わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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後日談:『他の一年生ズのマジカルチャンバラ集」

 わたしの名前は佐守あお。私立秋原の高校一年生にして、十五歳にして今年の『国異』の最後を決めちゃったもの。

 『異能』は『クサナギ』。『視界範囲内の剣の軌道上を、道理を無視して切断する』――とか書くと聞こえはいいけど、要するに『馬鹿強い剣の間合いが視界範囲まで伸びるだけ、何なら、普通の剣の間合いで戦えば異様に鋭い剣にしかならない』――などと散々教えられたので、今はひたすら基礎訓練中。

 

 とはいえ、与えられたのが『秋原の神剣』とかいう大変素敵な異名を与えられた。

 『秋原の神剣』呼びも嬉しいけれど、個人的には『熱剣の影』を名乗る方が好き。

 

 とはいえ……その結果として私立秋原は、他の部員たちが全員辞めてしまい、現状、大変な人手不足である。

 他の部員たちがみんな一斉にやめてしまったからだ。

 

 ――故に。

 私立秋原に何故か他の学園の方々が、何故か集まっていた。

 

 どうも、山名部長は現状の戦力と足りない支援札を探しているようなのだが、そんなことはもはや無縁。

 

 ただのマジカルチャンバラである。

 

■

 

◇後日談:『秋原のジョーカー』対『絶剣の忠犬』

 

「せっかくなんでウチの里見とそこの吸血鬼もやってくれんか。連れてきた意味がない」

 

 などと言う謎の化物『鶴久の絶剣』さん。

 

「いや、お前が勝手に連れてきたんだろ」

 

 と、山名部長は当たり前のことを答えるが、何か考えることがあったのか……。

 

「ふーむ……そういや、そこの忠犬と望月はやってなかったな」

 

「マジで死にますよ」

 

 望月さんはもはや即答だった。

 だって相手は『ムラサメ』――化生殺しの太刀だ。

 つまり望月さんは普通に死ぬ。

 

「いや構わん。……それ込みでお前が今どこまでやれるか見たいから」

 

「雑に真剣勝負を振らないでくれます?」

 

 そう言いつつも望月さんも一応、触媒の懐中時計を取り出した。

 

「はあ――『ああ、寒い。雪と狼と夜が来る』」

 

 それはそれとして、ちゃんとやる気なのだろう。

 件の冒涜的な詠唱が始まる。

 

 

「『処女達(はなよめ)の血が無ければ、僕は魂まで凍えてしまう』」

 

 魔性で夜で何より『吸血鬼』……っぽいもの。

 それが望月さんの真骨頂だ。

 

 

「――『着憑。デア・ナハト』」

 

 詠唱を終えた瞬間、首元から影が伸びて漆黒のマントみたいになった。

 ……なにあれ、カッコよ。

 

「ああ。一応、カッコいいだけじゃないよ? というか全身ガードだよ」

 

 と、望月さんはこっち向いて言ってた。

 ついでに言うと今日は模擬剣らしい。例の『杭』は持ってない。

 

「真面目に打ち合うと死ぬからね……ああ、そっちも用意してー」

 

「ん……」

 

 そう言って里見さんも剣を構える。

 

「――『邪を退け、妖を治め』」

 

 件の宝刀――化生殺しの太刀を、腰に抑え――

 

 

「『抜けば玉散る氷の刃』――」

 

 試合用の模擬剣は、一本の美しい刀変化した。

 

 

「――『抜剣。ムラサメ』」

 

 その化生殺しの宝刀は、しかし、まだ鞘に収めている。

 何しろ、里見志乃さんは『ムラサメ』とかいう『異能』が真骨頂ではない。

 むしろ『鶴久の絶剣』直伝……っぽい『縮地』。

 さらに納刀したまま背中で刀の長さを隠すとかいう、割と実戦的な術使い。

 つまり『化生殺し』で『縮地』で跳んでくる『居合使い』……とか言う意味わからん存在が里見さん。

 

