わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
これは白夜の元メンバー……『死霊船』こと黒縄三年生にわたしと寄藤さんが普通に『拉致事件』の被害者になった後のこと。
「っていうか、なんであんな危険人物が白夜の選抜メンバーにいたんですか?」
という、もはや当然の疑問を寄藤さんに聞く。
寄藤さんは白夜の選抜メンバーだから、接点のなかったわたしより黒縄さんに、詳しいはず……。
……が。その寄藤さんも首を傾げていた。
「……知らない。いや、まあ話はしたけどさ? なんかヘラヘラしてて……あ~あんたんとこの『吸血鬼』と同じ感じ」
「はぁ」
望月さん聞いたら怒るだろうな……などと思いつつも、なんとなく言いたいことはわかる。
「ヘラヘラしてるし、逸見先輩にやたら距離近いし、なんか……腹の底が見えない感じで。話聞いた感じだと、そもそも『意図』とか無かったんでしょうけど……少なくとも、いきなりあんなことする人では無かったように見えたけどねぇ……」
多分、仮定の話。
これまで黒縄さんが暴走しなかったのは、『『白夜の聖剣』の無敗伝説』。という怨念が、逆に抑止力になっていたのではないだろうか?
でも、今年の決勝戦は荒れに荒れ……『白夜の聖剣』の無敗伝説も失われ、そして……やはり『命懸けの遠吠え』をもう一度見たい、なんてまさに國立競技場の怨念が混ざり……結果、今年だけバグ挙動した……とか……。
そう思ってると、寄藤さんはため息を吐く。
「まあ詳しくは知らないけどね……でもどうなんだろ。わたしにやたら慣れ慣れしかったし、わたしが『次代の聖剣』止まりであることにも固執してたし……なんかその辺は、黒縄先輩の思いだったのかも……どの道悪趣味だけど」
「そうですね」
はぁっと寄藤さんはため息を吐いてから――
「んじゃまあ、やるわよ」
そう言って、わたしに剣を向ける。何故に……。
「一応、そこの……中学生の相手してやったでしょ。あの程度じゃ肩慣らしにもならんし」
元気な狼だ。ちなみに諏訪さんは――
「なんだよ……」
『拗ねてるから気にするなー』
大変拗ねていた。
「わたしも病みあがりなんですけどねぇ……」
まあいいか……確かに今日は振ってないし。
あと、見取り稽古も大切だ。諏訪さんに一つ、見せてみよう。
「え~……では、諏訪さん。試合開始の合図ください。あと、ここから起きることをちゃんと見ていてくださいね」
「…………試合開始」
声ちっさ……とは思いつつも、わたしは正眼に構えて寄藤さんを追う。けれども寄藤さんはしっかりと距離を取りながら――
「――『彼方の果て。憧憬の煌めき。夢を抱えて飛び立とう』」
またその伝説の剣術を――『逸見明音の剣術を魔力消費して再現する』とかいう言葉にすると意味不明な『異能』を呼ぶ。
「『再誕の門よ開け。今ここに
完全詠唱――合わせて模擬剣が真っ白な聖剣に代わり――
「――『抜剣。エクスカリバー』」
白光を放つ聖剣は、やはり邪悪死すべしみたいな輝きである。
では、と剣を構えるが――
「……うーん」
何か、寄藤さんは悩んでいた。
しかしここは"勝負"の場、構わず斬るかと思うのだが……。
「あ~あんた、口硬い方?」
取り敢えず牽制の――それでも全然諏訪さんなら一撃で落とせる攻撃はしれっと『聖剣』にオートガードされながら、寄藤さんが聞いてくる。
「なんですか?」
「いや……ちょっと試したいことがあって……。でも本戦前に他校にはまだ見せたくない」
なるほど? 何か新技があるのか……。
「よっと……いいですよ。今夜のことは忘れときます。何でこのタイミングなのかは知りませんけど」
あとわたし相手なのもよくわからんけど。
そう思っていると、寄藤さんはわたしから距離を取りながら――
「まあ散々、黒縄先輩に中身ぐっちゃぐっちゃにされたからね――」
などと妙なことを言ってから、その『聖剣』を空に掲げる。
そして――
「――『集え円卓。かの剣に覚えがあるならば』」
――え?
