では『鶴久の絶剣』――いざ参る」
などとふざけたことを抜かしながら即座に視界から消える馬鹿。
アレをスコープで狙うのはまあ無理だろうと思う山名。
それではスコープは要らんな、と思って適当に放り投げる。
「いてっ!」
罠に掛かった方角に、裸眼で撃ち抜く。
それでも武光はそこにもういない。
「……速いで済ませていいのか、アレ」
などとぼやきながらも、取りあえず銃を持って駆ける。
まあ人間ではない。
だが人間でないなら猶更『狩人』の得意分野だ。
「あいた」
また引っ掛かった方向に、今度は『視る』という動作を外して銃だけで撃ち抜く。
自分で仕掛けた罠である。大体逆算すれば位置は分かる。
分かってしまうのが山名である。
しかし、それも外れたらしい。
「やっぱあいつ人間じゃねぇな……」
「聞こえてるぞ山名~!」
しかも地獄耳だ。下手をすると呼吸まで聞かれるかもしれぬと山名は思う。
(え~……まあ、いいか)
なので――あまり信条ではないものの、足を止める。
迷彩をとく。
あとついでに思いっきり銃を適当に撃つ。
「ほっ――!」
――ぬるりと、低い姿勢から高速で跳んでくる『鶴久の絶剣』。
気づけばもう目の前にいる。
「怖」
などと端的な所感を述べつつ、とりあえずもうこの距離では使えんだろう狙撃銃で防御体勢を取る。
しかし相手は『デュランダル』、決して折れない不屈の剣。
当然のようにぶった斬られる。ついでに山名も斬られるが――
「うおっ!?」
目の前――というより自分の四方すべてに仕掛け罠をおいている。
この『絶剣』の最大の弱みは遠距離攻撃がないということ。
なのでまあ、自分を囮にすれば必ず釣れる。
だからそのまま、斬られつつも折れた狙撃銃で『ぶん殴った』。
「よっ」
「うわぁっ!?」
珍しい声をあげる武光奏。
だが、それでも『デュランダル』で防がれ、返す刃が肩に落ちた。
「……まじかよ、お前」
多分、完全に無意識で一連の動きをしている。
だって未だに、武光自身は罠に掛かって驚いているのだから。
「いてっ」
ごっと鈍い音。
――まあ、相手は剣鬼である。『鶴久の絶剣』である。
それも無意識である。
ならば無意識の行動は必然最適な殺傷行為になる。
……のを、何とか武光の理性が押し留めてくれたらしい。
ギリギリで刃ではなく鎬で叩かれるだけで済んだ。
「あー、はいはい。降参……」
はぁっと息を吐きながら、両手を上げる山名。
やはりこの獲物、ちょっと勝ちの仕掛けに手間がいるなぁ……などと思っていると、何故か武光の方は不満そうだった。
「なんか凄い勝った気がしないんだけど」
「知らん。どう見ても私の負けだろうコレ」
銃は折られ、仕掛けは引っ掛かっても踏み外され、おまけに肩に剣を乗せられている。
つまりあとは横に動かすだけで首を刎ねられる。そういう状態。
山名は『狩人』であり『剣士』ではない。
なので仕掛けでやれるならまだしも、いざ尋常になどされれば負けるのだ。
……いや、どの道剣士であっても、コレは多分ちょっと規格外なのだが。
「は~あ……お前マジで……」
「なんだよ、人を化物見る顔して」
「イヤお前は化物なんだよ」
なので、獣用の狩人道具を用意した時点で自分の負けである。
コレを狩るには対化生用が必要だった。
そして、そんなものは山名単体にはない。
秋原というチームであれば、適当な身内が斬られている内に撃ち抜けばいいのだが、少なくとも山名自身の手札に、現状は無かった。
「あ~……となると、そうか、そうだな~……」
ううむと、『鶴久の絶剣』を狩る算段を目の前で考え出す山名に、しかし『絶剣』は納得していない。