「ほな試合開始ー」

 

 という、山名部長の雑な合図とともに、里見さんは一歩で近づく。

 

「――『消す』」

 

「あっぶね……!」

 

 などと言いながらほぼ影に溶けつつ、初撃を避ける望月さん。

 しかし里見さんの恐ろしいところは、別に『居合縮地化生殺し』なんて一発屋で終わらないところだ。

 

「ほっ」

 

 さらに握り直した宝刀を足元の影に振り下ろす里見さん。

 即座に影を退いてまた人間形に戻る望月さん。

 

「ああ……えっと、どう言うかなぁ……!」

 

「――『消す』」

 

 そう言いながらもちゃんと、今度は普通の体術で里見さんの剣を避けてる望月さん。

 『異能』の性質上、まともに剣を振るう機会が少ないだけで、望月さんはちゃんと剣を納めている。

 

 実力的には戸枝さん未満、わたし以上くらいだ。

 ……比較対象が狂ってるからどの程度が分かりにくいけど。

 

 ともあれ、望月さんはちゃんと『里見さん』の剣を避けていた。

 件の『漆黒の杭』ではなくて、あえてただの『模擬剣』で刃を逸らしている。

 そしてひたすらに距離をとっている。

 まあ多分『ムラサメ』が一発でもまともに食らえば即死するだろうし……。

 

「ほっと」

 

 なんて言いながら鋭い剣を横に凪いでいる。

 わたしは間合いに狂わされて苦戦していたけど、少なくとも望月さんの表情はまだ余裕そうだ。

 

「ああ、いや余裕ないよ? 一撃まともに食らえば死ぬもん……しかも、まあ……なんか懐かしいな」

 

 などとよく分からんことを言うたかと思えば、望月さんはふっと一歩前に出た。

 あの『逃げ回ればだいたい負けない』望月さんが。

 

「じゃあ、こう言おうか」

 

 とか、なんか懐かしいことを言いつつ、抜かれる前の刀の柄を押さえ込みながら――

 

 

「『忠犬の割には、この程度? これじゃ『鶴久の絶剣』の名も汚れるね』?」

 

 とか、思いっきり地雷を踏み抜いた。

 

「――――『消す』」

 

 とんと、望月さんから距離を離す里見さん。

 さらにそこから、一気に『縮地』で詰め寄る。

 

「まあそうだ」

 

 とか望月さんは言いつつ、今度こそ影に溶けてその抜刀術を回避した。

 しかし相手は『絶剣の忠犬』――ただ『居合』が本領ではない。

 

 そのまま、刀を握り直し、下方の望月さんそのものとも言える影に差し落とす。

 

「――のを、待ってた」

 

 そう言う望月さんの影から急に『ただの模擬剣』が飛んでくる。

 

 『ムラサメ』は宝刀ではあるが、化生殺しではあるが、ただの剣にはただの刀。

 

「――――っ!」

 

 故、弾くしかない。

 その間に望月さんは、里見さんの後方に実体化して、後ろから抱きついた。

 

「んで、ほい」

 

 さらに剣を握る手首を持って、鞘も体で押さえつける。

 

「…………っ!」

 

 望月さんの影、というか身体にはドレイン効果がある。

 何か凄い魔力量とか、凄い耐久力とかがあれば話は別だけど、普通なら触れられてるだけで『色々』吸われていく。

 

「……あう」

 

 などと弱い言葉を発して、里見さんはそこに倒れた。

 そこで望月さんも『異能』を閉じて――それから大きくため息を吐いた。

 

「……はぁぁぁぁ。……ほんと、一手間違えたら死んでた」

 

 そう。結果は望月さんの優勢……。

 だったけど、『ムラサメ』一発で望月さんは即死なので、本当にこれしかなかったのだろう……。

 

 それにしても本当に逃げ足だけは早いな……などと思うわたしだった。

 

■

 

