わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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後日談:『宝徳の名弓』須藤千代・対・他二年生ズ

 わたしの名前は佐守あお。

 広島県私立秋原女学園に通う十五歳で、『国異』の選抜メンバーで、今年、決勝戦の最後の一撃を決めちゃった者。

 そしてまた、うちの試合場に他の学園の人達がなぜか集まってきた頃……。

 

◇『宝徳の名弓』対『白夜の綺羅星』

 

 私立秋原の試合場にてなんでか……。

 

「や。ほぼはじめましてだな、須藤さん! 私は白夜の諸星! 現部長だ!」

 

 『白夜の綺羅星』こと諸星さん……。

 その手にはもう完全詠唱『ジュワユース』。

 

「おおっ、眩しい上に礼節もある! ならば我も名乗ろう! 宝徳現部長、須藤千与だ!」

 

 と、軽快に笑うのは、わたし達が三回戦で戦った、そして山名部長の幼馴染みでもある『宝徳の名弓』――須藤千与さん。『異能』は『扇的当』――いわゆる『与一の弓』。

 

 山名部長とは因縁というか、幼馴染というか。

 そして去年までは弓道部だったけど、今年に入っていきなり弱小校だった宝徳の競異部を簒奪、部も再編した。

 

 その理由が、『山名部長の弓をまた見たいから』とか言う凄い人……。

 

 ただ、だから二年生だけど『国異』参戦は今年から。なので、他の二年生の人たちとはほとんど初対面になるけど……。

 

「馴染んでるなぁ……」

 

「う、うちの先輩が凄いだけで……」

 

 返事が返ってくるとは思わなかった。

 ……いつかの三回戦を思い出して見ると、宝徳の『ロビン・フッド』の異能を持つ一年生、六条霞さんがいた……。

 

 えっと……。

 

「……ごめんなさい」

 

「あ、いえ……わたしもあの時……やる気無かったのは、確かなので……」

 

「そっか……」

 

 ……改めて『斬る』か?

 いやまて佐守あお……クサナギをそんな私怨で使うな……。

 

 まあいいや。とりあえず今はあの二人が戦うらしい。

 戸枝さんや望月さんとは居場所が離れてしまったので、宝徳の六条さんと、秋原のわたしで、『宝徳の名弓』VS『白夜の綺羅星』を見守る、とかいう意味わからん構図になっている。

 

 ……でも、待てよ?

 『ジュワユース』はシャルルマーニュ十二勇士の力を次々と入れ替えるあれも反則みたいな『異能』だけど。

 

 須藤さんの『扇的当』は弓だ……しかも『仲間の異能と魔力を束ねて撃つ』とかいう弓だ。

 

 三回戦では山名部長とやり合ったけど、完全に後衛。

 この距離からヨーイドンでは負けるのでは?

 

「よし山名! 試合開始の合図をしてくれ!」

 

「はいよー。試合開始」

 

「――『離れ。扇的当』」

 

 ――!?

 

 一瞬で弓構えして早撃ちした……?

 しかもちゃんも動きが綺麗……!

 

「ははっ効かんな!」

 

 そう言って一撃を弾く諸星さん、それに須藤さんは後方に飛びながら。

 

「うむ、これは弾かれるだろうとも。ならば――!」

 

 今度は十本ぐらい、一気に手に取って――

 

「――『離れ。扇的当』」

 

 凄いつるべ打ち……! たしか『扇的当』に命中補正はないって聞いてたのに……!

 

 とは言え相手は白夜の部長。

 

「『ローラン』!」

 

 不屈の刃、デュランダルと同じ色にして全部弾き飛ばす。

 

「ははっ! 流石は『白夜の綺羅星』! よい! 上に礼節もある!」

 

「お前こそ、未だになお『弓道家』か! それはとても『格好いい』なぁ!」

 

 やってることは地味といえば地味。剣士である諸星さんが弓士である須藤さんを追いかけてるだけ。

 でも須藤さんの撃ち方はどんな状況と距離でも美しく、そしてそれを諸星さんは『格好よく』躱す。

 

 しかし須藤さんはそれでも止まらず。

 どころか近接戦でもちゃんと弓と矢を素手で持って『ジュワユース』を払っている……。

 

 いや、この人、後衛担当みたいな顔して普通に戦闘家では……?