「なんか凄い納得がいかない。あんたはこんなに軽くないだろ」
「人を高く見積もるな……というか、お前はお前基準で人を見るな……」
人間じゃねえんだから。
「あの本気の方の『異能』使えよ~! なんで私だけ不屈の剣抜いてんだよ!」
「お前が勝手に抜いたんだろ……ていうかアレは時間と手間とあと疲れるの……」
準備さえ整えば当てる自信はあるが、多分、準備が整う前にこの距離でも死ぬ。
『鶴久の絶剣』とかいう化物は多分跳んでくる。
「え~、じゃあお前の準備が整うまで待ってやるから!」
「あのさぁ……お前、明日も試合あるんだぞ?」
一応鶴久も生き残り組である。
秋原も生き残り組である。
何故今日、休みに無駄に体力を消費せねばならぬのか……。
というか、ここまでの時間のほぼすべてが無駄ではあったが。
まあ……取りあえずコレが急にビームとか撃ってこない限りは……いや、どうなのだろうか。などと思いつつも、自分の手札だけでコレを墜とす手段を何となく考える山名。
――が、今すぐは浮かばない。やはりコレは二年生最強なのだ。
「そろそろ、夢の国に帰らせてくれ」
自分でも矛盾しているとは分かっている発言をしつつ、未だなんか叫んでいる武光奏を引き剥がすのだった。
■
余談:『洛陽の妖刀』対『白夜の綺羅星』
『国異』、一回戦後の夜。
夜中の試合練習場。
本当なら閉まっている時間だが、大会期間中は軽い練習をする選手のために、二十四時間開いている。
そこで――
「やだよぉ…………」
と、本気で喚く私立洛陽の妖刀こと『ムラマサ』、村田知子と。
「はは、いいじゃんか!」
と笑う、自称『白夜の綺羅星』、『ジュワユース』の諸星阿左美が対峙していた。
しかも、すでに諸星はジュワユースを抜いている。
シャルルマーニュ十二勇士の逸話を適宜呼び起こすという『異能』が、既に爛々と輝いている。
「白夜、最終戦だっただろ~……なんでお前そんなにやる気なんだよぉ……」
「しゃあない。完全に
何が仕方ないのか。そして、それを自分に向けられても困る、とガチで思う村田だが、諸星は既にやる気満々であった。
おまけに、今回は見物客までいる。二年生の至高『鶴久の絶剣』こと武光奏と、秋原の『冬の狙撃手』、山名有為である。
しかも洛陽は、白夜とも鶴久とも秋原とも当たる可能性がある。
だって、こいつは秋原の作戦参謀だ。
よりにもよって、である。
「……ていうか、なんで見物してんだよ」
村田の当然の疑問に答えるのは武光である。
「だって見たいじゃん」
「お前には聞いてねぇよ――なあ山名!」
「あ?」
振られると思っていなかったのか、山名の返答は素朴であった。
しかし、こいつがこの中では一番の常識人だ。後衛であり参謀係であり、何より狙撃手だ。剣士である村田よりも、よほど頭はいいはず。
「なんでお前まで見てんだよ……ていうか止めてくれよ」
「いや、ただで見れるなら儲け物だからな」
「死んでくれないか?」
本気で思う村田。
しかし、それに答えるのはよりにもよって諸星である。
「大丈夫だ。この後村田と山名にも戦ってもらう」
「正気で言ってる? っていうか、山名はそれでいいんか?」
「いや、私は一回戦あんまり動いてないし、多少は体を慣らしておきたいんだ」
「お前秋原の常識人枠だろ。なんでそっちにいくんだ」
「いや、まあ……これぐらい日常茶飯事だし」
言われてみれば、秋原は奇策闇討ち気まぐれ海神が部長を努めているのである。
ただそれはそれとして死んでほしいなと思う村田。
とはいえ、一応正気であることを、山名に聞いてみる。
「あのさあ。それ私だけが連戦になるんだが?」
