わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで   作:遠野静

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後日談:『諏訪みこと』と『スッさん』

 ……わたしの名前は諏訪みこと。

 広島県私立秋原の中等部に通う十四歳で無能のはずの少女。

 断じて高校に入ったら『競異部』なんてものには入らん予定の者……。

 

『なぜだ。あの邪蛇と娘っ子が大層愉しんだんだぞぅ? 吾も愉しませてもらわんと、せっかく降りてきた意味がない』

 

 ……あとなんか知らない幻聴が聞こえてて困っている者。

 でもね、いいんだよ。わたしはそもそも剣とか苦手だし、好きでもないし、やりたくないことはやりたくないし。

 負けっぱなしならそれでいいんです。

 

『うーむ。呆れるほど諦観しとるな。ダメだろガキんちょ。若いうちは夢を見んと』

 

 などととんでもなく気軽に言う、この変なの……。

 

『それだとおまえは愉しめんが……ううむ……』

 

 何やら悩んでいる、神を名乗る背後霊。

 

『そうだなぁ……おまえがやりたくないなら、吾が全部やろう。そうすりゃおまえ、功績だけもらい放題だぜ?』

 

 ……それは、何か卑怯では?

 

『いいだろ、吾は人の名声とかもう聞き飽きたんでなぁ。おまえも受けてみろ? 気持ちいいぞ〜』

 

 ……どうなんだろうか。

 自分のものでない力で貰った名声なんて――

 

『まあ体は痛むだろうが……』

 

 それが一番嫌なのですが⁉

 

『ううむ……あれやこれやと余計な注文ばっかりつけおる……あの蛇め、どう言いくるめておったんだ?』

 

 ……なんか、事情は後から聞いた。

 結局、佐守……さんとは少しだけ話したけれど、何か苦笑して流された。

 当人もよく分かってなかったらしい。

 

 ……けれど、多分だけど。

 あの二人にはもっとこう……何か信頼とか、そういうのがあったんじゃないかな。

 

 一応、『異能』使いになったから、分かる。

 だって、あの詠唱に込められていたのは、どう聴いても彼の蛇への想いだったのだから。

 

 それに比べてわたしの詠唱は……。

 なんだ、あの自意識過剰な歌。

 天地万物に喧嘩を売るような謳は……。

 

『喧嘩なんぞ売っとらん。正しく奪っていくだけだぞ、吾は。……しかし、おまえは吾をもっと信頼しろ? なんであっちにばかり気にする?』

 

 それは――

 

『おまえは胸を張った。いやまああの時は吾だが、あの唄がおまえのものになる時、おまえの未来は開かれようよ』

 

 ――と、言っておられますが。

 その結果やったのはただの暴力でしたよね……。

 

『ははっ何分、規則があるなぞ知らんくてなぁ!』

 

 ケラケラと無責任に笑うクソ神……。

 ダメだ、やはりわたしは入りたくないし入ってはいけない……コレは割とスポーツのルールとか無視する不条理だ……。

 

 

『――などと、気にする余裕もないのだ。運命とはあの蛇の言う通り濁流なのでな? ほれ、向こうからやってくる』

 

「――え?」

 

「やあ」

 

 そこに居たのは、今の私立秋原高校競異部の部長さん……山名有為二年生さん。

 え、なに……怒られる?

 

「あ~……いや、怒りに来たわけではないよ。取り敢えず君が諏訪みことさん……で、あってる?」

 

 長身ですらりとした人がわたしの顔を覗き込んでくる。

 思わず俯きそうになる――

 

「……ふむ。確かに、来たばかりの佐守にちょい似てるか」

 

 なんて、変なことを言ったかと思えば。

 

「では、よっと」

 

 ばしって手を掴まれ――というかキメられた!?

 

『おお、うまい。あー、抜けるなら身体を回してなぁ……』

 

 背後霊の無責任な助言がとんでくる……。

 

「う、うるさいなぁ!」

 

「ああ? 誰と話し――ああ、昨日のアレね。まあいいや。よいしょ」

 

 さらに足払いも食らって体をその長身に、持ち上げられる……!

 

『対応遅いなぁ〜? アレだ、吾を降ろせ〜?』

 

 ……! あ、あんまり使いたくないのに!

 

「――た、『高天原を――むぐっ!」

 

「はい詠唱停止っと」

 

 口をふさがれた……。

 

『あ~あ、これは負けだな……ううむ、吾の一部が戦利品みたいに運ばれているの、ちょっとシュールだな』

 

 そこ楽しめる!?

