わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
『秋原の神剣』対『絶剣の忠犬』と『諏訪みこと』
「うわ。まだやってる」
そう言って帰ってきたのは里見さんである。
しかしこちらとて別に残りたくて残ったわけではない……ていうか、諏訪さんを起こさんと帰れないのだけど。
「まあいいや。里見さんも来ませんか。なんか、寄藤さんがオモロイ技出してくれますよ」
「あんたねぇ……隠せって、わたし言わなかった?」
という寄藤さんからの愚痴が聴こえるが一旦は無視すると、里見さんは少しだけ考えてから――
「ふむ……しかしこの前の合同練習で『キリイチ』を見せてしまった」
「なのでその分の情報は見せてもらわないとアンフェアだ」と里見さんは仰る。
「え~……まあいいか……。ていうか、佐守あおは何も出してないのは癪に触るけど」
いきなり話を振られて、少し困った。
「ううむ……そう言われても……」
何分、この身は蛇の娘。『出雲国の剣』ならば、現状では別段進化もしていないのだ……強いて言うなら、『クサナギ』の命中精度と連射回数が増えたくらいである。
というわけで適当に話を振ったら、適当に寄藤さんは模擬剣構えて前に出た。
割とやる気が有り余っているらしい。結構な連戦なのだが。
「まあいいか……きなよ忠犬。その二刀流の方、出しなさいよ」
「ええ……まあいいか……」
はあっと――息を吐きながら、里見さんも同じく前に出る。
魔力量の高い寄藤さんと、純粋に剣が上手い里見さん……結果がどうなるかは分からないが、とりあえず、諏訪さんのよい勉強材料にはなるのではないだろうか……?
「スッさん、すみませんが、諏訪さん起こせます?」
『あいよ。おら、起きろ〜』
「…………はっ」
よし起きた……なので、とりあえず彼女の隣まで行って……。
「じゃあ諏訪さん、見ておいてくださいね」
「……何をですか」
そう言って微笑むものの、諏訪さんは不機嫌そうにわたしを睨む。
嫌われておるなぁ……いや、悪意を向けられるのは得意分野なので別にいいけど。
しかし、今見るべきはわたしではなくて――
「――もちろん、愉しいマジカルチャンバラを」
そう微笑んでから、改めて二人の方を見た。
「それじゃあ、そろそろ始めてもいいですか〜!」
「いいわよ〜!」
「ん〜!」
「では、試合開始〜!」
わたしが試合開始の合図をすると、早速狼は、ヒョイっと飛びのきながら完全詠唱エクスカリバー――そして。
「――『集え円卓。かの剣に覚えがあるならば』」
「む?」
模擬剣を構えていた里見さんの動きが止まる。初めて聞く詠唱に、里見さんもさすがに驚いているのだろう。
「『我が轍。憧憬に至る路、今ここにその歩みを示せ』」
瞬間、彼女の聖剣から十二本の輝剣が分離して――
「――『召集。ナイツ・オブ・ラウンズ』」
再度、十二本の剣の群れが、寄藤さんを中心に、まるで狼の群れのように具現化した。
「わあ」
などとと、短く驚きながらも、ヒョイヒョイと襲いかかる輝剣を避けつつも。
「――『邪を退け、妖を治め』」
珍しく、模擬剣を抜いたままで詠唱を行う里見さん。両手を合わせて、模擬剣を目の前に掲げるように、まるで祈るような格好で――
「『抜けば玉散る氷の刃』――」
その模擬剣が宝刀に代わると同時、その存在と重複するように、もう一本の刀が浮かび上がり――
「――『抜剣。ムラサメ』――『佩刀。キリイチ』」
バキンッと音を立てて、一本の模擬剣から二本の刀に変形させる里見さん。
何あれ、カッコよ……。
「んじゃ、『再誕の聖剣』、尋常に“勝負”」
「では、『絶剣の忠犬』――いざ参る」
言って、即座に視界から消え去る里見さん。
あれ、もう武光さんの馬鹿縮地に、片足くらいは踏み込んでるのでは……。
姿が見えない相手にどうするのだろう、と他人事のようにぼんやり見ていると、寄藤さんは輝剣の群れから、一本の魔剣を呼び出した。かつての彼女。ヘグニと呼んでいた『血濡れの魔剣』だ。
「よし。なら『ダインスレイヴ』、『殺せ』――!」
そういえば、あの『魔剣』の効果は、『抜けば必ず誰かを殺す魔剣』――つまりは自動追尾である。
故に、例え寄藤さんに里見さんの姿が見えずとも、その魔剣は里見さんを捉える。
赤黒い魔剣が、里見さんに迫り――!