「大丈夫だ。私も大したことはせん。つうか秋原は第一試合だからな。そんなに動けん」
「そもそもお前と正面対決は無理だ。私は裏方だし」などと宣う山名に「それお前の都合だけじゃねぇか」と突っ込みたくなる村田。
しかし現実はそうも行かず、どうやら自分はこの光馬鹿と戦うまで帰れない。なにしろ『
「やだよぉ……マジでやだよぉ」
だって、村田の『異能』はただ『魔力量差分』を揃えるだけであり、剣術の腕だとか能力だとかは自前である。
つまるところこの光馬鹿のような多彩な能力は最も苦手である。
なんなら負ける。
先に言っておく。村田は負ける。全力でも多分負ける。
なので……。
「わかったよ、やるよ……『抜刀。ムラマサ』」
サクッと抜いて、サクッと負けよう。それで寝ようと思う村田に、光馬鹿はケタケタ笑う。
「よし、これで成立だな! では『白夜の綺羅星』、いざ参るってな!」
「マジでだせぇよ……」
向かってくる馬鹿をせめて満足させなければ、恐らくは寝れないであろう。
なので表向きは本気で挑む。
「いくぞ村田!」
「はいよ」
ジュワユースに対してムラマサで挑む。それだけでも若干の相性不利だが、そこは技術で鍔迫り合う。
しかし問題はここからだ。
「よぉし! 『ローラン』!」
鍔迫り合いの最中に、唐突に『不屈の剣』に変わる。
当然、まともに受ければ折れる。
「まあそうくるわな」
――なのでさくっと切り替える。どの道、力では相手に及ばないので、横に薙ぐ。
「おっと」
「よいしょ」
ガラ空きになった背中に向けて刀を振り下ろすが――
「――なら『オリヴィエ』!」
唐突に持っている剣が双剣――『オートクレール』、『グロリユーズ』に切り替わり、左手側の剣で背中を守りながら、右手側の剣が襲いかかる。
それを後方に飛びのいて守る村田。
「あっぶね――!? 二刀流とかいつの間に覚えたんだお前……!」
「覚えてないぞ! でも二刀流は格好いいからな!」
軸足を元にぐるんと振り返る諸星、それからすぐに両手を合わせて、さらに色を変える。
大きく飛びのく村田を追いかけるように、剣が一気に長物へと変わる。
「さあ『テュルパン』! 突き穿て!」
大司教であり、『グランテピエ』という槍を所持する十二勇士の逸話。
妖刀討伐には適切である。
「――は~! 面倒くせぇ!」
しかし、村田も熟練の戦士。負けるつもりであっても、つい体が対応している。
唐突に武器の間合いが変わっても即座に対応し、鎬で払いおとし、さらに返す刃で突きを狙う。
「おっと! ならば再び『ローラン』!」
『白夜』の次期部長の対応力。――恐らくは、こんなところで見せていいものではない『格好いい』技量で、瞬時に槍は聖剣に変わる。
聖剣と妖刀。双方が同時にぶつかりあえば必定――
「はぁ……」
鈍い金属音の後に、村田の握る刀は圧し折れた。
ため息とともに両手を上げる村田の首元に聖剣の切っ先を向ける諸星。
「はい、おしまい……私の負け。満足したか?」
「う~ん……二刀を見せれたのはいいが、ちょっとアレだ。今のは反則っぽいな! なぜなら村田の技量は間違いなかった!」
「知らねぇよ。お前の『異能』が上回ったってだけ。以上」
そもそもお前の『異能』が反則染みてるだろうが、とは村田は言わない。
しかし諸星は満足していないのか、なにやら首を傾げている。
「う~む……! やっぱ模擬剣でやらないか! そこの化物は抜きにしても、それならもう何合かやりあえるだろ!」
「いやだ……そもそも次は山名じゃないんか……」
そう言って山名の方を見る村田だが、山名は顎に手を当てて見ながら反応しない。
どころか。
「………あ~。じゃあ諸星は部長で、村田は望月……いや――」