 

「まあ細かい話はウチの部室で、ほら、道端ってのもなんだし」

 

 ……そんな感じで。

 『狩人』に捕まった獲物みたいに、わたしは連行されたのだった。

 

◇

 

 ぺいって、ソファに投げ捨てられるわたし……。

 そこにはあの『秋原のジョーカー』望月さん……。

 そして、現一年最強と言われる『秋原の熱剣』戸枝さん。

 ――そしてあの『神剣』、佐守さんがいた。

 

 ……え、なに? わたし死ぬの?

 

「ああ、部長また細かい話抜きで連れてきたでしょ。大丈夫だよ〜諏訪さん? ここは優しく寂しい部員不足の競異部だからさ」

 

 と、望月さんが優しく補足してくれる……なんだか距離は近い気がするけど、それで少し落ち着――

 

「望月さん、『斬り』ますよ」

 

 とか言ってたらいきなり望月さんの身体が斬り捨てられた……! かと思いきやさらにそこから望月さんが生えてくる……!?

 

 意味が分からない応酬の中で、しかし動揺しているのはわたしだけらしい。

 斬った佐守さん――『秋原の神剣』は、何か嫌そうにため息を吐きながら。

 

「あんまり、見知らぬ年下の少女を口説き落としにかかるのは、どうかと」

 

 斬られた望月さん――『秋原のジョーカー』は、何かへらへらしながら。

 

「いやぁ、僕はこれがデフォなんでしゃーない……あとあおちゃんよりは重くなさそうだ――し――いやもう、話してる最中に斬るなよ……」

 

「いえ、人を地雷扱いする化生は今ここで『斬る』べきだと思ったため」

 

「ああ、いや十分地雷でしょ――いてぇいてぇ!」

 

 もうなんかザクザク斬りあってる……。

 ここで助けを求めるべきは……ま、まともそうな戸枝さん――『秋原の熱剣』は!

 

「ああ、気にしないでください。この二人は大体、ああなので」

 

 もう慣れてる――!

 

『ふむ、愉快なところだが、ずいぶん廃れとるな。吾のみた決闘はもっと派手で楽しそうだったが』

 

「……そりゃ、今年の『国異』の決勝戦と比べたら、そうだよ」

 

 思わず口に出して答えると、山名部長の目が細まった。

 

「誰と話して……ああいや、そうか。その話で呼んだんだわ」

 

「はい――?」

 

「君の『異能』は、『スサノオ』の降神だな?」

 

 え、なに……急に――

 

『うむ、そうだぞ』

 

「……そうらしい、です、ただ――」

 

 ……確かにわたしの魔力は戻った。

 そして、それはかなり優秀だった。

 例えば現三年生、その各校の部長クラス。

 

 ――といえば強いけど、逆を言うと『それだけ』だ。

 『秋原の神剣』、『秋原の熱剣』――それに過去無敗だった『白夜の聖剣』に並ぶほどではない。

 

 精々、今年の決勝戦中盤に活躍してた『白夜の綺羅星』さん程度の魔力量……。

 

「ふむふむ……ってなると……いや、もう面倒だな。直接話そ。……望月、佐守。そろそろ戯れんな。望月、おまえの『眷属化』だけ貸せ」

 

「ああ、いいんですけど……上手く行くかは知りませんよ?」

 

「いい。大蛇とやらとはそれで話せてたんだろ。なら試す」

 

「はい。では『着憑。デア・ナハト』」

 

 ――詠唱破棄して夜を纏う望月さん。

 もちろん、威力は堕ちるけど……。

 

「さてと……ほんじゃあ眷属化するぞ〜。え~と、そうかお前は知らんか。取り敢えずコイツの闇に血を渡せ」

 

「はい?」

 

 とか思ってる間に、なんか他の秋原の人達は勝手に自傷して血を流してる……。

 

「ああ、なに。ピアッサーとかニードル程度でいいよ?」

 

 いや、そういう問題ですか……。

 

『ふうむ……一応、吾は神なのだがなぁ。吸血鬼の眷属になるのは、どうも』

 

 あなたもそういう問題ですか?