「――『消す』」
パキンって音が鳴ったかと思えば、ムラサメが魔剣を斬り捨てていた。ええ、あの化生殺し、魔剣にも通用するのか……。
「よっと」
とは言え動きが止まった――そこを。
「食いやぶれ!」
さらに、無名の剣達による絨毯爆撃。――というより狼の群れによる一斉攻撃。
しかしその間を、里見さんはひらりひらりと避けていく。
「ここ」
そして――ぬるりと寄藤さんの足元に入り込むと、『キリイチ』とやらのほうを寄藤さんの下から一気に突き上げた。
「おっと、『ガラティン』!」
対峙する寄藤さんは、片手に『ガラティン』を呼び出して防御しつつも『エクスカリバー』で里見さんを狙う。
二刀流対二刀流だ。しかし、寄藤さんは二刀流覚えていないはずでは……?
「ああ、逸見先輩が使えるから、『聖剣』中は使える」
「卑怯な……」
などと言いながらも、里見さんは二刀縮地でしっかり寄藤さんを攻め続けていた。
「んっ……疲れるわね」
そう、寄藤さんの二刀流が『聖剣』による『剣術の再現』なら、その状況を強制するだけで、寄藤さんの魔力は削れていく。
――故。
「はっ」
――『二刀縮地』、『純粋な剣技』で迫る里見さんを、寄藤さんは『魔力量差』では圧倒できない。
「んじゃ、わざわざ斬り合う必要も……ないか!」
とんっと背後に飛びのきながら、残りの輝剣を飛ばす寄藤さん。里見さんの下半身――特に足を狙っている。
武光さんもそうだが、足さばきさえ奪えば縮地使いの大半は無力化できる。
「躾ができてないね……」
しかしその狼の群れを、ひょいっと飛のく里見さん。空中で小柄な体をひらりと回しながらも、当然ながら上空狙いで飛んでくる輝剣もしっかり弾き返している。
「よっと――」
どころか、その輝剣を足場にして蹴りつけながらそのまま寄藤さんへと一気に迫る。
「なら――『サー・トリスタン』」
藍色の矢のごとき輝剣も、キリイチとやらで薙ぎつつ、里見さんは――
「ほっ」
――とか、短い掛け声と共に、『ムラサメ』を寄藤さんの胸元に投げつけた。
「ん」
――膝を崩して上体を反らして回避する寄藤さん。へえ、今のそんな感じで避けるんだ……。
「よっと――」
しかし体勢を崩した狼を、忠犬は逃さない。即座に縮地で距離を詰めると、キリイチとやらで斬りつけるが――
「――『モルドレッド』、わたしごとでいいわ」
「む」
そんな短い言葉と同時に、赤く燃え上がる滅びの輝剣が『寄藤さんごと』里見さんを背後からぶち抜いた。
「んっ――」
「はぁっ……よいっしょ!」
キリイチとやらの斬撃を腕で抑えながら――というか斬り裂かれながらも、寄藤さんは『聖剣』を、里見さんの首元に押し当てた。
里見さんは――ううんと小さく唸ってから――
「……さすがに降参」
なにしろ、二人まとめてまとめて串刺しになっている。あれでは縮地も使えないのだろう。
ぽいっとキリイチを投げすて、両手を上げる里見さん。
「ていうか痛い。解除して。降参だから」
「はいはい」
ヒュンと消え去る輝剣たち……。
残念ながら、あの新技――『ノーバディ・ロア』とやらまでは見せてくれないようだ……。
「まあいいか、ここで試合終了ですね」
さくっと合図を出すわたし。
多分、脱落ブザー的にも里見さんのほうが先になるはず。……多分その後すぐに寄藤さんのも鳴るけど。
「うーん……さすがに速いわねって……ていうか、『ダインスレイヴ』を折られるのは聞いてないんだけど」