などと、勝手に戦略を練っているのであった。
■
余談:『冬の狙撃手』対『洛陽の妖刀』
向かい合う山名と村田。
一応は改めて構え直した『ムラマサ』と、山名は『ハントレス』の鉈を持っている。
「じゃあ、まあやるか」
「マジでやるんかい……」
山名もまた、村田が苦手とするタイプだ。
なにしろ基礎魔力量はお互いに平均的。
加えて、山名は複数の『狩る手段』を持っている――つまり刀一本で向かいあうには少々苦戦する。
とはいえ山名は後衛、狙撃手。この間合い、この射程で、尚且つ『狩人道具』も予め設置出来ないとなれば、山名もまた惜敗程度に収まる。
なので、一応、村田は聞いてみることにする。
「お前さぁ……無理すんなよ? 秋原って第一試合だろ?」
「いやなんだ……情報だけ貰って帰っても、ほら」
変なところで誠実さを見せる山名に、村田はため息を吐く。
しかし、山名もその辺りは分かっているのか、軽く鉈を振ってから答える。
「まあ、私も明日に支障をきたすほど動く気はない。……そもそも、お前相手にこの間合いでは勝てんし、問題無いよ」
「問題あるよ。秋原に染まんな山名」
そもそもコイツの本領は狙撃戦だ。前衛でやりあう姿を見せたところでネタはでないし、むしろ村田ばかりが実力を見せる羽目になる。
やはりこの狙撃手、本編では相対的常識人だが、奇策闇討ち気まぐれ上等の秋原の人間である。
だというのに。
「……それに、馬鹿二人が満足せん。多少の殺陣は見せないと無理だ」
妙なところで秋原の狙撃手は、一言で確信を穿つのである。
「そうなんだよなぁ~……」
すでに横で待っている『
もはやウキウキで二人の戦いをみまもる阿呆二人は、なんかポップコーンとコーラまで持ち出している。
せめてこいつらを満足させる程度には無駄試合をしなければならない。
「じゃあ行くぞ、山名」
「あいよ」
山名は軽い返答と共に、鉈を構え――と同時に、いきなり投げつけた。
「――っ!」
急に首元に向けて飛んできた鉈を『ムラマサ』で弾く村田。
それと同時に、山名は背後へと駆ける。
あっという間に狙撃の距離へ。それが出来るのが山名二年生。
「マジでお前……!」
しかし、それを即座に追いかけることが出来るのも村田。
無論、道中には山名の『ハントレス』による罠があるが、それらはどこぞの馬鹿とは違い、しっかりと知識、および経験則で凡そ回避できる。
闇夜に紛れる迷彩も、『妖刀』は断じて逃さない。
よって――
「はい、降参」
などと言いながらも、首元に当てられる切っ先を素手で掴んで無理矢理横に逸らす山名。
「そういうところマジで秋原だなぁ!」
などと叫びながら、村田は即座に刀から手を離して、そのまま山名の首を掴んだ。
そうすると、今度こそ本当に山名ははぁっと息を吐いて。
「――はい。今度こそ本当に降参」
そう言いながら、村田から奪った『ムラマサ』をぽいっと投げ捨てて両手を上げた。
村田も、それ以上の深追いはしない――つもりだったが何かこいつは一発殴りたい気持ちになったので、ひとまずみぞおちを殴っておいた。
「いてっ」
「いてじゃねぇよ。なんなんだよお前のその耐久力……」
「まあ、狙撃手だからな」
などと言いながら胸元を擦る山名。
そこからは、ぽろぽろと鉄板が堕ちてくる。どうやら急所付近への攻撃は計算づくらしい。
であれば、秋原と当たる時は色々考えないとなぁ。などと村田が考えていると――
「んじゃ、次は私かな」
と、現二年生の至高であり剣鬼である、『鶴久の絶剣』こと武光奏が出てくる。
そういえばコイツ、今日はマジ見学で動いてねえな……。などと村田が思っていると――
