わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
わたしの名前は佐守あお。
広島県私立秋原女学園の一年生。年齢は十五歳。
『国異』とかいうマジカルチャンバラ大会に何故か出た者。
『競異部』所属で今年の選抜メンバーの一人で、最後の一撃を決めちゃった者。
だからとてクラスでの『腫れ物扱い』は変わらないけれど、いいんだ。今のわたしには帰るべき場所があるのだから。
◇
そんなわけで部活棟の部室に行くと、今日は山名部長がいて頭を抱えていた。
どうしたのだろう……やはりここ最近続いている部員数足りない問題だろうか……。
だとするとわたしには人脈がない……困った……などと思っていると、山名部長は頭を上げる。
「ああ、佐守か……はーあ」
「あの、どうしたんですか……?」
とりあえずわたしが聞いて解決できるお悩みかは知らんけど、聞くだけ聞いてみようと思う。
「ん〜……あ~……説明するより、見たほうが早いわ」
などと仰り、ヒョイッと指を部室の角に指す。
そこには。
「ん。やあ久しぶり佐守さん」
――などと『白夜の聖剣』とかいうラスボスが、何故かホーム画面の端っこに待機してるみたいな変な構図が出来ていた……。
やっぱりこの人気配消えてるの怖いよ……。
いや、うん、いや、え……?
「うん、山名部長?」
「あ~……え~……とりあえずクズの置き土産……」
そんな土産物みたいな感覚でラスボスに来られても困るんですが……。
まず、状況の説明を、お願いしたいのですが……。
「まあ全員揃ったら纏めてやる……なんか面倒だから……」
「はあ」
「失敬だな。大したことないよ」
「いやあんたが存在するのが『大したことある』ってそろそろ自覚してくれません?」
と、山名部長が言ってる。
『ウルトラマンによっ大将やってる?』くらいのノリで尋ねられても困るとか、前に水野弥生クズが言っていたことを思い出したがまさにソレである。
……でもわたし、この人倒しちゃったんだよなぁ。
そして今、それとほぼサシである……。
……とりあえず誰か来て! 戸枝さんでも望月さんでもいいから!
◇
などというわたしの願いが届いたのか、一年生組が集まってきてくれた……!
「戸枝さん……!」
「うわぁ、なになに……なんですの?」
とりあえず戸枝さんに抱きつきつつ、というか壁にしつつ逸見さんと向かい合う。
あと「なんか分からんけど面倒事だな」とか判断して逃げようとしてた望月さんの腕も掴む。
……よし、これで完全武装だ!
「はーあ。まあ全員揃ったから説明するか……」
山名部長が心の底からいやそうにボヤいている。
まあ、何の何の何……? ではあるんだけど――
「とりあえず数日この人はうちにいる」
――はい?
「よくわからんが水野クズの借金周りの清算とかなんかよくわからんがとにかく色々でここにいる」
……。
…………?
「『白夜の聖剣』ですよ……?」
「ああ。ちなみにウチのクズはもうどっか遊びに行った」
よく分からない。
何一つよくわからないが、暫くこの人ここにいるらしい。
「ああ、でも数日だけね? 別に出席日数は足りてるけど、受験勉強しないとだし。寄藤の容体も気になるし」
などと当たり前のことのように、よく分からん理屈を話す化物である。
「えぇと……とりあえず数日逸見さんはいると」
誇りの焔、『秋原の熱剣』こと秋原代表が話を進めてくれる。
「白夜を明けてもいいんですか?」
「まあ私はもう『白夜の聖剣』ではないし……む、無断欠席にはならないように、ちゃんと高校に事情は話してるよ」
どういう事情の話し方を……?
「まあ、当分はこの隅で受験勉強してるから、あれだ。私は置物くらいに思ってほしい」
と、置物にしては存在感のあり過ぎる『伝説』が何かを言っているがこの不条理は本当にどこまで本気でどこから冗談なのか分からない……。
「そろそろ分かってきたと思ったが、その人は別に何も考えてないぞ」
「む。失礼だな。真面目に必要なコトだけ考えている」
これで四万の責任も消えるし。
引退済みだから練習に関わる気もないし。
つまり純粋に居候する気だこの人……!