「あ~……十二分の一の魔力には変わらないから。もし、一本持ちなら分からなかった」
「ううん……呼べるか? 呼べんのかな、今のわたし……」
ぶつぶつと呟いている寄藤さん。もし任意で主武装を魔剣・聖剣切り替えられるようになられたら、来年困るなぁ……とか思いつつ、取り敢えず試合も終わったのでお隣の諏訪さんを見た。
……気絶していた。
「スッさん、これは何です?」
『さぁ。途中までは"やっぱり魔力高いほうが勝つんじゃん……"とかボソボソ言うとったが、ダブル串刺しで気絶しおったわ』
「ええ―……」
この程度のスプラッタで倒れられると困る……。
秋原には頼れる吸血鬼がおるのに……。
そうでなくても、割と『どう考えても死んだだろ』みたいな『異能』が飛び交う世界なのに。
「うーむ……やはり『国異』出場は、彼女には難しいのでは……」
『むう……しかし愉しそうなんだかなぁ!』
やはり蛇の娘に、子育ては無理かと思う今……いや、十五歳で出す結論でもないけど……。
「え~……じゃあ、そうだなぁ……」
「そこの狂犬も勝負しようよ。模擬剣同士なら、どうせ金属の棒だし」
うーむ……と育成方針を悩んでいると、なぜか里見さんからわたしあてに提案があった。
なるほど、確かに。模擬剣だけの純粋な剣術勝負であれば、見た目は地味ながらも面白くもなるか……。あと、『魔力量』だけが問題とは言えなくなるので……。
「よし、やります。スッさん、すみませんが叩き起こしてくれますか?」
『あいよー。ほら、お前の愛憎入り交じった『秋原の神剣』の剣術勝負だぞ』
憎はともあれ、愛があるのか……? などと想いながらも、里見さんの前まで言って、模擬剣を構える。
里見さんは『キリイチ』とやらは出してないが、模擬剣二刀流である。今回は『居合縮地』は無しで、『二刀縮地』で来るらしい。
……どの道面倒だな。
「まあいいや。それじゃあすみませんが、寄藤さん。試合開始してくださーい! あと、諏訪さん見といてくださーい!」
「はいはい……ほら、起きなガキ」
「は……!」
「そんで、試合開始ー!」
取り敢えず狼に諏訪さんの世話は任せて……ていうか、諏訪さん興味なさそう……。
やはり魔力量しか気にしてないな、あいつ。
「あー! 見といてください! 先輩命令です!」
どの口が言うんだ、と自分でも思いつつ、一応は諏訪さんに声をかけてから、改めて模擬剣を構えて――
「では、『秋原の神剣』、佐守あお。行きます」
「ん。『絶剣の忠犬』、里見詩野――いざ参る」
そう言って、即座に視界から消える里見さん。やっぱりこの人、もうちょっと『鶴久の絶剣』の馬鹿縮地に片足突っ込んでる。
「よっ」
なので、目で追うのは早々に諦めて、『大体この辺』で"察し"て弾く。
これが『化生殺し』なり『不屈の剣』なりだと困るが、現状はお互いに模擬剣だ。片方が砕けるなんてことはない。
とはいえ――
「おっと」
相手は二刀。一本を防いでも二刀目がある。それに関しては、一刀を受けた後で大きく距離を離して避ける。
「よっ、ほっおっと……」
どの道、必ず体を狙ってくるのだから、要は一撃目を弾いた後は、その位置――剣の届く間合いから退けばいい。
それでなんとか『二刀縮地』をしのいでいたのだが――
「ん〜……なら、こう」
ヒュンっという風切音が上と下から聞こえた。二方同時攻撃か――!