「村田、やろうぜ~」
「いやだよ、帰るよ」
なぜか、村田指名であるが、即決で返答する。
「なんでだよ。私にもやらせろよ!」
「なんで三連戦させんだよぉ~……! せめて山名にやらせろ――いねえし」
必要とするだけの情報を奪い、とっくに逃げ帰っている秋原の狙撃手。
残るのは剣士が二人に剣鬼が一匹。
そしてその剣鬼は、
「さ、やろうぜ村田!」
などと、既に剣を持っている。
どうやら村田の二連戦がこの剣鬼の血を滾らせてしまったらしい。
「やだよぉ……」
だが、少なくとも、今の村田ではこの二年最強の『
せめて最終試合である、『白夜の綺羅星』の方とやってくれ、と願う村田であった。
■
余談:『洛陽の妖刀』と『次代の聖剣』
二回戦後の夜中に練習場に呼び出しを喰らった、洛陽の村田知子二年生。
お相手は『白夜の聖剣』逸見明音当人である。
隣には見知らぬ一年生が一人いる。
色々と聞きたいことはあるが、まずは一言。
「バリエーション増やせよ……」
本気でイヤそうにボヤく村田に、逸見は苦笑しつつ隣の寄藤環一年生を前に出す。
「すまないね。少し相手をしてやってほしいんだが……私では上手く教えられなくて」
「というか加減ができなくて」と、現在無敗の最高峰、逸見は言う。
「さすがにそこまで言われるとマジで困るんですけど」
「『白夜の聖剣』として頼むよ」
「それはずるくないですか?」
「うん……まあ、そうだな」
申し訳ないと頭を抱えている逸見。
これ以上寝不足になりたくない村田は端的に問う。
「面倒なのでハッキリ言ってください」
「では『抜剣。エクスカリバー』、『召集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
「早」
何で? と言いかけてやめた。
「まあ詠唱破棄だが……とりあえず寄藤、『君は今からガウェインだ』だから『ガラティン』を」
「あーね……」
だいたい分かった。たしかに円卓同士だと魔力共有するんで試合にならん。
しかし『白夜の聖剣』の『加護』なんぞ、どうせ村田では軽く払える程度でしかないが……。
「わかりました。一回で終わらせます」
眠いからと言って、村田は試合用の模擬剣を構える。
「――『抜刀。ムラマサ』」
ムラマサに詠唱は無い。
対象に応じて、自動的に魔力を得られるのだから自力を上げる詠唱は不要なのだ。まあ刃は鋭いがこれと言った能力はない。
そんなわけで刀を抜いた村田だが、寄藤と呼ばれた少女は逸見から離れずこちらを睨む。
なんだか、狼みたいだなとふと思う。
「ほら、お相手してくれるんだ。やりなさい、寄藤」
「………逸見先輩が言うなら」
明らかに不機嫌、と言った感じで、彼女は模擬剣を腰に抱え。
「――『我が理想、憧憬の煌めきよ。この身を貴女に捧げよう』」
目を焼くような、眩しい光。その光は、聖剣とほとんど同じもの。
「『円卓の者よ聴け。王は自分《わたし》を選ばれた』」
それが、それこそが己だと誇示するかのように。
寄藤環は、その剣を抜く。
「――『抜剣。ガラティン』」
「うわまぶしっ」
名前こそ合流した輝剣と同じものだが、存在強度が圧倒的に上がっている。
与えられた『加護』に収まらず、その『加護』を自分の『異能』としたのだ。
それに加えて、逸見の背中に浮かぶ十二の輝剣の何本かが、寄藤の元へ向かう。
困った。
自分の魔力量は寄藤相当分まで引き上げられるが、能力的にはこちらは刀一本でこのガキを倒さねばならぬ。
「……で、このガキどうしたらいいんすか?」
寄藤ではなく逸見に聞く。逸見は、「ううん」と頭を悩ませていた。
この先輩も困ることがあるのか?
