わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
後日談:『秋原の神剣』対『再誕の聖剣』
わたしの名前は佐守あお。広島県私立秋原女学園に通う一年生。
『異能』はクサナギ。『視界範囲に映る剣の軌道上、距離を無視して斬る』っていうとんでも『異能』。
そして『熱剣の影』でもあるし、今のところ秋原の選抜メンバー。
来年わたしよりとんでもな『異能』でも入ってこない限り、基本的には前衛担当……なんだけど。
「じゃ、『殺し』にきたわ」
「なんでですか?」
喋れるようになったんだ良かったとか、でも眼帯は外れてないんだとか思いながらも、秋原の練習場にやってきた寄藤さんに問う。
そもそもどうやって広島に来たんだこの狼……。
「片道切符なら得意なの。なので今夜は佐守あおの部屋に泊めてもらうから」
「うーわ」
あの牙を肯定するわけではないが、生き方が片道切符過ぎる……。
ついでに今日は秋原の方々が見てくれている。
さすがに白夜の人達は来てないけど。
「いいんですね。わたしもここで負けたらはずいですよ」
「いいわよ。わたしもここで負けたら秋原に転学するって約束したから」
何を言ってるこの狼は? 思わず山名部長を見る。
「ああ、丁度一枠空いてるし、もしかしたらそいつが埋めてくれるかもだし」
なんか癪に障ることを言われた……。
まあいいけど。相手病み上がりっぽいし、サクッと倒そう。
「じゃあ来てください」
「はいはい……『彼方の果て。憧憬の煌めき。夢を抱えて飛び立とう』」
寄藤さんの握る模擬剣に、真っ白なスケッチブックのような光が、淡く剣先を照らした。
「『再誕の門よ開け。今ここに
憧憬も、夢も抱き、そしてなにより、死の淵を飛び越えた彼女の歌――
「――『抜剣。エクスカリバー』」
真白な輝きは、やっぱり『邪悪死すべし』みたいな強い光だった。
でも……逸見さんの『エクスカリバー』は、『アーサー王の力を再現する』だったけど、寄藤さんの場合はどうなんだろう……?
「では……えー、『次代の聖剣』、いざ参る!」
まだ『白夜の聖剣』を名乗れるほどの気持ちはないのだろう。以前通りの名乗りとともに斬りかかってきた。
けれどそれは速い。普段の寄藤さんよりよほど――
「はぁっ」
なんとか模擬剣で受け止めるけどそのまま斬り捨てられそうだ。魔力を込めてなんとか止める。
「これが私の新しい『異能』。逸見先輩の剣技を魔力を消費して再現できる」
「ああ……なるほど……“払え”!」
「はっ」
魔力を込めた薙ぎ払いは、しれっと回避される。
確かにあの『剣聖』の技量に近い。
憧憬を昇華したのが今の彼女の『異能』なのだろう。
……魔力を使わないと再現できない技量ってなんだ?
「遅いわよっ!」
更には縮地で一気に詰め寄ってくる寄藤さん。
なんかもうちょっと狼が出てる。
なるほど喧嘩殺法剣技に逸見さんの剣技が乗ると怖い。
「『抜刀。クサナギ』!」
とりあえず道理無視切断で返すわたし。
「はっ」
しかしそれは聖剣の切っ先からしれっと『受け流され』た。
諸星さんの不屈の剣でもあるまいに、あっさりである、まああの不条理ならやるか……。
……クサナギを受け流せる技量ってなんだ?
というか本当に素で『伝説』になったんだあの人。
更に切り返しが迫ってくる。確かに逸見さんの剣術だ。
「では“阻め”からの『抜刀。クサナギ』!」
「はっ」
今度は発動している腕を掴まれた。これでは振れない。
むむう……! しかしこれに負けるのは癪に障る!
「『抜刀。クサナギ』!」
片手に持ち替えた剣で、今度こそ斬って捨てた。
「いてっ」
ざっくり適当ではあるものの、まあ脱落ブザーが鳴る程度の損傷は与えた……はず。
「ちっ……余計な魔力使ったか……」
はーあっていいながら、寄藤さんは聖剣を投げ捨てた。
確かに……まあ全盛期逸見さんなら全部素で避けそうな技ばかりだったけど。
「これを下地に、わたしの喧嘩殺法を混ぜたいんだけど……まだまだね……」
などと、すでにちゃんと自分の改善点を見つけている……。いやもう十分混ざってましたよ?