◇後日談:『秋原のジョーカー』対『秋原の神剣』

 

「よし、佐守もやらせるか」

 

「マジで言ってます?」

 

 などと言ってる山名部長に真顔で返す望月さん。

 それはもはやただの校内戦……では……。

 

「いやまあ、『クサナギ』はバカ強いが化生殺しではないし。お前も何とかやれるだろ」

 

「ああ……いやそらそうですけども」

 

 と、望月さんはなんかやる気がない。

 しかしわたしはやる気である。

 

 何しろなんだかんだ、わたしは望月さんにまともに勝った覚えもない。

 あと、二回戦で恥ずかしいこともさせられた私怨もある。

 

 ――なので。

 

「望月さん、やりましょう。今度こそ『斬り』ます」

 

「なんであおちゃんまでやる気なんだよ〜……」

 

 とかボヤきながらも、今度は『杭』を半身片手で構える望月さん。

 あの人は、基礎魔力量は平均だけど、射程圏内にいるだけでドレインされる。

 ついでにあの『杭』とか、直接触れると更に吸収速度が一気に上がる。

 つまりわたしみたいな『規格外の魔力量持ち』は、望月さんにとっては「なんか都合のいい魔力タンク」である。

 

 なので長期戦は本当に無理――

 

「ほな試合開始ー」

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 合図と同時に『視界範囲内剣軌道上道理無視切断』で薙ぎ払う。

 スパッと、望月さんの胴体が斬れる。――が。

 

「よいせ……!」

 

 と、当たり前に再生しとる……。

 

「よし、行くよ~あおちゃん」

 

 などと気軽な声とともに、本気で突き穿ってくる望月さん。

 人のことは言えないが、容赦がない……。

 

「よっ“阻め”!」

 

 なので、取り合えす魔力を込めて防御膜を貼る。

 

「ああ、貰う」

 

 しかし、望月さんはそれに杭を突き刺した。

 それだけで、“阻め”に使っていた魔力を奪い取られる。

 

 ……すご。なんかドレイン速度も上がってる。

 とはいえこちらも、全部の魔力を使ったわけではない。

 

 なので――

 

「――"浸せ"!」

 

 今度はこちらから突き穿つ。

 望月さんは距離を開けるが、わたしの"浸せ"には魔力による射程拡張がある。

 

「いてっ……!」

 

 それが見事に突き刺さった。

 望月さんの動きが止まる。……よし、ここだ!

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 詠唱破棄しつつも、それでも十分な威力は出る。

 ついでに袈裟斬り。なのでいくら望月さんでも避けきれないはず――

 

「いってぇ……!」

 

 とか言ってちゃんと袈裟がけに斬り捨てられる望月さん。

 まあまた再生してるんだけど……。

 

「……でも、ここだ」

 

 一歩、前に出る。クサナギでは斬れても即再生される。

 いや、連打すればなんとかなるかもだけど、その間に望月さんは対応してくるだろう。

 ――なので。

 

「――“払え”!」

 

 ただ魔力を込めた全力の横薙ぎで、『望月さんの影ごと』まとめて吹っ飛ばす。

 こちらは規格外の魔力量。望月さんは平均。

 

 だから、この一撃で望月さんは終わるはず――

 

「ああ――まあいいけど。後ろ見なくて平気?」

 

「へ?」

 

 一歩、踏み出した。

 望月さんの影の領域に入り込んだ。

 

 ――そして望月さんは、影の中なら本当に『吸血鬼っぽいもの』を色々できる。

 

「――たっ!?」

 

 なんか急に背中から、望月さんの杭が突き刺さった。

 わたしが目の前の望月さんに集中してる間に、影から伸ばして杭を突き刺したのだろう。

 

 更に直接触れている――というか貫かれている。

 わたしの『規格外の魔力量』も、一気に吸われていく……。

 

「うぐぅ……」

 

 とか言って、その場に倒れた。

 ……大体、里見さんと似たような負け方である。

 

「ああ……はあ、怖かった〜」

 

 なんて、望月さんは本気でため息を吐いている。

 まあ実際、スペック差ならわたしが圧倒なのだから、望月さんの安堵も嘘ではないのだろうけど……。

 

「卑怯では……」

 

「いや、あおちゃんに正面対決するほうがアホだよ」

 

 完全論破された……。

 

■

 

◇後日談:『秋原の熱剣』対『絶剣の忠犬』

 

「ほな次はうちのターンやね」

 

 などと言う武光奏という化物。ターン性なんですか?