そう思っていると、不意に寄藤の姿が消えた。
「おっと」
ひょいっと斬撃を避ける村田。
その間を詰めるように、寄藤は輝剣を次から次へと放ちながら。攻め込んでくる。
「はいはい……これに『輝剣』までついてくるなら面倒だ」
凶狼が、さらに『輝剣の加護』も同時に襲ってくる。
十分に脅威ではあるが、寄藤当人は不満気だ。
「お前、アレだぞ。十分、下地は出来てんだから『加護』とか気にせんでいいぞ」
「あと試合開始前に殺しに来るな」とマジで言いつつ、逸見の方を再度見る。
「うん。じゃあ、試合開始」
「――『殺す』!!」
複数の輝剣と共に、一気に攻め込んでくる寄藤。
なるほど、この攻め方は面白い。本来生まれる隙が、周囲を浮かぶ輝剣で防がれている。
――だが。
「よっと」
ムラマサでガラティンを薙ぎつつ、残りの輝剣は「だいたいこの辺」で避けて。
「――『殺す』!」
まだ襲いかかってくる牙は、片手に持ち替えた刀で受け止める。
ついでにそのまま――飛んでくる輝剣を握り取って。
「よいせ」
――その輝剣を、寄藤の首に置いた。
それだけで、寄藤環は無力化された。
目を白黒させている寄藤の眼前から剣を捨てる。
「はい、おしまい。……課題は先輩から……」
……いや、そもそも先輩が自分に頼った以上、自分が話すべきなのだろう。
仕方がない。面倒くさいと思いつつ、村田はまだ噛みつきそうな寄藤に面倒そうに目を向ける。
「お前はどうせ『聖剣《伝説》』の言うこと以外聞かんだろうが」
「……だからなによ」
「敬語使え敬語。じゃあこれは独り言。お前、基礎は出来てるけど、ちょっと荒れすぎ。殺意が前に溢れすぎ」
別に殺意自体は悪くはないが、それが読めすぎだ。
ここに隙ができる。故にここに『輝剣』を埋める。
そういう『当然』が飛んでくるのだから『当然回避できる』。
「つまり、無闇に『加護』だの『輝剣』だの打ち込んでも見るまでもなく払える。小手先以下の『輝剣』なんざ、私だって奪える」
まあ、払っているのは二年生上位陣なのだが。
「でも、逸見先輩は……!」
「いやこの先輩は大分いやらしい使い方してくるよ」
「失礼だな。正しく勝負をしてるだけだよ」
「正しくフェイントも入れてくるでしょうがあんた。……ともかく、まず前のめりの姿勢をやめろ。いや、気構えはいいが、相手に悟らせんな。動きが凶暴過ぎる。狂狼というか、荒々し過ぎる。それでくるなら軽いフェイントを入れるだけで十分」
要するに『型の動き』と『実戦』の動き、両方できてはいるが、変に捻れてる、と『妖刀』は語る。
「あとはシンプルに荒い。何に焦ってんのか知らんが、ぶつける先を見失うな。ここまでっつったらここまでだ」
「…………ちっ」
分かっているのか、分かっていないのかも分からん舌打ちが聞こえる。
それに答えたムラマサは、はあっと息を吐いてから逸見を見た。
「これでいいですか」
「ありがとう。こちらも助かるよ……」
「私が教えて意味があったかは知りませんがねぇ……」
他校の生徒に教える分には、この程度で十分。というか無敗の白夜に教えてどうするねんと思う村田。
「君は本当に良い奴だな。このあと私ともやる?」
「イヤです面倒臭い……ていうかそもそも先輩も明日試合でしょうか……」
『白夜の聖剣』だって、今日の試合で戦ったばっかりだ。
そうでなくとも常勝不敗の輩に気軽に喧嘩を売られても困る。
「でも、本当に助かった。君はうちのヒーローだよ、」
「やめてくだせぇ~……」
頼むから今日は、これ以上面倒事がやって来ないことを祈りながら、村田は帰路につくのだった。