わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
わたしの名前は佐守あお。
広島県私立秋原女学園に通う十五歳で、『国異』の選抜メンバーで、今年、決勝戦の最後の一撃を決めちゃった者。
そしてまた、うちの試合場に他の学園の人達がなぜか集まってきた頃……。
――あれ、なんか秋原、謎の集いの場にされてませんか……?
などと悩んでいる暇もなく。
◇
後日談:『再誕の聖剣』対『宝徳の狩人』
「じゃあわたしにもやらせなさいよ」
などと言うのは白夜の狼、寄藤環。
もはや決勝戦で普通に洒落にならん負傷しとるのに、まだ元気である。
とは言え六条さんは『狩人』だ。『ロビン・フッド』だ。
自分を不可視にして矢を飛ばすのが『異能』だ。
つまりこの距離でいざ尋常にとかすると普通に六条さんが死ぬ。
「どうしろと……」
もはや六条さんの顔は絶望していた。
そうしていたら白夜の諸星さんが。
「ふむ、やらせてもいいが遠間からやれ。この距離はさすがに格好悪いぞ」
「むう……まあいいですけど」
いいのか……などと思ってたら、お互い距離を離す。
「――『彼方の果て。憧憬の煌めき。夢を超えて飛び立とう』」
して、もう『異能』を抜く寄藤さん。
「『再誕の門よ開け。今ここに
『白夜の聖剣』とかいう、『生きる伝説』になってしまった人の剣術を、魔力消費して再現するとか言う意味不明な異能を。
「――『抜剣。エクスカリバー』」
模擬剣が黄金色の聖剣に変わる。
それを向けながら、はよしろと言っていた。
それでも六条さんも、一応競技者である。
「――『わたしは姿無き者。法なき森にて穿つ者』」
詠唱だ。また不可視になる。
「『富める者からは奪い、持たざる者へ与える者。わたしこそ森の番人なり』」
しかし、六条さんの詠唱は長いなぁ……とか思っていると。
「――『無私。ロビン・フッド』」
で、姿が消えた。
……あれどうするんだろう寄藤さん。
わたしはシンプルに頭だけ守って斬りに行き続けてたら終わってたけど。
「ほな試合開始」
と、また山名部長の雑な言葉と共に、寄藤さんは駆け出しだ。
速いなぁとか思っていると、当然ながら不可視の矢が飛んでくる。
「よ」
という軽い声で、聖剣で矢を払い落とす寄藤さん。
「逸見先輩が把握できるんだから、そりゃね」
と言っている。魔力消費をしてたので、あれは『白夜の聖剣』の剣術なのだろう。
……これ、マジで六条さんの勝ち目がないのでは?
「えー……あー……あれだー! 場所変えろー!」
流石に一方的過ぎると思ったのか、山名部長が助言してる。
「――『殺す』」
という言葉と共に振り下ろされる一太刀は、しかし回避されていた。
どうやらちゃんと避けてるらしい。
その後、背後から矢が飛んでくるが、それもまた『聖剣』が勝手に弾く。
……なんかあれもう卑怯では?