 

「ああ、頑張れー秋原代表ー」

 

 そしてもう自分のターンは終わったと思っているようで、望月さんも完全に観客モードである。

 

「……そこは真面目に応援してほしいのですが」

 

 などと苦言を言いつつも戸枝さんもちゃんとやる気である。

 

「――うーん。『抜剣。ムラサメ』」

 

 そして、里見さんは詠唱破棄で宝刀を抜く。

 まあ、戸枝さんに化生殺しは効かんので良いのだろう……。

 

「じゃ、試合開始ー」

 

「――『消す』」

 

 そして『縮地』で攻め込む里見さん。

 まあ、相手は戸枝さんだ。『秋原の熱剣』だ。

 長引くほど炎の檻が完成する不条理だ。

 

 なので里見さんの判断は正しい……と思う。

 

「はい」

 

 しかし、その、わたしでも困る抜刀術を、戸枝さんは普通に剣で受け止めた。

 

 おまけに剣から炎が上がる。

 

「――っ。熱」

 

 と、里見さんが離れる。そこにさらに攻め込む戸枝さん。

 『炎の斬撃』を残しながら、今度は斬り上げ。

 

「――『消す』」

 

 しかし、それを『縮地』で横に回避する里見さん。

 さらに刀を抜きながら、横薙ぎで戸枝さんを斬りに向かう。

 

「――と」

 

 でもそれも剣で弾く。ついでに炎の慣性制御で無理矢理、里見さんを『弾き飛ばす』。

 

「ん……!」

 

「――『抜剣』」

 

 体勢が崩れた里見さんに向けて、炎で拡張した剣を伸ばす戸枝さん。

 規格外の魔力量から放たれる、詠唱破棄での『終わりの魔剣』。

 

「――『レーヴァティン』」

 

「ふっ」

 

 ――それを、体勢を崩しながらもトンッと刀の鎬で止める里見さん。

 いやどういう反射神経してるの?

 

 しかし、相手は『世界の終わり』。

 里見さんの握っていた『ムラサメ』は元の模擬剣に戻り、そのまま砕け散った。

 

 ――それでも『縮地』で、戸枝さんの間合いから離れていた。

 

「ふう……ん、負け」

 

 そう言って、里見さんは折れた模擬剣を投げ捨てた。

 しかし戸枝さんは不満げである。

 

「……貴方なら、その折れた剣でもまだやれるのでは?」

 

 なんて無茶を言っている……。

 

「まあやれるけど」

 

 と、里見さんも里見さんで凄いことを言ってる。

 

「……でも、多分泥仕合になる。そして多分、わたしの方が先に体力も尽きる」

 

 そう言えば、この人望月さんにドレイン喰らったばかりだった。

 

「あと練習だし。これ以上ネタを明かしても、本戦で困る」

 

 と、意外と考えてる里見さん。

 それに、戸枝さんも「まあ確かに……」と納得していた。

 

■

 

◇後日談:『秋原の熱剣』対『秋原のジョーカー』

 

「ほなまあ……体力残ってるだろうし、戸枝と望月もやっとけ」

 

 「望月は散々ドレインしたから残ってるだろ」とか言う山名部長。

 

「はあ……まあいいですが……」

 

 ……そう言えばこの二人が戦うところ、出会った時しか見てないな。しかもその時は、望月さんは『異能』を解放していなかったし。

 今ならどうなるんだろう。

 