「あ、自分で見つけたわけじゃないから……諸星……先輩にそう言われただけで……」
「そもそもまだ病院にいないといけない」とかしれっという寄藤さん。なら帰りましょうよ!?
とか思ってると、寄藤さんの視線はしかしわたしではなく山名先輩の方に向かった。
「まあいいわ……負けたんだし、山名部長!」
「あ?」
「負けたから約束通り秋原に入ります!」
「いや、いらん」
部長の言葉は即答だった……。
「そもそも攻撃札は揃いすぎてる。お前が逸見さんの戦略眼まで再現してくれるなら話は別だが、今のところそうは見えんし。今私が探してんのは支援札……あー、寄藤。お前友達いるか?」
「……………………」
寄藤さんがすっごい不機嫌そうに聖剣の切っ先でわたしを向ける。
え、友だちだと思われてたの?
わたし別に思ってないよ。
「わたしも思ってないけど、これぐらいしか浮かばないから」
「そうですか……」
まあいいけど。しかし山名先輩はうーんと頭を抱えていた。
「火力偏重主義にする気はない……やっぱりお前白夜に帰んな」
「はっ帰る術なんてとっくに捨て去ったわ」
「だろうよ。だからもう諸星には連絡してある。今夜頃には来る」
「え」
よし野良狼を泊める必要はなくなったらしい。
ありがたい……。
「ただ諸星も『ただで来るのは格好悪い、望月さんとやらせてくれ』と言われたので、しばらく合同練習だ」
「僕と? マジで言ってます? ていうか部長、あの光馬鹿嫌ってませんでした?」
「苦手ではあるが嫌いではないよ。あと武光も呼んだから多分また忠犬連れてくる。あいつフットワーク軽いバカだから」
「先輩は何をやっとります?」
またあのちょっと規格外と鏡が増えるのか……。
おかしい……『国異』が終われば平々凡々な日常に戻れると思っていたのに。
「戻れるわけないでしょ。『秋原の神剣』とかで名前呼ばれてるんだから」
「うぐう」
中身は未だに山名先輩にコロコロされる程度なんですけど……。
せめて来年までには力を手に入れたい。もっと力を……。
そう思ってると山名部長。
「ああ、いや。お前は固定砲台として扱うから気にせんでいい。あるいは望月で隠して不意打ちクサナギするから」
「最悪では」
「はっ勝負から逃げるならまだまだじゃん」
「『抜刀。クサナギ』」
不意打ちの横薙ぎは、しかし『逸見明音の力を再現する』とやらの能力であっさり避けられた。
……逆を言うと万全のあの人なら別に魔力なしでこれ避けるんだよなぁ。やはり化物では。
「うーん……逸見先輩ならここから切り替えせるんだろうけど、まだまだね」
しかし、寄藤さんの再現性もそこまで高いわけではないらしい。
……そこまで高いわけでもない聖剣で躱されたのか。
やはり、まずは『斬る』までがだいじなのかなぁ……そうなると本当に望月さんごと串刺しが最速になる気もするけど若干イヤだ……。いや望月さんを刺すのはいいけど。
そう思っていると山名部長が頭を抱えている。
「しかし、人材発掘が上手くいかんなぁ……こう、上手いやつ落ちてこねぇかなぁ……」
などと先輩は頭を抱えていたけれど、つまり……。
「じゃあ佐守あお。二戦目やるわよ」
「元気ですね……」
数日くらいこの狼から逃れられんらしい……。
■
後日談:『秋原のジョーカー』対『再誕の聖剣』
「まあせっかく来てくれたんだ。望月もやっとけ」
「僕ですか? 聖剣相手に?」
死にますよ。とか普通に言う望月さん。
まあ決勝戦で諸星さん……とかいう人とやった時は、ナグルファルを吸って膨大な魔力を得たいわば決戦フォームだった。
本来、望月さんの平均魔力は平凡。一方寄藤さんはちゃんと規格外。
「お前なら逃げ回れば負けないだろ」
「そら逃げ回れば負けないですけど」
「でも今回それはできない。なぜなら諸星が迎えにくる」
「『着憑。デア・ナハト』」