「んじゃこっちね」
そして、また矢が飛んで来た方に向かう寄藤さん。
『聖剣』の『異能』で『剣聖の剣術』を再現するが、寄藤さんの本質は狼で、ついでに喧嘩殺法だ。
とにかく速いし手数が多い。
「はいよ――『殺す』」
のも、また六条さんは回避してる。というか多分ひたすら逃げ回っている……。
「あれだー! お前狙いすぎだー! フェイントも混ぜろー!」
と、また山名部長が助言している。敵校によくやる……。
とは言え、不可視の矢が今度は「雑」に大量に飛んでくる。
「ん」
……を、今度は狼の如き低姿勢で全部避ける寄藤さん。
さらに四足で駆けている。わあ……。
「よっ」
さらに、地面に飛んできた矢を、今度は跳んで避けながら――
「まあ、そこか。はい『殺す』」
――なんて言って、件の『聖剣』をぶん投げた。
「あぐ」
……まあ、どれだけ大量に撃っても、フェイントを混ぜても、『射手は一人』。
故、飛んできた方向にぶん投げれば『必ず当たる』。
なんか空中に浮かんで見える『聖剣』に、飛び降りた寄藤さんはさらに駆けて――
「はい」
蹴り飛ばして、さらに深く突き刺した。
不可視が切れて、しかも倒れる六条さんの上に乗って、さらに油断せず聖剣の柄も握る寄藤さん。
「うーん……」
……は、なんだか、珍しく凄い悩んでいた。
「あんた、あれよ? この距離から剣士と始めて負けるのは……あれよ?」
あの寄藤さんが、とても言葉を選んでいた。
六条さんはもう泣きそうだったが……。
◇
後日談:『絶剣の忠犬』対『宝徳の狩人』
「ほな、うちの里見もやらせるか……」
などと言う『鶴久の絶剣』武光奏。
だいたい人の形をした化生は、これで後輩想いでもある。
「ちゃんと遠間でやらせるよー! 流石に瞬殺だからー!」
どうすんだ、あれ……とか思ってると、もう六条さんは不可視になっていた。
一方の里見さんは、まだちょっと悩んでいる。
「ん―……」
とか言いつつも、まあやるかと模擬剣を構え。
「――『抜剣。ムラサメ』」
件の、『化生殺し』の刀を抜く。
しかし今回は詠唱破棄だ。『化生殺し』の威力は落ちる。
……問題は、別に六条さんは化生ではないので、普通の刀で普通に斬れることだ。
「じゃあ、あー……試合開始ー」
という山名部長の言葉と同時に、もう多数の矢が飛んでくる。結構学習精度が早い。
――でも、もう里見さんはそこにいない。
「えー……『絶剣の忠犬』、里見詩乃、いざ参る……」
謎の名乗りをしつつも、『縮地』でひょいひょい飛んでくる矢を避ける里見さん。
しかも『居合』である。
「おーい、取り合えす撃ちまくれー。そいつ遠距離攻撃ないからー!」
また山名部長の敵校助言が入る。
「む」
正確に狙われる矢は避けられるけど、雑に飛んでくる矢は、さすがの里見さんも少し困っている。
「うーん……じゃあいいか」
――と、言いつつ鞘に収めていた刀を抜いた。
『居合縮地』とか言う意味わからん技を使う里見さん的に、あまり敵前以外で刀を抜くのは信条ではないのだろう。
それで頭だけ守って、矢が飛んでくる方向に進んでいる。
「な、なんで……ちゃんと狙ってるのに」
「うん。だから狙うならちゃんと頭狙ってよ」
わたしと同じ解決法をしている……。しかし、速度は里見さんのほうが速い。
ついでに別に一直線ではなく、『縮地』で左右ふわふわ移動してるので、より被弾も少ない。
「はい――『消す』」
矢が飛んでくるところに向けて刀を振り下ろす里見さん。
しかし六条さんは避けたらし――
「ならこう『消す』」
と、即座に手首を返して横薙ぎ……で六条さんは斬られた。
カチッと刀を鞘に納めつつ、里見さんはなんか不満げである。
「えー……『視えない』って、別に必殺でもないから」
などと身も蓋もない事を言っていた。
でも、里見さんが人に助言するのは初めて見た。……なんか、すごく困っていたけど。
◇
後日談:『秋原の神剣』対『宝徳の狩人』
「じゃ、うちの狂犬もやらせるか……佐守、行ってこい」
「マジで言ってます?」
前ならともかく、今は遠間でもわたしが困るのだが。
……まあいいか。どうなるか、ちょっと気になるし。
「じゃあ『斬り』ますねー!」
取り合えず、遠くで不可視になってる六条さんに叫んでおく。
「試合開始」
「――『抜刀。クサナギ』」
まずは『視界範囲内距離無視切断』を詠唱破棄で横薙ぎ。
「『抜刀。クサナギ』」
あと袈裟斬りに斜め。