 

「え、ええと――痛いのは、いやで……」

 

 そうためらっていると、山名部長は眉をしかめた。

 

「ううむ、体液交換でいいなら……望月、唾とかでもなんとかならんか」

 

「嫌です――んー。あおちゃん、ちょい」

 

「はいはい――『抜刀。クサナギ』」

 

「――――ッ!?」

 

 一瞬、熱いものが指先を奔った――かと思いきや、わたしの人差し指から血が流れている。

 痛みは、あるけど……一瞬だったからよく分かんなかった。

 

「おお、精密――じゃあ、貰うね」

 

 そう言って、望月さんはわたしの血を飲んだ。

 

 その瞬間、みんなにもこの不審者幽霊の姿が見えるようになった……。

 

『さすが出雲国の剣。鋭いなぁ!』

 

「腹立たしいんで『斬って』もいいですか」

 

『まてまて、今日のは本音の称賛だ。はは』

 

 何か、もう当事者なのに置いてけぼりの私……。

 

「ああ、大丈夫だよ。みことちゃん」

 

 怯えたわたしに、反応するのは望月さんの手だけどそれを佐守さんが切り捨ててた。

 そしてまた望月さんは手が生えてくる……。

 

 とかやっていると、山名部長が口を開いた。

 

「さてと……え~……。敬称とか必要ですか」

 

 一応、崇めるべきかを気にしているらしい。

 しかしこの気まぐれな嵐の神は――

 

『ふむ、確かに吾はスサノオその人故、人間にはちょい困るか――しかしまあ、ここに居るのは力の欠片よ。一面も一面……そうだなぁ。スサノオの"ス"の部分だけだと思え?』

 

「ふむ」

 

『なんならスッさんでもいいぞ?』

 

 それはちょっと……。

 

「あいよ。そんでスッさん。あんたの――え~『異能』はなんだ?」

 

 いきなり単刀直入に聞く山名部長。

 しかもスッさん呼び定着している。

 

『無論、吾は神故にな。だいたい何でも道理も運命も曲げられる。まあ、それはお前らの言う『異能』の本質だ』

 

 ……つまり全能?

 

「な、わけがあるか。つうか、蓋開けりゃどの『異能』もそういう仕組みで動いているってだけだよ」

 

 ……そうだった。

 どの『異能』も、本質的には道理だとか運命だとか蹴飛ばして動く強制力だった。

 

「……まあ、それを動かす魔力量だけは覆せんが。『異能』は魂の形、自分の在り方、自分の矜持を最も『当てはめやすい逸話や伝承』で発動できる。『魂を逸話の金型に』あるいは『逸話を魂の金型』に、カチりとはめ込む方が強い」

 

 ――と、そこまで言ってから山名部長は一度口を閉じて。

 

「なので、カラクリの歯車だけ見せられても困る。こっちはそれで何が動いてるかを聞いてんだ」

 

『ふーむ……であれば、吾はスサノオ故にな、強いて言うならば雷と嵐。そしてそこの出雲国の剣と同じ剣だ』

 

「ふむ……となると、佐守と被ることはないな……そもそも『クサナギ』は佐守のバカ魔力有り気で乱射できるもんだし」

 

『ない。ありゃみことの体で打っていいもんでもない。いや、一発限りの必殺技としてなら使えるが?』

 

「んんんん……もう少し細かく話聞かないと上手くは言えんが、かなりリターン薄そうだなぁ……」

 

 山名部長とス……さんが、何か難しい会話をしている。

 しかしわたしはちっともついていけない……。

 

「まあ、諏訪さんも聞いておけ。多分君の『異能』の使い方の話だから」

 

『うむ……とは言え、吾の権能は先程話したとおりだが……ああ一応、この吸血鬼の『念話』とやらも使えるかもしれんな』

 

「サブ……いや、もう望月は前衛向きになってるからメインそっちで回せるか……まあ『念話』はわかった。雷と嵐の規模は?」

 

『うむ、全力ならみことの魔力量であれば――』

 

「いや、諸星と同じくらいならわかる……んー。全力でスタジアム半分くらいか……となると、もう少し小出しの方がいいかな……嵐って雨にも落とせるか?」

 

『うむ、それなら魔力消費も少なくて済むが』

 

「――濡らして雷撃は? 通せる?」

 

『ああ、なるほど……それなら魔力消費も少なくて済むが、お前もなかなかあくどいなぁ』

 

「こちとらあんたに似た気まぐれ海神が元部長でね――ふむ、となると……」

 

 それから、山名部長はこちらに目を向けた。

 

「以上が君の『異能』だ」

 

「はい?」

 