判断が早い……。
とはいえ、対寄藤さんにどれだけやれるのかは気になる。
「じゃ、試合開始」
ひゅっと飛んできた聖剣の斬撃を交わすというか影に溶けて逃げる望月さん。
寄藤さんも容赦なく聖剣を足元の影に刺そうとするがすでに姿はなく……。
「うへぇ……早い」
少し離れた場所からニョキニョキ影から生えてくる望月さん。前から思ってたけどちょっとキモい……。
「言いたいことだいたい分かるよ――ぐっ」
とかこっちよそ見してる望月さんがまた串刺しになった。寄藤さんの投擲した聖剣がぶっ刺さったのである。
更に跳んできて喧嘩殺法の回し蹴りで剣を撃ち込む寄藤さん。
それで完全に望月さんは吹き飛ばされたうえに、なんか決勝戦の時みたいに大の字になってしまった。
……思えばこの人、よく大の字になってるなぁ。二回戦の後もそうだし、決勝前夜のわたしのベッドの上でもそうだったし。
試合ならまあ、脱落ブザーになる程度。
けれど寄藤さんは油断せず、大の字で串刺しになってる望月さん相手にちゃんと距離を詰めて聖剣を握り直した。
これにはあの負けず嫌いの望月さんも――
「あのさあ……聖剣使いが聖剣投げていいわけ?」
あ、まだ諦めてない。
「いいでしょ。というか逸見先輩だって、普通にぶん投げるし」
あ、完全論破された。
望月さんははーあと息を吐くと、
「はいはい降参……でもまあ今のでよくそんな魔力減らしたね」
「それは……まあ……はぁ」
そうなのである。
寄藤さんの『異能』が『逸見明音の剣術の再現』なら、かの『白夜の聖剣』……というか、『逸見明音』に近づけば消費魔力は減る。
しかしあの剣聖、ちょっと素で規格外なのが困る。
「とりあえずわたしはこれでいい?」
「僕もここまででいいよ。諸星さん来るまでには絶対帰りたい」
……何があったんだろう。
いや、あとで中継の配信アーカイブ見たけど、普通に望月さんかっこよかったよ?
「やめて、まじでやめて。はずいから」
どうやら少し格好つけたのが、もう黒歴史らしい。
黒歴史を抱える吸血鬼もらしいなぁと思うのだった。
■
後日談:『秋原の熱剣』対『再誕の聖剣』
「よし、戸枝もやっとけ。ただ詠唱破棄しろ。お前のあれは身も蓋がなさすぎる」
「はあ……まあ、たしかに私も無暗に燃え広がらせるつもりはないですが……」
などと言いながら立ち上がるわたしのヒーロー、戸枝さん。
「『抜剣。レーヴァティン』」
そして、サクッと終わりの魔剣を抜く。
なんか一撃必殺技じゃなくて、炎が剣にまとわりついて……倍くらいの長さになってる。
あれで当たれば即死、さらには慣性制御もできるんだから怖い。
「いいわよ。わたしもあんたが本命ではあるし」
などと宣う狼。やはり一年の『剣』の名を白夜に返したいのか。
二年生代表である、『鶴久の絶剣』こと武光さんとかいう化物は抜きにしても、現状、一年生の『剣』の名前は秋原が独占している……。
というか一年代に二人いていいのだろうか……。まあ異名って別に誰が決めるわけでもないか……。
「じゃあ勝負開始ー」
とか思っていたら、やる気のなさそうな山名部長の合図が聞こえた。
そんな部長とは裏腹に、やはり戸枝さん。ちゃんと、一度“勝負”と決めた相手にはちゃんと向き合っている。
「はっ」
上段から振り下ろされる終わりの炎。
剣だけでなく拡張された火もまた『彼女の剣』だ。
「ちっ」
を、ちゃんと避ける寄藤さん。
さすがのエクスカリバーも終わりの炎には勝てない。
「まだまだ……!」
さらに振られる終わりの炎。加え、その火は残留する。
そして戸枝さんの任意でいつでも『終わりの炎』に変えられる。
「ちっ、めんどい……!」
などと言いながら四足の獣みたいな体勢でその檻の隙間をすり抜けていく寄藤さん。
しっかり狼である。しかしちゃんと剣は逸見流。