 

「とはいえ、このままでは決まらんな!」

 

「うむ、トンチキ騒ぎは好きだが、疲れ切るのは違うな!」

 

「よし、ここは『格好良く』決めさせてもらうぞ!」

 

 そう言ってジュワユースを『ローラン』に変え、不屈の刃で須藤さんを弾き飛ばす諸星さん。

 

 ――距離が空いた。

 弓兵の得意な距離――だが。

 

「『リナルド』! お前の馬の脚を借りるぞ!」

 

 急に諸星さんの足が速くなった……!?

 そのまま一気に須藤さんに迫る――

 

 

「――『離れ。以て八節、扇的当』」

 

 

 ――綺麗な。

 

 射法八節? ってやつをきちんと守った、美しい弓矢が諸星さんを撃ち抜いた。

 

 詠唱破棄だから、脱落ブザーがなるほどではないけど……。

 

「おうっ……」

 

「ふう……残心っと」

 

 あの白夜の部長を、真正面から撃ち抜いた……。

 

「あー、千与の弓は、射法八節守るほど威力上がるんだ。とは言え今回は詠唱破棄だから、まああんなもんだろ」

 

 などと、隣で山名部長が言っている。

 とか言いつつもわたしの隣、六条さんの方を見る。

 

「あー……三回戦はすまんかったな。うちの管理責任だ」

 

 なんて……まだ山名先輩は部長じゃなかったのに……。

 とか思ってたら、件の須藤さんがこちらを向く。

 

「おーい! 有為もやらんのか! 我は有為がいるから来たんだぞ!」

 

「いや、お前は馬鹿どもともっと遊んどけ。どうせこっちに来たんなら挨拶込みでそれが正しいだろう」

 

「ふむ。確かに挨拶せんのは礼節に劣るな……よし! 次の相手は誰だ!」

 

 と、須藤さんは普通に次の相手を探している。

 

「やっぱり支援札でもある程度近接戦必要か……うーん」

 

 なんて、山名部長はまだ悩んでいた。

 

◇『宝徳の名弓』対『洛陽の妖刀』

 

そんな感じでボケーっと見てたら『洛陽の妖刀』こと村田さんが前に出されていた……。

 いや、今はもう洛陽の部長の村田さんは、

 

「バカに挟むな……あともう呼ぶなよ……」

 

 などと、大変不服そうだった。

 

「だが、村田さんともやりたいぞ我は」

 

「うんやっぱお前こっち側だよ」

 

 などと言いつつ、村田さんは模擬剣を構える。

 

「――『抜刀。ムラマサ』」

 

 ムラマサに詠唱はない……らしい。

 その能力は『土地から魔力量を吸い上げて、相手と同じくらいにならす』とか言う『異能』。

 もちろんそれに応じて刃の鋭さは増すけど、実力は自前って聞いた。

 

「……で、私はそこの光馬鹿みたいな多彩さはない。どうせならちゃんと距離とってやれ」

 

 などと、非常に矛盾したことを言う村田さん……。

 多彩な能力でないなら、尚更この距離から始めるべきでは……?

 

「他校のガキがなんかワイワイ言っとるが、試合で常に自分有利な条件ってわけでもなかろうよ」

 

「ふむ……やる気のない相手を打つのは礼節に悖るが……しかしその目はそうではないな!」

 

「んなこたない。サクッと倒して寝る」

 

「よいとも! ならば我もさっさと行くぞー!」

 

 そんなわけで遠間に移動した須藤さん。

 この距離からでも、その構えは美しい。

 

「じゃ、試合開始ー!」

 

「よっ……」

 

 当然距離を詰めに行く村田さん。

 

 けれど須藤さんは、『その場を動かぬまま』。

 

「――『南無八幡大菩薩、願はくは、あの扇の真中射させて賜ばせたまえ』」

 

 歌い上げるは過去の弓兵。日本人なら誰もが知るであろう、かの英傑。

 

「『これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に再び面を向かうべからず』」

 

「――はっ」

 

 村田さんの姿はもう目の前。にもかかわらず、その構えは一切崩れず――

 

「――『離れ。以て八節、扇的当』」

 

 距離はほば眼前。その上でなおかつ放たれた強弓の一撃を、村田さんは――

 

「まあ受けると無理だ」

 

 ――とか、なんか凄い軽い言葉で、鎬を使って払い落とした!?

