わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
詳しくは本編終盤だの最終回だのを読んでいただくとして。
かつて『国異』の場において『海神の槍』、『三年五指』『白夜の聖剣と同等以上』と言われた、私立秋原女学園の三年生――
ただの『水野弥生』という名のクズは、かの『白夜の聖剣』逸見明音から借金四万を返すために白夜高校で修行を付けることとなった。
一ヶ月も、である。
このクズ、クズのくせにざっくばらんな天才故に、実は言うほど受験勉強の心配はしていない。
ただ単純に『なんで他校生を鍛えにゃならんのだ』という私立秋原生の気持ちである。
しかし、困った事に逃げ場がない。何せ『白夜の聖剣』逸見明音がいる。
こと技量においては武芸百般で上回る水野だが、『異能』込みで『ガチ』で探されると流石に無理だ。
普通に小柄な水野と長身な逸見という物理的な体格差もある……。
故――
「ま〜ええか。じゃあ適当に、まとめてかかってきな〜?」
片手には『トリアンナ』の槍を。
もう片手には、なんか今日はそういう気分だったので模擬剣を持ちながら、白夜の競異部、総勢二十名前後に告げる。
今年の優勝は逃したが、ほぼ無敗だった強豪白夜――既に三年生は卒業したが、その一、二年全員纏めて喧嘩を売った。
揃いも揃って逸見流。
まあ『白夜の聖剣』を見て『白夜高校』に入るような連中だ。
そらそうだとも思いつつ、内心では大変につまらない。
故に場を盛り上げる必要があった。何より水野弥生の気分のためにも。
「来いよ、臆病者。選抜にも選ばれんような雑魚ども、百人相手でも総取れるぜ」
事実『最高潮』ならまとめて吹き飛ばせるが、今日のはまあただの挑発だ。
ただ、一応『面白い展開』にはなってきた。
一斉に迫りくる白夜高校の面々を水野弥生は適当に槍と剣で流す。
「よいせっと」
『異能』跋扈する中においてもだ。総勢二十名前後であろうとも――
「お前は構えが高ぇよ」
――どうせ、相手取れるのは四方。
ましてや水野弥生は小柄である。
故に白夜高生が何人来ようがその隙間をすり抜ける。
「――で、お前は臆病すぎだ」
後方で何やら呪詛的な『異能』っぽいものを構えていた白夜高生に槍を投げつけ、残りの剣で後方から迫る斬撃を防ぐ。
ついでに利き手が自由になったので――
「お前は足回りがなっちゃおらん」
適当な奴の腕を掴み、そのまま足払い。ついでに武器――『異能』で『銃』になったそれを奪い取る。
「はー……『カラシニコフAK』ねぇ……『逸話・伝承』には程遠いが……」
しかし、『もっとも多く人を殺した武器』であろう。
少なくとも、そう呼ばれる『話』は確かにある。
「んじゃ……」
片手で連射する。何分後輩の山名が銃使いだ。無論、水野弥生も銃器の扱いを心掛けている。
そして『水野弥生』一人を狙う状況よりも『白夜高生全員纏めて』狙う方が、この武器は真価を発揮しやすい。
――元の『異能』使いが『異能』を閉じるまで連射し、模擬剣に戻ったらそれを元の持主に物理的に『叩き返す』。
「ほいで〜? あと何人来るのかな〜?」
などと笑いながら、目の前の相手から再び模擬剣を奪い取る。
「――『抜槍。トリアンナ』」
詠唱破棄での再召喚。
まあさしたる効果は使えない。精々槍の顕現程度。
――けれども、それで十分だ。
「はいよー」
腰に当てて振り回して、四方の面子を薙ぎ払う。
「ははっ白夜高校何するものぞ。……まったくもってつまらん」
少々飽きてきた水野弥生。
『異能』が強ければ勝てるとでも思っているのか。
『白夜』に入れば勝てると思っているのか。
――この時期の『三年生』を、『たかだか一年の差』とでも思っているのか?
ましてやこちらは『三年五指』である。
「むう……ちょっと格好悪いな! 現部長として、流石に手出しさせてもらうぞ!」
と、ようやく面白そうな相手が出てきた。
水野弥生の目線では大体小型逸見である。
「――『白夜の綺羅星』。諸星がいざ参る! 『海神の槍』、何するものぞ!」
――と、『ジュワユース』を持って駆け寄る諸星。
「ははっ。……んじゃあせっかくだ! 格好良く『長物勝負』といこうや!」
「よかろう! 『テュルパン』!」
――と、『ジュワユース』が槍の形に入った瞬間に懐に潜り込み、そのまま片手の模擬剣で斬り捨てた。
何分こちらは気まぐれ海神。
相手の道理に赴くつもりなど、一切ない。
「はいよー。これで部長討伐っと……」
適当に抜いた槍と、適当に持っている模擬剣を回しながら、残りを見る――が。
「もうおらんのう」
――悲しいことに。
現部長が倒された時点で、白夜の戦意は喪失していた。
『白夜の聖剣』逸見明音も不在。
『再誕の聖剣』寄藤環も入院中。
「つまらん……これで終わりなら、もう『割る』ぞ?」
決勝戦で見せた『最高潮』の水野弥生をチラつかせても、余計に戦意が下がるばかり。
これでは秋原の面子の方が、よほど殺り合って愉しいものだ。
「は〜あ……」
ぽいっと槍と剣を投げ捨てる水野。
「じゃぁ〜……まあ最後の盤面だけ作るか」
などと言いながら徒手にて、近くの白夜生の腕を掴むと、足払いをし、そのまま腕を決めつつ襟首を掴んだ。
無論、武器は祓い落とした。
「ほい。この盤面をどうにかできるやつ、おる?」
……秋原なら、戸枝はともかく纏めて斬り捨てる盤面だが。
そして水野弥生はちゃっかり生き残れる盤面でもあるが。
……残念ながら、この白夜の残る生徒にそうした気概は感じない。
「はぁ……じゃ、『ここまで』……あとお前、あたしが武器捨てたから油断したなぁ?」
最後に残るたわけの頭を軽く叩いてから拘束を解く。
「う~む……」
などと言いながら、立ち上がるのは諸星である。
「水野先輩。これでは少々うちが格好悪いんすけど」
「知らんよ。あたしは逸見に稽古つけろって言われただけじゃ」
そして水野弥生の稽古とはこうである。
秋原の稽古とは「全力で、頭を尽くして、先輩をぶちのめしてみろ」である。
なんならば途中の助言など、むしろサービスしてやったくらいだ。
「とはいえ……これじゃつまらんなぁ……」
戸枝ほどとは言わずとも、山名くらいの奴は欲しい。
白夜に塩を送り過ぎるのも何だが、かといってこの一月をつまらんまま過ごすのも水野弥生にとっては苦痛である。
「あ~……じゃあ、あれだ。お前が部長なんだろ。なら、全力で『格好良く』、他の仲間も指揮してあたしを倒してみな〜?」
「なるほど……よしみんな! 『海神』討伐だ! 『格好良く』いくぞ!」
これでちょっとは面白くもなるだろう。
――何よりも、白夜に『格好良い戦い方』なんて枷まで嵌められる。
来年、秋原が最も狩りやすい相手になる。
この価値観を嵌めるための一ヶ月だと思えば……。
「いやぁ、つくづくあたしゃ〜後輩思いだね〜」
もう卒業するのに。
そろそろ秋原生徒ではなくなるのに。
まだ、ちゃんと『最後』には『秋原を勝たせてやる』と、白夜の中で悪党は嗤っていた。