しかし、実際『逸見明音』を縛り付けていたものは消えている……周りへの影響力とか抜きにすれば……。
「はー、いっそうちの残り一枠埋めてもらっかー!」
「やだ。私は白夜高生だもん。余計な塩を贈る気はないぞ」
即答であった。じゃあもうほんとに余計な伝説匿うだけになるんですけど……。
「ふむ。とは言え、あまり一方的なのも筋が通らないか……山名さんの相談相手くらいにはなろう」
あくまで受験勉強の邪魔にならない範疇だが……とかいう不条理。
「あー……じゃあうちの今余ってる一枠どうにかしたいんすけど」
試合には五名いる。
しかし水野三年が引退し、残るメンバーがなんか退部した今。
来年良い感じの新入生でも入らん限り、うちはこの半年草試合も練習試合もできない。
「ふむ……確かに秋原、火力は揃ってるなぁ」
「はい。なんで、今考えてるのは支援札ですねぇ」
しかし山名部長は『冬の狙撃手』。
裏方、斥候、遠距離戦はむしろ得意分野では……?
「今年からは全体指揮までやるんだぞ。やめてくれ。ああ、あと望月、お前副部長な」
「はい?」
なんか急にしれっと役職まで渡されている……。
「大丈夫だ。来年は戸枝に部長をしてもらう。お前は秋原代表だからな」
「まあ、それはいいのですが……」
と、秋原代表は、部長職自体には乗り気である。
「ただ、例え支援札だけおいても、判断基準が私に迫らんと無意味なんよな〜」
逐一判断を仰がれては、余計な思考のリソースを食わされるだけだと言う山名部長。
「まあ、何かしら味方を支援できる奴が欲しいんですが。『海神の加護』もなくなったので」
そうか、水野クズが消えたから『海神の加護』はなくなったのか……。
などと思っていると、逸見さんが口を開いた。
「あ、あれだ。『レーヴァティン』地面に向けて撃っとけば道中焼きながら移動できるんじゃない?」
などと『白夜の聖剣』はなんかとんでもないことを言い出すのである。
そういえば決勝戦では炎で飛んできたけど、戸枝さん……。
「あれびっくりしたから。いきなり最強札が目の前に飛んでくるのはまあまあ相手にとっては脅威だよ?」
「はあ、そこから更に焼き焦がせと」
徐々に来年の形が固まってきている。
チェスなら相手のキングの隣にいきなりこっちのクイーンぶん投げられるようなものなのだから、たしかに有効ではある。
「あ~……そうなると、『遠見』やら『透視』とかかぁ? 相手の位置が分からんとどこに飛んでいけばいいか分からんし……」
「あと『クサナギ』も、相手の位置が分かれば雑に触れる……などと仰る山名部長。
まあいいか、確かに『クサナギ』、位置関係を把握しないとフレンドリーファイヤーになる。
あと、とりあえずサクッと地形破壊すれば道も開ける。
しかし地形をざっくり開かせるとすると今度は戸枝さんを射出する意味も薄い……。
「まあー投げるのは戸枝だけでいいか……佐守は普通に歩いて指示待ち『クサナギ』しろ」
「いいんですか?」
「構わん。どうせ戸枝は目立つ。炎だし。ならそのままぶん投げたほうが視線誘導にもなる。あと下から『クサナギ』したらいい」
「問題は火力偏重が多すぎるんだよなぁ……」とか、ブツブツ言いつつ逸見さんの方を向く山名部長。
「まあ人材探しはこちらでやりますよ……秋原生知らんでしょ、逸見さん」
「そうだね、まあ他校への助言はこの程度にしとこ……」
と、何やら受験勉強に戻る逸見さん。
しかし存在感が傍迷惑だ……。
◇
「――それはそれとして望月、ちょっと逸見さんとやっとけ。お前だけ、逸見さんと勝負してないだろ」
などと雑に謎のマッチングを組む山名部長。
「僕ですか? 『白夜の聖剣』相手に?」
ガチで死にますよ。などと言う望月さん。
まあ望月さんは『吸血鬼っぽいもの』。
『聖剣エクスカリバー』なんて特効である。
「うん。模擬剣勝負でいいよ。受験勉強の息抜きだ」
などと宣う不条理。
「まあそれなら……」
と、何とか納得する望月さん。
そんなわけで何故か望月さんと逸見さんが剣術勝負でやり合う羽目になった。
望月さんは『異能』の性質上、まともに剣を振るう機会が少ない。けれど一応ちゃんと剣も収めてる。
半身片手、フェンシングみたいなスタイルで相手の攻撃を受け流し続けて隙を狙うのが望月さんだ。
しかし――
「ほな試合開始」
「うわぁ……」