 

「よっ」

 

「お」

 

 その後、須藤さんは軽く弓矢で近接戦しようとしたが、それもムラマサに切り捨てられる。

 そして、首元にムラマサ。

 

「はいおしまい……お前、あそこから動けるのやばいな」

 

「うむ、仕舞だな! これ以上は礼節を損なう」

 なんか……なんか凄い戦いだった気はするけど。

 何……? 言語化出来ない……?

 

「やはり支援役にもある程度の近接戦力は……いやもう望月に護衛させとくか……?」

 

 とかなんかブツブツ言ってる部長なのだった。

 

 

◇『鶴久の絶剣』対『宝徳の名弓』

 

「よし、じゃあ私やね」

 

 などと気軽に出てくる『鶴久の絶剣』こと剣鬼・武光奏さん。

 

 なんか知らん間にちゃっかり完全詠唱『デュランダル』まで抜いている。

 

「ふむ! 現二年生の至高とやら、外様だった我も試したい!」

 

 「なんならば、ここにてその名を奪ってやる」ぐらいの闘志をしっかり持っている須藤さん。

 やっぱりあの人結構戦闘狂だよ……。

 

「どうする? 距離空ける?」

 

「うむ。流石にその方が助かる」

 

 そんなわけでそれぞれ試合場の端と端へ。

 

「試合開始ー!」

 

「はいよー! では『鶴久の絶剣』いざ参る」

 

 などと言って即座に視界から消える武光さん。

 それだけでも私はアワアワするんだけど。

 

「なるほど面白い。では『離れ。扇的当』」

 

 今度は片手に何本もの矢を持ちながら次から次に撃ち抜いていく須藤さん。

 それでも構えは美しいのが凄い……。

 いや、でも適当打ちでは……。

 

「おっと!」

 

 ガキンって音と武光さんの声がした。

 その方向を見るが、もう居ない。

 

 ……?

 

「我を狙うなら『だいたいこの辺』の位置に先に打った。しかし止められんか! なるほど剣鬼だな!」

 

 なんか当たり前に凄いことを言っている……。

 ていうかこの攻防自体がおかしいとわたしや一年生は思ってるのに二年生の人達は普通に見ている……。

 

「ふうむこまった『離れ。扇的当』。これでは我が先に尽きる『離れ。扇的当』。どうしたものか『離れ。扇的当』」

 

「私も斬れないのはつまらんぞー!」

 

「はは! 飛んでくる矢を斬り捨てる化け物に言われたくないぞ! しかし困った。与一の弓に化生討伐の逸話はない……『離れ。扇的当』」

 

 チームなら、味方に目が向いているうちに撃ち抜けばいい……というか、うちはそうしたし……。

 でもこの状況で須藤さんに勝ちの目はあるのだろうか……?

 

「――致し方あるまい! しかし我は『弓道家』故にな!」

 

 などと言いながら足を止める須藤さん。

 

「――『南無八幡大菩薩、願はくは、あの扇の真中射させて賜ばせたまえ』」

 

 そしてまた本気の詠唱を射法八節を守りながら謳う。

 

「『これを射損ずるものならば、弓切り折り自害して、人に再び面を向かうべからず』」

 

「――よっ」

 

 そこに、ぬるりと下からの高速で飛んでくる武光さん。

 『デュランダル』でぶった斬られるが、それでも須藤さんの構えは美しいまま変わらず……。

 

「――『離れ。以て八節、扇的当』」

 

 今度こそ本気の強弓が武光さんを撃ち抜――

 

「うわぁっ!?」

 

 そう言って『デュランダル』で反射的に矢を斬り捨てる武光さん。

 

 ……あの状況から斬り捨てるってなんだ?

 今ほぼ目の前で撃たれてたよ?

 

 しかもまだ武光さんは驚いたまんまだし……。

 

「うーむ……これは我の負けか。見事、『鶴久の絶剣』! 二年最強、確かにこの身に刻んだ!」

 

 と、やはり礼節を大事にしている須藤さん。

 ……しかし、元々須藤さんの『異能』は『仲間の異能も束ねて撃てる』というのもあったはず。

 

 ……そっちをほとんど使わず個人でコレって、凄い……。

 

◇『秋原の神剣』と『宝徳の名弓』

 

「有為はやらんのか!」

 

「やらん。だがうちのを私の矢にするか……ほな佐守、行ってきな」

 

「え」

 

 いきなり言われて、ちょっと困る……。

 

「いい。ちょうど遠間の相手だ」

 

 などと言われるので、わたしも色々因果は抜きにして立った。

 

「ふむ。餓鬼ではなくなったか」

 

「……どうでしょう」

 

 とりあえず軽い挨拶だけして、それぞれ遠間に離れる。

 この距離ならクサナギを撃てば――

 

「試合開始」

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 視界範囲内距離無視不条理切断を一気に撃ち落とす。

 けれど――

 

「よっと」

 

 とか言う軽いノリで避けられた……!