「『我が轍。憧憬に至る路、今ここにその歩みを示せ』」
とか思っている内に、『白夜の聖剣』と同じような――まだ少しくすんだ、十二本の輝剣が顕現し――
「――『召集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
――瞬間、色とりどりの十二本の輝剣が、寄藤さんの周囲に召喚された。
ただ、その色は全体的にくすんでいる。というか寄藤さんカラーになっている。
ついでに言うと動きも揃っていない。なんだろう……何ていうか、逸見さんの十二輝剣がまさに円卓の騎士なら、これは寄藤さんを中心とした十三匹の狼の群れ――って感じ。
「あ~……マジで成功した……なら、本戦まで隠したかったなぁ……」
ここで成功すると思ってなかったのだろう。寄藤さんはガチで頭を抱えていた。つまり初陣なのか、これ……。
「うーむ……」
ちょっと迷うが、さすがに見せられただけで帰るのも何である。
「試運転なら付き合いますよ」
「そうね、そうして」
取り敢えずお互いに剣を構える。
相変わらずの鏡写しで――ええと、じゃあ今回は、諏訪さんも見ているし……。
「では――『秋原の神剣』佐守あお。行きます」
「はいはい――『再誕の聖剣』寄藤環。いざ"勝負"」
言うと同時に複数本の輝剣が飛んでくる。
それを払いのけ、回避しながらも取り敢えず観察する。
「……名前がない?」
「当たり前でしょ。逸見先輩はやたらとアーサー王伝説に詳しかったから、ちゃんと呼べたけど……わたしは有名どころくらいしか知らないからね!」
そう言って輝剣と共に斬りかかってくる寄藤さんをまとめて"払い"のけつつ、なるほどと思う。
ふむ、であればこの内の数本かは無名の騎士――無名の狼。より言うならば多分、寄藤さんの獣性のみの分化。
独立して動く上に、その動きは獣の如き荒々しさで、十分に脅威ではある。
――しかし。
「では、何本かは刺さって問題ないですね」
獣がじゃれてくるだけだ。脱落ブザーが鳴らない程度の損傷なら無視してよい。
そのまま二、三本を自分の身体に固定しつつ、残る刃を斬り捨てながら寄藤さんに向かう。
「あんたその狂犬っぷりは人のこと言えないと思うわよ――『ガラティン』!」
急に一本の輝剣――これまでの名前のない剣とは違う白剣が飛んできて、それを『エクスカリバー』とは別の手に握る寄藤さん。
――まずい。あれはちゃんと強い。
だって、あれは過去の寄藤さんが振るっていた『加護』そのものだ。
「ほっ!」
「"阻め"――!」
取り敢えず魔力を込めた防御膜を貼りつつ、どうにか距離を取る。
「相変わらず面倒ね、あんたは!」
「あなたに言われたくないですけど、ね――借物聖剣、また出して……!」
「まあ、使いやすいからね、ついでにこいつは、こうも動く!」
ぽいっと足元に『ガラティン』を手放す寄藤さん。
そして――
「『
そんな言葉と共に、投げ捨てられた『ガラティン』は持ち手のいないまま暴れまわる。
ただ、その動きは他の名もなき輝剣とは違う。
――これは、『次代の聖剣』だった寄藤さんの剣だ。
「なるほど……!」
ついでに今の寄藤さんもちゃんと斬りかかってくるし、周りの無名の剣も邪魔……!
逸見さんとは違うけど、これも十分一体多数を強制する……!
「――"浸せ"!」
取り敢えず突き穿ちながら、一気に距離を取る。
とにかく、あの群れの中に居るのは危険だと判断したのだが――
「――『
はい? などと思っていると、一本の赤黒い魔剣――『ダインスレイヴ』とほぼ同じ輝剣が寄藤さんの下に降りてきた。
「『お前が和解を求めても、今はもう遅すぎる。この刃は抜かれ――』!」
――ていうか『ダインスレイヴ』だこれ!
何とか"察し"で弾きつつ、わたしは文句を言う。
「ダインスレイヴは円卓関係ないと思うんですけど!」
「知るか。これが『わたしの円卓』なのよ。あとは……『
「――あー、"払え"!」
飛んでくる『滅びの剣』を払い飛ばすわたし。
その手の終末剣なら、わたしの友だちより怖いものはない。
まあでもなんとなく理解した。つまりあの円卓の輝剣は、『これまで寄藤さんが振るってきた、あるいは焦がれた剣たち』だ。
そうなると今は無名の剣たちにも、やがては同じく名が与えられるかもしれない。
「よいしょ」
「しかしよく避けるわねぇ……ここで『サー・トリスタン』」
しかもしっかり『知ってる円卓』はそのまま飛ばしてくるし……。
「面倒なのはお互い様では――"交じれ"」
寄藤さんの輝剣を一本、奪い取って投げ返す。
しかしそれは回避される。
ううむ……今の寄藤さんでも脅威なのに、それに色々並べられると――
「――まあ、『抜刀。クサナギ』」
取り敢えず道理距離無視切断で、雑草の如くまとめて斬り捨てるわたし。
「よっ――」
とか、本人はその『聖剣の技術』で避けてはいるが、ひとまずこれで盤面はスッキリした。
「はっ――!」
あとは真っ直ぐ、真剣勝負――!