正眼で構えている逸見さん相手に望月さんは声を上げる。
だって『ただ構えてるだけなのに打ち込む隙がない』。
「え~……うーん……」
距離を少しずつ詰めていく望月さん――の切っ先が触れ合うくらいの距離になった途端。
「ほい」
「……っ!」
軽い手首の動きだけで、望月さんの剣が弾かれた。
その隙に逸見さんは距離を詰めるが、さすがに望月さんは逃げ足は速い。
……というか弾かれたままなんかグルンって回転して転びながら立て直した。
「はぁ……あっぶね――」
「よっと」
などと息をついている間にもう逸見さんは模擬剣の刃を望月さんの首に置いていた。
……ほとんど逸見さん動いてないんだけども。
これでほぼ望月さんの詰みだ。
実際両手を上げながら、ため息を吐きつつ――
「はい……『降――」
とか言いながら模擬剣を弾きつつまた距離を取った。
とても秋原流である。
「む、まだやる気なのか……」
ちょっと逸見さんは困惑していた。
なんかこれ以上は礼儀に悖ると思っているらしい。
しかしこちらの望月さんは。
「当たり前ですよ。『僕は負けない』」
などと言って、それから半身片手で再び構え直す。
「ふーむ……。まあいいか……それなら」
とか言いながら、逸見さんは構えを解くと……。
片手で構え直した。望月さんと同じ鏡写しのような構えで。
「なるほど、こうかな」
「うへぇ……」
今度は望月さんが困っていた……。
なんせあの不条理、多分初めての構えなのに望月さんより完成度が高い。
「して、攻めるなら――」
――などと言いつつ、とんと一歩前に出る逸見さん。
無論、望月さんはその突きを反らそうとするが、それを巻き込むように逸見さんの剣がくるりと回り――
「よっと」
軽い小手打ちで望月さんから剣を弾き飛ばすと、改めて喉元に切っ先を突き付けた。
「……いやまあ、はい」
絶対『負けた』とは言いたくない望月さんだが、もう負けだろう……。
一方の逸見さんは――
「なるほど、面白い型だけど、ちょっと握りが浅いなぁ……。これなら手首だけで捻り飛ばせる」
などと、もう改善点まで見つけている……。
「まあしかし、いい感じに息抜きはできたよ……あとはそうだなぁ、『負けない戦い方』はいいが、一手目を反らした後がない。『負けない』なら、二手目、三手目まで読みなさい」
「無茶言いますねぇ……」
そもそも一撃逸らした時点で大体終わりでは……。
そう思ってたら、山名部長が後ろで、
「うーん……やはり一年で大会でたのはちょっとあれだな……『異能』だけ強くなったが、その他がなぁ……」
なんてボヤいていた。
◇
「うい~、やっとるかね~」
などと望月さんの稽古を見てから部室に戻ると、そこにいたのは水野クズ。
なお受験勉強は特にしていない。まじで大変迷惑なOBとして現れている……。
……そういえば、二人とも大学進学する予定っぽいけれど――
「うん。私は特にやること思いつかないからとりあえず大学進学するだけだよ?」
などと、普通の高校生みたいなことをいう『白夜の聖剣』。
ちなみに第一志望は東大らしい。
「あ~。あたしゃもう少し遊びたいんで大学進学するだけよ」
などと、クズな高校生みたいなことをいう『海神の槍』。
ちなみに第一志望は京大らしい。
「……なんか伝説が、大変崩れている」
おもわず呟いてしまう。
しかし、それはそれとして『海神の槍』こと水野クズはなにか思う所があるようで。
「お前あれぞ。やることないって言ってるけど、せっかく『白夜の聖剣』とかいう『伝説』があるんだからもっと色々使えるぞ」
とか悪党らしいことを言い出した。
「うん。色々とは?」
「動画配信とか。『白夜の聖剣』の剣術指導とか、めっちゃ儲かるぞ。多分視聴者、登録者も増える」
そして物凄い俗な提案をする水野先輩……それに対して逸見さんは至極真面目に。
「……いや、私は口下手だし、配信とか向かないのでは?」
と、物凄く正面から答えている……。
「じゃあ、あれだ。あたしが隣で解説すっべ」
「ふむ……? 確かにそれならいいのか……? しかし、二十に満たない者の剣術指導とか、あんまり説得力なくないかなぁ」
「あ~、大丈夫大丈夫。あたしが口八丁でなんとかするから~」
などと、動画配信を真面目に検討しだす『伝説』二人……。
『白夜の聖剣』伝説がめちゃくちゃ俗になるのでやめてほしい。と思うわたしなのだった。