「『スサノオ』なんて凄い名前と、それに比べてやっぱり大した魔力量でもない……なんて気にしてたかもしれんが、それもやり方、使い方次第だ。というか私はそうしてる」

 

「ああ、山名部長の話は真面目に聞かんでいいからねー? その人、その『使い方次第』で一年全員封殺できる人だから」

 

 首を傾げていたわたしと山名部長の間に割って入るように、望月さんが言ってくる。それに山名部長はムッとしつつ。

 

「そりゃそうだよ。私の魔力は平凡だし、『異能』も『狩人』とか『狙撃銃』程度だぞ? 私は平凡なんだから。勝つ工夫せんと」

 

 「まあ勝つ工夫すれば勝つのは当たり前なんだが……」とか凄いこと言ってる……。

 

『ううむ……しかし中央に立って堂々と征きたいが』

 

「やめとけ。いい的になる。……それに見る限り、君もあんまり表立ちたい方でもなかろ。佐守は無能の時から戸枝に殴りかかる気概があったが」

 

 「つまり生まれつきの狂犬だったが……」とか語っている山名部長に、当の佐守さんは首を傾げていた……。

 

「……まあ、だいたい分かった――君が来年、入部するかどうかは君次第だが……取り敢えず、自分の『異能』の使い方はおおよそ分かったろ」

 

「は、はあ……」

 

「もしかしたら、もっと色々使える権能も増えるかもしれんが……まあ好きに試してみな。……まだ時間もあるんだし」

 

 ……もしかして。

 こうやって整理してくれるために山名部長は呼んでくれたんだろうか――

 

「いやぁ、でも支援札はちょうど欲しいんだよなぁ……今アホみたいな火力偏重だし……判断基準も、スッさんの思考力なら割と話も通せる……」

 

『む、スサノオを副将扱いか。祟るぞ?』

 

「呪い系も使えるなら、逆にありがたいが……あんの?」

 

『む、いやそういう側面は今んとこないか……』

 

 『ス』の部分だし……とかいうスサノオさん……。

 

「じゃあお前はスサノオを名乗る精神異常霊として扱う。祟りが落ちるなら、まずお前だ」

 

『はっはっは! それは確かに!』

 

 ケラケラ嗤っている……。

 

「とりあえず、よーいどんで殴り合うだけが国異じゃない。裏方は裏方で、やりがいもあるよ」

 

 はあっと息を吐いてから、山名部長は佐守さんの方を向いた。

 

「……というわけで佐守、同郷出身者として、一言」

 

「え」

 

「え……!?」

 

 あ、あの『秋原の神剣』に直接一言――!?

 そんなのは色んな意味でおこがましいのでは――!

 

『いや気にすんなよ。吾とお前はスサノオで、あっちはただの邪蛇とただの剣だぞう』

 

「『斬り』ますね」

 

 スパンとクサナギが背後霊を両断する……。

 しかし、元々存在しないから特に効いてもいないスッさん……。それに舌打ちをしたあと、佐守さんはこちらを向く。

 

「え~と……」

 

「あ、はい――」

 

「ううん……まあ、そうですねぇ……多分あなたには、わたしを恨む権利があります」

 

「え」

 

「わたしと、わたしの親があの村は壊したので」

 

「…………」

 

 過去に見ていた『大蛇の影』は、彼女だったのだろう。

 

「――というわけで、一発ぶん殴ってもいいですよ。うん、それが早いや」

 

『ほう、大蛇の娘を殴る機会か』

 

「…………」

 

 ……なんだよ。それ。

 

「……やりたくない、です」

 

「?」

 

「そもそもわたしは剣とか、殴り合いとか、『負ける勝負』とか……やりたくない」

 

「勝負なんだから勝ち負けはありますよ。わたしもいまだに先輩にコロコロされますし」

 

 「ああ、いや。今のは違うか」と佐守さんは言ってから……。

 

「……入るかどうかは、とりあえず、この数カ月の内に決めればいいと思います。――でも、秋原の競異部は、諏訪さんを歓迎しますよ」

 

「え……」

 

「……本当に人手が足りんので。諸星さんクラスの魔力量で支援札で、ある程度近接にも対応できるとなると、もうウチの部長としては喉から手が出るくらいの逸材なので……」

 

「ああ欲しい。スッさん降ろせば自衛くらいはできろうよ」

 

 「その間にウチのネームバリューに釣られて、より器用貧乏な戦闘者でも入れば別だが……」とかなんとか言ってから――

 