完全に炎の檻をすり抜けた寄藤さんの剣が斬り上がる。
「はぁっ……!」
「んっ……!」
なんか、いつかの全身ガード……。
全身に炎をまとう戸枝さんに触れた途端、聖剣はただの模擬剣に戻った。代わりに戸枝さんも一発喰らうけど、その上から熱剣が落ちてくる。
「……はい」
「これはどうなのよ……」
なぜか二人とも不可思議な顔をしていた。
戸枝さんに聞いてみると。
「いえ、全身から終わりの炎が出るとは思わなかったので」
などと、なんかここで新しい技に目覚めていた。
寄藤さんは……。
「じゃあそれなかったらわたしの勝ちでしょ」
「そうね……うーん今のを超えられますか……」
と二人で分かりあってるけどこれはわたしの裁量で戸枝さんの勝ちとしてもらいます。
うん。やはり戸枝さんはわたしのヒーローである。
■
後日談:『冬の狙撃手』と『再誕の聖剣』
「そんじゃあまあせっかく来てもらったし、多少先輩として遊んでやるか」
それくらいのノリで出てきたのは、秋原の『冬の狙撃手』こと山名部長……。
しかし山名部長の恐ろしさを知らない寄藤さんは当たり前にはっと鼻を鳴らす。
「はっ。魔力も平凡。後衛の部長さんが今のわたしに敵うとでも?」
「いや敵わんよ。だから『やってみ』」
「ほれ」と両手を広げる山名部長。
「『真似事で満足する雑魚には負けないが』」
分かりやすい挑発だ。しかし分かりやすい挑発に乗っかるのが寄藤さんだ。
「いいわよ、やってやろうじゃない!」
そう言って迫る寄藤さんは、もう若干狼が出ていた。
別に悩むまでもなく、聖剣と喧嘩殺法の両立をしている……。
「……まあしばらく鉈でいいか」
しかしそれをアドリブで凌ぎ切る山名部長。
なんなら狼相手は得意分野だとでも言いたげにひょいっと背後に駆け寄ると完全詠唱『モシン・ナガン』を抜く。
「その程度……!」
「防がれるんだろうな。この位置と距離なら」
ガシャンと罠。
トラップが寄藤さんの足を奪った。
「……っこの程度!」
聖剣を足元に突き刺そうとする寄藤さん。
「なぁ、こっち見んで平気か?」
などと尋ねる山名部長はもう片手で狙撃銃を構えている。
「ちいっ」
あっ足を諦めて頭の防御に回った。
「反応が早いのは偉い」
けれど、山名部長は銃を放り投げると、また鉈を抜いて一気に寄藤さんに詰め寄る。
頭を……つまり視界を隠している寄藤さんには、対応するすべがなく。
「いたっ」
軽い鉈のペシッみたいな一撃で肩。
それから首元に向けられる鉈の刃。
「はい積み。残念」
それ以上寄藤さんが何か言う前に山名部長は異能を閉じると、模擬剣に戻った鉈をぽいって投げ捨てた。
「うーん……このくらい付いてこれる奴が欲しいんだがなぁ……」
とか、なんかブツブツ言ってる……。
一応あの『白夜の聖剣』の剣技を再現する相手を完封した狩人が、それと同スペックを求めている……。
「いやだって、私の魔力は平凡だ。大したこともできん。だから最低限で狩ってる」
そして、その判断力をもう一コマ欲しいらしい。
そんな山名部長に問いかけるのは、もうとっくにコレに慣れた秋原ではなく白夜の狼。
「あー……山名……部長?」
「なんだ」
「無理でしょ」
「なんでだよ。私は大したことしてなかったろ、今」
「佐守あお、こいつ何言ってんの?」
寄藤さんの瞳がこちらを向く。
けれどもう秋原三人は慣れてるので首を横に振るだけ。
「なんだよ……化物ならこの後『鶴久の絶剣』とかいう化物が来るんだからそっちにしてくれよ。私を見るなよ……」
などと、『冬の狙撃手』は言うのだった。
■
後日談:『鶴久の絶剣』と『再誕の聖剣』
などと言っている間に、『鶴久の絶剣』こと武光さんと、『絶剣の忠犬』こと里見さんがやって来た……。
鶴久、北海道では……。とか思っていると。
「山名、私らは当然宿がない。寝床貸して」
