わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
『国異』終了後。
ある日、ある時の秋原の練習場で――
「よし佐守、戸枝とやっとけ」
などと、また山名部長が雑マッチングを組んだ……。
「マジで言ってます?」
「うん。性能把握はしておきたい――それに」
と、山名部長は言葉を切って――
「佐守、お前の初勝利は、戸枝だったろ」
――その、本当に『最初の因縁』を、ここで持ってくる。
「あと、戸枝。お前の初敗北も佐守だったろ」
「…………まあ」
あの日――多分、わたしの『運命』が動き出した日。
わたしが最初に戦ったのは、戸枝小春。一年最強の規格外。
わたしが最初に倒したのも、戸枝小春。『白夜の聖剣』と同等と言われた『噂の一年生』。
……わたしを、『最初に見てくれた』のも、戸枝さん。
あの時は反則みたいだったわたしの力に、彼女の剣技は、彼女の自負は――彼女の矜持は、ちゃんと答えてくれた。
――その後はチームになったから、敵として戦うことはなかったけれど。
――――なんか。
……なんだろう。言葉には、出来ないけれど――
「………戸枝さん」
「はい」
「やりましょう」
「そうね……そう言えば、貴方には負けたままでした」
そう言って、戸枝さんは試合用の模擬剣を掲げた。
――今度は最初から、上段に。おまけに全身に炎を纏いながら、既に臨戦態勢。まだ『異能』は解放していないけれど、ただそこに込められた魔力だけで、わたしに向けられる想いが分かる。
……だから、一応聞いてみる。
「――『異能』、使わないんですか?」
「使いますよ。貴方に余波で十分なわけがないでしょう?」
「確かに」
思わず笑ってしまいながら、わたしも試合用の模擬剣を構える。
今度は、以前の素人振りじゃない。
ちゃんと正眼――『大蛇さん』と、『白夜の聖剣』と――
何より『秋原の熱剣』戸枝小春本人、そして、秋原のみんなから教わった技で……。
あの時は……ちっとも“勝負”にはならなかったけれど――
「――『秋原の神剣』、佐守あお。行きます」
「――『秋原の熱剣』、戸枝小春。“勝負”をしましょう」
「――はぁっ!!」
――もはや試合開始の合図を待つことなく、わたしは一気に駆け出した。
「――“払え”!」
戸枝さんが全身に纏う炎を払い飛ばして、そのまま鍔迫り合いに持ち込む――!
更にそこから無理矢理の魔力放出で間合いを奪おうとそうするが、戸枝さんは『そんな力比べには付き合わない』。
ちゃんと鎬で横に流しつつ、自分は転がりながら距離を取って熱剣を構え直していた。
「――さすが……っ!」
「貴方こそ、前より性格が悪くなっていませんか?」
「はは――確かに!」
そう答えつつも、こちらも模擬剣を構え直す。
――やっぱり戸枝さんは強い。距離を取っても向こうは炎の延長――おまけに炎の檻、更には一キロを焼く『終わりの炎』がある。
そして純剣術でも十分強い。『一年最強』は伊達じゃない。
――だけど、だから勝ちを譲るのは癪に触る!
「炎よ――!」
ぶんと雑に振るわれる横薙ぎでも、一気に燃え広がる戸枝さんの炎。
「――“阻め”!」
だから、魔力を込めた模擬剣を、地面に一気に叩きつける。
土中で爆発した魔力によって土が舞い上がり、炎を止める――!
さらにそこから――!
「――"浸せ"!」
土と炎を全部無視して、真っ直ぐに戸枝さんに向けて、一気に突き穿つ――!
「はぁっ……!」
それを、戸枝さんは当たり前に模擬剣で防いできた。
やっぱり剣士としての技量が全然違う。格が違う。矜持が違う。背負ってきた自信が違う……!
「さあ、ぼうっとしていたら、焼き尽くしますよ!」
そう言って、再び熱剣を振るう戸枝さん。
この斬撃は避けられない――わたしには、彼女の剣を止める術がない――!
ならば……!
「はは……! なら、"交じれ"!」
――その炎の制御権を、無理矢理にでも奪い取る!
「っ……は! 『炎』で、私が止められるとでも……!」
「思いませんよ……だから、"打て"!」
上段からの打ち込み――準決勝の時は水野元部長の雷だったけど、今度は、今度こそは――『戸枝さんの炎』が混ざる。まさに戸枝さんの『レーヴァティン』の如く!
そこにわたしの魔力も混ぜて、ただ純粋に『広範囲を焼き尽くす炎』を叩き込む……!
「ははっ……!」
戸枝さんは笑いながら空へ翔んだ。あの決勝戦で見せた炎による慣性制御で、もはや戸枝さんは自由に跳べるようになったのだろう。
「あはは……!」
――ならば、こちらも地面に固執する必要は無いなと、両足に魔力を込めて跳びあがる。
決勝戦の、『海神の槍』と『白夜の聖剣』の空中戦の如く、互いに互いを足場に蹴り飛ばしながら剣を振るう……!