「――そんなわけで、入るかどうかは、あなたの未来に聞いてください」

 

◇

 

「――と、終わらせてもいいが。せっかくだし、ちょっと『異能』の試運転させとくか」

 

 なぜか山名部長に連れられて秋原の練習場へ……。

 なんでだよ。殴り合いたくないって言ってんだよわたしは。

 

「いや、私はそう思うが――」

 

 すっと、指をさす山名部長。その先にはスッさんがいる。

 

「そこのがそろそろやらせろって顔しとる。君の意見だけ聞いて、スッさんの話を聞かんのはアンフェアだ」

 

「え~……」

 

『はは。安心しろ。今度はおまえの意識も残してやる。ちゃんとな!』

 

 双方、善意で言ってる……。

 困ったことに逃げ場がない。ここはもう『神剣』の視界範囲内だし、『熱剣』の延焼範囲内だ……。

 

「……分かりました。じゃあ、『異能』使って『負けます』……相手は? 『神剣』? 『熱剣』?」

 

「いや、私」

 

「え?」

 

 ――山名部長のことは知っている。

 秋原の『冬の狙撃手』。そして現部長で作戦参謀。

 だけど魔力量は平均平凡だし、何より彼女の本領は狙撃戦だ。

 ここまで至近距離でやりあったら……わたし、『勝っちゃう』のでは?

 

「うん、そうだな。だから……ここから私に『勝てないようなら』、『これまでの話は無しで』。『君は適当な浮遊霊とお気楽な日々でも過ごしな』」

 

「はい……?」

 

「どうした。『パシッと私に勝って』、『君の欲しい穏やかな日常に戻れよ』」

 

「……………はぁ」

 

 雑な挑発だと思った。そんなものに私は乗らない。

 

「ああ、別に負けたから入れとも言わん。好きにしろ」

 

 …………? 意味がわからない。

 じゃあこの勝負する意味ないじゃん。

 

「……『高天原より地を降り。征くは葦原中国の総て』」

 

 じゃあ、分かった。

 『勝っても』『負けても』同じなら、『勝ち』を奪い取って帰ろう。

 

「『礼讃せよ。喝采せよ。叢雲抱いて降りたつ神を』」

 

 誰も彼も、わたしの話を聞いちゃくれない。

 ならばわたしも奪おう。嵐の如く気まぐれに、雷の如く猛りながら――

 

「――『降神。スサノオ』」

 

 ――彼の神威を、この身に降ろす。

 今回は完全にわたしの意思でこの身を動かせるようだ。……つまり、『わたしが勝てる』。

 

『うむ。しかし吾の話は聞けよ?』

 

「黙ってろよ」

 

 背後霊の言葉なぞ聞かん。これは我が身、我が神威。

 たかだか人の『狩人』如きが逃れられると思うなよ――!

 

「おっと……お前、せめて試合開始の合図は待てよ……ただの『暴力』だぞ、これ……」

 

「黙れ!」

 

 剣は振るわず、ただ指揮棒のように空に掲げて、嵐と雷を加える。

 さっき話を聞いた限り、わたしの魔力で全開を出せばすぐに尽きる。

 

 ――問題ない。相手は人だ。雷一撃落とせば終わる。

 

 ならばもう山名部長の思惑にも、無論――後方の神モドキの思惑にも乗らない――!

 

「望月〜。そろそろ試合開始の合図くれんか〜!」

 

「は〜い。試合開始〜!」

 

「――『解体。ハントレス』……お前、一応試合開始前に詠唱すんの、『反則』なんだからな?」

 

 山名部長の手に持つ模擬剣が鉈に代わる。

 けれど所詮は詠唱破棄――まして相手の魔力は平凡だ。あんなもん、プラスチック製と変わらない。

 

「よし、きな」

 

「黙れよ」

 

 わたしが法だ。黙して従え。

 

『あ~……負けたなぁ……とりあえず、一発だけ、最大規模で打ちな……』

 

 後方では何やらため息が聞こえる。

 そんなもん気にしなくとも、わたしはわたしの思いの丈を思いっきり叩き付ける――!

 

「叢雲よ――打砕け!!」

 

「ほい」

 

 ぼいっと。

 山名部長はその手から鉈を上空にぶん投げた。

 

 ――雷は全部、避雷針になったそれに吸われた。

 

「へ――?」

 

「よいせ」

 

 ぺしっと、出会った時のように腕関節を決められ、腕から剣を落とされる。

 そのまま足払いを喰らって、わたしはあっさり倒れた。

 

「よいしょ」

 

 その上に座る山名部長。

 

「はい、どうする?」

 

 ――スサノオ!