「ほな試合開始ー」

 

 また山名部長の気の抜けた声と共に――戸枝さんは珍しく動かなかった。

 

「僕の意見も聞けよ……」

 

 とかボヤきながらも『デア・ナハト』を解放する望月さん。

 

 片手には漆黒の杭を持ちつつ、周囲全体に影を広げる――

 

 けれど。

 目の前には戸枝さんは『居なかった』。

 

「ああ……はい?」

 

 首を傾げる望月さんの頭上に恒星の輝き。

 炎による慣性制御で、思いっきり上空――多分望月さんのドレインが届かない距離まで剣を構えて跳んでいる――!

 

「――『世界よ、終われ』」

 

 しかも、迷うことなく完全詠唱。

 

「いや、ちょっと待っ――」

 

「『私と共に、私以外の全てを焦せ』」

 

 動揺してる望月さんだけど、戸枝さんはまったく容赦しない。

 

「――『降参しよっか』ー!」

 

 しかし望月さん。

 いつかと同じような詭弁を言いながらも影に溶ける。

 

 ――が、もう戸枝さんにそういう『甘さはない』。

 まして相手は望月さん。よく知ってる相手であるので――

 

「『炎の剣。主役の光。大地を丸ごと焼き焦がし、私だけの春よ来い』」

 

「いやマジで降参するから! 今度は屁理屈じゃねぇから!」

 

 などと言ってる望月さんをガン無視して――

 

「――『抜剣。レーヴァティン』」

 

 頭上から放たれる『終わりの炎』。

 直線でも一キロ届くそれを、地面に叩きつけたのだ。

 

 望月さんの影の領域も、望月さんも、あともう練習場全域も、纏めて燃やし尽くした……。

 

「ふう」

 

 ……とか、軽い言葉で降りてくる戸枝さん。

 ちゃんと脚には炎をまとって、着地で足をくじくこともない。

 

 そんで燃え尽きた望月さんは……。

 

「……いやもう、ほんと『一年最強』だよ、戸枝さん」

 

 なんて愚痴っていた。

 

■

 

◇後日談:『再誕の聖剣』対『宝徳の狩人』

 

「じゃあわたしにもやらせなさいよ」

 

 などと言うのは白夜の狼、寄藤環。

 もはや決勝戦で普通に洒落にならん負傷しとるのに、まだ元気である。

 

 とは言え六条さんは『狩人』だ。『ロビン・フッド』だ。

 自分を不可視にして矢を飛ばすのが『異能』だ。

 

 つまりこの距離でいざ尋常にとかすると普通に六条さんが死ぬ。

 

「どうしろと……」

 

 もはや六条さんの顔は絶望していた。

 そうしていたら白夜の諸星さんが。

 

「ふむ、やらせてもいいが遠間からやれ。この距離はさすがに格好悪いぞ」

 

「むう……まあいいですけど」

 

 いいのか……などと思ってたら、お互い距離を離す。

 

「――『彼方の果て。憧憬の煌めき。夢を抱えて飛び立とう』」

 

 して、もう『異能』を抜く寄藤さん。

 

「『再誕の門よ開け。今ここに新たな王(わたし)が選ばれる』」

 

 『白夜の聖剣』とかいう、『生きる伝説』になってしまった人の剣術を、魔力消費して再現するとか言う意味不明な異能を。

 

「――『抜剣。エクスカリバー』」

 

 模擬剣が黄金色の聖剣に変わる。

 

 それを向けながら、はよしろと言っていた。

 それでも六条さんも、一応競技者である。

 

「――『わたしは姿無き者。法なき森にて穿つ者』」

 

 詠唱だ。また不可視になる。

 

「『富める者からは奪い、持たざる者へ与える者。わたしこそ森の番人なり』」

 

 しかし、六条さんの詠唱は長いなぁ……とか思っていると。

 

「――『無私。ロビン・フッド』」

 