とかいう剣鬼。もう行動力がちょっと怖い……。
そう言えば一応『秋原の熱剣』ともやって、戸枝さんも負けてたけど……。
「あ、あとで『秋原の熱剣』ともやらせろよー」
「嫌です」
凄い。戸枝さんが即答した。
「『秋原の神剣』でもいいよ?」
「え、いやです……」
気軽に喧嘩売られても困る。
ていうかわたしに対抗札がない……。
「じゃあ私は何のために来たんだよ。あ、『秋原のジョーカー』、お前か」
そう言えば望月さんって武光さんとちゃんと勝負はしてないか……かと思えば、望月さんは全力で首を振っていた。
まあ確かに聖剣デュランダルだし……とか思っていると、山名部長が前に出る。
「何かこの狼がすっ飛んできたから、せっかくだから遊んでやってくれや」
と、寄藤さんを前に出す。
寄藤さんはまた完全詠唱エクスカリバーを握ってるしやる気満々だ。
知らないんだろう。『異能』じゃなくて『武光奏』っていう化生の怖さを。
「いいわよ。『鶴久の絶剣』もわたしが倒すべき相手だし」
「おお、いいじゃんその気合――ほな『抜剣。デュランダル』」
詠唱破棄で不屈の剣を呼び出す武光さん。
「はっ。しょせんただの折れない『異能』でしょ」
なんて寄藤さんはちょっと油断している。
実際そうだし、ついでに詠唱破棄してるからその不屈の強度は落ちるけど、今はあんまり関係ない。だってこの人――
「では『鶴久の絶剣』――いざ参る!」
なんでことをいって即座に視界から消え去る武光さん。
当たり前だけど寄藤さんは動揺している。
けどなんか聖剣が勝手に動いて『デュランダル』を受け流した。
おお、ってちょっと思った。
「いや、はぁ!?」
けれど寄藤さん自体は動揺しっぱなしだ。『聖剣』……つまり逸見さんの剣術だけが勝手に弾いてる状態。まあ魔力も削れてるんだろう。
「おー! 意外と粘るじゃん! ならこういうのはどうよ!」
さらに速くなる武光さん。一挙一動縮地とかいう……山名部長曰く『馬鹿縮地』の本領が発揮されている。
一撃箇所にさらに複数回衝撃。
さすがに寄藤さんの体勢が崩れる。
崩れつつも、流石は狼。低姿勢ならばむしろ得意分野って感じでまだ追いすがろうとするが――
「よっ」
――ぬるりと、それよりも低い姿勢から高速で跳んでくる武光さん。
「ひぃっ!?」
あっなんか珍しい声を寄藤さんから聞いたなあ―とか思っていたら、あっさりエクスカリバーは両断されて、そのまま首元にデュランダルを当てられた。
「どうする? まだ逸見さんの説教聞いてないならこのまま斬り捨てるけど」
「…………降参します!」
はあっと息を吐いてから、聖剣を投げ捨てる寄藤さん……。
そうしたらこれまで特に何も言ってなかった山名部長が口を開いた。
「どうせ諸星にも言われてんだろうが、武光を人間だと思うな。こいつは折れない剣じゃなくて『武光奏』っていう化物が『折れない剣』を持って跳んでくるから終わってんだ。お前も聖剣なら化生討伐くらいしろ」
なんで身も蓋もないことを言ってるのだった……。
■
後日談:『絶剣の忠犬』対『再誕の聖剣』
「うーん……村田や諸星なら「だいたいこの辺」で防いでくれるんだが……」
「あと山名も罠かけてくるし…」とかブツブツ言ってる二年生最強に改めて怯える一年生たち。
ちなみにわたしも負けた。ちゃんと負けた。手加減されて負けた。だって視界から消えてるんだもん。どうしろと?
「まあいいや。諸星はまだ来てないの?」
「まだ来てない。多分空港で土産買ってる」
「帰るときにしろよ……」
などと、常識人ぶる化物。
が、不意に何かを思い立ったのか。
「よし、せっかく連れてきたことだし里見にやらせるか」
ペシッと、さっきまで傍観者気分してた里見さんを前に出した。
ていうか寄藤さん、病み上がりに連戦になるけど大丈夫……?
