わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
そんなこんなで(正しくは決勝中から)部長になってしまった山名有為二年生。
現状彼女の悩みは『この半年どないする?』であった。
水野三年などというクズが抜けて数が足りない秋原。選抜メンバーに選ばれなかった「まあ中堅校だし」気分だった他の一、二年どもは全員兼部。しかも今年の優勝のせいでみんな退部しおった。
来年有能な『異能』使いでも入ってくれば儲けもんだが、現在の秋原に山名以上の戦闘者はおらんのである。
いや、強力な『異能』使いとかはいるが、『異能』の強さと戦闘の強さが別なのはもはや自明。
なんかもう適当な一年生でも拉致してこようか……。などと考えていると、丁度一年生ども三名がやってきた。
「こんにちは」
「おはようございます」
「ちわっす〜……ありゃ、なんすか部長、悩んで」
三者三様の言葉を放つ連中に、ひとまず聞く。
「お前ら、友達いるか?」
三人はそれぞれ顔を見合わせて、それぞれを指さした。
だめだこの連中。形が整いすぎている。
まあ佐守はイジメられっ子だったし、戸枝は戸枝で恐れられている子だったからしゃあないとはいえ。
「望月、お前どうせ連絡先色々持ってんだろ。よこせ」
「えー……ああいや、なんか連絡するのしんどくなってそのまま残してるのばっかですよ」
「そうか、クズだな」
まあいいが、このクズの連絡網も使えんとなると困る。
むうと唸る山名。珍しく悩んでいる。
水野という名のクズはクズだったが、前衛として強いうえに万能だった。
それが抜けた現状、火力面では今も戸枝と佐守がいる。そこに望月もバックアップできる。
せっかく空いた一枠、ここに更なる火力バカを入れても、戦略効果は薄いように見える。
「うーん……」
「移動係とか……どうですか?」
などと言い出したのはなんと佐守。
珍しく……もないか、この狂犬は狂犬ではあるが、妙なところで常識的なのが佐守あおである。
「あの……決勝で戸枝さんがレーヴァティンで飛んで来たじゃないですか」
「ああ、そうだな」
それは山名も見ていた。
国立競技場の端から端まで、熱剣の慣性制御で自分ごと跳んでくるとかいうバカをしたのだ、この秋原代表は。
いかに戸枝が規格外とはいえ、まあ余分な魔力である。
「ふむ……」
佐守がそこまで考えてるかは知らんが……というか考えてないだろうが、実際移動役がいると助かるのは事実だ。
戸枝は嫌がるだろうがレーヴァティン撃たせながら横に移動するだけでもいいんだし。
「ん〜……そうか……ただそれ望月の影移動でも出来そうだなぁ……」
「戸枝さん入れたら燃えますよ、僕」
「じゃあ戸枝は戸枝で囮として目立たせる。代わりにお前の中からいきなりクサナギさせる。効果は似たようなもんだ」
「うわぁ……」
と、佐守が早速嫌そうな顔をしている。
別に戦略云々ではなく単に望月に抱きしめられんのが嫌なんだろう。
まあやらせるが。
そうなると……移動というよりも運搬か。
投擲か、射出か……。
「射出はありか……? フィールド無関係に飛ばせるなら……」
「それ着地は……?」
「知らん。自力でなんとかしろ」
しかし、フィールド関係なく安定して駒を置けるように見えるなら無論その方がありがたい。
そうなると――などと思っていたところで山名の頭に天啓が閃く。
「あー……佐守、お前のとこに佐藤ってやついたろ」
「へ」
話を振られると思っていなかったのか、佐守の言葉は素朴であった。
「なんかそいつがおもろい『異能』だった気がする。連れてこい」
「つ、連れてこいといわれても……」
ふむ……たしかに佐藤一年。二話でクラスメイトとして一応フルネームで登場した割に、即座に練習試合、合宿から本戦に行ったのでほぼ無意味になった役である。
ついでに言うと多分『無能』だった佐守へのイジメにも加担している……いや傍観者だったのかもしれないが。
「まあいい。『秋原の神剣』として連れてこい」
とりあえず使える駒で使お。と思う山名である。
「……わたしから佐藤さんに話すのはちょっと」
まあ当事者だし事情もわかる。
「戸枝」
「私もあのクラスはちょっと……」
何があったねん。と思う山名である。
しかし、山名としては佐守あおの人生は別にどうでもいい。とりあえず愉しく学園生活を送れているなら。
問題は競技である。
この半年である。
「望月はダメか」
「普通の子なら口説き落とせますよ」
「最終手段だなぁ」
ひとまず突破口はいくつもあるのは分かった。
最悪、戸枝に燃やしてもらえばいいとして、まず部長から話しに行くのが筋だろう。
「狩りに行くか……」
よっこらせっと、まだ慣れない部長席から立ち上がる山名であった。
◇
「こんにちは」
一応気楽に、普段通りに話しかけに来たつもりの山名だが、佐守のクラスは喧しかった。
まあ優勝校の現部長が訪れてきたのだ。
しかも佐守あおをイジメていたクラスだ。
そりゃあビビる。
ビビるが、ビビられても話が進まない。
「佐藤瞳さんいる?」
なのでさっさと要件だけ済ませようと名前を呼ぶと一人の女子生徒が出てきた。
うむ。戦い慣れしていない普通の女子高生だ。
なんなら大人しめ。狂犬発揮佐守のほうがヤバかろうに……などと思いつつ。