 で、姿が消えた。

 

 ……あれどうするんだろう寄藤さん。

 わたしはシンプルに頭だけ守って斬りに行き続けてたら終わってたけど。

 

「ほな試合開始」

 

 と、また山名部長の雑な言葉と共に、寄藤さんは駆け出しだ。

 速いなぁとか思っていると、当然ながら不可視の矢が飛んでくる。

 

「よ」

 

 という軽い声で、聖剣で矢を払い落とす寄藤さん。

 

「逸見先輩が把握できるんだから、そりゃね」

 

 と言っている。魔力消費をしてたので、あれは『白夜の聖剣』の剣術なのだろう。

 ……これ、マジで六条さんの勝ち目がないのでは?

 

「えー……あー……あれだー! 場所変えろー!」

 

 流石に一方的過ぎると思ったのか、山名部長が助言してる。

 

「――『殺す』」

 

 という言葉と共に振り下ろされる一太刀は、しかし回避されていた。

 どうやらちゃんと避けてるらしい。

 

 その後、背後から矢が飛んでくるが、それもまた『聖剣』が勝手に弾く。

 

 ……なんかあれもう卑怯では?

 

「んじゃこっちね」

 

 そして、また矢が飛んで来た方に向かう寄藤さん。

 

 『聖剣』の『異能』で『剣聖の剣術』を再現するが、寄藤さんの本質は狼で、ついでに喧嘩殺法だ。

 とにかく速いし手数が多い。

 

「はいよ――『殺す』」

 

 のも、また六条さんは回避してる。というか多分ひたすら逃げ回っている……。

 

「あれだー! お前狙いすぎだー! フェイントも混ぜろー!」

 

 と、また山名部長が助言している。敵校によくやる……。

 

 とは言え、不可視の矢が今度は「雑」に大量に飛んでくる。

 

「ん」

 

 ……を、今度は狼の如き低姿勢で全部避ける寄藤さん。

 さらに四足で駆けている。わあ……。

 

「よっ」

 

 さらに、地面に飛んできた矢を、今度は跳んで避けながら――

 

「まあ、そこか。はい『殺す』」

 

 ――なんて言って、件の『聖剣』をぶん投げた。

 

「あぐ」

 

 

 ……まあ、どれだけ大量に撃っても、フェイントを混ぜても、『射手は一人』。

 故、飛んできた方向にぶん投げれば『必ず当たる』。

 

 なんか空中に浮かんで見える『聖剣』に、飛び降りた寄藤さんはさらに駆けて――

 

「はい」

 

 蹴り飛ばして、さらに深く突き刺した。

 不可視が切れて、しかも倒れる六条さんの上に乗って、さらに油断せず聖剣の柄も握る寄藤さん。

 

「うーん……」

 

 ……は、なんだか、珍しく凄い悩んでいた。

 

「あんた、あれよ? この距離から剣士と始めて負けるのは……あれよ?」

 

 あの寄藤さんが、とても言葉を選んでいた。

 六条さんはもう泣きそうだったが……。

 

■

 

◇後日談:『絶剣の忠犬』対『宝徳の狩人』

 

「ほな、うちの里見もやらせるか……」

 

 などと言う『鶴久の絶剣』武光奏。

 だいたい人の形をした化生は、これで後輩想いでもある。

 

「ちゃんと遠間でやらせるよー! 流石に瞬殺だからー!」

 

 どうすんだ、あれ……とか思ってると、もう六条さんは不可視になっていた。

 一方の里見さんは、まだちょっと悩んでいる。

 

「ん―……」

 

 とか言いつつも、まあやるかと模擬剣を構え。

 

「――『抜剣。ムラサメ』」

 

 件の、『化生殺し』の刀を抜く。

 しかし今回は詠唱破棄だ。『化生殺し』の威力は落ちる。

 

 ……問題は、別に六条さんは化生ではないので、普通の刀で普通に斬れることだ。

 