「はっ。首輪付きの犬くらいどうとでもなるわよ」
何か前にわたしが里見さんに言った言葉そのままで、寄藤さんとシンクロしてる気がしてちょっとやな気持ちになった。
とはいえ、まだまだエクスカリバーは爛々と輝いている。
『逸見明音』という伝説になってしまった人の剣術を扱う『異能』がギラギラしてる。
なら、まあいいか。うちの話じゃないし。
……なんで秋原で外部の人間二人がやってるのかはよく分からんけど。
本当に分からんけど。
「構えなさいよワンコロ。軽くひねってあげる」
いつも通りの寄藤さんだなぁ……とか思いながら見てると、里見さんもそこそこやる気をだしたのか。
「――『邪を退け、妖を治め』」
居合の姿勢で、特に合図もなく。
「『抜けば玉散る氷の刃』――」
何かとりあえずやるか。くらいのノリで。
「――『抜剣。ムラサメ』」
例の化生討伐な刀を抜いた。いや、まだ鞘には収まってんだけど。
……アレって『武光奏』にも効くのかなぁとか思っていたら、急に里見さんの姿が消えた。
「――『消す』」
ああ。例の居合縮地……とか思ってると、寄藤さんの対応もまたすごい。
「よっ!」
膝を折って後方にゴロンと転がり回避する寄藤さん。やはり狼である。
「――『消す』」
しかしさらに攻め込んでくるのもまた里見さん。
わたしの鏡が戦っているのを見るのはちょっとおもろい。
どっちが勝つんだろうなー……ってボケーと見ていると、寄藤さんは地面を這いながらもしっかり居合を避けていた。すご。
「――『消」
「『殺す』」
さらに詰め寄った里見さんに今度は寄藤さんから下からの斬撃。
抜けかけた刃を切り捨てたのだ。
魔力消費してたから、多分あれは逸見さんの術。
とは言え、刀がおられてはもう里見さんはおしまいである。
「よっと」
構え直した寄藤さんが、里見さんの眼前に聖剣の切っ先を示した。
かなり泥臭い戦い方ではあったけど、これは確かに寄藤さんの勝利だ。
「まあこんなもんでしょ……はぁ。さすがに疲れた」
いくら規格外魔力持ちの寄藤さんとはいえ、こう何戦もしたらそら疲れる。
「佐守あお、あんたのベッド借りるから」
だからなんで? 諸星さんそろそろ来るんだからそのまま帰ってよ……。
と思うわたしなのだった。
■
後日談:『白夜の綺羅星』と『一年生たち』
+
『冬の狙撃手』対『白夜の綺羅星』
そんな話をしてたら、なんかいつの間にか『ジュワユース』こと諸星さんが来ていた。
「こら寄藤。病院脱走は普通に格好悪いぞ。逸見先輩が大変しょんぼりしていた」
「うぐ……」
などとちゃんと寄藤さんを叱りつつ、しかし自然と望月さんを見る。
「やあ、やろうや望月さん!」
「マジで勘弁してください」
正面から真顔で答える望月さん。
珍しい、あのヘラヘラした望月さんじゃない。
「ふむ……しかし手ぶらで帰るのはちょっと格好悪『抜剣。ジュワユース』!」
躊躇いなく『ジュワユース』とやらを抜く諸星さん……白夜も白夜で狂ってないですか……?
「よし、秋原の一年三人……いや面倒だな。一年生共まとめてこい!」
どころか、何か凄いことまで言ってる……わたしと戸枝さんと望月さんはいいとして、今の寄藤さんや里見さんまで……?
いくらジュワユースが万能剣といえど……。
「いいさ。そこの化物は抜きにして、むしろハンデ的にはちょうどいい。なあ山名!」
「ん。まあ新体制になってからチームプレーはしてないな。いいよ」
……なんて部長も言うため。
「わかりましたよ。やりましょう」
「『抜剣。レーヴァティン』!」「『抜剣。エクスカリバー』!」
いきなり身も蓋もない二人が襲いにいった……!
あんなに前にいられるとクサナギを打つ軌道がない。
しかし、レーヴァティンの一撃はひょいと避けられ……。
「『ローラン』!」
さらに身も蓋もない不屈の刃であっさり『聖剣』を切り捨て、その刃を地面の影に突き立てた。
「いてっ」
地味に不意打ちを狙ってた望月さんがこれで落ちる…。でもこれで一旦視界はひらけた!