「『抜刀。クサナギ』」
で、バッテン作るみたいに逆袈裟。
……で、六条さんは倒れた。
一応、途中で矢は飛んできてたけど、肩に刺さっただけなので問題ない。
「えー……」
……どうしよう。
確かに、これはちょっと困る。
「……あれですよ。視えないから、当たらないわけではないですよ……?」
わたしもとりあえず、なんかそれっぽいことを言っておいた。
◇
「ううむ……六条の扱いに困るなぁ……」
一番困ってたのは宝徳の部長、須藤さんである。
「どう置くか……やはり遮蔽のあるところで、一撃必殺が一番か」
「それしかないのでは」
「そう思うわよ」
「うん」
もはや、六条さんには何も言えないわたしらである。
結果的に『不可視は付加価値です』。という結論に至るのだ。
◇
後日談:『秋原の神剣』対『絶剣の忠犬』
「ていうか、あんたとそこの犬やってないじゃない」
などと、白夜の狼は言う。いや本戦で真剣勝負したんですよ、わたし。
「でも確かに、『異能』抜けてからはやってない」
「確かに……」
あと、あの時は『大蛇さん』がわたしの魔力に栓をしていたので、『化生殺し』も特攻ってほどではないが少し困った。
『クサナギ』できるようになった今、里見さんとどう戦えるかは気になる……。
「ではやりましょうか。『斬り』ます」
「うん。サクッと『消す』」
そう言って、里見さんはまた剣を腰に構える。
「――『邪を退け、妖を治め』」
そして、今度こそ完全詠唱。
まあ、今回わたしは化生ではないのだが……。
「『抜けば玉散る氷の刃』――」
しかし、シンプルに刀の鋭さは上がるのだろう。
故――
「――『抜剣。ムラサメ』」
――から、もう『縮地』で間合い詰めてきた。
まあ試合開始の合図はいいか……とか思いつつ、取り合えす剣で受けて――
「――『抜刀。クサナギ』」
こっちは、鍔迫り合いの最中にいきなり絶対切断剣にする。
――のを、もう察知して後方に跳んでる里見さん。
ちっ。
「『秋原の神剣』、あなたを『斬り』まーす」
「では『絶剣の忠犬』、今度こそ『消す』」
そうだ。この前は『斬れず』殴ったし……。
しかし困る。こう距離を詰められると『視界範囲内距離無視切断』は無意味だ。
あと、こっちは詠唱する暇もない……まあいいか。
「よっ――『消す』」
「むっ」
抜刀術なので、大体撃ち出される位置は同じ――という定石は、里見さんは割と覆してくる。
抜き放った刀をさらに振り下ろしてくるので――それを剣で受け止めつつ。
「――『抜刀。クサナギ』」
で、刃を斬り捨てる。あとは返す刃で斬り返す。
「ほっ」
……とか、軽い言葉で里見さんは折れた刃の方を掴むと、何やら魔力が込められて――
「――『佩刀。キリイチ』」
――なぬ?
とか思っていると、折れた刀が短刀に変わった。
そのまま斬り降ろされるのを、流石に『異能』を使う暇もないので、力任せに薙ぎ払う。
「――して『抜剣。ムラサメ』」
また折れた刀が元に戻る……。
流石に距離を置きつつ考える。えー……『縮地』で『居合』でも脅威なのに、まだ『二刀流』もあるんだ、この人。
とは言え、流石に二刀では『居合』は出来んらしい。
まあ『縮地』で飛んでくるんだけど。
「――はい、『消す』」
「はっと」
「――『消す』」
「んっ……」
ムラサメを受け止めてる間に、小太刀が懐を突いてくる。
…………うーん。もういいか。
この距離で片手なら、わたしの方が力は強い。
なので、刃をそのまま握る。
しかして里見さん、もう小太刀からは手を離して距離を置いていた。
そして、また刀を鞘に収める。
「今度こそ――『消す』」
そして、今度こそ本気の『居合縮地』が飛んでくる。
――でも、わたしには素手で握った小太刀がある。
「てや」
なんか逆ではあるが、柄側で跳んできた里見さんのみぞおちをついて。
「――『抜刀。クサナギ』」
今度こそ、止まった里見さんを『斬り捨てた』。
「むう……」
などと言いながら倒れる里見さん。
「……しまった。結局、本戦前に見せた」
そういや、あのキリイチとか言う小太刀は、今年は見なかった……。
じゃあいい情報ではあったなぁ……と思いつつも。
「しかし、やはり判断速度が化物では……?」
正しくは、そこの『鶴久の絶剣』とかいう化生に近づいているのでは。
「いや、そっちも大概だと思う」
そうかなぁ……。
まあいいや。普通に剣術勝負が出来たので、わたしは満足である。