「じゃあ、あー……試合開始ー」

 

 という山名部長の言葉と同時に、もう多数の矢が飛んでくる。結構学習精度が早い。

 

 ――でも、もう里見さんはそこにいない。

 

「えー……『絶剣の忠犬』、里見詩乃、いざ参る……」

 

 謎の名乗りをしつつも、『縮地』でひょいひょい飛んでくる矢を避ける里見さん。

 

 しかも『居合』である。

 

「おーい、取り合えす撃ちまくれー。そいつ遠距離攻撃ないからー!」

 

 また山名部長の敵校助言が入る。

 

「む」

 

 正確に狙われる矢は避けられるけど、雑に飛んでくる矢は、さすがの里見さんも少し困っている。

 

「うーん……じゃあいいか」

 

 ――と、言いつつ鞘に収めていた刀を抜いた。

 

 『居合縮地』とか言う意味わからん技を使う里見さん的に、あまり敵前以外で刀を抜くのは信条ではないのだろう。

 

 それで頭だけ守って、矢が飛んでくる方向に進んでいる。

 

「な、なんで……ちゃんと狙ってるのに」

 

「うん。だから狙うならちゃんと頭狙ってよ」

 

 わたしと同じ解決法をしている……。しかし、速度は里見さんのほうが速い。

 ついでに別に一直線ではなく、『縮地』で左右ふわふわ移動してるので、より被弾も少ない。

 

「はい――『消す』」

 

 矢が飛んでくるところに向けて刀を振り下ろす里見さん。

 

 しかし六条さんは避けたらし――

 

「ならこう『消す』」

 

 と、即座に手首を返して横薙ぎ……で六条さんは斬られた。

 

 カチッと刀を鞘に納めつつ、里見さんはなんか不満げである。

 

「えー……『視えない』って、別に必殺でもないから」

 

 などと身も蓋もない事を言っていた。

 でも、里見さんが人に助言するのは初めて見た。……なんか、すごく困っていたけど。

 

■

 

◇後日談:『秋原の神剣』対『宝徳の狩人』

 

「じゃ、うちの狂犬もやらせるか……佐守、行ってこい」

 

「マジで言ってます?」

 

 前ならともかく、今は遠間でもわたしが困るのだが。

 ……まあいいか。どうなるか、ちょっと気になるし。

 

「じゃあ『斬り』ますねー!」

 

 取り合えず、遠くで不可視になってる六条さんに叫んでおく。

 

「試合開始」

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 まずは『視界範囲内距離無視切断』を詠唱破棄で横薙ぎ。

 

「『抜刀。クサナギ』」

 

 あと袈裟斬りに斜め。

 

「『抜刀。クサナギ』」

 

 で、バッテン作るみたいに逆袈裟。

 

 ……で、六条さんは倒れた。

 

 一応、途中で矢は飛んできてたけど、肩に刺さっただけなので問題ない。

 

「えー……」

 

 ……どうしよう。

 確かに、これはちょっと困る。

 

「……あれですよ。視えないから、当たらないわけではないですよ……?」

 

 わたしもとりあえず、なんかそれっぽいことを言っておいた。

 

◇

 

「ううむ……六条の扱いに困るなぁ……」

 

 一番困ってたのは宝徳の部長、須藤さんである。

 

「どう置くか……やはり遮蔽のあるところで、一撃必殺が一番か」

 

「それしかないのでは」

 

「そう思うわよ」

 

「うん」

 

 もはや、六条さんには何も言えないわたしらである。

 結果的に『不可視は付加価値です』。という結論に至るのだ。

 

■

 

◇後日談:『秋原の神剣』対『絶剣の忠犬』

 

「ていうか、あんたとそこの犬やってないじゃない」

 

 などと、白夜の狼は言う。いや本戦で真剣勝負したんですよ、わたし。

 

「でも確かに、『異能』抜けてからはやってない」

 

「確かに……」

 