「それなら、逃げます!」
全力で背後に飛びのくと、さっきまで自分がいた場所に大顎が閉まるかの如く、上下から二刀が斬りつけられた。とはいえ、それで里見さんの動きも止まっている。ならば――
「――"打て"」
「ほ」
見えた里見さん相手に全力の上段からの大振り。しかしそれも最小限の動きで避けられる。
「はい『消す』」
「おっと、"阻め"」
回避行動の回転を利用しつつの横からの薙ぎ払いを、片手を添えた剣で抑える。返す刃で斬り落とそうとするが、既にそこに里見さんの姿はない。
「……さっさとクサナギ撃てばいいのに」
……とか、分かっていない諏訪さんのぼやき声が聞こえる。
しかし、これは模擬戦勝負で合意したのだ。
あとついでに言うと、『クサナギ』にせよ『アメノムラクモ』にせよ、『見えない敵は斬れぬ』のだ。里見さんはとにかくこちらの視界から消える。
なので――
「よっ」
「ん、じゃあこの辺ですね――"払え"」
――逆を言えば、視界範囲外には必ずいる。そして模擬剣勝負でなくても、里見さんに遠距離攻撃はない。
振り返りつつの全力の横薙ぎで里見さんを斬り捨てようとするも、それは片方の剣で止められる。
「いった……!」
とはいえ全力で回転運動を乗せた横薙ぎだ。
完全には防ぎきれず、剣の上から里見さんを叩きつける。
後は全力かつ最速で『斬り』返す。そうでないと――
「いたた……はい『消す』」
とんっと、首元に置かれるもう片方の剣に、対応できない……。
「むう……降参です」
流石に二刀縮地は本当に困るな……ただでさえ手数が多いのに、二刀の対応も覚えないとな。……とか思っていると――
「――何で『秋原の神剣』が負けるんだよ!」
とか、なんか厄介ファンみたいな声が聞こえてくる……。
「今の、『クサナギ』だったらまとめて斬り捨てられただろ!」
「それなら対応変えてるだけだよ」
非常に冷静な里見さんのツッコミがはいるが、厄介ファンは止まらない……。
「何が『秋原の神剣』だよ……そんな、大した魔力量じゃない奴に――」
「あ~……寄藤さん」
「はいはい、一度『殺す』――っと」
「がっ……!」
なんか多方面に失礼なことを言い出す前に、寄藤さんの首への手刀で意識を刈り取ってもらった。
「はあ……すみませんね、里見さん……」
「ん。別に気にしないよ」
「いや……流石に目に余るので……は〜あ……」
…………なんか、ダメだなぁ。
『厄介なものだ』と、いつか『白夜の聖剣』逸見明音さんが、戸枝さんに言っていた。
まさか自分がその立場になるとは……思わなかった……。
「え~……もう白夜で寄藤さんが見てくれません……?」
「なんで他校生育てにゃならんのよ」
「そのまま白夜生にしていいですから……」
「いらない」
「あ~……鶴久でもいいです」
「やだよ」
残念ながらこの残念な子はどこにも居場所がない……。
むむむむ――
「はー! もう望月さんに眷属にしてもらおうかなぁ! チョロいし!」
『むう、しかし神が吸血鬼の眷属というのはなぁ……』
スッさんは黙っていてほしい……。
ともかく、どうやらこのまだ名前もない娘は……秋原でなんとかするしかないらしい。
「うーむ……」
と。考えるが、やはり大蛇の娘に子育ては難しいのだった。