「相変わらず戦法も滅茶苦茶ですわね、貴方も……!」
――そう言う戸枝さんは笑っていた。笑いながらも、しかしその剣術はとても『正しい』。
こちらの強引な剣戟なんて軽く躱しながらも、しっかりと返す刃で首を狙ってくる姿に、思わず感動してしまう。
「あはは……! でも、やっぱり、わたしはそんな戸枝さんが好きですよ!!」
「ええ、私も、貴方の事が好きですよ!」
力任せの剣を華麗に避けながら、それでも反撃に乗じる戸枝さんの姿は、やはり美しい。
本当に――この『国異』で、色んな『異能』や『剣士』を見てきたけれど――
――それでも、わたしにとっての『誇りの炎』は、戸枝さんだ。
だから、その誇りに答えるように、その想いごと――今出せるありったけの魔力を込めて力任せに剣を振り下ろす――!
「はは……!」
「ふ」
――膂力も魔力もまだまだ残っている。これならいつまででも――それこそ『世界の終わり』まで、戸枝さんと剣を振れる。
……だけど、そんなことは不可能だ。だって『もう地面が近い』。
このまま落下すれば両方脱落。決着は引き分けになる。
ならばと、戸枝さんを蹴り飛ばしながら距離を取りつつ空中で――
「――『斐川の化身に、手向けよう』」
あの日はなかった、彼の悪蛇に対する鎮魂歌。
この戦いでわたしが得た、その全てを剣に乗せて歌う。
対する戸枝さんも落下しながら剣を上段に構え直す。
戸枝小春の『異能』は、よく知っている。
だから、『ここなら』ぜったい届くと信じている。多分ではなく、絶対に!
その信頼に応えるかの如く、熱剣の切っ先が燃え上がる。
束ねられた魔力の光は、もはや太陽を超えて『世界の終わり』そのものだ。
「――『世界よ、終われ。私と共に、私以外の全てを焦せ』」
最初からずっと聴いていた、彼女の矜持。彼女の誇りが白熱する。
ああ、やっぱり綺麗だなぁ――なんて思いながらも。
「『わたしは、彼の尾より生まれた『出雲国の剣』、だから』――」
わたしの名前を謳う詠唱――あの日は答えられなかった答えを、戸枝さんに向ける。
けれども相手は、戸枝小春は。『秋原の熱剣』は。
――『誇りの焔』、「わたしのヒーロー」は、断じてこの程度で砕けないと信じている。
――ずっとずっと、信じている。これまでも、これからも……!
「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き焦がし、私だけの春よ来い』」
輝くは『世界の終わり』。戸枝小春という名の『主役の光』。
この世の全てを終わらせる『わたしの友だち』に、わたしは『わたしの名前』を答える――!
「――『抜刀。クサナギ』」
「――『抜剣。レーヴァティン』」
振り下ろされる『世界の終わり』。運命の死、万象を終わらせるその一撃を、『視界範囲内の剣軌道上を道理を無視して切断する』神威の太刀で斬り捨てる――!
それでも、同じく『世界を焼く終わりの炎』で『神威の剣』も強制的に『終らされた』。
――それでもまだ、墜落までには時間がある。
そして、戸枝さんは剣を構えて、わたしが落ちてくるのを待っている。
この体勢では防ぐも不可。空中なので避けるも不可。
ならば――
「"薙げ"――!」
――全力で、その剣を『横に薙ぐ』。
墜落まではもう刹那――その間に、戸枝さんの身体に剣を――!
「――そうでしょうね」
――『薙いだ』はずの戸枝さんの切っ先が、わたしのみぞおちに。
一閃。正しく『薙いだ』と思った剣は、戸枝さんに『薙ぎ返されて』いてーー
ちゃんと振るうわたしの剣よりも、さらに正確な一撃が、力強く胸元を穿つ。
「え……?」
「――――私だって、ずっと、貴方を隣で見てきたんですよ?」
くすりと小さく笑いながら……剣呑で仰々しい『異能』同士のぶつかり合いに比べたら、それこそ、ただ『純粋な剣術』の範疇で、戸枝さんはわたしに切っ先を突き刺した――
それから、ほぼ同時――というかお互いに抱き合いながら、地面に落ちる。
「……痛い」
「そりゃ痛いでしょう。……まあ、あの時のお返しで?」
へっと笑う戸枝さんに、わたしは笑えない。
……だって、負けたもん。悔しいもん。
「……さすが、とか言いませんよ?」
「ええ。いつでもかかってきなさいな……。ただ、もう今日は――」
はあっとため息を吐きながら、戸枝さんは気絶した。
……なんだか、色々とあべこべだ。
勝者の戸枝さんが気絶してて、敗者のわたしだけがなんか悔しい思いを残している。
「……まあ、今日は、いいか」
とりあえず、胸元に刺さった剣はそのまま、仰向けに倒れて息を吐く。
……あくまで今日は、今日は戸枝さんの勝ちでいい。
だって、わたし達にはまだ三年ある……。
……あるん、だから――
「……絶対に、届きます、から」
……そこまで言ったところで、わたしも限界だった。
視界の端には、気絶して瞳を閉じたままの戸枝さんが倒れている。
――ああ、やっぱり、綺麗だなぁって。
……なんか、口には出せなかったけど。
そう思いながら――わたしの視界は暗転したのだった。