わたしは剣。――無能だった少女が、異能者たちの全国大会で運命を斬るまで 作:遠野静
わたしの名前は佐守あおで十五歳で広島秋原のメンバーで『国異』最後の一撃を決めちゃったもの。以上。
そしてここは京都、洛陽学園の練習場にて――
「――では、こちらの子を躾けてくれませんか」
「お前さぁ、段々やり口が山名に似てきてんぞ……」
前に立っているのは、『洛陽の妖刀』こと村田知子さん、二年生。
『ムラマサ』とかいう異能使い。『ムラマサ』は対象との『魔力量差分を同じにして、必ず刃が通るようになる』とかいうちょっと不思議な『異能』。
つまるところ剣術の腕前自体は自前であるので――
「――で、そのガキ? 中学生だろ。やればいいのか」
「はい。なんかこう……出来れば瞬殺しない程度で抑えてください」
「無茶言うねぇ……」
などと言いつつも、既にわたしの背後では――
「『高天原より地を降り。征くは葦原中国の総て』――」
件の詠唱が始まっている。
スサノオの降神とかいう、まあ普通に聞いたらそこそこ怖い『異能』が展開されつつある。
「『礼讃せよ。喝采せよ。叢雲抱いて降りたつ神を』!」
もはややる気十分。――そりゃそうだろう。
だって、村田さんの基礎魔力量は平均以下なのだから。
故に――
「――『降神。スサノオ』!!」
――と、天津神であれば確実に打ち倒せると彼女は信じている。
「――今度こそ、勝ちを『奪う』!」
珍しく、神威の神意を全身に纏いながら前進する諏訪さん。
戦う気概がついに生まれてしまったようだが、何分お相手は――
「はいよ――と」
まだ『ムラマサ』も抜いてないのに、軽い言葉でしれっと躱す村田さん。
さらには襟首を掴んでから、ぽいと放り投げる。
それだけで、まあ当然諏訪さんは姿勢を崩すが、村田さんは特に追撃はしなかった。
「あー……試合開始してくれ」
「はい。試合開始ー」
「んじゃ、まあ……模擬剣だけでいいか」
件の『異能』すら解放せず、ただ模擬剣だけで適当にあしらっている村田さん。
格上殺しなんて、まさにスサノオ特効だろうに――
「ほら、来いよ神様」
「不遜だ!」
『あ~あ……どうしたもんかねぇ……』
もはや何も言えないスッさんは、わたしの横をフワフワと浮いている。
一方の諏訪さんは素人剣術――というかただの棒振りに雷を纏わせながら戦っている。
それを村田さんは模擬剣で捌きながら――
「まず基本もなっちゃおらんなぁ……誰か剣術を教える奴はおらんかったんか?」
「いちおうわたしとか、戸枝さんが教えてますよ~!」
「教えてこれならマジで才能ないな~」
「違うんですよ。聞いてくれないんですよ~!」
「黙れ! 『わたしの剣』こそが最強だ!」
「そら神ならそうだろうよっと――」
腕を掴んで、さらに足払い。足回りの基礎も教えたんだけど、何か逆張りして『自分だけの剣』みたいなのを覚えようとしている諏訪さんは、当たり前に蹴り飛ばされる……。
しかし、まだ村田さんは追撃しない。どころか距離を離している。
「まず、足回りをなんとかしな……マジで払えるレベルじゃねえから」
「五月蠅い、わたしが法だ!」
「――んで腕もそれじゃ痛めるから、やめとけ」
大上段からの雷剣を逸らしつつ、また村田さんは諏訪さんの肩に手を置く。
「剣やりてぇなら、肩じゃなくて腰で振れ。――と」
しかしそんなことは彼女には関係ないとばかりに、また腕だけで強引に斬り返している。
……あの振り方は、肩を痛めるんだけどなぁ。
「あ~……え~……」
村田さんもめっちゃ悩みながらも、その剣を軽く弾きながら一歩後ろに下がった。
「はあ――ったく、デカい反抗期のガキ相手にどうしろ言うねん」
などと言いながらも、距離を取った村田さんは剣を正眼に構える。
あの『白夜の聖剣』には劣るけれど、わたしより圧倒的に綺麗で美しい構えだ。
「妖刀使いが、んなもん見せても仕方がねぇが……一旦基礎やるぞ」
距離が空いたために当たり前に雷撃を放つ諏訪さんの一撃を躱しながら、村田さんは――
「よ」
軽い掛け声とともに、最小限の動きだけで剣を振り下ろした。
とはいえ、諏訪さんに当ててはいない。
彼女が乱暴に振るう剣だけを叩き落した。
「は」
「はい、おしまい……んで、これどうするんだよ」
目を白黒させている諏訪さんの首元に、模擬剣の切っ先を突き付ける村田さん。