 

『ん……もう詰み。勝ち筋とかねぇぞ。諦めな』

 

 使えない神……ならば、そんな道理はねじ曲げる!

 

「嵐よむぐっ」

 

「いちいち叫ばんと使えんのか? ……それだと本格的に使えんなぁ……」

 

『いや、そいつが阿呆なだけだ』

 

「む、ぐ……!」

 

 不遜也――我こそは天津神、我こそは大和の長。我こそは日の本の長であるのにも関わらず――!

 ああ……ならば焼こうか!

 

「ん?」

 

『あ』

 

 ――全力を超えた全力。

 生命力も燃やして、最大規模の雷雲を――あらゆる『道理』を無視して滅ぼす神威の一撃を、ここに――!

 

「――打砕「それは、『ここまで』だ。よっ」

 

 ガンって。

 わたしの手から奪った剣で、そのままわたしを殴りつける山名部長。

 ――そこで、わたしの意識は暗転した。

 

◇

 

 ……わたしは、正座させられていた。

 目の前には『スサノオ』と、山名部長がいる……。

 

「最後のはダメ。チャンバラごっこ中にガチの刃物持ち出す阿呆がいるか、阿呆が」

 

『そうだ。ダメだぞう人の子。人間の命とか大したことないんだから、負け惜しみに燃やしちゃあ』

 

「うーむ。『競技』以前の問題だなぁ……」

 

「…………」

 

 何も言えない……。

 

「あのな、君が見てた決勝戦でも命掛けの遠吠えしたバカがいたんだよ」

 

 ……? なんか、トラブルがあった時だろうか。

 

「だから……なんだろうな。まず、『勝負』と『暴力』の線を引け。そこからだ……は〜あ」

 

 心底面倒臭そうに山名部長はボヤいていた……。

 しかしわたしは納得がいかない。

 そもそも、散々煽ったのはそちらでは……。

 

「ああ。だって狩りやすくなるから。……ただ、ううむ……コイツは、ううむ……」

 

『山名よ。とりあえず帰ってよいか〜? この阿呆は多分まだ、何を言われても意味わからんぞ』

 

 なんの話だよ。

 わたしはずっと、わたしの意志の話しかしてないだろ。

 

「ああ。だからそれを示したからって通るかは別。私や秋原にとって、お前の事情とか、極論どうでもいいし」

 

 ――は?

 

「物語の主役気分は楽しかろ……それは別に楽しんでいいが、必ずしもお前の思う通りになんぞ世は動かん。思っただけで勝てんなら、私は年中不敗で秋原も毎年優勝しとる」

 

 それからガシガシと頭をかいて……。

 

「……って言うことを言いたかったんだが、まあ暴れたなぁ。あとここまで、頭に血がのぼりやすいのも……ううん」

 

『山名、吾は助言したぞ〜?』

 

「……やっぱり一番危険な時だけスッさんに出てもらうか。後衛でもそういうことはあるが……は〜ぁ」

 

 ……それから山名部長はわたしを引っ張り上げると。

 

「――はあ。やっぱり帰んな。そんで、もう少しスッさんと話し合っとけ」

 

 最後に結構重く頭をこづかれた。

 なんで、なんで、わたしばかり殴られるんだよ……。

 

「殴り返してもいいが、その前に考えをまとめてから」

 

 今出せる全力のわたしの拳をひょいっと避けて、山名部長は言う。

 

「一応、スッさんの判断力は欲しい。だからあと半年。この拳をマジで届かせたいなら、もう少し考えて――はい。ここまでだ。スッさん、パス……」

 

『むう。しかしお前がだいたい言うたろ』

 

「コイツが考えをまとめる時間にまで私は関与したくない……お前とコレの未来なんだから、二人で考えな……」

 

『うーん、そうだな……おい、みこと、帰るぜ〜?』

 

「……………………」

 

『――はぁ。『降神。スサノオ』』

 

 パリってわたしの体に魔力が灯り――それからまた暗転した。

 

◇

 

「『うーむ。この力を帰るだけに使うとはなぁ……』」

 

「狂犬はもううちは佐守で十分だから、もし入るなら、ちゃんと躾けてくれよ……」

 

「『はは! それはこいつの未来次第だな!』」

 




後日談:『諏訪みこと』と『スッさん』(完)
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