 あと、あの時は『大蛇さん』がわたしの魔力に栓をしていたので、『化生殺し』も特攻ってほどではないが少し困った。

 

 『クサナギ』できるようになった今、里見さんとどう戦えるかは気になる……。

 

「ではやりましょうか。『斬り』ます」

 

「うん。サクッと『消す』」

 

 そう言って、里見さんはまた剣を腰に構える。

 

「――『邪を退け、妖を治め』」

 

 そして、今度こそ完全詠唱。

 まあ、今回わたしは化生ではないのだが……。

 

「『抜けば玉散る氷の刃』――」

 

 しかし、シンプルに刀の鋭さは上がるのだろう。

 故――

 

「――『抜剣。ムラサメ』」

 

 ――から、もう『縮地』で間合い詰めてきた。

 

 まあ試合開始の合図はいいか……とか思いつつ、取り合えす剣で受けて――

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 こっちは、鍔迫り合いの最中にいきなり絶対切断剣にする。

 

 ――のを、もう察知して後方に跳んでる里見さん。

 ちっ。

 

「『秋原の神剣』、あなたを『斬り』まーす」

 

「では『絶剣の忠犬』、今度こそ『消す』」

 

 そうだ。この前は『斬れず』殴ったし……。

 しかし困る。こう距離を詰められると『視界範囲内距離無視切断』は無意味だ。

 

 あと、こっちは詠唱する暇もない……まあいいか。

 

「よっ――『消す』」

 

「むっ」

 

 抜刀術なので、大体撃ち出される位置は同じ――という定石は、里見さんは割と覆してくる。

 

 抜き放った刀をさらに振り下ろしてくるので――それを剣で受け止めつつ。

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 で、刃を斬り捨てる。あとは返す刃で斬り返す。

 

「ほっ」

 

 ……とか、軽い言葉で里見さんは折れた刃の方を掴むと、何やら魔力が込められて――

 

「――『佩刀。キリイチ』」

 

 ――なぬ?

 

 とか思っていると、折れた刀が短刀に変わった。

 そのまま斬り降ろされるのを、流石に『異能』を使う暇もないので、力任せに薙ぎ払う。

 

「――して『抜剣。ムラサメ』」

 

 また折れた刀が元に戻る……。

 

 流石に距離を置きつつ考える。えー……『縮地』で『居合』でも脅威なのに、まだ『二刀流』もあるんだ、この人。

 

 とは言え、流石に二刀では『居合』は出来んらしい。

 まあ『縮地』で飛んでくるんだけど。

 

「――はい、『消す』」

 

「はっと」

 

「――『消す』」

 

「んっ……」

 

 ムラサメを受け止めてる間に、小太刀が懐を突いてくる。

 

 …………うーん。もういいか。

 この距離で片手なら、わたしの方が力は強い。

 

 なので、刃をそのまま握る。

 

 しかして里見さん、もう小太刀からは手を離して距離を置いていた。

 そして、また刀を鞘に収める。

 

「今度こそ――『消す』」

 

 そして、今度こそ本気の『居合縮地』が飛んでくる。

 

 ――でも、わたしには素手で握った小太刀がある。

 

「てや」

 

 なんか逆ではあるが、柄側で跳んできた里見さんのみぞおちをついて。

 

「――『抜刀。クサナギ』」

 

 今度こそ、止まった里見さんを『斬り捨てた』。

 

「むう……」

 

 などと言いながら倒れる里見さん。

 

「……しまった。結局、本戦前に見せた」

 

 そういや、あのキリイチとか言う小太刀は、今年は見なかった……。

 じゃあいい情報ではあったなぁ……と思いつつも。

 

「しかし、やはり判断速度が化物では……?」

 

 正しくは、そこの『鶴久の絶剣』とかいう化生に近づいているのでは。

 

「いや、そっちも大概だと思う」

 

 そうかなぁ……。

 

 まあいいや。普通に剣術勝負が出来たので、わたしは満足である。 

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