「どうしたらいいと思います?」
「なんで私が他校生に助言せにゃならんねん……まあとりあえず握りが馬鹿だな。力強く握るだけで、そんなんちょっと手を加えるだけで払い落とせる……あとはもう全部荒い……『振れば当たる』とでも思ってんのか? 馬鹿の力自慢じゃねぇんだから。それじゃいつまでも『主役』にゃなれん」
「だま……!」
「――『抜刀。クサナギ』」
「――『抜刀。ムラマサ』」
まだ、雷撃を仕掛けようとする諏訪さんだが、その雷撃は一発、『クサナギ』で両断した。
ついでに目の前の模擬剣がいきなりムラマサに変わったせいで、凶器を向けられた諏訪さんは気絶した……。
「はぁ……。なにこれ、運用する気か、来年?」
「一応、裏方として山名部長は運用するかも――とは言ってますが……」
とはいえ最近はもう、新しく『秋原の神剣』、『秋原の熱剣』のネームバリューでやってくる新人を期待している山名部長である。
諏訪さん以外で。
「は~……まあ色々器用っぽいし、回せたら強いんだろうが……」
とか言いつつも、村田さんは抜刀した『ムラマサ』をこちらに向けた。
――瞬間、その魔力が規格外まで引き上げられる。
「とりあえず、これじゃあもうやる気もでん……折角抜いたんだ、ちっとやらせろ」
などと言う、村田さん。
そういえば以前はあっさりコロコロされていた……。
「いいですよ、分かりました。やりましょう」
教材になるかは分からない。
だって村田さんは普通にわたしより剣が上手い――ので。
「では――『秋原の神剣』佐守あお、行きます」
「あいよ」
正眼に構えた剣で一気に向かうそれと同時に――
「――『抜刀。クサナギ』」
「おっと」
まだ遠間から、いきなり剣を振り下ろしつつの『クサナギ』は、しかしあっさりと避けられる。
「では、『抜刀。クサナギ』!」
今度は横振り――と思っていたら、もう目の前に村田さんがいて、身体で腕を止められる。
「よ――」
それはもはや『クサナギ』と同レベルの鋭い剣――『格上殺し』の真骨頂が、まさに今振り下ろされている。
「――“薙げ”」
それをなんとか鎬で逸らしつつ、距離を取るが村田さんはまだ逃さない。
この人普通に縮地使えるから速いんだ……!
「一発で終わりじゃあなくなったな……!」
「おかげさまで――“阻め”!」
地面に剣を突き刺して全力で魔力解放しつつ、正面からの剣から逃れる。
村田さんの弱点は遠距離攻撃がないこと――故に。
「――“払え”」
今度は魔力を込めた薙ぎ払いで、一気に全体攻撃をするも――
「――っと」
などと言いながら、その全体攻撃の僅かな隙間をすり抜けてくる『洛陽の妖刀』。
もうこの人も大分人間やめているのでは……? などと思いつつ、しかしさすがに姿勢が崩れている。
――ならば!
「――“打て”」
今度はこちらから、土砂に紛れて一気に攻め込む。大上段からの打ち込みは、しかし――
「えー、じゃあこうか」
そんな軽い言葉と共に、『ムラマサ』の刃で流される。ていうか今の、手首だけで反らしてる……。
とはいえ、ここで負けるのも癪に障るので。
「――『抜刀。クサナギ』」
振り上げと同時に『距離無視切断剣』を打ち上げる。
「よ」
が、それを村田さんは、『倒れながら回避した』。
ついでに倒れつつ、『ムラマサ』でわたしの足を斬りつける。
「いてっ」
こちらも、村田さんの真横に倒れるが、そこに合わせて『ムラマサ』の刃が倒れたわたしの首元に置かれて。
「はい。これから動けるか?」
「はぁ――いえ、降参です」
ちょっと……というかやはりこの人はこの人で大分おかしい、挙動をしていた気がする。
『ほぉ、おもろいなぁ人間。お前、四肢と身体、全部を別々で操作してただろ』
なんか上の方で背後霊が語っている。
「そんな大層なもんでもない。ただの殺人剣だ……神は殺せん」
「だから模擬剣で試した」などと、はぁとため息をついている村田さん。
……いや、よほどでしたよ、今のは……?
少なくとも自分はまだ遠い、どころか諏訪さんは足も入ってない領域である。
――もしかしたら、あの『白夜の聖剣』よりも剣術が。
「いや、マジでそれはない……多少は傷つけられるかもしれんが」
と、即答された。本当かなぁ……。まあ取り合えずこの結果は諏訪さんに見せないことだけは、正解――いや、どっちがよかったのだろうか……。
そう思い悩むのだった。