 

「狙いが甘いな。『離れ。以て八節、扇的当』」

 

 とか言って飛んでくる強弓をなんとか避け――

 

「『離れ。扇的当』」

 

「あいたっ!?」

 

 次の一射に、普通に撃ち抜かれた……。

 

「やっぱりなぁ……佐守には狙撃も覚えさせたいなぁ」

 

 ……とか、普通に山名部長は呟いていた。

 

◇『冬の狙撃手』と『宝徳の狩人』

 

「ところで有為、うちの六条を見てくれんか?」

 

 などと須藤さんが言う。

 

「あ? 弓ならお前の分野だろ」

 

 と、普通に山名部長は返す……。

 

「いや、六条の『異能』は『ロビン・フッド』……つまり『狩人』だ。お前が一番適任だ」

 

 「逆に我は弓道家なので教えられん」などと持っていた。

 

「ふーむ……遮蔽もないけどなぁ……」

 

 別段、うちの練習試合場でも異能機械でフィールドは再現できる。

 出来るが、まあコストが重い。学校からの必要許可がいる。

 多分この集いにそういうのはないと思う……。

 

「まあいいか……んじゃ、来いよ」

 

 などと言いながら、詠唱破棄して『ハントレス』を抜く山名部長。

 

 一方の六条さんは……。

 

「――『わたしは姿無き者。法なき森にて穿つ者』」

 

 詠唱だ。ちゃんと完全詠唱。

 

「『富める者からは奪い、持たざる者へ与える者。わたしこそ森の番人なり』」

 

 を、ちゃんと待ってる山名先輩……。

 

「――『無私。ロビン・フッド』」

 

 詠唱完了と同時に、六条さんの姿が消えた。

 

 不可視のまま弓矢で穿つ。

 それが彼女の『異能』――

 

「よっ」

 

 ――って、飛んできた矢を鉈で落とす山名部長。

 

「狙いはいいなー」

 

 なんて言いながら、不可視の矢を全部弾き落としてる……!

 

「な、なんで……! ちゃんと狙ってるのに……!」

 

「ああ。ちゃんと狙われてるから分かる」

 

 とかしれっと言いつつ、山名部長は移動した。

 

「まあ他校の一年に教えるほどでもないが……」

 

 なんて言いながら、急に飛び退く山名部長。

 

 次の瞬間、ガシャンという音がした。

 山名部長のトラップだ。

 

「ほい」

 

 そこに飛び込み鉈を突きつける山名部長。

 不可視だった六条さんの姿が戻る。

 

 ……なんかちょっと泣きそうになってた。

 

「まあ……ここまでだ。不可視は面白いが、頼りすぎだ。ちゃんと狙うだろうから、ちゃんと防げる。私がこう動けば、お前はそこを踏む。全部分かる。以上」

 

 そう言って山名部長は『異能』を閉じた……。

 

「あとは千与、お前が教えろ……」

 

「むう、しかしお前がほぼ言ってないか?」

 

「噛み砕け。後実戦。以上」

 

 そんな適当なことを言って、山名部長は試合用の模擬剣を置くと。

 

「……『鶴久の絶剣』とでも当たらせればもう少し分かりやすいぞ?」

 

 とか、恐ろしいことをぼやいていた……。

 

◇

 

「まあとりあえず欲しい一枠は見えてきたな……火力はもういらんし」

 

「うむ、我も二年生の方々と挨拶ができて嬉しかったぞ」

 

 凄い、須藤さん。あの戦いをただの「挨拶」で済ませてる……。

 一方の山名部長はまだ頭を抱えていて……。

 

「そら良かった……あとは秋原内で狩るかーー! はあ!!」

 ……とか言っている間に、もう他の二年生の方々はなんか勝手にマッチアップを組み始めていた。

 一年生も巻き込んで……。

 

 あれ……わたしの日常は……?

 

 

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