「……と、思うでしょ? 『召集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
「なぬ」
またも十二本の輝剣が召喚される。
「逸見先輩ほどの精度も多様性もないけど、代わりに魔力消費量が少ないの。わたしの中身探ってるだけだから」
「なるほど……悪趣味では」
「あんたに言われたくはない――さて」
と、足を止めた寄藤さんの聖剣が指揮棒のように掲げられる。
もしや、あの逸見さんと同じく十二本絨毯爆撃をやるつもりだろうか。
あれは、確かに驚異だ。しかし今の寄藤さんは殆ど名もなき剣。
故にあの必殺ほどの威力は出ないはず。
――と思っていたら、聖剣の切っ先を囲うように、十二本の輝剣が集まる。
それから赤黒い光を放ちながら、ぐるぐると回り出す。
……あれは。
「――『名もなき者、謳われぬ者、選ばれざるわたしたちよ』」
周囲から膨大な『謳われなかった者』達の怨念が、名もなき剣達に宿っていく。
「『ならばここにそれを謳おう。全ての星屑のために』――」
いつかの自壊の遠吠え……に近いけど、ちゃんと整理されている。
「――『咆哮。ノーバディ・ロア』」
赤黒い螺旋が渦を巻き、一直線に――文字通り『謳われたものを殺すまで道理を無視して止まらない牙』が再び突き進む。
「――『抜刀。クサナギ』」
詠唱破棄での道理無視切断では敵わない――ので!
「――ついでに"薙げ"!」
『クサナギ』使いながら"薙いだ"おかげで、その牙は届くより前に道をそれた。
後方で、とんでもない爆発が聞こえる。
……が。
「はぁ……はい、『降参』。今のそらされたらお手上げね」
そう言って、寄藤さんはぽいっと聖剣を投げ捨てた。
「いやでもビックリしましたよ……ていうか初見技でしょ今の……」
「そらそうよ、そもそもナイツ・オブ・ラウンズから初めてだったんだし……しかし避けられるか〜ん〜……」
「……やった感じだと、相手がより謳われた者ほど火力出ますよ。強制力も多分……」
「なら今はあんたが一番でしょうが、『秋原の神剣』……」
「ううむ」
なんかダインスレイヴの追尾性とか上げれば……あと狙いをエクスカリバーの剣術に乗せれば……とか、結構色々改善点は見えるが、敵対抗相手にそこまで助言もしたくない……。
「取り敢えずこれ、来年の本戦までは他校にはお預けにしとくから。練習試合でも出さないから、あんたも黙っててね」
「分かりました」
「黙ってないと『殺す』」
「分かりましたって」
「秋原に白夜から苦情を入れる」
「マジでやめてください……」
まあいいや。取り敢えず、諏訪さんはどうなんだろうか……と思って諏訪さんを見ると――
「なんだよ……やっぱり命懸けの方が強いんじゃん――」
「あ~……『ダインスレイヴ』」
寄藤さんの足元からヒュンっととんで行った輝剣が、諏訪さんの首の隣に突き刺さった。
もちろん当ててはいない。
当ててはいないが、また諏訪さんは気絶した。
「『おい反面教師になっちまったぞ』」
そして出てくるスッさん。寄藤さんはへっと鼻で笑いながら――
「わたしは『降参』、『ここまで』を伝えたかったんだけどねぇ……はぁ……あ~そうか、逸見先輩もこういう気分だったんだ……」
何やら悔やんでいるようだ……。
「まあ他校への助言はこれでいいでしょ、マジで……あとはあんたが危なくなったら『斬れ』ば……」
もはや止めることを諦めて、暴走仕掛けたときの対処だけ言ってくれる寄藤さん。
しかしそれには問題があるのだ。わたしは前衛剣士。
諏訪さんは現状、後衛(仮)
わたしが暴走前に止めるとか言うと、常に諏訪さんについていないといけない。それは困る。
「スッさん、ストッパー頼みますよ?」
「『ううむ……相談役兼ストッパー兼副将かぁ……神使いが荒いなぁ』」
「人の親殺してるんだから、多少は聞いてくださいよ」
「『はっはっは! ブラックジョークだな!』」
ガチなので別にブラックジョークではないが。
まあいいか〜……。
諏訪さんの想いは
「戦いたくない。」
「けど負けたくない。」
「痛い勝負もしたくない。」
「勝ちの結果だけほしい。」
……とかいう勝負舐めてんのかみたいな心情である。
……こんな後輩をどう育てればいいのか、やはり蛇の娘には分からぬのであった。