「『抜刀。クサナギ』!」
「ー―『消す』あっ」
かと思いきや、縮地で飛んできた里見さんにあたって防がれた。
やばいどうしよう、いやもう一度振り切ればー―
「『抜刀。クサナ』」
「『リナルド』! お前の馬だ!」
急に縮地みたいな速さで飛んできた諸星さんに腕を掴まれ、そのまま背中に回られる。
『レーヴァティン』を打とうとしていた戸枝さんは、それで止まる。
しかし寄藤さんは無論、「そんなん知るか」と言わんばかりに折れた剣で狼のように追いすがる!
「よっと」
「はいっ!?」
「なっ!」
いきなり背中から押されて寄藤さんを巻き込むように倒れた。
その後、ジュワユースでまとめて斬り捨てられた後、まだ放心している戸枝さんの首にジュワユースの切っ先を置いて。
「ほい、まだ動けるか?」
「……降参しますわ」
レーヴァティンをぽいっと投げる戸枝さん。
これ以上、足掻くのは彼女の矜持が許さんのだろう。
「引き際が潔いのは格好いいな!」
などと笑いながら諸星さんも剣を下ろす。
えー……何この人、一年五人をほぼ完封してまだ笑ってるんだけど……。
とか思っていたら、その横でブツブツと山名部長がなんか言ってる……。
「んー……やはり軌道の確保が必要か……」
「山名も参加しないのか? それは格好悪いぞ」
「む」
そうですよ。うちの一年生三人がまとめてこの光馬鹿にやられたんですよ。部長として敵討ちしてくださいよ。
「ふむ……まあいいか……じゃあ適当にやらせてもらうぞー」
なんて言いながらも、その手には完全詠唱ハントレスと完全詠唱モシン・ナガン。
……いや、よく考えたらこの距離とこの配置じゃ、山名先輩負けるのでは……?
「おーい、化物。試合開始合図してくれ」
しかし、そんなの気にしてないのか、山名先輩は武光さんのほうに話しかけている。
「はいよー! 試合開始!」
「よし。『格好良く』こい」
「言われずとも! ではやはり『ローラン』!」
不屈の刃、『デュランダル』と同じ色に聖剣を変えた諸星さんが突っ込んでいく。
……のに、その背中に急にすっ転ぶ。
山名先輩のワイヤートラップだ。まあすぐに切り取られてるけど。
「む!」
「撃つぞ」
今度は宣言だけでなくちゃんと撃つ山名先輩。
しかし相手は白夜の現部長。転がりながらもちゃんと避けている……!
「ふーむ、これは」
「『格好悪い』な。だから――」
などと言いながら、山名先輩は鉈を投げつけた。
投擲技術はない。ゆえに力づく。
「はは! 二度も効かん!」
なんて言いながらしっかりその投擲を正面から『格好良く』弾く諸星さん。
故に――
「ほい詰み」
――次の、山名先輩の銃撃には回避する手段がない。
「おうっ……」
それでもどういう反射神経をしてるのか、なんとか致命打は避けてる諸星さん。
けど、しっかり脇腹を負傷した。
それを確認してから、山名先輩は異能を閉じた。
「ま、こんなもんだろ。うちで怪我されてうちのせいにされても困る」
などと当たり前に言ってる山名先輩だけど、いやその前に……。
「あの……先輩、わかってます?」
常勝白夜の現部長をほぼ完封し、ジュワユースを振る暇も与えなかったことを……。
「ああ。だって、平凡な私が一撃喰らうと死ぬからな」
なんて、しれっと言うし。
「だからサクッと狩らせてもらった。望月、これが最適解だぞ」
「あんた何言ってんの?」
望月さんが素で聞いていた。
そりゃそうだよ。あれだけ決勝で派手な殺陣をしたのに……。
「む! 望月さんは悪くなかったぞ! あの成長速度はいい! 何より格好いい!」
「まあそれは認めるが……」
「ちょっと、そろそろ私も『デュランダル』振らせてくれない?」
などと、ワイワイ話している二年生達に、わたし達一年生は混ざれない……。
これが一年の経験の差……なのだろうか? なんて思うのだった。