「あ、あの……なにか」
「じゃあ」
ペシッと腕をつかむ。当たり前だが関節を決める。
とりあえずこれで獲物は動けない。
「えっえ……」
「いやここだとうるさくて話ができんから」
効率よく話を進めたいので、ささっと拉致する山名。
部活棟まで連れてきて、なんかまだダベってる一年三人どもの前に投げ出す。
「わあっ!?」
と、一番ビビっているのは佐守だった。
まあ複雑な心境だろう。しかしここから先は佐守の領分なので、山名は山名で手短に話したいことを告げる。
「佐藤さん。君の『異能』は魔眼系だな」
「え……はい……」
「それは『見たものに何かする系』か? 『視えることそのもの』か?」
作用なのか、解析なのか。
一番端的に問うているつもりなのだが、いまいち伝わっていない。
「あーん―……」
どう伝えたものかと悩む山名に、意外にも助け舟を出すのは佐守あお。
「あの、山名部長……? それってどういう……」
おや、佐守から助け舟が出るとはと思っていたがおそらくその気もないのだろう。
単に馬鹿だから本当に分かってない。
とはいえこれは好機である。私生活に関与はしないが部活中に空気を悪くされても困る。
「話したまんまだよ。魔眼って二パターンある。例えば『魅力の魔眼』みたいに『見たものに何かする系』と、『透視の魔眼』みたいに『観ること自体に意味がある系』」
「「へえ〜」」
佐藤と佐守の声がかぶる。まあそれはいい。
そして、山名が求めているのは後者だ。
前者はある意味クサナギと被る。
これでバロールなんて出されたら完全にクサナギが死ぬ。
とはいえクサナギは佐守のバカ魔力で成立しているもの。平均的1年生の佐藤は――
「それなら……あの、『遠見』になります……?」
「採用」
まさにそこだけ足りてない。
斥候、狙撃、裏方をほぼこなし、かつ今後は指揮官もやらねばならない身としては、純粋に戦場を俯瞰で見れる奴が欲しかった。
ついでに言うと望月とも被らない。望月もこの実戦経験でめちゃくちゃ器用貧乏になったが、なんでか遠見の類いは覚えてくれなかったので。
「よし、そうなると話が早いな」
あまりにも『国異』精神に乗っ取られている連中には山名部長の判断があまり気にならない。だってメリットしかないから。
「ん~~……じゃあ、まず望月に護衛して貰って……」
「あの、あの」
「あ?」
早速盤面を固めていたのに、話を切るのは佐藤一年。
「わ、私が入って……いいんでしょうか……?」
などと、佐守の方を見ている。
しかし佐守あおは佐守あおである。
「大丈夫だよ。だって山名部長の判断だし」
「あと面倒になったら望月さんごと斬るし」と言っている。実に佐守あおである。つくづく信頼してくれてありがたい。
望月も望月で「斬るならその前に佐藤さんだけ吐き出すよ?」とか言ってる。こいつらもいい感じに秋原になってきた。
「まあ、あれだ。その感じだと佐守と違って、別に戦好きでもあるまい。後ろで見てくれてたらいい」
ならばイジメはいいのか? と言われれば良くないが。
少なくとも、現状の論点はそこにはなく。
「数合わせにとりあえず模擬剣持って、一番後ろにいてくれりゃいい」
「――――は」
――模擬剣を持っていれば異能無しでも参加できる。でもそれは数合わせのようなもの。
散々、無能だった佐守が言われ続けた言葉を、山名は自然と射返した。
「あー……」
ダメだった。
一応、冷静にいるつもりだったのだが。
山名有為二年生にとって佐守あお一年生をイジメていたかもしれないクラスメイト、というだけで珍しく感情が出てしまった。
――本当に珍しいことだが。
山名有為は戦況分析よりも、この瞬間の自分の怒りを無意識に優先した。
「……すまんね。ここまで来てもらってなんだけど……というかほぼ拉致だし。帰んな」
はあっと頭を抱えつつ、椅子にもたれかかる山名。
よく見れば、一年生三人とも誰一人佐藤を見ていない。
そんなことにも気付かないほど山名は無自覚に憤っていたらしい。
「え、えっと……すみません」
「いらんいらん。完全にこっちが勝手に引っ張って来た拉致犯だ……あと、あ~……」
どう言えばいいのやら、と佐守の方を見る。
佐守は首を傾げていた。
まあいいか、では言いたいことだけ言っておこう。
「……あんまりお前らの裁量でうちの佐守を振り回すなよ。いつでも狩れるからな」
脅しではない。普通に事実である。
「は、はい……」
しかし意外と佐藤の反応は弱い。
まあもう終わりの炎の呪いが掛かった教室なので、そこに狩人が混ざってもダブルキルになるだけである。
「……はー、ごめんな一年。時間取らせた……」
最後に、心から謝罪して山名は佐藤を帰らせた。
戦力的には痛い。
痛いが、当人もやる気なさそうだったし、なによりこの空気ではダメだろう。
これで彼女の出番は完全におしまいだ。
「どうするかな―……望月の連絡帳借りるかな―」
「いいけど古い順にブロックされてますよ」
「ほんとお前……まあ佐守はいいとして、戸枝はなんか強そうなの知らんが……」
「ええ……現状で山名部長が気に入りそうな人は……特に……」
そらそうだ。こいつが一番の火力バカなのだから判断基準が火力バカなのだ。
「あー……まあとりあえず頑張って探すか―……」
結局のところ、それが山名部長の初仕事となったのであった。